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第六章
第71話
しおりを挟むジタンの執務室でヨルクはアタマを抱えていた。
数時間前に投獄された男たちが、先日さくらの『外出』時にさくらに目をつけ『さくらを拐かして人身売買をしようと計画していた』ことを教えられたのだ。
・・・ハンドくんたちに。
ヨルクがアタマを抱えている理由・・・それは『ハンドくんの怒り』が尋常ではなかったからだ。
それはそのまま『神々の怒り』でもあった。
そして問題がもう一つ。
ハンドくんたちの怒りの最大の標的が『獣人族の男』であり、それは『セルヴァンを敵視している熊種』なのだ。
『セルヴァンがまだ族長の時に怒気を放っただけで部下が目を回して倒れた』という話が有名だが、檻の中に捕らえられている熊男がその張本人だったのだ。
それまでは同族からも嫌悪されている凶暴な『熊種』だった。
しかしその『無様な格好』は笑いの種になり、熊種の評価を落とし信用を失墜させた。
城下町でさくらが熊男たちに執着されたのは『偶然』だろう。
さくらは『少年の姿』だったのだから。
人身売買目的なのか『手元に置いて寵愛する』つもりだったのかは分からないし分かりたくもないが。
だが今朝の騒動は、セルヴァンに対して起こした『嫌がらせ』だと思われる。
「それで?ハンドくんたちは『どうするつもり』なんだ?」
さくらが『狙われた』のだ。
ハンドくんたちがこのまま許すハズがない。
【 神には許可を貰ってあります 】
「何だ!此処は!」
熊男が喚くのも仕方がないだろう。
今までエルハイゼン国の牢にいたのが、気が付いたら広大な『荒野』のド真ん中に放り出されていたのだ。
周囲はぐるりと高い山に囲まれている。
「おい!セルヴァン!これはキサマの仕業か!」
ギャーギャーと騒ぐ熊男だったが〖 いい加減黙りやがれ! 〗と怒りを含んだ低い声が響くと驚きで静かになった。
この場にはセルヴァンとドリトス、ヨルクとジタン。
そして熊男を代表とした8人の投獄組。
投獄組の足首には3メートルほどの鎖で別の相手の足に繋がっており、現状は『円』の形で立っていた。
もちろん踏み壊そうとしたり千切ろうとしたがビクともしなかった。
ちなみにこの場にヒナリはいない。
ヒナリは女神たちと一緒にさくらの看病をするために残ったのだ。
セルヴァンたちが部屋を出る話をしている時に「どこか行くの?」と聞いてきたが、朝の『熊男』が関係していると知ると嫌悪感を顕にし「私はさくらと一緒にいるわ」と留守番を引き受けた。
そして水と風、花の女神たちが「私たちも御一緒しますわ」と現れて、眠るさくらとヒナリを守ってくれている。
そして忘れてはいけないハンドくんたち。
彼らは地上から1.5メートルの高さで浮かんでいる。
先程の声はハンドくんが生み出した『風魔法』だった。
ハンドくんの『思念』が、空気を振動させて『声』として届いているのだ。
「何だ・・・?コイツらは」
先程の勢いが熊男にはない。
「ボルゴ。彼らは『さくら殿の魔法生物』だ」
「おい!セルヴァン!その『さくら殿』とやらはどうした!」
セルヴァンの説明に熊男ことボルゴが声を荒らげる。
それに同調するように手下たちも嘲笑う。
「早く『さくら殿』とやらをつれて来い!」
「我らの『ペット』として可愛がってやろう・・・『色々と』な」
「自分の『下』に組み敷いて気持ちよく啼かせて・・・ギャア!!」
口々に出てくる『さくらを侮辱する発言』をハンドくんが黙っているハズはない。
一瞬でボルゴたちは何かに押しつぶされるように地面に埋もれた。
セルヴァンたちとボルゴたちの間にいる白手袋のハンドくんが広げた手をボルゴたちに向けていた。
ハンドくんが使っているのは『重力魔法』で、ボルゴたちの上には『見えない一軒家』が乗っているようなものだ。
さくらを『下に組み敷いて』と言ったのだ。
それを本人たちに『実行』しただけだ。
〖 我等にすら抗うチカラも持たない雑魚に、我が主がわざわざ出てきて相手をする必要はない 〗
ハンドくんがパチンと指を鳴らす。
重力魔法が解かれると同時に、ボルゴたちの周囲に『炎を纏った竜巻』が何本も現れる。
小さな竜巻は2本が交わって1本に。
それを次々と繰り返し、最終的に大きな8本の『轟炎を纏った』竜巻が残った。
ボルゴたちは指を咥えて眺めていた訳ではない。
『水魔法』を竜巻にぶつけていたが、竜巻に届く前に水蒸気へと変わる。
その熱波に襲われて恐怖が増したのか。
狂ったように最大の水魔法と、水魔法の上位魔法である『氷魔法』を連発させるが、それですらすべて水蒸気に帰してしまったのだ。
〖 お前らの魔法はその程度か。これで我が主に『手出ししよう』とは片腹痛い。これでも我が主の使う魔法には到底、足元にも及ばないのに 〗
ハンドくんの言葉にその場にいた誰もが驚いた。
特にボルゴたちは目を見開き、ボルゴ以外は恐怖から身体が固まり、口からは魔法の詠唱が止まっていた。
あまりにもチカラが違いすぎる。
今でさえ大人に向かっていく幼子状態なのだ。
それ以上に『さくら様』とやらは強いという。
その言葉が事実か分からない。
しかしこの『ケタ外れに強い魔法生物』に守られているのは確かなのだ。
「・・・・・・こんなの、勝てない」
手下のひとりが呟き、膝から崩れ落ちた。
続くように周りも次々とその場に崩れ落ちる。
その様子にボルゴは激怒して「ええい!立て!立たんか!」と、近くにいる部下に掴みかかる。
しかし、誰一人ボルゴの命令を聞いて立ちあがろうとする者はいない。
皮膚を『チリチリ』と焼けるような感触が、彼らの恐怖をさらに掻き立てる。
「俺は・・・俺は悪くない!このボルゴに命じられてやってただけだ!」
「そ、そうだ!俺たちは悪くない!」
「テメエら!」
「『アム』が・・・弟が血反吐吐いて死んだ時に『直接手を出さなければ大丈夫だ』と言ったじゃないか!」
〖 見苦しい。この期に及んで『命乞い』に『罪の擦り合い』か? 〗
ハンドくんの冷たく嘲笑うような声に、ボルゴたちは口を噤む。
〖 では聞こう。お前らの中に『自分は誰一人、かすり傷ひとつつけたことはない』と胸張って言える者はいるか?もしそうだと言う者がいるなら、この場に『神』を呼んで『申し開き』させてやるから遠慮なく言うがいい 〗
ハンドくんの言葉に全員が俯く。
そう。この場にいる時点で『罪名は確定』しているのだ。
『神相手』に嘘や言い逃れなど、出来るはずはなかった。
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