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第六章
第73話
しおりを挟むハンドくんの話では、今いるこの島は『さくらが魔法を試すための島』らしい。
ハンドくんたちも、ここで魔法を練習しているそうだ。
確かに『何もない』ため、色々と試すのに最適な場所だ。
そして『さくらが初めてこの世界に降り立った』島でもあるらしい。
神々が以前話していたように、この島の瘴気はエルハイゼンより薄い。
さくらの身体を瘴気に慣らすには確かに良い場所だ。
そして『あの』さくらだ。
遊び半分で色々と魔法を試していたのだろう。
それこそ『新しいオモチャ』を見つけた幼子のように。
それを考えると、ハンドくんがあれほど強いのも納得出来た。
決してボルゴたちが弱い訳ではない。
ボルゴは獣人族の中でもセルヴァンの次に強いのだ。
そのため身の丈に合わない野望を持ち、何時かセルヴァンを弑逆しようと思っていた。
ただし、それは『セルヴァンの怒気で気絶する』という不名誉な結果を齎した。
そして先程の牢獄で行われた、鉄格子越しでの再会。
セルヴァンに憐れみに似た目を向けられたボルゴ。
いつも自分より優位に立ち、自分より先を行くセルヴァンにボルゴは長年ひた隠しにしてきた『真実』をぶつけることにした。
「セルヴァン。キサマの女房は事故で死んだんじゃない。『お・れ・さ・ま・が!この手で殺した』んだ!!」
ボルゴの『告白』にヨルクとジタンは慌てる。
しかしセルヴァンは冷ややかに、ただひと言「知ってる」と言っただけだった。
その言葉に逆にボルゴの方が驚いた。
「ウソを吐くな!」
「嘘ではない」
そう。王城を襲って自分の前に現れたボルゴ。
そのボルゴの身体から漂った夥しい血の臭い。
その中から微かに漂った『妻の香り』。
それは『犬種』であるセルヴァンだからこそ。
『夫』だからこそ『妻の香り』を嗅ぎ取ることが出来た。
その瞬間。セルヴァンは自己を見失い、最大級の『怒気』を放ちボルゴを気絶させていた。
王城内では、セルヴァンの怒気で目を回したり立っていられなくなった者たちで溢れた。
セルヴァンは自分がどうやって冷静を取り戻したのか覚えていない。
ただ、目の前で倒れている男を手にかけることはしなかった。
『手を下す価値はない』
そう判断したのだ。
セルヴァンは『母を事故で亡くした』子供たちに言っていないことが『ひとつだけ』ある。
・・・彼らは母と共に『妹』も亡くしたのだ。
この世で産声をあげることも叶わず、母と共に消えた生命。
だからといって『さくら』を『亡くした娘』のかわりにする気はない。
『さくらはさくら』なのだ。
『ボルゴの反乱』から感情を失くした自分に『笑顔と歓び』を取り戻してくれたのは『さくら』なのだ。
初めて出会った『あの日』から、セルヴァンにとってさくらは『かけがえのない女神』なのだ。
ボルゴと彼の仲間たちは捕らえられて、セリスロウ国を永久追放された。
それまでの『功績』から減刑されたのだ。
彼らは間違いなく、国内に現れる『魔獣や魔物の討伐』でチカラの弱い『兎種』や『羊種』などの獣人族たちから感謝されてきたのだ。
それがたとえ『持て余したチカラ』を発散するためだったとしても、だ。
そんな彼らだったが『同種』である仲間たちからも忌避され、誰一人として擁護する者はいなかった。
それも仕方がないだろう。
彼らは『養護院』と呼ばれる施設を襲ったのだ。
そこは魔獣や魔物に襲われて『家族を亡くした孤児』や『働き手を亡くした女性たちが職を身につける』ために身を寄せている施設だ。
獣人族は『自分より弱き者』を庇護する性分だ。
それは『熊種』であっても変わらない。
ボルゴはそこを襲い、『弱き者』を惨殺して施設を全壊させたのだ。
流石に擁護の声はあがらなかった。
残念ながら『生存者』が一人もいなかったため、『施設の崩壊』が原因と国内外に公表された。
そして『『ボルゴの反乱』と時を同じく起きた悲しい事故』とされていた。
その施設に王妃がいたのは偶然だった。
王妃はこことは別の地域にある施設の『出身者』だ。
そのため不定期で非公表だったが、『自分と同じ立場の子供たち』を励ますために各地にある施設を回っていたのだ。
そして寡婦のために『働ける場所』を自ら探して来ては施設に紹介していた。
・・・そして『惨劇』に巻き込まれた。
ただ『誰も事実を知らない』訳ではない。
国民は母を亡くしたばかりのセルヴァンの子供たちに『真実を教えて傷つけたくなかった』のだ。
そのため、末のアムネリアが成人している今は誰もが『真実』を知っているだろう。
セルヴァンを国王と認め心頭している虎種に睨まれては、『獣人族最強』と謳う熊種といえどもセルヴァンにケンカを売ろうとするバカはいなかった。
そして『ボルゴたちの家族』は、誰一人として『反乱』以降行方が分からなくなった。
「身内の行為を恥じて一族で自殺して罪を償った」とも「他国へ逃げた」とも言われている。
実際は『全員で死を選ぼうとしていることを事前に察したセルヴァンに止められ、鱗族の庇護下にある大海の小さな島で生きている』のだ。
『王妃を含めてたくさんの人々を殺した身内の代わりに死んで詫びる』という彼らに『死んで逃げる気か!』とセルヴァンは怒った。
その収拾に鱗族が『他族が行くことも出来ない島に『隔離』する』ことを提案してきた。
そこは『魔族の住まう島』に近く、瘴気はそれなりに強く、そこに住む魔獣や魔物はかなり強い。
そのため鱗族もあまり近付かない島らしい。
しかし獣人族は瘴気に強い種族だ。
そして『熊種』は獣人族の中では強い一族だ。
荒れ放題の無人島を開拓すれば住みやすくなるだろうし、魔獣や魔物を倒せば瘴気も薄まる。
そしてその島特有の果実も取れる。
その果実は鱗族の好物だそうだ。
その果実や魔獣の皮や牙で『鱗族と取引』することが可能になる。
どこかへ行くことも死ぬことも出来ない『ボルゴたちの家族』は、鱗族の申し入れを受け入れた。
それから2年後にセルヴァンに『慰謝料』が届けられた。
彼らは『自給自足』をしているため、鱗族との取引で得たお金を貯めていたらしい。
しかしセルヴァンからは「罪なき者から『慰謝料』を受け取る謂れはない」と突き返された。
セルヴァンは『国を追われ鱗族の島へ移った時点で彼らの『罪』は償われた』と認めているのだ。
何より『『慰謝料』は当事者本人が支払うべき』との考えだ。
ボルゴたちの家族の依頼で、いまは鱗族が『養護院』へ寄付という形で届けている。
セルヴァンも『慰謝料』ではないため『それで気が済むなら』と黙認した。
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