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第六章
第83話
しおりを挟むそしてヨルクはひとり、ローテーブルに乗っている焼き菓子やケーキを大皿に取り分けていた。
「なあ。ジタン。この『木の実のケーキ』って味はどうだ?」
「さくら様が作られるケーキと違って、まだ生地が固いです」
「じゃあ、さくらに食わすのはやめるか」
ヨルクが指をさした『木の実たっぷりのパウンドケーキ』にジタンは『ダメ出し』をする。
これはさくらの『お菓子レシピ』をジタンが調理場に伝えたのだが、どうやら『木の実が生地の水分を奪う』という注意書きを見落としたようだ。
しかしカトレイアたちには食べ慣れた『木の実のケーキ』だった。
ポンッという音と共に現れたハンドくんは、様々なお菓子をローテーブルに並べていく。
その中に『木の実たっぷりのパウンドケーキ』もあった。
ハンドくんの意図に気付いたヨルクが、「コイツとソレ。食べ比べてみな」とシルバラートの前に一切れ差し出す。
シルバラートがケーキにフォークを入れただけで『生地の柔らかさ』が違った。
ひと口で『木の実の固さ』が違うことに驚いた。
シルバラートの驚きに気付いたのだろう。
他の4人もシルバラートが食べたケーキをもらい口にする。
そして『あまりの違い』に驚いたのだ。
「美味いだろ?それ『さくらの手作り』なんだぜ」
ヨルクの言葉にシルバラートたちは動きを止めた。
「いまハンドくんが持ってきたお菓子全部が『さくらの手作り』なのよ」
ヒナリの説明にカトレイアが驚きの表情でテーブルの上を見る。
パウンドケーキ以外にも、色んな種類のクッキーなどの『焼き菓子』。
おはぎや草餅などの『和菓子』。
ロールケーキなどの『洋菓子』。
他にも、杏仁豆腐やプリン、ゼリーなどのお菓子がローテーブルの上に並んでいたのだ。
「・・・このすべてが『さくら様の手作り』?」
「ウソだろ・・・?」
否定を口にするシルバラートの後頭部に、ハンドくんのハリセンが炸裂した。
涙目で頭を押さえるシルバラートに、ヨルクが呆れた声をかけた。
「さくらの手作りを『否定』するからだ」
「さくら様は『お菓子作り』だけでなく、『料理』もされますよ」
「ジタンは色んな防寒具も、さくらに編んでもらってたな」
「ええ。帽子とマフラーを。雪の中でも、とても暖かいです」
「オレたちはあまり寒さとか感じないからなー」
「はい。それを子供の頃は『羨ましい』と思っていましたが、今は『良かった』と思っています」
「逆に今ではオレたちが『羨ましい』って思ってるよ」
いつもは大人びているジタンが年相応に嬉しそうな表情を見せる。
その様子はさくら様と共にいる父に似ており、やはり『素のジタン』でいられるのだろう。
鼻をすする音が聞こえて、気付くとアムネリアが涙を流しながらロールケーキを頬張っていた。
どうしたのか聞くと、手にしていた皿をテーブルに置く。
・・・皿はカラになっていた。
「私・・・さくら様に『嫉妬』してたの」
だって『私たちの父上』を奪ったから。
でもここに来たら、この国ではさくら様のこと悪くいう人はいない。
姉様も兄様も、この国に来てからは一度もさくら様のことを悪く言わない。
・・・私だけ取り残されて『ひとりぼっち』。
だから、ずっと『さくら様なんか!』って思ってた。
・・・なのに・・・。
「こんなに『優しいお菓子』が作れる人を、一方的に嫉妬してる自分が『みっともない』・・・」
アムネリアの『告白』に隣に座るシルバラートが頭をポンポンと軽く叩いて慰める。
自分たちと違い、アムネリアは母との思い出が少ない。
父との思い出など皆無に近いだろう。
だからこそリンカスタを親のように慕って甘えていた。
それすらも『リンカスタの立てた計画のひとつ』だった。
「それでもアムネリアさんには『姉兄』がそばにいらっしゃいます」
「さくらは『この世界』で本当に『ひとりぼっち』なのよ」
「だからこそ『誰よりも優しい』。そしてセルヴァンたちはその優しさに『救われた』んだ」
初めて会った時、さくらはセルヴァンや獣人族に『迷惑を掛けているのではないか』と気にしていた。
正直な話、ヨルクたちは「セルヴァン様やドリトス様が、付きっきりでお世話をしないとダメなくらい手が掛かるさくら様」という『ウワサ』を聞いて、面白がって来たのだ。
しかし『先入観を持たない』さくらの、『ありのままの姿を認めて受け入れる』ココロに触れて考えが変わった。
自分たちがさくらに惹かれてその場で『雛』に選んだように、セルヴァンたちも『守りたい存在』と認めたのだと。
ヨルクの言葉にヒナリとジタンは黙って頷く。
シルバラートたちもこの国に来て、人々が『自分本位』の考えを改めていることに驚いて理由を聞いた。
そして誰もが「さくら様のおかげ」と口にしていた。
さらに『さくら様の親衛隊』を名乗り、合言葉のように「さくら様のために」という兵士たちが王城の大半を占めていた。
そのうち何人かは『最上階に通じる中央階段』を24時間休みなく守っている。
ジタンに『兵士たちに何をさせているのか!』と問い質したが「彼らは『非番』なのです」と返ってきた。
信じられずに兵士たちに直接話を聞いたが、間違いなく彼らは『非番』だった。
彼らは『自主的』に警備しているだけだという。
「我々には『与えられた任務』があります。『さくら様のため』だけに時間を使えるのは『非番』の時だけです」
兵士たちの言葉に驚いた。
しかし彼らは『楽しそう』だ。
それだけさくら様を慕っているのだろう。
「仕方がないから・・・・・・父上のこと。さくら様に『貸して』あげる」
アムネリアの言葉に、黙って聞いていた誰もが笑顔になった。
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