私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第二章

第43話

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詰め所の周辺は、色んな人たちがたむろしていました。ですが、キッカさんに気付くと人垣が割れて道が出来ました。

「この人たちは一体?」

「『王都治療院』の連中が此処にいるからです」

キッカさんを見る彼らの目は『崇拝』に近いです。『女神様が誉めた冒険者』と見られているのでしょう。

「此処にいる『王都治療院』の人たちは、取り調べのため詰め所から出ません」

「その一緒にいる女性は『治療院の関係者』ではないのですか?」

若い男性にジロリと睨まれて、思わずキッカさんの袖を掴んでしまいました。

「いいえ。『黒髪の女性』というだけで男性たちに追い回されていた被害者です。先ほど、捕らえられた男たちが詰め所に入ったと思いますが?」

キッカさんの言葉に、睨んできていた男性の眼力が弱まりました。

「お疑いは晴れましたか?」

「ああ。すまなかった。其方のお嬢さんも疑って申し訳ない」

男性が素直に謝罪すると、周りもペコリと頭を下げて解散していきました。

「もう大丈夫ですよ」

キッカさんにそう言われて、袖を掴んでいた私の手を軽く握りしめてくれました。そこで、私の手が震えていたことに気付きました。

「あの人たちは・・・」

「『黒髪の女性』の身内や恋人たち。そして『解呪』で被害を受けた元冒険者やその家族たちです。借金奴隷となった冒険者もいますから」

「あの人たち。私が『治療院の関係者』なら、何をしてくるつもりだったのでしょう」

「手出しは出来ません。ただ、口汚く罵っていたでしょう」

良かった。一人で此処まで来ていたら、きっとヒドい目にあっていたでしょう。・・・彼らの方が。

「さあ。ミリィ隊長が待っていますよ。行きましょう」

「はい」

キッカさんは、私の手が震えていることに触れず、何時もの表情で話し掛けてくれました。そのさり気ない優しさが、私の震えを落ち着かせてくれました。




「エアちゃーん!」

詰め所に入ると、ミリィさんが飛んで来てギュッと抱きしめられました。私に何かあれば、飛び出そうとしていたそうです。

「エアちゃんを追い回した連中は檻の中よ。後でミリィが『仕返し』してくれるから安心してね」

シシィさんは、キッカさんの代わりにミリィさんのストッパーとして此処にいたのでしょう。でもシシィさんもアンジーさんも、こっそりシッカリ暴走しますよね。

「アイツら、「エアちゃんに騙された」とか、「オレの女だ」とか言ってた」

「・・・知らない人です」

「そりゃあそうよ。あんな『ちゃらんぽらん』の『中身スッカスカ』な連中とエアちゃんが知り合いなハズないでしょ」

「大丈夫よ。エアちゃんに付きまとった時点で『有罪』だから」

「エアさんを何処へ連れて行って、何をするつもりだったんでしょうね。俺が駆けつけた時も、自分の女だと騒いで無理矢理何処かへ連れて行こうとしてましたし」

キッカさん。ミリィさんとシシィさんを煽っていますね・・・。私も、訂正する気も止める気もありませんが。

「んー。やっぱり、ミリィさんの腕の中が一番安心出来る~」

甘えるようにミリィさんに抱きつくと、さらに強く優しく抱きしめてくれました。

「エアちゃん。今回もいっぱい、いっぱい、頑張ったね。スゴイわ~」

「そうね。エアちゃんが一番頑張ったわね」

「エアさんのおかげで、沢山の犯罪が表面化し、沢山の人たちも救われました。・・・いえ。俺たち上位冒険者が、定期的にでも初心者用ダンジョンを回っていれば防げたはずです。すみません」

あ、キッカさんが落ち込んじゃった。

「そう言えば、王都周辺のダンジョンがすべて閉鎖になるそうですね」

「ああ。ギルドで聞いたのですね。エアさんが入ったダンジョンすべてで問題が起きているため、調査することになりました」

「早くて三ヶ月。落ち着くまで半年と聞いてます」

「たぶん、そうなりますね。ですが早まる可能性はあります」

「それは冒険者が半数、引退したからですか?」

「そうです。ですが、王都は初心者が多いため、さらに引退者が増えると思います」

「他の町や村では、所属の冒険者が全員引退した所もあるそうです。ギルドでも、そんな所から薬草などの依頼が来ていました」

「え?薬草も王都に代理依頼が来てたの?」

「はい。でも王都の場合、急ぎの時はポンタさんから直接メールで依頼が来るので大丈夫ですよ」

「もう。エアちゃんったら」

「王都なら大丈夫だ。キッカたちが採取に行けばいいんだから」

「でも、私のボックスに入れっぱなしになるくらいなら、売ったほうがいいです」

「そうね。エアちゃん、ポンタに全部売らないの?」

「・・・全部売っても、お金が足りないと思います」

「どんだけあるんですか?」

「薬草だけなら3億本はあります。虫草は950万。薬用きのこは2千万。水苔は1,000トン」

「ちょっ、ちょっと待って!その水苔の量って・・・」

「エアさん。それは広場全体に水苔が生えていたという15階の?」

「はい。あの広い部屋の天井も床も壁にも、水苔がギッシリ生えていました。それに『水のダンジョン』では、ほとんどの階で水苔がありました」

「んー。これから始まる『報告』に、俺も参加させてもらってもいいでしょうか?」

「そうね。今回のエアちゃんの報告は、これからダンジョンの調査に入るキッカにも聞いてもらった方がいいわ」

「では、皆さんがエアさんが着くのを待っているでしょうから、部屋に行きましょう」

「そうですね。マーレンくんも家に戻らないといけないので」

ミリィさんたちに連れられて、皆さんのいる応接室に向かいました。



応接室では、マーレンくんが二人の遊び相手をしてくれていました。そのため、フィシスさんたちに迷惑をかけず『良い子』で待っていられたそうです。

「マーレンくん、ありがとう。助かったわ」

「これくらい大したことないよ。お姉ちゃん。今日は帰ってくるんでしょ?」

「そうよ」

「じゃあ、アクアくんもマリンちゃんも、またあとでね」

「「お兄ちゃん。また遊んでねー」」

私にしがみついている二人に手を振って部屋を出るマーレンくん。

「マーレンくん。これ持って帰ってくれる?」

マーレンくんにバスケットを渡しました。中にはジェフェールでキッカさんが買ってくれた、ロールケーキのハーフサイズが入っています。

「お姉ちゃん、これ・・・」

「私たちはこっちで食べるから。それはみんなで食べてね」

「うん。ありがとう。じゃあ、あとでね」

マーレンくんは、笑顔で手を振って駆けて行きました。





「じゃあ。まず、その子たちの話からね」

フィシスさんの言葉に、ソファーに座る私の隣で靴を脱いであがり、楽しそうに遊んでいるアクアとマリンに目を向ける。

「簡単に言うと、二人は『水の聖霊』の子よ」

「水の聖霊・・・」

「「うにゅー?」」

私の言葉に、不思議そうに顔を傾けるアクアとマリン。・・・これは何も分かっていない顔だな。

「いたのは『水の迷宮』の近くです。だから、『水属性』のこの子たちは何か関係してると思っていましたが・・・」

「エアちゃん、あたり。『水の迷宮』の守護者だった聖霊の子供たちだ」

「『聖霊』は『精霊』と違うの?」

「ええ。『精霊』はフィシス隊長みたいなもので、『聖霊』は神に近い尊き存在です」

「ちょっとキッカ!『私みたいなもの』ってなんなのよ!」

「『人間っぽくて尊くない』ということです」

「ちょっとキッカ!私は人間っぽくないわよ!」

「じゃあ、フィシスさんは『コレはいらない』って」

私がそう言いながら、ジェフェールでキッカさんが買ってくれたロールケーキをテーブルに出す。

「これ、ジェフェールのロールケーキじゃない!」

「ほーら。『人間っぽい』」

キッカさんの言葉に頬を膨らませるフィシスさん。

「このケーキ、キッカさんが買ってくれました」

「そして、フィシス隊長は『人間っぽくない』ということで食べない、と。このケーキは『人間の女性』が美味しいと喜んで食べていますからねえ。『人間っぽくない』フィシス隊長のお口には合わないから、ひと口もいりませんよねえ」

「もう!分かったわよ!キッカの言うとおりよ!」

キッカさんに揶揄われても、ロールケーキの誘惑に負けたフィシスさんでした。


「コホン。それで話を戻すけど、アクアとマリンの二人は『水の聖霊』と人間の子供なの。父の話だと、『水の迷宮』が荒らされて水の聖霊はけがれてしまい、神霊界に戻ったらしいわ」

「・・・ひとつ、聞いてもいいですか?」

「何ですか?」

キッカさんに目を向けると、キッカさんは自分への質問だと気付いたようです。

「キッカさんは『どこまで』知っているのですか?」

「キッカなら、私たちのことは全部知っているわ」

「マーシェリさんのことも?」

「ああ。何を話されても大丈夫ですよ」

「じゃあ・・・。『水の聖霊』が此処にいられなくなったのは、『マーシェリさんが34階にいたこと』が関係ありますか?」

「たしかに・・・。エアさんの言う通り、マーシェリさんが『あそこにいて毒を出し続けた』理由と結びつきますね」

「それは、審神者が関係していますよね。そして、審神者の目的は・・・この子たち」

水の聖霊の子で、まだ『無垢な心』のこの子たちを使って、審神者は何がしたかったのか。

それは『審神者ひとり』の計画だったのでしょうか・・・。


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