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第三章

第56話

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チャットやメールが使えない。
今起きている被害は『それだけ』ですが、本当に『それだけ』でしょうか?『見えていない被害』も出ているのでは・・・?

虫は病気を運んでくる。疫病という、厄介且つたくさんの人の生命を簡単に奪えるような・・・。

真っ暗なのは、日差しを遮られたから。今は町の中に『あかりの光玉ひかりだま』が街灯のように照らしています。・・・何か大事な事を忘れているような・・・?

冒険者服から動きやすいズボンとシャツに着替えていた私ですが、もう一度ウエストポーチを着けてテントの外に出ました。

「エアさん。危ないですからテントの中に・・・」

「外に出た人たち、帰って来た?」

「いえ。まだですよ」

「・・・出てくる」

「ダメですって」

「・・・人がいっぱい死んでもいい?」

「それは・・・」

「じゃあ此処にいる。エリーさんかキッカさん呼んで」

「分かりました。絶対に結界から出ないで下さいね」

私が肯くと、オルガさんは大急ぎで部屋を飛び出していきました。
外していた結界石を床に置き、結界を張りなおします。結界石は魔力を流してから床や地面に置いて使います。そのままでは起動しませんが、『最後の一個』を置くと結界が張られます。そうなると、どんな事が起きても中は守られます。
魔物避けの結界みたいに『特定を対象にした結界』は対象以外から守られませんが・・・。
そのため、ただの結界石は万能なのです。

しゃがんで結界石を置いてから、そのままの体勢でボーッと結界石を見ていたからでしょうか。視界に誰かの靴が見えて顔を上げると、目の前にキッカさんが同じようにしゃがんでいました。目が合うと微笑んでくれました。そのままキッカさんの背後を見上げると、エリーさんたち5人も立っていました。
目の前の結界石を取り、結界を解除しましたが立ち上がることが出来ませんでした。

「エアさん?」

キッカさんの心配するような声が聞こえても、身体が震えて動けません。今まで襲われた町や村が、すでに『手遅れになっている可能性がある』ことに気が付いて怖くなったのです。

「・・・ぃちゃん。・・・お兄ちゃん。助け、て・・・。怖い。怖いよ」

「落ち着いて。大丈夫よ」

結界石を握りしめていたら、ミリィさんが隣に跪いて、抱きしめてくれました。

「大丈夫よ。一人じゃない。絶対にひとりにしないから。何処にいても、必ず駆けつけてあげる。だから、安心して」

そう言ってくれる、ミリィさんの言葉と抱きしめてくれる温もりに、全身の震えが落ち着いていきました。

「エアちゃん」

シシィさんの声がして、ミリィさんにしがみついたまま顔を向けると、頬を撫でてくれました。

「私たちが守るわ。必ず守ってあげるから」

コツンとおでこを合わせて言ってくれるシシィさんの優しさに、涙が溢れ出て止まらなくなりました。



「虫、は・・・『光』に集まるの」

私の言葉を聞き逃さないように、誰もが黙って耳を澄ませて聞いてくれています。邸の外からは、人々の声が遠く聞こえています。

「虫は『病気』を運んでくる。虫の死骸は、動物たちがみ・・・。病気は、虫から動物に『感染』する。・・・動物同士も感染する。動物の死骸が腐敗すれば、『病原菌』は空気中に混じり、風で拡散して、吸い込んで感染する。もし、感染した動物が『食卓に上がるもの』なら・・・解体作業者に、刃物に、病原菌が付着し、感染していない動物の肉にも病原菌が次々付着する。加熱が不十分なら、人は感染し・・・死ぬ。人に危害を加える虫から、直接『病原菌』をうつされて感染源になる人も・・・」

私の言葉に誰かが息をのんだようです。そんな小さな音ですら、この部屋の中では大きく聞こえるくらい静まり返っています。

「そして・・・。強力な病原菌なら、村が・・・消える。・・・どうしよう。最初に虫が現れてから時間がってる。また、いっぱい・・・っちゃい子から、弱い人から死んじゃう・・・」

「落ち着いて。大丈夫。大丈夫よ」

ミリィさんが抱きしめて背中を撫でてくれます。

「とりあえず、現状を打破して『通信』が使えるようにしましょう」

「・・・『灯りの光玉』を止めて」

「エアちゃん?」

「それで松明たいまつを使って。病気が飛び散らずに、虫が一瞬で焼け死ぬように・・・」

混乱し始めていた頭が、それでも『今すべきこと』を伝えようと働き、口はそれを声に出そうと動きます。自分の意思で動かしていないため、不思議な感覚です。

「でもエアちゃん。それなら『風魔法で粉砕』すれば・・・」

「まて。エリー。それでは、『病原菌を拡散させる』だけだ」

「キッカのいう通りだわ。もし『それが効く』のなら、エアちゃんはすでに実行してる」

ミリィさんに「そうでしょ?」と聞かれて頷きました。

「それに、集まった虫を一匹も逃せません。逃げた虫が、病原菌を持っていたら・・・?そんな虫が複数匹いて四方八方に逃げられれば、病気を拡散するだけ。被害が拡散するだけです。もし、魔物が・・・『強い魔物』が感染したら・・・?」

「大きな魔物なら、死した後は『病原菌の塊』となる。虫が湧き・・・さらに拡散・・・する?」

「待って!もしかして『虫のスタンピード』って・・・!」

「何処かに、いや。『スタンピードが起きた地域』に魔物が死んでいる可能性がある、ということか。連絡が出来るようになったら、すぐにでも冒険者たちを調査に向かわせよう。死骸を見つけたら、すぐに燃やさなければ・・・第二波・第三波のスタンピードが起きる」

エリーさんの言葉に怖くなり震える手でミリィさんにしがみつくと、ミリィさんが応えるように優しく抱きしめてくれました。

「ここまでの話を纏めると、まず『外の『灯りの光玉』を松明に変える』。それとは別に、何時まで続くか分かりませんが、通信機能が回復するまで『虫草を燻す』。通信機能が回復次第、虫が湧いた町や村に連絡を取って魔物の死骸がないか調べて貰う。死骸は見つけ次第焼却する」

「虫の死骸も見つけ次第、焼却させていきましょう」

「すべての関係者さんたちには、消毒を徹底して。死骸の周辺の空気中に病原菌が漂ってる可能性があるの。気付かずに感染しちゃう」

「確かにそれはあるわね。それに、危険を承知で動いてくれる人たちを危険な目に合わせられない。・・・ましてや『生命をうしなう』ことは、絶対させられない」

「エアちゃん。他に気になることはある?」

「・・・・・・・・・分からない」

「いいのよ。また何か気付いた時に教えてくれたらいいわ」

混乱していて、何か言わなきゃならないことがあったはずなのに思い出せない。

「『接触感染』『媒体感染』『飛沫感染』『空気感染』。手洗い・うがい・消毒・・・。でも『予防』が肝心・・・」

「テントにはエアさんも入れますから、何時でも来て・・・」

「シィー。ちょっとまってて」

何か話し声が聞こえる。けど・・・。考えを止めたら、また分からなくなる。

「落ち着いて。大丈夫よ」

ミリィさんの声が、焦る私の心を落ち着かせてくれます。でも、何か大事な事を忘れている。


『だーかーらー。ちょっと落ち着けって』

「・・・お兄ちゃん」

お兄ちゃんの声が脳裏によぎり、思わず呼び掛けた。あれは何時いつだったっけ?


「病院へ見舞いに行きたいなら、マスクしないとダメだろ?」

「マスクしたら行ってもいい?」

「『帰るまで絶対に外さない』って約束するならな」

「うん。約束する」


あのあと、大変な騒ぎになったっけ。お見舞いに行ってインフルエンザや風邪から肺炎になった人も。私はお兄ちゃんとの約束を守ってマスクを外さなかったから、ひとりだけ元気で・・・。

「・・・マスク」

「マスク?」

「マスクを着けたら、感染の予防になる」

「そういえば、遠征で行った先の村で野焼きの時に使っているのを見たな」

「今も虫草を燻す時に使っていたぞ」

「エリー。それほんと?」

「ああ。確か、この町では売っていると言っていたな」

「今すぐ使わせましょう」

「鼻と口を覆って。息苦しいって言って、鼻を覆わない人もいるけど・・・。これは『予防』だから」

「分かったわ。エアちゃん」

「エアさん、ありがとうございます。すぐに手配します」

「エアちゃん。いっぱい『大事なこと』を思い出してくれてありがとう。ここからは私たちの仕事よ」

ミリィさんに抱きしめられて、ミリィさんの言葉を聞いて、やっと固まっていた身体から緊張が解けていきました。それと同時に、ずっと右手で結界石を握り締めていたことに気付きました。そして、私がいるのが、この部屋に置かれているベッドの上だというのにも気付きました。
そんなことも気付けないほど、私の心は混乱していたようです。

「ねえ、エアちゃん。私たちが連絡するまで『テントの中』にいてくれる?」

同じくベッドの上に座っているシシィさんに頬を撫でられると、何時ものように『花の香り』がしました。シシィさんの花は『気持ちが落ち着く』効果があるようです。

「私は・・・役に立てないの?」

「違うわ。私たちではエアちゃんみたいに『細かいこと』が気付けないの。知ってるでしょ?私たちも、キッカでさえ『目先のトラブル解決』にしか考えが至らないって。だから、エアちゃんには『知識』で協力してもらいたいの」

「ただ、エアちゃんは『表舞台』に出るのを嫌うから。それに『冒険者』のエアちゃんだけでは、何を言っても信じてもらえない。ううん。酷ければ、エアちゃんは『混乱を招いた犯人』として処刑・・・『不死人しなずびと』にされる可能性もあるわ。その点、私たちには『立場』がある。たとえ荒唐無稽な内容だとしても、私たちの言葉なら誰もが聞く。だから、私たちが表に立ってエアちゃんの言葉を私たちが伝えるわ。そして動くのはエリーとキッカたち。エアちゃんは、その間『安全な場所』にいて。それだけで十分なのよ」

「そうだな。アンジーが言った通り、エアちゃんの『気付き』は適切だ。それは、長期に渡って起きていた『王都の騒動』を明るみにして解決に導き出したことで証明されている。私らでは、ダンジョン内の問題のほとんどと『王都治療院と審神者』を結びつけることが出来なかった。それは更なる被害と多数の死者を生み出していた」

「それだけじゃないわ。王都治療院の連中も、危機感から私たちを殺すために強力な魔物を召喚した。私たちは守備隊よ。前衛には不向きだわ。あの時エリーやキッカたちがいたから生き残っていたわ。でもエアちゃんがいなければ、私たちは確実に『殺されていた』のよ」

「フィシスのいう通りだ。私とキッカたちがいなければ、守備隊は10分もしないで全滅していた。私らでも傷だらけで、あと30分ももたなかった」

あの時、みんなが広場の転移石を使って逃げなかった理由のひとつは、私を守るためでした。もちろん転移石が10階以降にしかなく、嗅覚や聴覚などの発達した魔物は広場の前から動かない。『魔物避け』は魔物の侵入を防ぐだけしか効果はないのです。だから広場を出て戦うしかなかった。

「あの時、守るつもりだったエアちゃんに助けられた。だったら、このようなカタチで私たちがエアちゃんを守る。・・・ううん。守らせて。お願い」

「ミリィさん・・・」

私を抱きしめてくれるミリィさんは、誰よりも優しい。謂れなき中傷で傷ついてきたから、傷つけられる痛みを知っています。だから、私が傷つけられないようにと気遣ってくれ、自分が傷ついてでも私を守ろうとしてくれます。

「エアさんは、最初に知識を与えてくれます。だから、それ以降『何もしていない』と思われるかもしれません。ですが、エアさんの『受け持ち』はその『最初』なんです。中間に隊長たちが、そしてエリーを含めた『実行部隊』と仕事が流れていくだけです。ただ、その間はエアさんのことを心配して動けなくなったり、人を割いてエアさんのガードを残すより、結界を張って安全なテントの中にいてもらえれば、誰もが安心して任務が出来るんです」

「エアちゃん。ずっと不安だったのね。ゴメンね。キッカが言った通り、エアちゃんの受け持ちは『一番最初』なのよ」

「私たちは、エアちゃんが『安全な場所テントの中』にいてくれるだけで安心だったの。それがエアちゃんの『仕事』ってね」

「今回、エアさんはスタンピードの対策に気付き、虫草の提供をしてくれました。此処でエアさんは『ひと仕事』終わったのです。あとは安全な場所で、結果がどうなるかを待っていてくれれば良かった。でも『危険なこと』に気付き、適切な指示とアドバイスを下さいました。あとは、指示された事を実行に移すだけです。エアさんは十分に仕事もしてくれていますし、『何もしていない』なんてことはないんです」

キッカさんの言葉に誰もが頷いています。
・・・私は、ただ『守られているだけの存在』ではなかったんだ。
ちゃんと私は『出来ること』をしていた。皆さんと『一緒にいてもいい』んだ。

「私は『何も出来ない』と思ってた」

「ちょっとエアさん。エアさんが『何も出来ない』なら、隊長たちはどうなるんです?エアさんの言葉を『そのまま』伝えるだけで、何にもしていませんよ。それに、こうして一緒に『すること』を聞いていたら、一切指示していません」

「ちょっとキッカ!」

「では『虫草の指示』を受けた時に何か指示しましたか?」

「それは・・・聞いたのはキッカだけだったし」

「虫草の話をしたら『じゃあ頼んだわよ』と言ったのは何方でしょう?」

全員がエリーさんを見ました。

「『被害が出る前にやってきて』と言ったのは何方でしょう?」

今度はフィシスさんに視線が集中しています。

「ほらね。『まったく何もしていない事を気にしない人たち』もいるんです。エアさんは十分すぎるほど働いていますよ」

キッカさんの言葉に、フッと顔の表情が緩みました。





クラスメイトが怪我で入院したという事で、クラス全員でお見舞いに行くことになった。ただし『家族から許可を貰った人だけ』という約束で。私もお見舞いに行きたくて、お兄ちゃんに必死にお願いした。

「だーかーらー。ちょっと落ち着けって」

「だあってー!」

「病院へ見舞いに行きたいなら、マスクしないとダメだろ?」

「マスクしたら行ってもいい?」

「『帰るまで絶対に外さない』って約束するならな」

「うん。約束する!」


お兄ちゃんは行かせてくれたけど、その姿にクラスメイトも担任も呆れて、聞こえるように悪口を言ったり罵ったりしてきた。今では『当たり前』だと言えること。
『マスクをして行った』。ただそれだけだ。
入院した子にまで「私をバイキン扱いにした!」「二度と顔も見たくない!帰って」とまで言われて・・・。一度に20人を病室に入れようとした担任が注意を受けたため、5人ずつ分かれて入った。残りは待合室に放置されて・・・。
私は第一弾だったけど、何も言えないまま病室から追い出された。それで私は待合室に戻り、ひとりでソファーに座っていた。他の子たちは、彼方此方アチコチに散らばって遊んでいた。みんなは病院に来るのが初めての子もいたんだろう。だから、スーパーにいるみたいに院内売店で遊んでいたのだろう。

広く開放されている待合室にいる大人たちから、白い目で見られてた。

その中に『知った顔』があった。近所に住むおばちゃんだった。
私にどうしたのか聞いてきた。お祖父ちゃんが入院したのか、と。だからクラスメイトが怪我で入院したこと。お兄ちゃんに言われてマスクをしてきたら、担任を含めてクラスメイトから罵られたこと。入院した子からも病室から追い出されたこと。おばさんもいたのに「二度とウチの子と遊ばないで」と言われたこと。
傷ついていたから、どこまでも話した。話し続けた。
そんな時、担任が戻ってきて言った。「他の子たちは?」って。私が知らないと答えたら「この役立たず!」と怒鳴られると同時に手を振り上げるのが見えて、目を閉じて顔を下げて身体を固くした。『パンッ!』という乾いた音が響いた。けど、私は痛くなかった。驚いて顔を上げたら、担任が左頬を押さえていた。私をかばうように間に立っているのは、学校の先生たちだった。休憩時間に何時も校庭で生徒と遊んでくれる先生たちだった。
病院内で騒いだり遊んでいるため、病院や患者さん、見舞客などから学校に苦情が入ったと後で聞いた。
私から話を聞いていたおばちゃんが、何があったかを先生のひとりに話していた。

結局『学級崩壊』になってしまった。

入院したクラスメイトは、家族で引っ越して行った。彼女は『運転手を脅かすため』にワザと道路に飛び出して遊んでいたそうだ。それに失敗して車と接触。入院するくらいの大怪我になった。仕方がないよね。相手はトラックだもん。それも『タイミングを間違えて、前ではなく側面にぶつかった』って、自慢するように自分でバラして。その代償が『車椅子生活』に両親の離婚だ。母親も『娘のイタズラ』を知っていた上、トラックの運転手に慰謝料を吹っかけようとした。結局慰謝料を支払う側となった。父親は会社に残るために離婚。彼女は『母親の連れ子』だったため、離婚すれば養育費など払わなくていいからと聞いた。

そして・・・。担任は退職した。『教師として相応しくない』と学校から教育委員会に預けられることになったけど、それを不服として退職したそうだ。担任は気付かなかった。教師だったからまだ『マスコミや世間の攻撃』が弱かったことを。
『一般人』になったため、居場所の特定などのプライバシーの情報が拡散しまくって、転職も引っ越しも出来なくなった。さらに近所迷惑との理由から転居することになった。無職に部屋を貸してくれる所は少ない。ただ『何時の間にかいなくなっていた』そうだ。

そんなことは、私たちには関係なかった。

先生たちに連れられて各家庭へ戻った私たち。私は家にお兄ちゃんしかいなかったため、先生は『後から説明に来る』と言って他のクラスメイトたちを送って行った。お兄ちゃんは「病院に行ったんだから、うがい・手洗いをして、そのままお風呂に入っておいで」と言った。病院には病気がいっぱいいるから、お見舞いでも行く時はマスクを着用。帰ったらそのまま『洗い流す』。着ていた服は即洗濯、というのが我が家では基本ルールだった。
私がテントに戻ると真っ先に入浴するのはそれが身についているから。
私が入浴中に、病院で会ったおばちゃんが家に来てて、私から聞いた話などをお兄ちゃんに話したそうだ。その後、先生たちが我が家へ来た時は、親たちへは事前にお兄ちゃんがすべて話してくれていた。先生は私と「明後日も元気に学校へきて勉強して遊ぼうね」と約束ゆびきりした。担任たちの言動で私が不登校になるのを心配したのだろう。

月曜日に来なかったのは、お見舞いに行ったクラスメイトたち19人と担任の方だった。

担任はこの時『自宅謹慎』だったが、クラスメイトは全員『病欠』だった。インフルエンザや肺炎だった。それを知らなかったのは、クラスの半数が休んだため『学級閉鎖』になったからだ。授業前に緊急の全校集会があり、真っ先に前日の話が出た。その際、担任やクラスメイトたちから酷いことを言われてもマスクを外さなかったことと、病院の待合室で大人しくしていた事を全校生徒の前で誉められた。それも校庭で。それは町内でも聞こえていたそうだ。19人の家族は近所から白い目で見られ、騒動を目撃した人たちから広がった情報は、背びれや尾びれをつけてさらに拡散された。
さらに、19人の家族の中には我が家に「子供が病気になったのはお前のせいだ!責任をとれ!金を出せ!」と怒鳴り込みにきた人もいた。近所の人が通報して駆けつけた警官に連行されたけど・・・。その話を聞いたお祖父ちゃんが仕事帰りに警察へ寄ったら、すでにお祖母ちゃんが被害届を出している所だった。ちなみにその被害届は三通目。仕事の昼休憩に、両親が同じ事をしていたそうだ。ちなみに一通目の被害届は学校経由で出したお兄ちゃんだった。

全校集会後に学級閉鎖が決まったけど、私が帰るときはお兄ちゃんも一緒だった。家の鍵はお兄ちゃんが持っていたし、前日のこともあったから、お兄ちゃんは『自主早退』したそうだ。翌日は私と一緒に休みになった。学校中でインフルエンザが発生し、お兄ちゃんのクラスでも学級閉鎖になっていたからだ。病院でインフルエンザに感染したクラスメイトたちの家族が、感染に気付かずに拡散させたのだ。我が家を襲った人は会社で拡散していた。そして責任転嫁するように我が家を襲ったそうだ。会社の偉い人が謝罪に来たり、被害届を下げてくれるようにお願いに来たりとゴタゴタが続いたけど、その家は引っ越した。
「うちの子が悪い」と謝罪にきた人たち以外が、近所から非難されて引っ越した。
ウワサが肥大化して、入院したクラスメイトとは別に『クラスメイト二人をいじめて自殺未遂で入院させた。その子たちは面会謝絶だ』と広がったから。入院したのは『肺炎』で、隔離病棟のため12歳以下は面会禁止だ。そのため、私たちはお見舞いに行けなかった。

一週間で学級閉鎖が解除されてから、私たちの学校ではマスクが流行った。白の紙マスクに絵やシールで飾って着けるのだ。男の子で多かったのは、口裂けや吸血鬼のキバだった。そのおかげで、インフルエンザなどの二次感染はなかった。





懐かしい夢を見た。
あの女性担任。後に『我が家へ怒鳴り込みにきた父親』と不倫してたのがマスコミにバレて、不倫相手を殺して捕まった。8年で刑務所から出てきて不倫相手の家に行き、「遺骨を寄越せ。あの人を『殺してまで愛していた』のは自分のほうだ」と言って・・・クラスメイトだった子に包丁で刺された。その子は未成年だったし、情状酌量で病院に入った。元担任はその時から寝たきりで、声すら出せなくなっていると聞いた。

引っ越した15人は、転校後の学校でイジメにあっていた。その頃には肥大化したウワサは『イジメで入院した二人が死んだ』となっていたから。15人は『私をイジメた自覚があった』ため、「同級生をイジメて殺した」と責められても『私が自殺したんだ』と思って否定しなかったらしい。
イジメが下火になってきた頃に、元担任の起こした殺人事件で再び火がついたそうだ。

元クラスメイトの殺人事件で、小学校時代の事件が再び取り上げられるようになった。我が家や地元は取材されなかった。世間の興味は『事件のその後』に集中していたから。

今思うと、周りの騒ぎが大きくなるにしたがって、私たち当事者やその家族は落ち着いていったんだ。
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