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第三章
第66話
魔法で揺れない荷馬車に乗せられて、快適に王都へ運ばれています。脳内では『ドナドナ』がエンドレスで流れ続けています。
「エアさん。王都が見えて来ましたよ」
「・・・ダンジョンに行きたかった」
「エアさん。落ち着いたら行けますから」
「・・・・・・短いダンジョンでもいいから入りたかった」
「エアさん。町の建て直しもありますから、我々部外者は混乱を避けるために離れた方が良いんですよ」
「・・・・・・・・・だからダンジョン巡りするって言ったのに」
「またトラブルに巻き込まれますよ」
そう。ありえないはずのことが起きました。職人たちが「マスクの利権を寄越せー!」って襲って来たのです。「一般人にそんな権利はいらないはずだ!」と。驚いたことに、端金でアイデアを買い取ろうとしたようです。最初に提示して来た金額は3万ジル。
・・・その金額を聞いたエリーさんが鼻で笑って門前払いをしたようです。
次に提示して来た金額は10万ジル。これ以上望むなら話は無しだ!と・・・。自分たちが何をしているのか分かっていないのでしょうか?
っていうか、『権利の神』が関わっていなくても貴方たちが『お願いする側』ですよね。なんで『お願いされる側』にケンカを売る?一体何を考えているのでしょうか?
「あれでしょう?冒険者は金がないハズだから金をチラつかせればいいって。・・・実際問題、冒険者の方が金持ちなんだけどね」
「私は100億ジルを超えてる。たしかキッカたちも1億ジルは超えてる。エアちゃんも王都の貴族の邸が買えるだけの金額があるんだっけ?」
「はい。そして残りの人生を遊んで暮らせるだけのお金もあります。冒険者をしているのは・・・趣味?」
「たしかにエアちゃんは料理レシピ使用料にアイデア使用料も入ってくるからね」
「あと、ポンタくんたちから『お小遣い』も貰えます」
「3千万ジルを超えてるって聞いてるけど・・・もっとあるのね?」
はい。結構渡しているので。そして『イノシシのツノ』もポンタくんが購入したのですが・・・あれ1本だけで1,500万ジルでした。
だからお金は必要ありません。
もちろん、エリーさんは門前払い。
そうしたら、利権を求めた『欲深い者たち』が襲撃してきたそうです。・・・この町には『話し合い』というものはないんでしょうか?
「欲しいものがあったら殺してでも奪え?考え方が強盗のソレと同じなんですが・・・」
そう言ったら、ブラームスさんとオーガストさんが恥じたように俯きました。
ちなみに突撃してきた連中は、エリーさんたちが対応するために玄関扉を開ける直前に『ちゅっどーん』という音が鳴り響き、扉を開いたら『腕が消滅した職人たち』がいたそうです。その様子をエリーさんたちも見ていないし、すべて本人たちの証言だけのようです。彼らの言葉を証明出来るのは、地面に出来た『焼き焦げ』だけでしょう。そして状況から『権利の神』の罰だと判断されたようです。
「腕をなくした職人に権利はいらないからね」
そうエリーさんは言っていましたが、どうして『神の罰』と判断されたのでしょう?
「ああ。『神の罰』なんて滅多にないから知らないわよね。実は神の罰で受けたキズって回復魔法も治療も効かないのよ」
つまり、神から『頑張って残りの人生を片腕で生きていきましょう』と言われた訳です。それは家族にとってもハジなわけで・・・。治療と称して王都へ追い出されました。
「でも驚いたわー。『権利の神』にケンカ売るバカがいたなんて」
「それはたぶん、エアさんのアイデアが採用されて『権利の神が関わっている』と知らなかったのでしょう。だから『アイデアの利権を寄越せ』なんて言ったのでしょうね」
「それはポンタも言っていたわね。アイデアレシピが職人ギルドに届いたから、新しいもの好きの縫製部が防塵と防毒の付与もすべて請け負ったって。そして『防塵・防毒マスク』を300ジルで販売したら、ルーフォートの職人ギルドから抗議が来たって」
「ですが、すべての権利はエアさんにありますからね。まず抗議する相手が違います」
「文句言いたいなら、アイデア採用した『神様』でしょ?」
「そうよね。『アイデア採用基準』は知られているんだから、ちょっと考えれば分かりそうよね」
そう。『アイデア登録』の基準は簡単。『他の人たちが使うかどうか』や『世間に知られたら需要があるか』というもの。だから、小皿や取り皿、おしぼりから卓上コンロまでアイデア登録されています。そして卓上コンロが販売されたら『屋台ギルド』が大量注文しました。『パフェ専用容器』に『パフェ専用スプーン』。それも需要があるようで、アイデア登録されています。
最近、『こんなものがあったらいいな』を試作する『アイデア発見ギルド』が新しく出来たそうです。
実はマーレンくんたちの喫茶店のテーブルに番号をつけたのも、注文後に注文伝票をテーブルに置いていくのもアイデア登録されたのです。つまり、身の回りで『あったらいいな』『あると便利なこと』がアイデア登録されると知って、誰もが飛びつきました。
私は、日本では『よく見かける光景』『当たり前だったこと』がアイデア登録されて驚きましたが・・・。
それがこの世界での『聖女の仕事のひとつ』だそうです。
ルーフォートの邸の書斎に聖女のことが書かれた本がありました。この世界の発展のために聖女様は招かれると。
でもそれは『元の世界に戻れない』ことを知っても前向きな一部の聖女がやってきたこと。たいていの聖女は・・・精神を病んでしまったようです。中には生命を絶った人も。
そして聖女の召喚の最大の理由は『この世界の混乱を鎮めるため』のようです。
じゃあ、私は『虫の襲撃の対策を提案してアイデア登録された』から、もう『自由にしていい』ですよね。
「そういえば、エアちゃん。エンシェント邸にあった書斎などの家具や蔵書全部貰ったって?」
「「あげる」と言われたから「ありがとう」と。オーガストさんも「片付ける手間が省けます」って。すでに所有権は放棄されてますし。キッカさんたちも「いらない」って言っていたし」
「ええ。我々は読書の趣味はありませんから」
そう言ったユージンさんにエリーさんが『じとー』という目で見てから、「はあぁぁぁぁー」と大きくため息を吐きました。
「何ですか?!」
「アンタら。そんなこと言ってるから何時までたっても『賢くならない』んだよ」
「エリーさん。強要してもムリですよ。ただ文字を読むだけでは勉強になりません。『どうしてこうなる?』や『これならこう出来ないのか』って考えないと意味がありません」
「別に使えさえすれば・・・」
すっかり大人しくなった『ゴートゥーヘル』の連中がそう言うと、エリーさんが「これだから『冒険者はバカだ』と言われるんだ」と捨て台詞を吐きました。
「オレたちはバカじゃ・・・」
「おねえちゃーん。『にじ』ってなあに?」
絵本を読んでいたアクアが顔を上げて聞いてきました。『虹』のことでしょう。
「エアちゃん。教えなくていいわよ。ほら『賢いお兄ちゃんたち』に聞きな」
エリーさんがそう言うと、「「『にじ』ってなあにー?」」とアクアとマリンに声を揃えて聞かれて、たじろんでいます。
「「ねえ。なあにー?」」
「えっと、空に出来る・・・」
「「なんでできるのー?」」
「え?えっと・・・」
「「ねえ。なんでー?」」
あーあ。こりゃダメだ。
「イチルさん。止めてもらえますか?」
「あ、はい」
御者台に座っているイチルさんに声を掛けると、スピードがゆっくりになっていき止まりました。
「アクア。マリン。外に出て」
「「はーい」」
二人に続いて皆さんも外へ出てきました。その後を私とエリーさんも出ます。その際に収納式の踏み台が出されて、アルマンさんが手を貸してくれました。荷台が地面より80センチの高さにあるので、踏み台があると便利です。
もちろん飛翔という魔法があるけど、乗り降りするのに毎回魔法を使うのも・・・。風魔法のため、少なからず身体の周囲に風が発生します。微風の弱いものですが、でも風なんですよね。紙が舞い、幌が靡く程度ですが、鎌鼬みたいに鋭いものが発生する可能性があります。誰かをキズつけたら、トラウマになって、私は二度と魔法が使えなくなるでしょう。
「「おねえちゃーん。『にじ』なーい」」
空を見ていた二人が私を向いてそう訴えます。
「アクア。マリン。あの雲は何で出来ていると思う?」
「「うー?」」
二人は雲を見上げて唸っています。そして「「わかんなーい」」と白旗をあげました。
「あれは水蒸気、『水』だ」
「「みずー?!」」
「ああ。水だ」
二人は「ふわー」と感動したような声をあげて「すごーい」と目を輝かせています。
「虹は雨が降って水蒸気が多く、背後から太陽が出てる時に見える」
「おひさま でてるー」
「あめ ふってなーい」
太陽を指差したマリン。反対側を指差して残念そうなアクア。
「「にじ でてなーい」」
二人ともショボーンとしています。
「虹は簡単に作れる」
そう言って前に出てから何もない空からシャワーを降らせました。同時に虹が現れてアクアとマリンが「「すっごーい!」」と燥いで飛び跳ねています。
「庭に水を撒く時の少量の水でも、太陽を背にすると出来ます」
スッと右手をあげてシャワーを止めると「「あーあ」」と残念そうに呟きました。
「「おねえちゃん。もっとー」」
「ダメ」
「この程度のことならもっとやったれよ」
「今の水蒸気で薄い雲が出来てきた。このまま続けて、此処に『今日降らないはずの雨』を降らせるの?向こうにあるのは、どう見ても雷雲だよ?これ以上続けて、あの雲を此方に呼び込むの?それはさらなる大雨の被害を招いたりって連鎖して、この周辺の気象を荒らして作物を枯らすよ?」
遠くに見える真っ黒な雲を指差すと、さっきより近付いて来ているのがわかりました。誰もがそれは『悪いこと』だと気付いたようです。
「どうする?まだ続ける?」
エリーさんがそう聞くと、アクアとマリンはブンブンと左右に頭を振りました。
「お前らは?『この程度』だから続けたいか?」
キッカさんが『ゴートゥーヘル』の連中にそう聞くと、彼らも首を左右に振りました。
「じゃあ。そろそろ王都へ向かいましょう。エ~アちゃん。逃さないわよ~」
エリーさんに背後から抱きつかれて抜け出せませんでした。
「エリーさん。アレアレ」
私が指差す先には、ゴブリンが何十体もいました。
「ちょっっ!ホブゴブリンじゃない!」
「こんな王都の近くに!」
ホブゴブリン・・・『悪戯好きな小鬼』というだけあって、尖った耳に鉤鼻。緑の体色。ゲームに出てくるような小鬼です。
ギャッギャッ!
ごえっぐえっ!
あれ?あの後ろにいるホブゴブリン、手にしているのは『こんぼう』ではなく『つえ』だ。ってことは魔法を使う種族?
さっきの水蒸気があるから・・・
『竜巻』
周囲の水蒸気を巻き込んで、ホブゴブリンの周りを竜巻で此方に来られないように足止めしました。顔を振ったりしているので全体が濡れたのでしょう。
『静電気』
竜巻を止めると同時に、すでにお得意となった雷魔法をぶつけました。濡れた地面も効果を上げてくれたため、派手に青白い光を発しています。
アクアとマリンがユージンさんの後ろに隠れて見ています。『ゴートゥーヘル』の連中は腰を抜かしたのか、地面に座り込んでいます。
「お前ら。『誰を敵に回した』のかよく分かったか?」
アルマンさんが笑いながら聞くと、首を縦に振っています。
「アレー?『女でソロの冒険者』を散々バカにしてたよね。もちろん私より強いんだよね。エリーさんも『女でソロの冒険者』だけど、エリーさんよりも強いんだよねー?」
「エアちゃんは十分強いわよ」
「えー。私、全然戦えていない・・・」
「「「十分強いです!!!」」」
全員から『私は強い』と認定されました。でも『魔法を使っている』だけで、体力もないし、武器を使った戦闘は弱いです。
「エアちゃん。回収して『状態回復』かけて。王都に行くわよ」
エリーさんに言われて『収納』して『状態回復』もかけました。
・・・。
・・・・・・。
「エアちゃん。ほら行くわよ」
・・・。
「エアちゃん?」
「まだ何かあるの?」
「エリーさん」
「ん?どうしたの?」
「彼方から何か来るよ?」
「え?!『何か』ってなに!」
「『豚』」
「「「またかー!」」」
「まただー!」
「行ってこーい!」
笑って言う私の言葉に続けて、エリーさんが命令しました。
「「はーい」」と喜んで飛び込んでいくアクアとマリンに続いて、ほぼ全員が駆け出して行きました。
「あ。『かくれんぼ』してる」
「軟弱者ね」
「だね」
「あ、あんなのに飛び込んで行けるわけないじゃないですかー!」
「・・・子供が飛び込んで行ってるのに」
「やーねー。『子供以下』なの?」
「これで私を嘲笑ったんですよ」
「「弱~」」
私たちがバカにしていても動けないようです。
「大きな穴を開けて~」
そう言いながら、地面に20メートルの大きな穴を開けました。
「エアちゃん?何を始めたの?」
「大きな落とし穴。作っているの」
「大きくない?それ」
「だーいじょーぶ」
そう言いながら、穴の中に土の杭を何本も刺してから、上部に薄く土を乗せました。
「ほーら。次の団体さん」
私が指差すと、イノシシの大群が突進してきました。
「ヒェェェェェ!」
「ちょとあれって!」
「おっきなイノシシさん、再登場!」
はい。イノシシの中心には大きなツノを持った『上位種』が三頭います。
「イノシシは急には止まれなーい」
私の言葉通り、イノシシは止まらずにすべてが落とし穴に落ちて行きました。
生体反応がすべて消えてから、収納して穴を元通りに戻しました。
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