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第三章
第67話
「私はフィシスたちに魔物の報告と『ゴートゥーヘル』の引き渡しをして来るから。エアちゃんのことを頼んだわよ。って、言ってるそばから抜け出さないの!」
「お宿に帰る~」
「取り敢えず、状況が分かるまではキッカたちの住処で待ってなさいって。私もすぐに行くから」
「俺が行ってきた方が良くないですか?」
「キッカに、イノシシとホブゴブリンの件を詳しく言える?」
「・・・無理ですね。ホブゴブリンはともかくイノシシの件は見てさえいませんから」
「でしょう?だから私が説明に行ってくるから。エアちゃんのことをお願い」
「全員、乗って下さい。南部守備隊詰め所まで馬車で行きましょう」
キッカさんの言葉に、私を背後から抱きついて捕まえているエリーさんは大きく息を吐くとそのまま荷馬車の奥に乗せられました。ルーフォートでも、同じようにダンジョンに行こうとしてエリーさんに捕まえられて荷馬車に乗せられました。
「エアさん。一度住処に案内します。そして部屋の案内が済み次第、宿に行きましょうか」
「ちょっとキッカ!」
「『喫茶店の客』として行くだけですよ。エアさん。宿にはチャットで事情を説明しましょう」
「でも・・・『私が交渉人』だってことは秘密でしょう?」
「大丈夫ですよ。『権力を使って女性を追い回す人たちがいるから、安全のために同じ冒険者のエリーやアクアたちの家に避難しています』といえば分かるでしょう。『黒髪の聖女騒動』もありましたからね。権力を持った不埒者がいる以上、女性の一人歩きは危険です。それに接客業ですから、嫌がらせ行為を受けると困りますよ」
「お宿がダンダン遠くなるー」
「エアさん。毎日宿の喫茶店に行きましょう。オレたちも色々食ってみたいんで、付き合ってくれませんか?」
「エリーさんも一緒・・・?」
「ムリムリ」
「エリーは喫茶店よりバーカウンターの方がお似合い・・・」
「へえー。私がなんだってー?」
この『滑りやすいお口』はワザとなのかなぁ?
今もヘッドロックをかけられて、頭頂部をグリグリとドリルされています。
「私、エリーさんと初めて会った時に『パスタの美味しいお店』に連れて行ってもらいましたよ」
「えぇぇ!」
「エリーでも『バー以外でメシの食える店』を知ってたのか!?」
「お前ら・・・」
「安くて美味しいお店でしたよ。エリーさんが奢ってくれました」
「えぇぇ!ありえない!」
「いやいや。『安いから奢った』という可能性も・・・」
「先輩風吹かせるために、奢るつもりで安い店に連れて行った可能性もあるぞ」
「・・・なんでエリーさんが奢ってくれたのがおかしいの?」
「エアさんは知らないでしょうが、エリーと飲み食いするとオレたちが払わされるんです!」
「誰が食事に誘っているんですか?」
「ああ。それはオレたちが」
「エリーは放っておくと、メシを食わずにずっと飲んでるからなあ」
「・・・基本は誘った人が奢るんじゃないの?」
私がエリーさんとキッカさんに確認すると「そうですね」「そりゃそうでしょ」と同意してくれました。
「良かったわね、エアちゃん。毎日誰かが奢ってくれるって」
「ごちそうさまで~す」
「ついでに私もついて行って、奢ってもらおうかな。いいよね、エアちゃん」
「はい」
「ダメダメ。オレたちが誘ったのはエアさんだけなんだから、奢るのも・・・」
「なーんか言ったかー?」
「イエ・・・。ヨロコンデ オゴラセテ イタダキマス・・・」
リブラさんは両頬を片手で強く挟まれて、涙目で約束をさせられていました。
「エアちゃん。一緒に行くから待っててね。キッカ!置いて行ったら恨むからね!」
荷馬車を降りたエリーさんは、私には優しく、キッカさんには強く言い残して、詰め所の中へ入って行きました。
「・・・勝手に行ったら、あとでひどい目に遭いますね。『居残り組』が」
「面白そうだからって、勝手に行こうとしないで下さいね。泣きますよ。というか、泣かされますよ。エリーに」
「「「お願いですから、エリーが戻るまで出かけないでくださーい!」」」
皆さんに、泣きながら必死に拝まれてしまいました。必死さがすでにホラーです。
ああ。賑やかだ・・・。久しぶりに王宮前の広場に市が立っているのか。何度か王宮のバルコニーから群衆を見下ろした時に見かけたな。
父上がバルコニーに立つと、群衆の歓声が地響きのように足元から震えた。あれが小さい頃は怖くて、でも堂々と胸を張り群衆に笑顔で手を振る兄の姿に『負けん気』が勝って、気付いたら自分もバルコニーに立っていた。
ああ。隣に父上がいる。俺と同じ、頭から黒いフードを被った父上。粗末な椅子に座り、それでも胸を張り前を向いている姿は正しく王そのものだ。
俺は父上みたいになりたかった。父上と同じ世界を見たかった。
誰かが俺に向かって何か言っている。呼ばれているのだろうか?立とうにも上手く立てない。そんな俺の両側から、父上の近衛兵たちが支えて前へと連れて行く。
台の上に座らされてフードを外された俺は、群衆たちが俺に向ける『憎しみの目』に憤りを感じた。
大声で怒鳴りつけようと思った。しかし声は悲鳴と化した。背に受けた『灼熱の熱さと痛み』。続けて顔の前に赤黒くなった『焼鏝』が見えた。さっき背に受けたあの痛みはコレだったのか!
逃げようとしても身体は言うことを聞かない。そのまま額にあてられて、俺は悲鳴を上げたつもりだった。しかし口から出たのは『声にならない声』だった。
そして思い出した。いま自分が受けているのは『不死人』という公開処刑だと。
判決を受けて暴れていた俺は、今まで思考を停止する薬を飲まされていたのだ。
このままでは永遠にこの世を彷徨うことになる。
救いを求めて、唯一動く目を動かしていると、誰よりも憎しみの籠もった視線を送る『黒髪の女』を見つけた。・・・あれは誰だ?!あれほど突き刺さるような目を王子である俺が向けられることなどあるはずが・・・イヤひとりいた!
聖女!俺が召喚したもう一人の『黒髪の聖女』!あの女だ!だれか!あの女をつれて来い!貴様!聖女なら今すぐ俺を助けろ!
あの女は憎しみの目で俺を見ている。表情はない。・・・何故だ?あの女は他の連中とは違い、怒りも歓びも悲しみも見せていない。ただ、目だけに感情が現れていた。
・・・・・・そうだ。あの女から『聖女』の称号を奪って城から追い出したのは俺自身だ。
あの目がすべてを語っている・・・。『永遠に苦しめばいい』と。『それだけのことをしたのだ』と。
死んだ聖女も言ったではないか。『絶対に許さない』と。
二人の聖女の人生を狂わせた俺を助けるはずがない。許すはずがない。『聖女』という『思いやりや優しさ』を、俺は『いらない』『必要がない』と言って捨てたのだ。
自ら捨てた『救い』に手を伸ばすこと自体、愚かなことだ。・・・・・・それを今になってやっと理解した俺は、やはり『出来の悪い方』だ。
目の前の処刑人が小刀の鞘を抜く姿を、心静かに見ていた。そして俺は、許されぬ罪を背負った『不死人』となった。
『新国王』となった息子は、この公開処刑をどんな気持ちで見ているのだろうか。
父と弟。処刑されて『不死人』となる二人の姿を。
最後に父としてみっともない姿を晒すわけにはいかない。胸を張り最後の見栄を張る。
先に処刑台に乗せられたレイモンドは、目に驚愕を浮かべていたが、去勢直前にすべてを諦めて・・・いや。すべてを『受け入れた』表情を見せた。
レイモンドはそのまま処置もされず、囚人用馬車に投げ入れられて王都を離れていった。
同時に処刑されても乗せられる馬車は別だ。『不死人』は焼鏝の呪いによって、お互い反発しあって近付くこともない。そして10キロ以上離れていないと、全身に切り刻まれるような痛みが走るようになっている。
両側に近衛兵が立つと、私は自ら立ち上がり処刑台へと進み出た。
フードを外され、背に焼鏝が押し当てられた。小さな唸り声が口から漏れたが、背の皮を焼く音が勝り、唸り声を聞いた者は少なかったようだ。
俯かせていた顔を上げると、ひとりの『黒髪の女性』と目があった。誰よりも憎しみと怒りの籠もった目は、あの日、私の目の前で生命を絶った聖女様を彷彿とさせた。
ああ。そうか。貴女が『もう一人の聖女様』だったのか。
額を焼くこの焼鏝は『声を奪う』もの。私は聖女様に謝罪するチャンスを永遠に失った。
いや。そうじゃない。『何処にいるか分からない』なら、何故、国民全員に向けて謝罪しなかったのか。
これは・・・いま受けているこの処刑は、レイモンドのせいではない。愚かな私が自ら招いた罪に対しての罰だ。
そして、誰が何を言っても聞く耳を持たなかったレイモンドは、彼女のあの目を受けて、自らの行為を反省したのか。
愚かな私と同じように・・・。
取り出された小刀が焼石に差し込まれると、すぐに焼鏝同様赤黒くなった。熱で傷が焼かれることで出血が抑えられる。
これだって、過去に『女性の不死者が囲われていた』事件が原因だ。
以降、それまで背にだけ押されていた焼印が、ひと目で不死者と分かるように顔に押されるようになった。
背に押される焼印が『不死者の証』だ。これを押されることで、何が起きても痛みはあるが死ぬことはない。だからこそ、顔に焼鏝を押されても去勢後そのままにされても、痛みは続くがそれで死ぬこともない。
去勢を受けた私は、近衛兵たちに囚人用馬車に投げ込まれた。残った力を振り絞って身体を起こすが、すでに動き出していた馬車から聖女様を見つけることは叶わなかった。
私は父と弟が続けて『不死人』となる姿を見届けた。
これが私の、『新国王』として最初の『仕事』となった。
レイモンドは民衆の一点を睨んでいた。しかし、去勢直前に見せた顔は、幼い頃に叱られて反省した時に似ていた。
その時は『見間違い』だと思っていた。
しかし、レイモンドのあとに処刑を受ける父は、ステージにいる時も、レイモンドの処刑の間も、処刑台に上がる時も、父として先代国王として胸を張っていた。
そんな父が目を見張り、やがて穏やかな表情を見せた。レイモンドと同じ『罰を受け入れた』表情だった。
自分の位置からは民衆の頭しか見えない。二人は何を見たのか。いや。『誰か』だったのかも知れない。
二人の視線の先に・・・聖女様がいらっしゃったのだろうか。それは夢か現実か。しかし、調べることはしない。
すでに聖女様は市井に下られ、民衆の一人となられたのだから。
「陛下。如何なされましたか?」
側近の近衛騎士隊長がそっと声を掛けてきた。
「いえ。・・・あの二人が何時か神に『赦される日』が来ることを願っていました」
そして神に願う。聖女様に幸せが訪れるように。
そして私は民に誓う。誰もが幸せになれる治世をつくり出すと。
─── そして私は席を立った。
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