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第四章
第89話
しおりを挟むセイマール国はあまりにも貧しく、途中の町や村でも『自分たちが生きていくだけで精一杯』の状態でした。そのため、王都までは寄り道をしないで来ました。川も井戸も枯れ果てていました。
アルマンさんが言ってましたね。『この国は神の罰で常夏なんだ』と。
そのため、街道沿いに結界を張って、休憩しました。天井部分を『暗魔法』で暗くして日陰を作り、水と風で結界内を涼しくすることで、馬も人間も快適に休むことが出来ました。
町や村の中で休憩しようとしても、水ですら貴重なようでした。そして魔法で水を出せる人は、それを商売にしているようです。
『コップ一杯100ジル』
そんな立て看板が立っていました。様子を見ているとコップ一杯は150CCあるかどうか。料理用の水となると結構高額になる。そして、かわいそうな話だが、練習すれば自分で水を出すことが出来る。・・・一時的なら可能だが、商売にするには不向きです。セイマール国が砂漠化したのは30年も前の話。30年以上、続いているのでしょうか?魔法の本が流通していないから魔法の勉強が出来ないのでしょうか?
「キッカさん・・・。この国は寄り道しないでいいです」
「分かりました。馬車に戻りましょう」
何時も無邪気なアクアとマリンですら怯えるくらい、人々の心に『喜怒哀楽』がないのです。
馬車に戻って村を後にしました。
王都に入る時でも門兵はおらず、出入りは自由でした。それは犯罪者が横行しているということになります。私たちはそのまま王城へと向かいました。
王城に入ると、回収人として来た人がキッカさんを交渉人と思い、一緒にいたアクアとマリンまで連れて行ってしまいました。
私は城の前に倒れている人に薬をひとつ渡して飲んでもらうことにしました。状態は『汚れた水を口にした腹下し』でした。塩分の入っている経口補水液を作ってあるので、それを渡したのです。
飲んだ直後に回復した女性に驚かれたけど、残りを隣の男性に飲ませようとして、その男性は子供に飲ませていました。もう一本を渡し、男性に飲ませてもらおうとしたところで、知らない男性たちに城の中へと連れていかれました。
私にとって、城は嫌な思い出しかありません。
そのため、入りたくなかったのですが「不敬罪で仲間全員殺されてもいいのか」と脅されたのです。
私を守ろうとしてくれたネージュさんに「アルマンさんに伝えて」と頼みました。中にキッカさんがいて、一緒にアクアとマリンがいるなら、私の場所が分かるでしょう。
「この薬を作ったというのはお前か。我が奴隷にして専属の薬師に任命してやる。ありがたく受けよ」
何だろ?この人。
目の前の男が持っているのは私がさっき渡した薬だけど・・・。病気の人に飲ませるように言ったよね?なんでこの人が持っているの?
そう思って返事もせずにただ見ているだけだった私に相手は腹を立てたのか、勢いよく右腕を振り上げて・・・さすがに周りの人が止めた。
「何故止める!」
「異国所属の冒険者です!それも王都の。そんな相手に暴力を振るえば、この国が滅びます!」
「冒険者なら殺しても構わない・・・!」
「・・・ふうん」
私の言葉に周囲はビクリと身体を震わせる。
「さんざん待たされた挙句に一方的に奴隷にしてやるとか怒鳴られて暴力。さらに『殺しても構わない』ですか。・・・親子揃って『なってない』ですね」
私が立ち上がると周りから「お待ち下さい!」「お許し下さい!」と声が上がる。
「なんで許す必要がある?本人に反省の色もないのに。それにその薬、私が病気の人に飲ませるようにって渡したよね。それを、なんでコイツが持っている?」
私の『コイツ』発言に腹を立てたのか、顔が赤黒く変色しました。
・・・そのまま、脳の血管を『プッツン』させて逝って下さい。薬は与えません。勿体無いですから。
「申し訳ございません。あの時の病人にはご指示通り飲ませて回復しました。それを見た薬師長が薬瓶を取り上げて成分解析を掛けたのですが・・・」
「分からなかった、という訳ですか。それで『作った私を殺してでも作り方を吐かせろ』でしょうかね?・・・という事は、コイツは薬師長?」
「い、いえ。其方のお方は、このセイマール国フリーザ・セイマール国王です」
「ヘェ~。国王の分際で、さんざん人を待たせておいて、挨拶もなく礼儀もなく怒鳴り散らし、挙げ句の果てに暴力に暴言に殺害未遂。ああ。これが『この国の礼儀作法』なんですね~」
目の前の人物に目を向けて、手にしている薬瓶を収納で回収しました。同時に目を丸くして慌てて周りを探しているバカ王。そして、私に掴みかかって来ました。ですが、私の目の前で『透明な壁』に阻まれて、雷を浴びて感電して床に倒れました。
「交渉決裂。理由『国王自身による暴力行為』」
【 『セイマール国王フリーザ・セイマールの権利者に対する殺害未遂行為』を認め、権利の神の名において交渉決裂を此処に認める 】
私の宣言の後に、上から男性の声で宣言が認められました。声は国民全員に聞こえたでしょう。私の交渉相手は『この国』ですから。そして『暴力行為』が『殺害未遂行為』に発展しちゃいました。
私の前に現れた透明な壁は『権利者を守るもの』です。ちなみにこのバカ王の出来の悪い息子・・・いえ、『似た者親子』ですね。あの男の時は『言葉に魔力を込めた』だけなので壁は現れませんでした。ですが、『交渉人の保護』で守られたとエリーさんに教えられました。私が権利者ということもあり、あのバカ王子の『顔面&精神崩壊』は『権利者を殺そうとした罰』として片付けられました。バカ王子の称号には『罰を受けし者』とついていました。逆に、その件で私に賞罰がついていないため、私には直接何も問題は起きません。
だって。アレは『殺されかけたことによる報復』ですから。
唯一、バカ王子の同行者たちは私に罪を押し付けようとしましたが・・・。それだって、『このままでは自分たちが罰を受ける』という保身からです。
私のステータスに賞罰がついていない以上、私はただの『交渉人に目をつけられて追い回された女性』と言う立ち位置です。王都でも、何人もの女性が追い回されていたのは知られていましたし。そのため私は説明も何も必要ありませんでした。私の交渉代理人としてエリーさんが立っているので、私が交渉相手だとはエリーさんたち以外は知りません。そしてキッカさんも交渉代理人ですが、周囲はキッカさんが交渉相手だと勘違いしています。私たちは誰も聞かれていないから否定していないだけです。そして、立ち会いには『権利の神』がついているため「権利者に罪を押し付けた」として彼らに罰が下ったそうです。
フィシスさんが目撃したそうですが・・・。どんな罰か聞いたら「嘘を吐く度にポロポロと歯が抜けていった」そうです。
ホラーです。怖いです。フィシスさんには悪いけど・・・見なくて良かった。
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