96 / 791
第五章
第109話
しおりを挟むエリーさんに連れられて鍛錬場を後にしました。応接室に着くと、そのままソファーまで連れて行かれて周りに結界を張られました。
「ゴメンね。大事な話をするから。魔物に関しては調査するわ。それで・・・エアちゃんが聞きたかったのは違うのよね?」
「はい。実はダンジョンでオークが現れたんですが、それが二種類いたみたいなんです」
「二種類?」
「はい。オークって・・・ブタですよね?」
「ええ、そうよ。それがどうしたの?」
「違う種類がいたんです。・・・イノシシから進化した、と思われます」
エリーさんは目を大きく開いて驚いています。ですが、いくつか確認しなくてはいけません。
「以前・・・。ルーフォートから帰って来る途中で『ホブゴブリンの群れ』と遭遇しました」
「・・・あの『虹』の時ね?」
エリーさんの確認するような言葉に黙って頷きました。
「実はあの中に『つえを持ったホブゴブリン』がいたんです」
「ちょっと・・・?!王都周辺、ううん。この国にいるホブゴブリンの武器は『こんぼう』のみのハズよ」
「じゃあ、これを見てください」
私が出したのは、ホブゴブリンを倒した時に得た『ホブゴブリンのつえ』です。・・・それも希少価値が高く、ドロップ率は9%以下というものです。それは、このつえにはサファイアが付いていて、これを持っていたホブゴブリンは『回復系プリースト』とありました。
「ゴブリン系で回復役がいる・・・?」
「『回復系』ってあるってことは、他のプリーストがいるということでしょうか・・・?」
「それこそ『ありえない』わ。・・・違うわね。間違いなく『いた』。このつえが、何よりの証拠だわ」
「『ホブゴブリンの上位種』ということですか?」
「・・・『変異種』、ということかも」
「とりあえず、回復系プリーストのホブゴブリンの情報画面を送ります」
1体だけなので情報は多くありません。ですが『存在した』という証拠にはなります。
「私が確認したかったのは、『イノシシ系オーク』や『回復系プリーストのホブゴブリン』が他の種族と行動を共にするのかってことです。オークは『ブタ系オーク』と一緒にいましたし、ホブゴブリンも『こんぼうを持ったホブゴブリン』と行動を一緒にしてました」
「ゴメンね。何方の魔物も、それにスライムも『前例がない』の」
『ホブゴブリンのつえ』を私に返してくれながら謝罪されました。
「エアちゃん。しばらく魔物のアイテムを調べるのよね?」
「はい。まだ始めたばかりなので。たぶん『冬の終わりの日』まで続くと思います」
「・・・魔物の件は私にしばらく預からせてくれる?まずスライムの件から調べていくわ」
春までに魔物の情報を纏めないと、冒険者や行商人が犠牲になってしまいます。特にオークやゴブリンはフィールドに展開しているのですから。
「・・・エリーさん」
「ごめん。エアちゃん。・・・私も同じことを考えたと思う。スライムじゃないね。緊急性があるのはオークやゴブリンの方だわ」
王都に一番近いゴブリンの棲息地。其処に一番近いのは、王都の南部にある広大な『はじまりの森』を越えた場所にあるヤスカ村。『魔物避け』が張られているとはいえ状況確認が必要だ。
「エリーさん。・・・ダンジョンは『棲息地』に入りますか?」
『先生。バナナはオヤツに入りますか~?』のように軽く聞いたのがいけなかったのでしょうか?エリーさんは一瞬何を言ったのか分からなかったようです。
「・・・え?エアちゃん・・・?ダンジョン?」
「ルーフォートの近くにオークだけが出るダンジョンがありましたよ。ブタの肉だけでイノシシの肉は出てきませんでした。なので『イノシシ系』はいなかったみたいです」
「エアちゃん・・・。どういうこと・・・?」
「エリーさんが言ったんですよ?『いるはずの魔物やいないはずの魔物、フィールドで遭遇した魔物にも変化があるかも』って」
「・・・い、つ?」
「アントの巣の報告会で。ポンタくんとはじめて会った後です」
「エアちゃん。あの時からずっと魔物を調べていたの?」
「はい。ルーフォート周辺の魔物が気になったから、残って調べたかったんですが・・・。もし、魔物が町や村を襲うための拠点代わりにダンジョンを使っていたら困るから潰したかったの」
ルーフォート周辺に、魔物たちが偏っているダンジョンをいくつも見つけました。そのため、町に近いダンジョンから順番に潰して回りました。セイマール問題が片付いて王都に戻った後も、王都周辺ではなくルーフォート周辺の入っていないダンジョンまで飛翔で往復していました。宿に移った後は数日かけてルーフォート周辺のダンジョンに入っていたのです。
「エリーさん。『オークだけのダンジョン』ってありえなくないでしょうか?」
「・・・でも、スライムだけのダンジョンはあるわ。『はじまりの迷宮』だって、ネズミとウサギよ」
「ネズミもウサギも『雑食』だからでしょう?スライムはまだ仮説段階ですが、草などの植物や岩石・鉱石の類いが主食ではないでしょうか?そのため、毒素を含むものを好んで食べているスライムは毒を吐いて、鉱石・・・魔石もかな?死んだ魔物を食べて、その魔物が体内に含んでいた魔石で属性が変わるのだと思います」
「エアちゃん。・・・それなら、どうして『オークだけのダンジョン』がおかしいの?」
「だって。オークは『肉食寄りの雑食で捕食する側』ですよ?ダンジョン内に『雑食で捕食される側』の魔物がいないのに・・・。300体に及ぶオークたちは、どうやって『お腹を満たしていた』のでしょう?特に『ダンジョンの奥』に行くに従って強くなる、つまり『リーダーのオーク』は?毎回1階まで戻って外で獲物を狩って下層へ戻ってたの?上層のオークが大量に狩ってきて、それが下層に運ばれていた?ルーフォートは王都の周辺とは違います。アントの巣みたいに、待っていれば何も知らない冒険者が数日おきに複数人で入って来るって場所ではありませんよ。それにルーフォートの冒険者ギルドには、単体でもオークの目撃報告はなかったと思います」
通常のダンジョンでは中層域に『捕食される側』がいます。もしくは捕食する側とされる側が何層にも重なった『ミルフィーユ』状です。
ですが、オークだけのダンジョンに『捕食される側』が一体もいなかったのです。
エリーさんもやっと『異常性』に気付いたようで青褪めています。ですが『人間に被害が出ていない』ため、問題が表面化しなかったのでしょう。
「オークって、そこまで知能が高いのでしょうか?」
「・・・・・・ありえない」
「エリーさん?」
「ありえないわよ!あのオークが!」
「エリーさん。落ち着いて・・・」
「アイツらが知識あるなんて!絶対!!信じないわ!!!」
「エリーさん!」
腹の底から声を出したら、やっと我に返ったのでしょうか。エリーさんはハッとしてから少し落ち着いたみたいで「ごめんなさい」と呟きました。その表情は、泣きそうで苦しそうに歪んでいます。
「エアさん!」
通話を知らせるアラームが鳴って応じると、キッカさんの声が応接室に響きました。とたんにエリーさんの表情が強張りました。
「キッカさん。どうしたんですか?」
「おねえちゃん!どうしたの?!」
「おねえちゃん!なにかあったの?!」
「此奴らがエアさんの声が聞こえたって慌てて応接室まで駆け出して。いま部屋の前にいます。開けてもらっていいですか?」
「中は大丈夫です。ごめんなさい。今は開けられません」
「おねえちゃん!あけて!」
「おねえちゃん!いれて!」
「今は『大事な話』をしています。ですから開けられません」
ダンダン!と通話の向こうから響いてくる音は、二人がドアを叩いているのでしょう。ドアには鍵を閉めているので入れないのです。その上で結界も張っています。
・・・それでも声が聞こえたのですか。ルーフォートでも、結界の中にいる私の悲鳴を聞きつけてテントから飛び出したことがありましたね。
「・・・エアさん。大丈夫なんですね」
「はい。心配してくださりありがとうございます。・・・ですが、今はご遠慮下さい」
今の弱々しいエリーさんの姿を見せられません。
「・・・分かりました。お騒がせして済みません」
まだ騒いでいた二人を誰かが止める声が紛れて聞こえてきます。つまり『三人だけではない』のでしょう。ならば、開けられません。
「エアちゃん・・・」
「大丈夫ですか?」
「・・・ええ。ごめんなさい」
エリーさんの前に水を出しました。『癒しの水』です。エリーさんはコクコクと半分ほど飲んで、落ち着いたように息を吐きました。
「・・・あの、エアちゃん」
「何も言わなくていいですよ。言いたくないことを根掘り葉掘り聞き出す気はありませんから」
「・・・そうね。エアちゃんはそういう子だったわね」
弱々しい声ですが、さっきまでと違い表情は微笑んでいます。落ち着いてきたのでしょう。
「エリーさん。魔物の調査をお願い出来ますか?まず最初に『ヤスカ村』の調査を。私は『飛翔』が使えます。何かあったら飛んでいきますから」
「分かったわ。そうね。すぐに冒険者ギルドに行ってくるわ」
顔色はまだ青いですが、表情は何時も通りで真っ直ぐな眼に戻っています。『すべき事』が分かっているため、何から調べるかを考えて頭をフル回転させているからでしょう。
134
あなたにおすすめの小説
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。