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第七章

第233話

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「失礼ですが……どちらかのご令嬢でしょうか?」
「本当、失礼ですね」

メクジャの言葉に冷ややかな目で見遣る。それに気付き「申し訳ございません!」と慌てて頭を下げた。

「許す気はありません」

私の言葉と共に、彼の賞罰に『不敬罪』が加わったのだろう。顔色が一気に白くなっていった。近くにいたら『サー』という擬音が聞こえそうだ。

「申し訳ございません。少しお時間をいただけませんか?」
「急いでいます」

ミスリアのお誘いというか強要を断ると「じゃあ、失礼」とだけ言って『飛翔フライ』で空高くまで飛び上がった。膜を作って王都に向けて急ぐ。遅くなれば、お留守番の妖精たちやピピンたちが心配する。……なにより、ダイバをはじめとした自称・保護者たちが心配する。
置き去りにしてきたミスリアたちはコルスターナから来たようだ。馬車の向きから言っても、ダンジョン都市シティに向かっているのだろう。だったら、あと七日後には到着するだろう。少なくとも、あと二日か三日進めば、キマイラの影響下に入り、魔物から襲われることもなく到着できる。
説明してルレインに丸投げする方向でいこう。緊急クエストの報酬が未払いということもあるし……。なにより、先ほどのやり取りで不敬罪がついたメクジャが都市まちに入れるかも不明だ。希望は『丸投げしてダンジョンに逃げ込む』だ。
縮小させているが、開きっぱなしのステータス画面がピコンと点滅を繰り返した。王都に近付いたのだ。


徒歩五分ほどの距離で地面に降りると、収納カバンを袈裟懸けにかけてから城門へ歩いていく。
……変だ。結界が効いていないのか、
王都の魔石に妖精たちは手を出していない。『大事なもの』だとわかっているからだ。妖精たちでも分別ふんべつはある。ピピンに厳しく教育されシツケられたからだ。

「冒険者ですか。でしたら大丈夫ですね」

城門でそう声をかけられた。城門で入場制限をされているようだ。

「……中から魔物の気配がするんですが、何か起きたんですか?」
「それが……最近になって『聖魔士くずれの未来』を知った聖魔士くずれが、自分が使役していた魔物を投げ出したんだ」
「……メイワクな奴」
「ああ、それで魔物が暴れている状態だ」
「……ちょっと用意してくる。すぐ戻る」
「何か方法でもあるのか!」
「……仲間を連れてくる。連中が手を貸してくれるはずだ」
「そうか、助かる」

私は外に出ると光速でダンジョン都市シティに戻った。移動に一秒もかかっていない。外周部に結界が張られていないため、直接都市まちの城門前で空から降りた。私が出かけたことは聞いていたのだろう。門兵たちから「お帰りなさい」「早かったですね」と声をかけられた。住人と外来者の入り口は違う。住人側には六人以外の妖精たちも入れるようになっている。

「王都を滅ぼして国王を引っ張ってくると聞いていたんですが」
「それ以前の問題」
「すでに王都が滅んでいましたか?」
「……ほぼ当たり」
「…………へ?」
「冗談抜きで滅びかけてる」

そう言いながら身分証を水晶に載せると緑色に光った。

「あ! そういえば、ここにくる途中のコルスターナの一行と会った。メクジャって不敬罪とかついてる偉そうな奴が一緒だったよ。立場が上のミスリアって貴族女性に対しても見下してたし」
「わかりました。ほかにその男の情報は?」
「メクジャから緊急クエストを受けて成功したんだけど、報酬がまだ未払い」
「ほー。それはそれは。延滞料金と踏み倒しを含めてを代行で徴収しましょう」

……なんと言いましょうか、素晴らしい笑顔で。悪巧みを思いついたというか、『面白いオモチャを見つけた』というか。
たぶん、いや確実に、といった方がいいだろう。

「中に入るにはそれ相応のの支払いが必要です」

そう言ってお金を徴収するのだ。別にそれ自体は違法ではない。『貴族・不敬罪・緊急クエストの報酬未払い』ということで、代金が高くなる。ただの貴族なら支払い義務はない。『罪を償っていない犯罪者の貴族』だからだ。ちなみにそれ一つで白大金貨五枚。鑑定石があるため、物納でも可。指輪などのアクセサリーを板状の鑑定石に載せると価値が物品の上に表示される。一度物納されたものは、都市まちを出ていくときに返品されない。……にもかかわらず、返品されると思っている貴族は結構多い。ただ、騒いだり暴れたりすると『騒乱罪』になるため黙って引き下がる。
これはどの国でもどの町でも同じだ。ただ、主要都市ではもっと厳しく、貴族の立場を使っても罪を償っても金を積んでも入れないことが多い。だいたいの貴族は王都の外に出かけないため、そんなことを知らないのだ。……貴族の権限が効くと思い込んでいるが厳しい規則と鑑定石の前では権限も魅了も通用しない。

「じゃあ、必要なものを掻き集めてまた王都に向かうから」
「はい、お気をつけて」

私はルレインを探しに庁舎へと向かった。
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