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第九章
第402話
しおりを挟む「今回、ちょっと理由があってな。アゴールを出せないんだよ」
〈何があった?〉
「私の中に隠れていたらしい魅了の女神が、アゴールの胎内に移動した」
〈ほう……あれは行方不明の女神の気配だったか〉
どこか納得するような火龍。何か知っていることでも、気付いていることでもあるのだろうか。
「あれ? なんか知ってた?」
《 ほらほら、隠してること言っちゃいな 》
《 話した方が気が楽になるよー 》
《 さあさあ、隠してること正直に話すんだな 》
「みんな、刑事ドラマの見過ぎだから」
「……また、おかしなことを覚えたな」
ダイバが呆れたようにいう。しかし、火龍は笑って妖精たちの追及をかわしている。
パッチーンッ!
賑やかな中でいつもの静寂を招く音。特に大きくもないその音で、妖精たちと火龍が口を閉ざす。
《 リリンが『知ってることを洗いざらい喋んな!』だって。火龍……大丈夫? エミリア、『火龍の脂汗』って調合に使える? 》
「…………成分を調べるから集めといて」
《 はーい 》
水の妖精とピピンが、火龍から多分脂汗と思しき液体を回収している姿を見たダイバが「……緊張感ないな」と呟いた。
「えーっと、つまりエミリアの中にかすかな異物の気配を感じていた。しかし、それが悪意あるものでもなかったから、気にはしていたが忠告はしてこなかったってことか?」
〈ああ、それで間違いはない〉
火龍の言葉に「あれ?」と疑問がわいた。
「ねえ、私たちが到着したときに周囲を見回していたのは、アゴールを確認していたからじゃなくって……?」
〈エミリアの中にいた気配が完全に消えていたからじゃ。ただし、かすかな気が残っていたから周囲にいるとは思っておったが。そうか、アゴールの腹の子に取り憑いたか〉
「追い出せる?」
〈ああ、誕生のときに〉
「赤ちゃんは無事?」
〈もちろん〉
「だって。よかったね、ダイバ」
「……ああ」
変わらず私をヒザに乗せているダイバが、安心したように息を吐きだして私を抱きしめた。ずっと怖かったのだ、アゴールやお腹の子を失うことを。だから、女神の話が始まったときから必死に震えを抑えていた。火龍に『救う方法がない』といわれてしまうのではないか、と。
〈ちょうど良いものがあるんじゃ〉
そういって火龍が空間からだして差し出したのは黒い灰だった。
〈コイツは『原始の実』と言うてな。灰にしたものを飲むんじゃ〉
「このまま?」
〈いや、エミリア。コイツで料理をして食わせるんじゃ。味見するか?〉
差し出された黒い灰を指先にちょっとつけて舐めてみる。……これって
「フルーツガーリック!」
〈おお、そうじゃ〉
《 エミリア、そのフルーツガーリックって、農園で収穫したあの『果物の甘さが染み込んだニンニク』のこと⁉︎ 》
「そう、あれ」
《 舐めさせて 》
《 私も 》
《 ボクも 》
妖精たちがちょっと口をつけては身体をのけぞらせる。ガーリックだから仕方がない。
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