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第十章
第519話
しおりを挟むエミリアたちがファウシスからダンジョン都市に戻って二ヶ月後……
表向きは動きのなかったコルスターナ国とパルクス国の戦争。しかし、各地では小競り合いなどが続いており小さな火種は残っていた。前線では小隊同士の魔法が飛び交っていた。
そんなある日、パルクス国側の準備が整ったのだろう。燻って下火になりつつあった戦火が一気に復活した。魔力による攻防戦は長く続かなかった。魔法攻撃時に外される結界は両国共に脆くも壊れさった。結界を外す前に攻撃魔法を放って自滅したのではなかった。
冒険者が使う結界石であれ、軍隊が使う結界の魔導具であれ。結界の特性上、結界内外の魔法攻撃は結界に触れれば無効化される。反射して味方を攻撃することがないのは、結界が子供による魔法の暴走を食い止める際にも使われるからだ。
結界が壊れたのは、無駄な諍いで結界石や魔導具を消費させていたためだ。攻撃を受けるたびに消費される回数に前線の部隊は気付かなかった。魔導具には複数の結界石が組み込まれており、ひとつが消費しきっても次の結界石が起動する。大きさによるが、大抵の部隊で使われている魔導具の最大使用回数は四千から五千が一般的だ。魔石を取り替えるには職人の特殊技術が必要で、誰もが取り替えられるわけではない。その点ではやはり魔導具なのである。
上層部の思惑がはずれて両国は一気に態勢が崩れた。結界が張れないなら魔法は温存されて人海戦術による戦闘に切り替わる。殲滅ではなく捕虜、果ては奴隷となる者を手に入れることが優先されるからだ。奴隷は戦争で失われた人手として戦後処理を、そして売却して戦争に使った国庫の充填にあてられる。美姫・美丈夫・美童・美少女は特に高価で取り引きされるため、できるだけ無傷で捕らえなくてはならなかった。そのため、魔法は防御や補助を中心に使われる。
戦力ならコルスターナの方が上だった。パルクス国側はジリジリと後退をよぎなくされ、それにより残された兵士が捕虜にされていく。
そんな中、パルクス国側の軍勢から歓喜の声あがった。加勢となる軍隊が到着したのだ。そして一気にコルスターナ国の陣形が崩れていった。
『死隊』が前線に投入されたのだ。
各国で奴隷たちを殺して作られた死隊は、コルスターナの兵士たちを無慈悲に殺していく。そして死んだ兵士はその場で死隊に加えられて、コルスターナの仲間たちを道連れにしていった。
そんな死隊も……陽が落ちて夜空が戦場を支配するといつの間にか消失していた。
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