私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十章

第542話

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「エミリア、あとの処理は俺たちに任せてダイバと戻っていいぞ」

シーズルもダンジョン都市シティの仲間たちも、私に事後処理をさせない。
戦場に立たせたくはない。しかし、死隊は倒しても襲いかかってくる。そんな死隊にも弱点がある。数少ない聖魔法ホーリーだ。しかし光魔法は聖霊の使う魔法に近く、聖魔法はその光魔法の上位魔法。神の使う魔法と同等の力を持つ。そして私の聖女の肩書きと力は聖魔法で、私の攻撃で死兵は完全に動きを止める。

「エミリア、すまない。本当にすまない。聖女の力を貸してくれ」

どう調べても、どんなに雁首並べて意見を出し合って対策方法を考えても。死隊に対抗する方法は見つからなかった。
シーズルは報告会でそう言って私に土下座した。報告会に参加していた職員たちも同じく土下座した。彼らは本当に休みも返上して私を戦場に出なくて済むように駆け回ってくれたのだ。
ただ、ダイバは最後まで反対してくれた。

「まだ、何も始まっていない。戦闘は一度もしていない」
「しかし、死隊の危険性はダイバも知っているはずだ」
「……エミリアに、ここから出ていって死兵になった奴らと戦わせるのか」

ダイバの言葉に、シーズルは唇を噛みしめていた。
いまはバラクルで一緒に住んでいるため、お互い顔を見合わせる回数が増えた。だから知っている。私を戦場に出さなくてすむように必死になってくれていたことを。
そんなシーズルが悔しそうな表情で私に土下座した。……これ以上、見つからなかったのだ。都長として命じることも可能なのに、シーズルはそうしなかった。

「いいよ。その代わり、私は聖魔師テイマーではなく魔法剣士ででる。ただし、聖魔は参戦させないよ。人間の争いに聖魔を巻き込むつもりなら私は…………喜んで世界を滅ぼす魔王になる」

ピピンたちは戦場に出てもいいと言ったが、私はそれを許さなかった。都市まちんでいる妖精たちも、いまいる場所と受け入れてくれた人たちを守るために戦うと言ってくれたが、それも許さなかった。

「誰も闇堕ちにはしない。もしも誰かが私のために闇に堕ちるのなら、私も闇に堕ちる。たとえ私たちの前に立ちふさがる者が神であろうと、私は……『不当にこの世界に召喚されたさらわれたひとり』として報復する権利を行使する」

感情が闇に引きられそうになった私を止めたのは白虎だった。立ち上がっていた私を後ろから抱きしめて椅子に座った。私は膝抱っこでただ抱きしめられているだけ。白虎は何も言わない。周りも……誰も何も言わなかった。


「エミリアは魔法剣士として協力します。私たちはエミリアの願いどおり戦場に出ません」

最初にそう発言したのは白虎だった。私の気持ちが凪いだのを感じ取ったのだろう。

「しかし、白虎……」

ピピンが何か言おうとしたのを白虎は私を優しく見つめたまま無言で首を左右に振る。

「ピピン、エミリアは私たちが闇に堕ちるのを嫌がっているの。これが魔物たちによる集団襲撃スタンピードだったら、私たちを止めないでいてくれる。でもこれは人間による醜い争い。それに参戦するということは、私たちは人間を襲う魔物や魔獣と同等になる。人を襲えば理性と知性を失い、魔性に支配されて……二度と魔人や獣人にはなれない」
「……そんなのは嫌だ。三人が努力して、ここまで築いてきた共存できる未来を、バカが私欲や支配欲で掲げた崇高に壊されたくない。……だったら、壊してやる。私の幸せを壊す国を……ノーマンたちを巻き込んで多数の人たちを犠牲にしたパルクスも、『失われた女神』の存在も。女神だとしても殺してやる。どうせすでに存在は失われているんだから、殺しても罪にはならないでしょ。仕返ししてやる。報復してやる。絶対許すもんか。自分がしたことを、その身に受ければいい」

私の負が混じった感情を吐き出していると、白虎が包むように優しく抱きしめて背中をさする。

「そのときはみんなで一緒に仕返ししましょう。私も女神に噛みついてやるわ」

ゴゴゴッと小さく揺れる。

「あら、騰蛇も協力してくれるみたいね」
《 私たちだって仕返ししてやるわ! 》
「そうだな。そのときは俺も一緒に暴れてやろう」
《 ダイバもー? 》
「ああ、その女神は崇拝も禁じられた女神だろう? いくら殴っても蹴っても罪にはならない。なあ、エミリア。夢の中にエミリアを閉じ込めようとした女神を殴っても蹴っても、エミリアの賞罰に『女神を袋叩きにした罪』はないんだろ?」

ダイバの大きな手が私の頭に乗せられた。優しい手だ。

『一緒に』

その言葉は私の荒れた気持ちを和らげてくれる。

《 あー、そういえばないよね 》
《 じゃあ、仕返しし放題だね 》
《 うん、僕たちはそのときにエミリアと戦おう 》
《 今回は涙石の中で見守らせてね 》
「うん、そのときは戦おうね」

私は一人ではない。みんなが一緒にいて、きっと私が斬り込んでいるとき、涙石の中は声援でいっぱいだろう。ピピンにそれを確認したら苦笑で返された。都市シティ所属の妖精たちも、暗の妖精クラちゃんが作った隠し扉から涙石に入って、私の戦闘に声援を送ってくれている。
だから、私の戦闘能力は自分が思っている以上にあがっているようだ。
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