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【第32話/73日目】 遥香のキスと、あの夏の約束
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放課後の教室。
最後のチャイムから少し時間が経って、生徒たちはもうほとんど帰ったあとだった。
静まり返った教室のなかに、窓から差し込む西日が斜めに伸びていた。
教壇の横、窓際の席に座る遥香は、何も言わず、ただノートをめくっていた。
「……こんな時間まで残ってて、先生に怒られないの?」
俺の声に、遥香はふっと笑った。
「それ、私が言うセリフじゃない?」
「……ま、確かに」
気まずさも、照れくささも、不思議と感じなかった。
それよりも、この“二人きりの空間”が、どこか懐かしいようで心地よかった。
「陽翔くん、今日は話したくて来たの。……ちゃんと、“今のあなた”に」
遥香がそう言ったとき、胸がきゅっと締まった。
予感。だけど、逃げようとは思わなかった。
「私が欲しいのは、“今”のあなたなの」
言葉が落ちると同時に、彼女はそっと距離を詰めてきた。
目の前に、彼女の顔がある。
手を伸ばせば届く距離。
でも、俺のほうが動けなかった。
そして――
唇が、ふれた。
一瞬のキスだった。
でも、その短さが、心を揺らすには充分すぎるほどで。
(……あ、これが……)
身体が熱を持った。
心が、悲鳴をあげそうになった。
遥香の手が、俺の頬にふれたまま、優しく言った。
「これはね、あのときの“約束”の続きじゃない。……“今のあなた”と、向き合いたいと思ったから」
「優しさだけじゃ、足りなかった。思い出だけじゃ、苦しかった」
「だから私は、選んだの。“今”のあなたを、好きになるって」
その言葉に、なぜか涙が滲んだ。
恋は、優しさだけじゃ届かない。
過去だけじゃ、未来には進めない。
でも、“今”を抱きしめてくれる誰かがいることは、
それだけで、こんなにも心を温めてくれるのか。
俺は――いま、誰に、恋をしているんだろう。
──73日目。キスは、過去じゃなく“今”を繋ぐものだった。
最後のチャイムから少し時間が経って、生徒たちはもうほとんど帰ったあとだった。
静まり返った教室のなかに、窓から差し込む西日が斜めに伸びていた。
教壇の横、窓際の席に座る遥香は、何も言わず、ただノートをめくっていた。
「……こんな時間まで残ってて、先生に怒られないの?」
俺の声に、遥香はふっと笑った。
「それ、私が言うセリフじゃない?」
「……ま、確かに」
気まずさも、照れくささも、不思議と感じなかった。
それよりも、この“二人きりの空間”が、どこか懐かしいようで心地よかった。
「陽翔くん、今日は話したくて来たの。……ちゃんと、“今のあなた”に」
遥香がそう言ったとき、胸がきゅっと締まった。
予感。だけど、逃げようとは思わなかった。
「私が欲しいのは、“今”のあなたなの」
言葉が落ちると同時に、彼女はそっと距離を詰めてきた。
目の前に、彼女の顔がある。
手を伸ばせば届く距離。
でも、俺のほうが動けなかった。
そして――
唇が、ふれた。
一瞬のキスだった。
でも、その短さが、心を揺らすには充分すぎるほどで。
(……あ、これが……)
身体が熱を持った。
心が、悲鳴をあげそうになった。
遥香の手が、俺の頬にふれたまま、優しく言った。
「これはね、あのときの“約束”の続きじゃない。……“今のあなた”と、向き合いたいと思ったから」
「優しさだけじゃ、足りなかった。思い出だけじゃ、苦しかった」
「だから私は、選んだの。“今”のあなたを、好きになるって」
その言葉に、なぜか涙が滲んだ。
恋は、優しさだけじゃ届かない。
過去だけじゃ、未来には進めない。
でも、“今”を抱きしめてくれる誰かがいることは、
それだけで、こんなにも心を温めてくれるのか。
俺は――いま、誰に、恋をしているんだろう。
──73日目。キスは、過去じゃなく“今”を繋ぐものだった。
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