回復魔法が不要になった最強パーティーから俺は離脱して町の治療師として世界を救う

紡識かなめ

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第2話 過去の記憶 - 最強パーティーの一員として

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夜の静けさが、ルシエルの診療所を優しく包み込んでいる。

窓の外では、虫の声が微かに聞こえるばかりだ。

今日の診療を終え、一人静かに椅子に腰掛けたルシエルは、遠い日の記憶に浸っていた。

それは、彼がまだ若く、希望に満ち溢れていた頃の物語。

最強と謳われた冒険者パーティー「暁の剣」の一員として、仲間たちと生死を共にした、かけがえのない日々──

初めてパーティーを結成したのは、今からちょうど十年ほど前のことだった。

故郷の小さな村で育った、エルド、カイン、フィアナ、ノア、リリィ。

そして、ルシエル。

互いに顔見知りの幼馴染たちが、それぞれの夢を追いかけ、冒険者としての一歩を踏み出した。

駆け出しの頃の彼らは、弱く、未熟だった。

小さな魔物にも苦戦し、しょっちゅう怪我をしては、ルシエルの回復魔法に助けられた。

特に多かったのは、猪のような牙を持つ「ボアギル」との戦いだった。

「うわああ!またやられた!」

いつも最初に突っ込んでいくカインが、ボアギルの突進を避けきれずに吹き飛ばされるのは日常茶飯事だった。

「カイン!大丈夫か!」

エルドが、巨大な盾を構えながら駆け寄る。

その間に、フィアナが正確な射撃でボアギルの動きを牽制し、ノアが炎の魔法で追い払う。

そして、最後に、ルシエルが傷ついたカインに、優しい光を降り注ぐのだ。

「ふう…助かったぜ、ルシエル」

カインは、いつもそう言って、へへっと笑った。

そんな日々の中で、ルシエルの僧侶としてのレベルは、着実に上がっていった。

怪我の治療、毒の解除、時には、呪いの緩和まで。

ありとあらゆる回復魔法を駆使する彼の存在は、パーティーにとって、なくてはならないものだった。

経験を積むにつれて、他のメンバーも、目覚ましい成長を遂げていった。

エルドの盾は、どんな攻撃にも揺るがぬ強固さを増し、カインの剣は、一振りで魔物を両断するほどの鋭さを得た。

フィアナの弓は、遠く離れた敵の急所を正確に射抜き、ノアの魔法は、広範囲を焼き尽くすほどの威力を誇るようになった。

リリィは、より強力な魔獣を使役し、戦術の幅を広げていった。

パーティー全体の戦闘能力が向上していくのは、ルシエルにとって、喜ばしいことだった。

仲間たちが強くなっていくのを見るのは、誇らしかった。

だが、その一方で、彼の心には、拭い去れない寂しさが募り始めていた。

回復魔法の出番が、明らかに減っていったのだ。

以前は、毎日のように誰かが傷つき、彼の魔法を必要としていた。

しかし、最近では、軽い擦り傷程度ならば、市販の初級ポーションで十分間に合うことがほとんどだった。

危険な魔物との戦いでも、仲間たちはほとんど無傷で勝利を収めるようになっていた。

ルシエルが、ただ後方で杖を握りしめているだけの時間が、 どんどん増えていった.

数ヶ月前──

彼らは、魔王軍の幹部である、強力な四天王の一人と遭遇した。

その魔物は、強力な炎の魔法を操り、彼らを苦しめた。

「くっ…なんて威力だ!」

ノアが、辛うじて魔法障壁を展開するが、焼け付くような熱気が容赦なく襲いかかる。

「フィアナ!援護を!」

エルドが叫び、巨大な盾で仲間たちを守る。

フィアナは、冷静に魔物の動きを予測し、的確なタイミングで矢を放つ。

カインは、炎を掻い潜り、素早い動きで魔物に肉薄し、渾身の一撃を叩き込んだ。

リリィは、炎に強い魔獣を召喚し、魔物の攻撃を食い止める。

激しい攻防が繰り広げられる中、ルシエルは、ただ後方で見守ることしかできなかった。

仲間たちは、見事な連携で魔物を追い詰め、最後は、カインの渾身の一撃が、魔物の心臓を貫いた。

四天王の一人を、彼らは、誰一人として大きな傷を負うことなく、撃破してしまったのだ。

その時、ルシエルは、自分の存在が、このパーティーにはもう必要ないのではないか、という強い不安に襲われた。

むしろ、回復魔法の詠唱に時間がかかる分、動きの遅い彼は、魔物に狙われる可能性すらあった。

実際に、何度か、詠唱中に魔物に襲われかけ、仲間に助けられたことがあった。

「すまない…また、危ないところを助けてもらって…」

彼は、その度に、申し訳なさそうに謝った。

仲間たちは、いつものように「気にするな」と言ってくれたが、ルシエルの心は、 ますます沈んでいった.

役に立てない辛さ。

かつては、誰よりも頼りにされていたはずなのに。

今では、ただの足手まとい。

その事実が、彼の心を深く蝕んでいった。

ある夜、ルシエルは、意を決して仲間たちに自分の気持ちを打ち明けた。

「みんな…実は、話があるんだ」

焚き火を囲んで夕食を取っていた仲間たちは、ルシエルの真剣な表情に、静かに耳を傾けた。

「この数ヶ月…いや、もっと前からかもしれないけど…俺は、みんなの役に立てていないんじゃないかって、ずっと感じていたんだ」

ルシエルの言葉は、重く、静かな夜の空気に吸い込まれていくようだった。

エルドは、驚いたように目を丸くした。

「そんなこと…!」

カインは、いつものように反論しようとしたが、ルシエルの悲しそうな表情を見て、言葉を飲み込んだ。

フィアナは、冷静な眼差しでルシエルを見つめる。

「ルシエル…あなたは、私たちにとって、かけがえのない仲間よ」

ノアは、珍しく言葉を選びながら言った。

「お前の回復魔法は、何度も俺たちの命を救ってくれた。それを忘れたわけじゃない」

リリィは、目に涙を浮かべ、ルシエルの手を握った。

「ルシエル…行かないで…」

仲間たちの言葉は、ルシエルの胸に温かく響いた。

彼らの優しさは、痛いほどよくわかっていた。

だが、だからこそ、彼は、これ以上、彼らの足を引っ張りたくなかった。

「ありがとう…みんなの気持ちは、本当に嬉しい。でも…俺は、自分の力で、誰かの役に立ちたいんだ。今のままでは…ただ、みんなに守られているだけで…」

ルシエルの声は、震えていた。

彼は、自分の存在意義を、見つけられずにいた。

仲間たちは、必死に彼を引き止めようとした。

それぞれの言葉で、彼の必要性を訴えた。

だが、ルシエルの決意は固かった。

「必要なら、いつでも呼んでくれ」

彼は、そう言い残して、長年共に過ごした仲間たちの元を去った。

背を向けた瞬間、彼の目から、熱い涙が溢れ出した。

だが、彼は、決して振り返らなかった。

あのメンバーなら、きっと魔王を倒すだろう。

ルシエルは、そう信じていた。

そして、自分は、自分自身の道を探そうと決意したのだ。

故郷近くの大きな都市の下町に、小さな治療院を開業したのは、それからしばらくしてのことだった。

彼は、冒険者として培ってきた、確かな知識と技術を活かし、困っている人々を助けたいと願った。

かつての仲間たちのように、華々しい活躍をすることはもうないかもしれない。

だが、彼は、この下町で、自分にしかできない方法で、誰かの役に立ちたいと強く思っていた。

夜空を見上げると、満月が優しく輝いている。

ルシエルの心には、ほんの少しの寂しさと、そして、明日への希望が、静かに灯っていた。
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