Another World

Kishiru

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第一章

出口

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コンコン……。
上も下も、右も左も、穏やかな闇が広がる。
心地よい居場所だったが、いつまでも、ここにいるわけにはいかない。
行かなければならない。
本能がそう命じ、私はゆっくりと上へと向かう。
長い時間をかけて、やっと出口に辿りついたのに。
変だ……。
普通ならば、ゆっくりと開いていくはずの出口が少しも開かない。
コンコン……。
ノックをしてみる。
コンコン……。
ノックが聴こえる。
私のノックに対して、返ってきたものではない。
だって、その音は暗い中で、無数に響いているから。
コンコン……。
コンコン……。
次第に音は大きくなっていくのに、出口は閉じたまま。
「どうしたのかしら?」
呟いたところで、帰ってくる言葉はない。
コンコン……。
ガリガリ……。
コンコン……。
ガリガリ……。
次第にノックの音ではなく、出口をこじ開けようとする音が混じりだす。
私も、ノックをしては、指先に力をいれる。
コンコン……。
ガリガリ……。
不気味なこだまが響く。
頑丈な出口が開くのが先か、私たちの命が消えるのが先か……。
ガリガリ……。
ガリガリ……。
誰が、出口を塞いだの?


山を入り崩し、コンクリートで固められた大地の下で多くのセミが眠っている。
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