SWEEP

夢野なつ

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02 烈火と黒犬

特別な異能

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 翌朝、俺は本当にすっかり機嫌を直してヘルゼルと朝飯を食っていた。目玉焼きとトースト、あとサラダ。ヘルゼルは放っておくと体に悪いものしか食べないので、こうして俺が世話してやらないとダメな気がする。
「お休みだね、どこか行く?」
「そうだな……」
 掃除屋は腕が上がるのに比例して忙しいので、ヘルゼルのような引く手あまたの人気者と組んでいると月に一度くらいしか休みが取れない。
 今日はその月一度だ。
「俺は、脚のサイバネの具合があんま良くないからメンテに行かないといけないんだ」
「えー、休みなのに?」
「こんな仕事だ、急に走れなくなったりしたら命に関わるだろ? でも一日中って訳じゃない。それが終わったら、そうだな……どこに行きたい?」
「えーとね、ケーキ屋!」
「女子かよ、まあいいけど」
 俺は少しだけきしむ右脚のサイバネを気にしながら立ち上がった。陸上選手並みのスプリンターといつも一緒にいれば、安物のパーツなどあっという間に劣化する。
「俺が居ない間に、イチゴかチョコか、それともモンブランだかなんだか考えとくんだな」
「デシレは何がいいの?」
「チーズケーキ」
 俺は甘いものが特別好きな訳じゃないが、近所のケーキ屋「シャロン」が売っているレアチーズケーキだけは優遇しているのだ。ブルーベリーソースと淡い甘みのケーキが絡み合って絶妙に旨い。
「知ってるのに聞いただろ?」
 俺はクスクス笑いながら、財布とIDカードをポケットに突っ込んで部屋を出た。

「バレル、調査は進んでるか?」
「いやー、待ってくれよ。奴さんの能力は、他に類を見ない特別なモンなんだからさ。一番分かってるだろ?」
 サイバネの調子は確かに良くないが、俺は病院などには足を運ばなかった。
 心配症の俺は、馴染みの情報屋・バレルに、ヘルゼルの異能がどういうものなのかを、ありとあらゆるルートから調べてもらっているのだ。仕組みが分からないものを武器にしていれば、いつか足元をすくわれる。
 このことをヘルゼルに秘密にしているのはーー架空の話として、俺がヘルゼルにパイロキネシスのことをあれこれ調べられたら、凄く不快な気持ちになるだろうという理屈の流れ、と言ったらお分かり頂けるだろうか。
「今までには、骨折3回、銃創5回、あとは斬られた傷が山程あるんだっけか? ほんとよく生きてるよなぁ」
「……俺はあいつを盾にしてるつもりはないんだ」
「そんなこと一言も言ってないだろー? 急に湿っぽくなってどうしたんだよ」
 昨日の喧嘩が心に尾を引いている、そんな事は分かり切っているのだが、それはバレルに伝える事じゃない。なに、些細な痴話喧嘩だ。
「超再生能力。これが遠因で、筋繊維に過度な負担をかけて縮地やら派手な攻撃をしても、体が悲鳴を上げないんだろう、というのが今回話を聞けた医者からの見解だ」
「あいつの特異体質には反動は無いのか?」
「結論を急ぐのは良くないが、今の所プラスの要素しか見つかってないな。そうカリカリしなくても、人間死ぬ時は死ぬし、お前さんのパイロキネシスだって完全に理屈が分かってる訳じゃないだろ? 調査を放棄するつもりはないが、あんまり縛られてるのは友人として不安だぜ」
 バレルの言う通りかもしれないが、ヘルゼルの死や、もっと酷い大怪我の事を想像すると憂鬱になる。
 ヘルゼルが持つ唯一無二の異能、超再生。刀で腕を切り裂かれても、銃弾で肉をえぐられても、ヘルゼルはたちまちそれを治癒させてしまう。いわく痛みは多少あるらしいが、様子を見ているとそいつは常人の感覚とは比べ物にならないほど軽いようだ。異能にも色々種類があるが、ここまでレベルが高いものは今まで聞いたことがない。
 この能力があるからこそ、ヘルゼルは果敢に廃棄物へ対し立ち向かっていけるのであり、同時に、自らの負傷を恐れる他の掃除屋からレンタルを依頼されてしまうのだ。まさに諸刃の剣だ。
 結局、今日の調査報告でも大した進展は無かったのだが、俺はきちんと一月分の報酬を支払った。いつも悪いね、とほくそ笑むバレルの顔は、罪の意識を感じているようには見えなかった。
「もう行く」
「可愛い相棒が心配か? 幸せだなぁ、待ってる人がいるっつーのは」
「ケーキも待ってるんだ、とびきり旨いのがな」
 またサイバネがきしんだ気がしたので、本当の修理の日程を決めなければいけないと頭に刻んだ。
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