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出島ライン
夜明けが来ないのは
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「……何が、起こっているのかね」
小刻みに震えながらも、せめて声色だけは仰々しくそう口にしたのは、他でもないこの国の総理大臣だ。
選ばれた一部の閣僚によって開かれた、緊急にして機密の議会。ここでは、目下大騒動になっている『常夜の沖縄事件』にどう対処するか、という異様な会議が繰り広げられている。
昨日未明――と言って良いものか。なにせ夜にまつわる事件なもので。とにかく、昨日の『朝になるはずの時間帯』から、沖縄本島を中心とする、列島の南部に位置する諸島が、突如明けぬ闇に包まれた。さらには住民たちや滞在者らは、覚めぬ眠りについているのか、それとも意識を強制的に奪われたのかはわからないが、いかなる通信手段に対しても応答しないときた。
だから、常夜。
沖縄は完全に沈黙した。
その悲劇が、あの二人が立ち去ったのちの出来事だなどと、ここにいる誰一人知るはずもないのだが――。
「これが国を揺るがす異常事態だということは誰もが承知していると思う。報道にも乗り、国民も慌てふためいている。しかし……」
総理は頭を抱えうなだれて、言葉を続けた。
「諸君に問う。これは、解決できる問題なのかね? 超常現象など――昨日までは空想の産物であり、研究者や有識者にあたる人物は、とてもではないが存在しない。それが、今、目の前に――」
「総理、落ち着いてください」
「これが落ち着いていられるものか!」
ダン! と机を叩き、総理が感情をあらわにした。それは怒り、困惑、もどかしさ――そういった負の要素がぐるぐると入り混じった、醜く哀れな感情だ。
我々は、この国を揺るがす緊急事態を前にして、指をくわえて見ていることしかできないのか?
みなが沈黙する中、一人の閣僚が手を挙げて一歩前へ出た。
「総理」
「……なんだね」
「ここは、わたくしに任せていただけませんか?」
どよめきが広がる。
彼の声に、自信のあらわれとも見えるハリが効いていたからだ。
「……君は、瀧防衛大臣、だったか……いや、防衛省には確か別の者が……」
「はい。わたくしは『特異防衛大臣』でございます。先日新設された『特異安全管理省』を任されている者です」
総理は首を傾げそうになった。省の新設など、そんな大事があったならば、かなりの印象に残りそうなものだ。だが実際は、そんな事実も、瀧という男の存在も、まったくと言っていいほど記憶にない。
いや、待てよ。
ならばなぜ、自分は今『瀧』の名を迷わず口にした?
重大な疑問を解決する暇も与えられず、総理は瀧の言葉を聞き入れることしかできない。
「我が『管理省』には、今回のような事態に備えて鍛え上げられた精鋭部隊が揃っております。正確には、四年ほど前から『補導』してきた特殊な若者たちを訓練した部隊を、特異安全管理省の傘下に編成した、というべきでしょうか」
「おい、少し待たないか」
一方的にまくしたてる瀧に対し、法務大臣が首を突っ込んできた。
「もしかしなくとも、それは私兵ではないのか? 貴様、国務に携わる裏で一体何を企んでいる?」
「この国の繁栄と安全のための努力です」
「そんな言いくるめが通用するものか! 総理、このような違法行為を以って問題を解決しようなどと、言語道断です!」
総理はしばし黙っていた。そして、絞り出すような声で、法務大臣に言いつける。
「ほかに誰が解決できるのかね……?」
――誰も、返事ができなかった。
もしかしたら瀧は微笑んでいたかもしれない。この緊急事態において、彼は一人したり顔を隠している。
「それでは、私に一任していただけるということでよろしいでしょうか?」
「ああ……」
「総理!」
「ご心配されずとも、動きがあり次第逐次報告いたしますので。それでは、これは急ぎの案件ですから、わたくしはこれで失礼いたします」
そう言い残して議事堂を離れていく瀧大臣。周りも、何も言うことができない。
『こいつ』が何をするつもりかはわからないが、少なくとも自分たちよりはこの問題に対し有能に立ち働くだろう。
それが国のためになるなら、この異常事態をなんとかしてくれるというのなら――。
屈辱的な肯定。そう称するのがふさわしい。
議事堂を後にした瀧は、中空を見上げそっと呟いた。
「『神子』のみなさん、出番が来ましたよ」
小刻みに震えながらも、せめて声色だけは仰々しくそう口にしたのは、他でもないこの国の総理大臣だ。
選ばれた一部の閣僚によって開かれた、緊急にして機密の議会。ここでは、目下大騒動になっている『常夜の沖縄事件』にどう対処するか、という異様な会議が繰り広げられている。
昨日未明――と言って良いものか。なにせ夜にまつわる事件なもので。とにかく、昨日の『朝になるはずの時間帯』から、沖縄本島を中心とする、列島の南部に位置する諸島が、突如明けぬ闇に包まれた。さらには住民たちや滞在者らは、覚めぬ眠りについているのか、それとも意識を強制的に奪われたのかはわからないが、いかなる通信手段に対しても応答しないときた。
だから、常夜。
沖縄は完全に沈黙した。
その悲劇が、あの二人が立ち去ったのちの出来事だなどと、ここにいる誰一人知るはずもないのだが――。
「これが国を揺るがす異常事態だということは誰もが承知していると思う。報道にも乗り、国民も慌てふためいている。しかし……」
総理は頭を抱えうなだれて、言葉を続けた。
「諸君に問う。これは、解決できる問題なのかね? 超常現象など――昨日までは空想の産物であり、研究者や有識者にあたる人物は、とてもではないが存在しない。それが、今、目の前に――」
「総理、落ち着いてください」
「これが落ち着いていられるものか!」
ダン! と机を叩き、総理が感情をあらわにした。それは怒り、困惑、もどかしさ――そういった負の要素がぐるぐると入り混じった、醜く哀れな感情だ。
我々は、この国を揺るがす緊急事態を前にして、指をくわえて見ていることしかできないのか?
みなが沈黙する中、一人の閣僚が手を挙げて一歩前へ出た。
「総理」
「……なんだね」
「ここは、わたくしに任せていただけませんか?」
どよめきが広がる。
彼の声に、自信のあらわれとも見えるハリが効いていたからだ。
「……君は、瀧防衛大臣、だったか……いや、防衛省には確か別の者が……」
「はい。わたくしは『特異防衛大臣』でございます。先日新設された『特異安全管理省』を任されている者です」
総理は首を傾げそうになった。省の新設など、そんな大事があったならば、かなりの印象に残りそうなものだ。だが実際は、そんな事実も、瀧という男の存在も、まったくと言っていいほど記憶にない。
いや、待てよ。
ならばなぜ、自分は今『瀧』の名を迷わず口にした?
重大な疑問を解決する暇も与えられず、総理は瀧の言葉を聞き入れることしかできない。
「我が『管理省』には、今回のような事態に備えて鍛え上げられた精鋭部隊が揃っております。正確には、四年ほど前から『補導』してきた特殊な若者たちを訓練した部隊を、特異安全管理省の傘下に編成した、というべきでしょうか」
「おい、少し待たないか」
一方的にまくしたてる瀧に対し、法務大臣が首を突っ込んできた。
「もしかしなくとも、それは私兵ではないのか? 貴様、国務に携わる裏で一体何を企んでいる?」
「この国の繁栄と安全のための努力です」
「そんな言いくるめが通用するものか! 総理、このような違法行為を以って問題を解決しようなどと、言語道断です!」
総理はしばし黙っていた。そして、絞り出すような声で、法務大臣に言いつける。
「ほかに誰が解決できるのかね……?」
――誰も、返事ができなかった。
もしかしたら瀧は微笑んでいたかもしれない。この緊急事態において、彼は一人したり顔を隠している。
「それでは、私に一任していただけるということでよろしいでしょうか?」
「ああ……」
「総理!」
「ご心配されずとも、動きがあり次第逐次報告いたしますので。それでは、これは急ぎの案件ですから、わたくしはこれで失礼いたします」
そう言い残して議事堂を離れていく瀧大臣。周りも、何も言うことができない。
『こいつ』が何をするつもりかはわからないが、少なくとも自分たちよりはこの問題に対し有能に立ち働くだろう。
それが国のためになるなら、この異常事態をなんとかしてくれるというのなら――。
屈辱的な肯定。そう称するのがふさわしい。
議事堂を後にした瀧は、中空を見上げそっと呟いた。
「『神子』のみなさん、出番が来ましたよ」
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