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出島ライン
開幕
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「鐘ヶ江嵐さん?」
「んあ?」
結局基地にも帰らずベンチで呆けていた鐘ヶ江に声をかけたのは、何を隠そう千里だった。
狭い道を挟んだ反対側の歩道に立ち、ニコニコと笑みを浮かべて鐘ヶ江のほうを見ている。
「もう一度訊くわ。鐘ヶ江さんでよかったかしら」
「俺に何の用だよ」
「私があなたの探し人。そしてあなたを殺す者。イザナミ、詩人、そういう名前で呼ばれる災厄。よろしくね」
はーあ、と鐘ヶ江は深々ため息をつく。
「噂に聞いてはいたがあんたはつくづくポエムが好きなんだな」
「ありがとう」
「褒めてねぇよ。で? どういうわけでたったひとりで俺の前に姿を現したって?」
千里の笑みが若干邪悪なものになった。
「あなたがこの出島ラインで一番弱いって聞いたから」
瞬間的に激昂して飛ぶように立ち上がった鐘ヶ江。だが、不意にかさを増した雑踏が邪魔をして距離をつめることができない。
「てめえ、馬鹿にしてると殺すぞ」
「それができるのなら、どうぞ。私はあなたにそういう力をあげていないはずだけど」
これ以上上がるはずもなかった鐘ヶ江のボルテージが着々と限界点を突破していく。
限定的に機能を与えられている『遍在』を起動し、空間から認識されぬよう自分を世界から遮断する。腕をシャッと振り上げると、両手の袖口から折りたたみ式の黒いトンファーが一本ずつ滑り出てきた。
「異能なんてなくても、人は人を殺せるんだよ」
「その通りだね」
脇腹に走る鋭い痛み、熱。
血が流れる、誰も気づかない。
騒ぎの理由は通りの向こうで華やぐステージだ。
「油断禁物だよ、お姉さん」
背後の物陰からこっそりやってきた幾兎が、鐘ヶ江にナイフを突き刺している。
「スサノオ……か。隠れてんのは、卑怯……だが」
鐘ヶ江はニヤッと笑って、幾兎を突き飛ばす。その後すぐ、傷口に手をかざした。するとどうだろう、鮮血でまみれていた傷がみるみるうちに塞がっていき、跡に残ったのは切り裂かれ、赤く濡れたシャツだけになった。
「そうだな。俺は力なんてこれくらいしかもらってない。弱いやつから潰しに来たんだろ? だが見込み違いだったんじゃねえか、なあ?」
ギャハハと心底おかしいらしい高笑いを上げて、鐘ヶ江が動き出す。
「俺は強いほうから狙うぜ!」
近くにいた幾兎に大きく一歩踏み出し、脳天を狙って左のトンファーを振り下ろす。
回避の動作に合わせて、今度は右の得物を逆手から振り上げ、アゴを狙う。幾兎が背後に回ってきそうなのを感じて、肘打ちを入れる。入った。重い音を立てて、幾兎の腹に一撃がジャストヒットした。
「いったー」
だが、幾兎は大して気にかけてもいない反応で、握ったナイフを取り落とす様子もない。今にも鐘ヶ江の首筋を切り裂かんとする構え。
(一旦距離を置くか)
そう判断した時、どくん、と心臓が妙な脈を打つのを感じた。
はっきりと、異常な脈が。
その鼓動はリズムを崩したままどんどんスピードを増していく。
「毒は効いたかしら」
「は……?」
気づいたときにはもう遅く、刺されたときからもう終わり。
「何か勘違いしていたみたいだけれど。私はね。あなたにあげちゃった力が一番厄介だから、あなたを狙い撃ちに来たのよ。ひとりでいてくれてよかったわ」
「他の異能者を治療されてたら、こっちだってジリ貧だからね」
「糞が……」
兄貴、五雨、逃げてくれ。薄れゆく意識の中で、鐘ヶ江は心の底からそう祈っていた。
管理省なんてどうだっていいから。九州なんて沈んでいいから。
お前らは、逃げろよ。
傷を治す役目の俺が馬鹿やって沈んじまったから、どこまでも逃げてくれ……。
無表情な幾兎に頸動脈を弾き飛ばされた鐘ヶ江はそこでくたばり、バトンタッチとばかりに銀色の弾丸がビルの上から、凄まじい勢いで千里の眉間を目指して、滑るように飛んでいく。
「んあ?」
結局基地にも帰らずベンチで呆けていた鐘ヶ江に声をかけたのは、何を隠そう千里だった。
狭い道を挟んだ反対側の歩道に立ち、ニコニコと笑みを浮かべて鐘ヶ江のほうを見ている。
「もう一度訊くわ。鐘ヶ江さんでよかったかしら」
「俺に何の用だよ」
「私があなたの探し人。そしてあなたを殺す者。イザナミ、詩人、そういう名前で呼ばれる災厄。よろしくね」
はーあ、と鐘ヶ江は深々ため息をつく。
「噂に聞いてはいたがあんたはつくづくポエムが好きなんだな」
「ありがとう」
「褒めてねぇよ。で? どういうわけでたったひとりで俺の前に姿を現したって?」
千里の笑みが若干邪悪なものになった。
「あなたがこの出島ラインで一番弱いって聞いたから」
瞬間的に激昂して飛ぶように立ち上がった鐘ヶ江。だが、不意にかさを増した雑踏が邪魔をして距離をつめることができない。
「てめえ、馬鹿にしてると殺すぞ」
「それができるのなら、どうぞ。私はあなたにそういう力をあげていないはずだけど」
これ以上上がるはずもなかった鐘ヶ江のボルテージが着々と限界点を突破していく。
限定的に機能を与えられている『遍在』を起動し、空間から認識されぬよう自分を世界から遮断する。腕をシャッと振り上げると、両手の袖口から折りたたみ式の黒いトンファーが一本ずつ滑り出てきた。
「異能なんてなくても、人は人を殺せるんだよ」
「その通りだね」
脇腹に走る鋭い痛み、熱。
血が流れる、誰も気づかない。
騒ぎの理由は通りの向こうで華やぐステージだ。
「油断禁物だよ、お姉さん」
背後の物陰からこっそりやってきた幾兎が、鐘ヶ江にナイフを突き刺している。
「スサノオ……か。隠れてんのは、卑怯……だが」
鐘ヶ江はニヤッと笑って、幾兎を突き飛ばす。その後すぐ、傷口に手をかざした。するとどうだろう、鮮血でまみれていた傷がみるみるうちに塞がっていき、跡に残ったのは切り裂かれ、赤く濡れたシャツだけになった。
「そうだな。俺は力なんてこれくらいしかもらってない。弱いやつから潰しに来たんだろ? だが見込み違いだったんじゃねえか、なあ?」
ギャハハと心底おかしいらしい高笑いを上げて、鐘ヶ江が動き出す。
「俺は強いほうから狙うぜ!」
近くにいた幾兎に大きく一歩踏み出し、脳天を狙って左のトンファーを振り下ろす。
回避の動作に合わせて、今度は右の得物を逆手から振り上げ、アゴを狙う。幾兎が背後に回ってきそうなのを感じて、肘打ちを入れる。入った。重い音を立てて、幾兎の腹に一撃がジャストヒットした。
「いったー」
だが、幾兎は大して気にかけてもいない反応で、握ったナイフを取り落とす様子もない。今にも鐘ヶ江の首筋を切り裂かんとする構え。
(一旦距離を置くか)
そう判断した時、どくん、と心臓が妙な脈を打つのを感じた。
はっきりと、異常な脈が。
その鼓動はリズムを崩したままどんどんスピードを増していく。
「毒は効いたかしら」
「は……?」
気づいたときにはもう遅く、刺されたときからもう終わり。
「何か勘違いしていたみたいだけれど。私はね。あなたにあげちゃった力が一番厄介だから、あなたを狙い撃ちに来たのよ。ひとりでいてくれてよかったわ」
「他の異能者を治療されてたら、こっちだってジリ貧だからね」
「糞が……」
兄貴、五雨、逃げてくれ。薄れゆく意識の中で、鐘ヶ江は心の底からそう祈っていた。
管理省なんてどうだっていいから。九州なんて沈んでいいから。
お前らは、逃げろよ。
傷を治す役目の俺が馬鹿やって沈んじまったから、どこまでも逃げてくれ……。
無表情な幾兎に頸動脈を弾き飛ばされた鐘ヶ江はそこでくたばり、バトンタッチとばかりに銀色の弾丸がビルの上から、凄まじい勢いで千里の眉間を目指して、滑るように飛んでいく。
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