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出島ライン
死闘・前
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間に合わなかった
間に合わなかった
間に合わなかった!
逸りと絶望が祠堂を突き動かしていた。ビルの屋上で腹ばいになり、スナイパーライフル銃口を千里に向けている。武器を構える手元だけ冷静で、心臓と脳髄はもうめちゃくちゃだ。
自分たちがあと一歩早ければ、鐘ヶ江は死なずに済んでいたかもしれない。
なのに、なのに!
俺は何をしていたんだ!
腑抜けた発言をしなければ、そもそもあいつは基地を飛び出していったりしなかったはずなのに!
リーダーとしての完全なる失態が、仲間をひとり殺してしまった。それが虚しくて悔しくて耐えられない。
だが今は感傷に浸る時間ではない。イザナミと、スサノオを確実に仕留める。それが任務であると同時に、鐘ヶ江へ捧ぐ追悼なのだ。
弾丸は確実に千里に届くはずだった。だが、鋭い殺意を察したのか、突然一斉に飛び上がったカラスの群れが射線に差し掛かり、群れのうちの一匹を仕留めるだけという羽目になってしまう。
落ちていくカラスに気づいた幾兎が、ニヤッと笑って祠堂がいるビルのあたりを指差す。
「そこに、誰かいるね」
それと同時に千里が物陰に隠れる。幾兎の不敵な宣言が聞こえたわけではないが、祠堂はまずい、と思った。スナイパーにとって居場所が割れるのは致命的だ。不運なアクシデントで仕留め損なったのは、出島ラインに訪れた第二の不幸といえるかもしれない。第一の不幸はもちろん鐘ヶ江の死だ。
「じゃあ、幾兎くん、そっちへ行きましょうか」
「――させないよ!」
通りの影から駆け出して、千里と幾兎の前に立ちふさがる五雨。これで立ち位置的には、行く手を塞ぐ五雨と、ビルの上にいる祠堂が、高低差こそあるものの、ターゲットである千里たちを挟み撃ちしている形になった。
「よくも、嵐ちゃんを……許さないから……!」
「あなたは……そうね、ごめんなさい。許してもらおうなんて思わないわ」
「謝るつもりなんてないくせに」
それはそれは聞くに堪えない涙声で、だが一本通った芯は折れていない。
五雨は胸ポケットから赤いヘアピンを取り出した。
それを思い切り――こめかみへ突き刺す。
正確には、人体改造で右耳の上辺りに形成された細長いソケットに、ヘアピン型の異能制御機器をセットしたのだ。
「う、う……」
大人しく、か弱い乙女としか表現できなかったはずの五雨。
その五雨が、変わる。
「うがあああああっ!」
瞳は赤に、爪は長く鋭く、細かった腕や脚は獣のようにごつごつとしたものに豹変する。
あのヘアピンは、異能『暴走』機器と表現したほうが正しかったかもしれない。
「うわっ、何これ!」
あまりの変貌ぶりにたじろぐ幾兎だったが、ナイフを構える仕草にスキはない。カフェのひさしの下に引っ込んだ千里も、悲しそうな目で注意深く五雨を観察している。
「音をよく聞きなさい、もちろん銃声もね」
優しいお姉さんから冷静な司令官へこちらも切り替わっていく。
千里の指摘通り、祠堂が二発目、三発目の弾丸を放ち、通りの真ん中に立つ幾兎だけを正確に狙いすまして攻撃してくる。何も見えていない通行人には、はねっ返る土埃ひとつかすらない。
一方の幾兎もぴょんぴょんと飛び回って弾撃をかわす。見えているのか、聞こえているのか、感じているのか。あるいはそのすべてなのか。着ているシャツを破く程度にしか攻撃は当たらない。
突進してくる五雨。弾幕の網を巡らすスパイダーと、剛力でねじ伏せようとしてくるモンスターが、親である神子を追い詰めようと必死に、全力で、運命に抗う。
それはまさしく、血が沸騰するような鼓動に支えられた死闘だった。
間に合わなかった
間に合わなかった!
逸りと絶望が祠堂を突き動かしていた。ビルの屋上で腹ばいになり、スナイパーライフル銃口を千里に向けている。武器を構える手元だけ冷静で、心臓と脳髄はもうめちゃくちゃだ。
自分たちがあと一歩早ければ、鐘ヶ江は死なずに済んでいたかもしれない。
なのに、なのに!
俺は何をしていたんだ!
腑抜けた発言をしなければ、そもそもあいつは基地を飛び出していったりしなかったはずなのに!
リーダーとしての完全なる失態が、仲間をひとり殺してしまった。それが虚しくて悔しくて耐えられない。
だが今は感傷に浸る時間ではない。イザナミと、スサノオを確実に仕留める。それが任務であると同時に、鐘ヶ江へ捧ぐ追悼なのだ。
弾丸は確実に千里に届くはずだった。だが、鋭い殺意を察したのか、突然一斉に飛び上がったカラスの群れが射線に差し掛かり、群れのうちの一匹を仕留めるだけという羽目になってしまう。
落ちていくカラスに気づいた幾兎が、ニヤッと笑って祠堂がいるビルのあたりを指差す。
「そこに、誰かいるね」
それと同時に千里が物陰に隠れる。幾兎の不敵な宣言が聞こえたわけではないが、祠堂はまずい、と思った。スナイパーにとって居場所が割れるのは致命的だ。不運なアクシデントで仕留め損なったのは、出島ラインに訪れた第二の不幸といえるかもしれない。第一の不幸はもちろん鐘ヶ江の死だ。
「じゃあ、幾兎くん、そっちへ行きましょうか」
「――させないよ!」
通りの影から駆け出して、千里と幾兎の前に立ちふさがる五雨。これで立ち位置的には、行く手を塞ぐ五雨と、ビルの上にいる祠堂が、高低差こそあるものの、ターゲットである千里たちを挟み撃ちしている形になった。
「よくも、嵐ちゃんを……許さないから……!」
「あなたは……そうね、ごめんなさい。許してもらおうなんて思わないわ」
「謝るつもりなんてないくせに」
それはそれは聞くに堪えない涙声で、だが一本通った芯は折れていない。
五雨は胸ポケットから赤いヘアピンを取り出した。
それを思い切り――こめかみへ突き刺す。
正確には、人体改造で右耳の上辺りに形成された細長いソケットに、ヘアピン型の異能制御機器をセットしたのだ。
「う、う……」
大人しく、か弱い乙女としか表現できなかったはずの五雨。
その五雨が、変わる。
「うがあああああっ!」
瞳は赤に、爪は長く鋭く、細かった腕や脚は獣のようにごつごつとしたものに豹変する。
あのヘアピンは、異能『暴走』機器と表現したほうが正しかったかもしれない。
「うわっ、何これ!」
あまりの変貌ぶりにたじろぐ幾兎だったが、ナイフを構える仕草にスキはない。カフェのひさしの下に引っ込んだ千里も、悲しそうな目で注意深く五雨を観察している。
「音をよく聞きなさい、もちろん銃声もね」
優しいお姉さんから冷静な司令官へこちらも切り替わっていく。
千里の指摘通り、祠堂が二発目、三発目の弾丸を放ち、通りの真ん中に立つ幾兎だけを正確に狙いすまして攻撃してくる。何も見えていない通行人には、はねっ返る土埃ひとつかすらない。
一方の幾兎もぴょんぴょんと飛び回って弾撃をかわす。見えているのか、聞こえているのか、感じているのか。あるいはそのすべてなのか。着ているシャツを破く程度にしか攻撃は当たらない。
突進してくる五雨。弾幕の網を巡らすスパイダーと、剛力でねじ伏せようとしてくるモンスターが、親である神子を追い詰めようと必死に、全力で、運命に抗う。
それはまさしく、血が沸騰するような鼓動に支えられた死闘だった。
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