神子創造逸文外典

夢野なつ

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出島ライン

死闘・中

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 「こんなとこで死んでられないんでねっ!」
 幾兎が口にするのは、もう言葉の通じない獣と、声の届かないほど遠くへいる狙撃手へ贈る挑発。聞こえてほしいんじゃないんだ、自分を奮い立たせる必要がある。
 直線的な攻撃が多い五雨をあしらいつつも、長期戦になれば体力が尽きるのはわかりきったこと。人間と動物なら動物のほうが持久力に勝るのは自明の理だ。おまけに支援射撃が絶え間なく飛んできている。どちらかを仕留めなければ。
「んー、じゃあ鬱陶しい方から行こうか」
 バク宙の動作で五雨を避けるのかと思いきや、そのまま何メートルも、空高く高く飛んでいく。目指すは――祠堂のいるビルの屋上。
 分の悪い近距離戦を避けつつ、スナイパーに接近するという一石二鳥の作戦だが、通常の身体能力で為せる技ではない。もちろん、例に漏れず幾兎も改造を受けている。四肢のバネと五感の鋭敏さを、生活に支障が出ないギリギリの範囲まで強化した、そのさまはまさに『兎』。
「うー、ううー」
 逃げるな、と言いたげな五雨の前には、沼斑から預かったピストルを携えた千里が立ちはだかる。力の差もあるので時間稼ぎくらいしかできない彼女だ、が。
「嘘だろ」
 ただ今絶賛危機に瀕しているのは、超接近された狙撃手の祠堂だ。取り回しの悪いスナイパーライフルを放り捨て、幾兎の着地と同時に跳ね上がり二丁拳銃を構える。
「お兄さん、遅いね」
 にっこり笑う幾兎の手には鋭いナイフ。一瞬でもスキを見せれば、飛びかかってきて首筋を刈られるだろう。
「はは……てめーがおかしいんだろ」
 自らの死期をある程度察しつつも祠堂はあがく。
『心撃ち抜く 冷たいまなこ 煌めく弾丸 死を運ぶ』
 いつかの寒い冬の日に詠まれた、祠堂に捧げられた詩。詩としての美しさは求められず、純粋に異能者を生むためだけに作らされた、無機質な詩。
 精神力を犠牲に殺傷力の高い銃撃を放つことができる、それが祠堂の異能だ。だが、仲間を討たれ、窮地に立たされ、エネルギーとなるはずの精神力はもう枯渇しそうである。
 最後の一矢とばかりに両手の拳銃を撃ったが、幾兎からすれば、見え見えの攻撃をかわすことなぞ簡単にも程がある。あんな遠くからの銃撃すらかわしていたというのに。
 んなこたぁわかってんだよ馬鹿野郎。
 縮地の勢いで目の前に飛んできた幾兎が、ナイフとは思えない切れ味の得物を振り上げる。その一撃は、祠堂の右腕を斬り落とした。
「殺さないであげるよ、なんかかわいそうだから」
 激痛に顔を歪め崩れ落ちる祠堂。死んだ鐘ヶ江を悼む余裕も、残された五雨を思う気持ちも今は抱くことができない。幾兎はビルを飛び降りていってしまった。
 地べたには理性を忘れた獣が一匹。
 勝てるとお思いで?
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