神子創造逸文外典

夢野なつ

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出島ライン

死闘・後

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 もう出し惜しみする必要もない、見られて困る相手もいない。
 そうだ、幾兎はこれまで一度たりとも、『異能』を発揮することなく出島ラインの面々を殺してきた。
 理性なき殺戮マシーンと化した五雨を屠るのにも、強化された身体能力だけで事足りるような気もしたが、少し、遊びたくなってきた。
 ビルの屋上から流れ星のように降ってきた幾兎。瞬時に飛びかかってくる五雨の顎を、薄い鉄板入りのスニーカーで蹴り上げた。が、びくともしない。
「少し、静かになったわ。上の子は倒してきたのね」
 そうやって声をかける千里は余裕の表情。もうこの防衛ラインにはなりふり構わぬ獣が一匹残っているにすぎない。幾兎の力があれば、完全な勝ち戦になるのは見えていた。
「千里さん、力を使ってもいいですか?」
「そうね……好きになさい」
「へへっ」
 敵前で目を瞑る。だが見えている。一挙一動が自分の動きであるかのように、見て取れる。
『明けの日差しが 眩しい貴方』
 踊るようなステップで五雨の攻撃をかわしながら、自らに捧げられた詩を唱える。それは誇り。それは愉悦。
『灯るだいだい 手に浴びて』
 そしてそれはくさび。少年を異能という重いかせで縛る、ほどけることのない鎖。
 闇を操る千里とは対象的に、幾兎は光を意のままに使いこなす。
 だから見えるのだ。目を瞑っていようと、五雨の向かってくる方向も、攻撃手段も、何もかも。景色とは光の反射にすぎない。
 幾兎はナイフを捨て、素手であるにも関わらず正眼の構えを取る。それを見て千里はサングラスをかけた。
 瞬間、彼の手元につかが現出し、光の刃がスッと一筋伸びてそこに太刀が生まれる。
「いくよ」
 まばゆい光の剣に目をくらまされた五雨。理性が残っていれば、あるいは対処法を見出しただろう。祠堂が動ける状態ならば、援護射撃で動くチャンスを見つけられたかもしれない。そして鐘ヶ江が生きていれば、すぐさま祠堂の負傷をリカバリーし戦線を維持したに違いない。
 今は、そのどれもが望めない。
 飛びかかっているようにすら見える大振りな一撃は、白っぽい光の残像を作りながら空間を引き裂く。
 五雨は脳天に光の斬撃をもろに喰らい、言葉にならない雄叫びを上げて倒れ伏した。衝撃でヘアピン型の制御機器が弾け飛び、五雨はもとのか弱い娘に戻っていく。
 それは、肉体に受けた傷や痛みを、思い出すということにほかならない。
 さっきまでは獣化の強靭さでどうにか耐えられていた、剣の一撃によるダメージ。それが、理性を食い尽くさんほどに身体中を跳ね回り、五雨を狂わせていく。

 ――痛い痛い痛い痛い苦しい苦しい痛い痛い苦しい助けて誰か助けてよ――

 悲鳴をあげる気力すらなく、地に伏して動かなくなった彼女を、憐れむような視線で千里は見ていた。
 だがそれも長くない。
「行きましょうか。沼斑さんたちも待っているし、まだまだ先は長いのだから」
 ふたりは無慈悲に立ち去っていき、こうして出島ラインは陥落した。
 それは、九州地方の終焉を意味する。

 逆向きに回りだす運命の歯車は、順調に世界を乱してゆく――。
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