4 / 6
零れ落ちる花吹雪
しおりを挟む
【零れ落ちる花吹雪】
難なくすんなりしなやかに、などとは言い過ぎが酷いが、俺は精一杯の告白をしたつもりだ。
クラスで誰よりも恋慕の情をその身に受けている白塚さんが、どれくらい俺の気持ちを受け止めてくれるのかはわからない。だが、見渡す限りの花畑と、降り注ぎそうな枝垂れ桜に囲まれての告白がロマンチックでなければ、冴えない俺は一体どんなロケーションで愛の言葉を伝えれば勝ち目を見れるというのか。
とにかく俺は言った。好きです、付き合ってください、と。
俺がそう言うと、白塚さんははにかんでうつむき、どう答えたものかわからないといった様子だった。まあ――クラスが一緒なだけで大した交流もない陰気な男子から突然告白されれたときの反応にしては、最高峰のものなのかもしれない。そもそも呼び出しに応えてもらえただけでも歓喜したほどだ。
風が吹いた。俺たちの間を遮る桜が揺れる。背後に広がる菜の花がさざめく。まるで寄せては返す波のように。
この時間が一生続いたほうが、よっぽど幸せなのかもしれない。返事を待つ間、ふとそう思った。
きっと断られる。よろしくお願いします、なんて言われる未来など見えない。だったら、モラトリアムとも言えるこの瞬間を一生噛み締めていられるよう、奇跡でも起こって時が止まれば、俺は世界で一番幸せな人間になれるのではないだろうか。そんなバカバカしいことを考えてしまうのも、春の陽気が為せる技、だということにさせてくれ。
しかし刻は動く。俺の思うほど残酷ではなかったが。
「……瑛汰くん」
俺は息を呑む。
下の名前を覚えてくれていたなんて。
「……はい」
「ありがとう。とっても、嬉しいよ」
まだ返事を聞いても居ないのに泣き出してしまいそうだ。俺が、でもあるし、白塚さんも、なんだか儚げな表情をしている。いつもの咲き乱れる花のような笑顔はどこへ行ってしまったんだ。
「だけど……」
「やっぱり、ダメですよね」
「そうじゃなくて!」
とっさに大声を出す白塚さんだが、顔色は浮かないまま。
俺が陰らせてしまったのか?
変なことを言ったせいで?
告白など、身の程知らずで無粋な行為であり、玉石を傷つける罪でしかなかったのか?
「どうして……私なの?」
「え……?」
「私なんかと付き合ったら、辛い目に遭うよ? 委員長の玉木さんからも、その取り巻きの人達からも、勿論先生からも……色々意地悪されて、学校、来れなくなっちゃうかもしれない。だから……」
俺はしばらく言葉を失った。
言葉から察するに――俺たち脳天気な男子が知らないところで、白塚さんはいじめを受けていたのだ。
「そんな……」
「瑛汰くんは傷ついちゃダメだよ。こんな、無駄に」
「無駄なことなんて……ないですよ」
意識せぬまま、そんな言葉が口から出ていた。
それは決意の証か、はたまた愛されたいがゆえのでまかせか。
「それで、ずっと他の人からの告白を断っていた……とかですか?」
「……うん」
「みんな、それで引き下がったんですか?」
「……そう、だね」
「俺はそんなに中途半端なつもりでここに立ってません」
涙を隠そうとうつむいていた白塚さんが顔を挙げた。
その時また風が吹く。それはさっきより少し強くて、爽やかな香りとともに薄紅と黄色の花びらがあたりに舞い上がる。
「一緒に戦いましょうよ。そいつらと」
「本当に言ってる、って信じても……いいのかな」
「玉木はどうせ俺のこと舐めてますし、あんないい加減な担任だって俺はアテにしてません。何も変わらない。いや、白塚さんが横に居てくれるのなら、むしろ強くなる。だから」
「絵里」
心臓が跳ねる。
白塚さんの、涙声に近い一言に。
「絵里って呼んで。あざけりでも、棘でもない優しい声で、そう呼んでくれる人が欲しい」
「……絵里。絵里が隣に居るなら、俺はどんなやつだって跳ね除けるよう戦うよ。背伸びかもしれない。負けるかもしれない。だけど……それでも、最後まで俺は絵里の隣に居たい」
いつの間にか、ふたつの勇気が心に芽生えていた。不条理な攻撃と戦う勇気と、白塚さん――いや、絵里と対等になって見つめ合う勇気。
あたかも、ここに咲く桜と菜の花が互いに奏で合って絶景を成すように、その『勇気』は輝きを放つ。
ちょっと自分を美化しすぎているんだろうが――絵里の隣で彼女を守り続けるには、これくらい胸を張っていないと足りないというものだろう。
とりあえず、絵里が今は微笑んでいる。それが及第点。
目尻に雫は残っているが、いつかそれすらも拭えるように……。
難なくすんなりしなやかに、などとは言い過ぎが酷いが、俺は精一杯の告白をしたつもりだ。
クラスで誰よりも恋慕の情をその身に受けている白塚さんが、どれくらい俺の気持ちを受け止めてくれるのかはわからない。だが、見渡す限りの花畑と、降り注ぎそうな枝垂れ桜に囲まれての告白がロマンチックでなければ、冴えない俺は一体どんなロケーションで愛の言葉を伝えれば勝ち目を見れるというのか。
とにかく俺は言った。好きです、付き合ってください、と。
俺がそう言うと、白塚さんははにかんでうつむき、どう答えたものかわからないといった様子だった。まあ――クラスが一緒なだけで大した交流もない陰気な男子から突然告白されれたときの反応にしては、最高峰のものなのかもしれない。そもそも呼び出しに応えてもらえただけでも歓喜したほどだ。
風が吹いた。俺たちの間を遮る桜が揺れる。背後に広がる菜の花がさざめく。まるで寄せては返す波のように。
この時間が一生続いたほうが、よっぽど幸せなのかもしれない。返事を待つ間、ふとそう思った。
きっと断られる。よろしくお願いします、なんて言われる未来など見えない。だったら、モラトリアムとも言えるこの瞬間を一生噛み締めていられるよう、奇跡でも起こって時が止まれば、俺は世界で一番幸せな人間になれるのではないだろうか。そんなバカバカしいことを考えてしまうのも、春の陽気が為せる技、だということにさせてくれ。
しかし刻は動く。俺の思うほど残酷ではなかったが。
「……瑛汰くん」
俺は息を呑む。
下の名前を覚えてくれていたなんて。
「……はい」
「ありがとう。とっても、嬉しいよ」
まだ返事を聞いても居ないのに泣き出してしまいそうだ。俺が、でもあるし、白塚さんも、なんだか儚げな表情をしている。いつもの咲き乱れる花のような笑顔はどこへ行ってしまったんだ。
「だけど……」
「やっぱり、ダメですよね」
「そうじゃなくて!」
とっさに大声を出す白塚さんだが、顔色は浮かないまま。
俺が陰らせてしまったのか?
変なことを言ったせいで?
告白など、身の程知らずで無粋な行為であり、玉石を傷つける罪でしかなかったのか?
「どうして……私なの?」
「え……?」
「私なんかと付き合ったら、辛い目に遭うよ? 委員長の玉木さんからも、その取り巻きの人達からも、勿論先生からも……色々意地悪されて、学校、来れなくなっちゃうかもしれない。だから……」
俺はしばらく言葉を失った。
言葉から察するに――俺たち脳天気な男子が知らないところで、白塚さんはいじめを受けていたのだ。
「そんな……」
「瑛汰くんは傷ついちゃダメだよ。こんな、無駄に」
「無駄なことなんて……ないですよ」
意識せぬまま、そんな言葉が口から出ていた。
それは決意の証か、はたまた愛されたいがゆえのでまかせか。
「それで、ずっと他の人からの告白を断っていた……とかですか?」
「……うん」
「みんな、それで引き下がったんですか?」
「……そう、だね」
「俺はそんなに中途半端なつもりでここに立ってません」
涙を隠そうとうつむいていた白塚さんが顔を挙げた。
その時また風が吹く。それはさっきより少し強くて、爽やかな香りとともに薄紅と黄色の花びらがあたりに舞い上がる。
「一緒に戦いましょうよ。そいつらと」
「本当に言ってる、って信じても……いいのかな」
「玉木はどうせ俺のこと舐めてますし、あんないい加減な担任だって俺はアテにしてません。何も変わらない。いや、白塚さんが横に居てくれるのなら、むしろ強くなる。だから」
「絵里」
心臓が跳ねる。
白塚さんの、涙声に近い一言に。
「絵里って呼んで。あざけりでも、棘でもない優しい声で、そう呼んでくれる人が欲しい」
「……絵里。絵里が隣に居るなら、俺はどんなやつだって跳ね除けるよう戦うよ。背伸びかもしれない。負けるかもしれない。だけど……それでも、最後まで俺は絵里の隣に居たい」
いつの間にか、ふたつの勇気が心に芽生えていた。不条理な攻撃と戦う勇気と、白塚さん――いや、絵里と対等になって見つめ合う勇気。
あたかも、ここに咲く桜と菜の花が互いに奏で合って絶景を成すように、その『勇気』は輝きを放つ。
ちょっと自分を美化しすぎているんだろうが――絵里の隣で彼女を守り続けるには、これくらい胸を張っていないと足りないというものだろう。
とりあえず、絵里が今は微笑んでいる。それが及第点。
目尻に雫は残っているが、いつかそれすらも拭えるように……。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる