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第五章 銀雷の夢
第67話 殺戮人形と調停者
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ゲオルグは、覚えている限りの悪態を喚き散らした。
これは、魔道士にとって、ふさわしい態度では無い。
悪態を着く暇があれば、攻撃魔法でも防御魔法でも、やれることはいくらでもあるはずなのだ。
ボルテックやウィルニアが見たら、侮蔑に満ちた笑いを浮かべることだろう。
そう言った意味では、ゲオルグはまだ若いのだ。生物的にはそろそろ老境に差し掛かっているとはいえ、御歳は百を越えているジウル・ボルテックや、上古から生きている賢者ウィルニアに比べれば、ヒヨッコもいい所なのだろう。
しかし。
これを慌てるなというのは、無理だ。ここは……人里離れた渓谷ではあるが、迷宮ではない。
目の前の、山荘は、ついさっきまでは、こじんまりとしてはいるものの、ベランダのある瀟洒なものだった。
いかにも、名を馳せた魔法使いが隠遁生活を送っていそうな。
それがまるごと罠だったとは!
ミミックという魔物は、今現在も迷宮内部に存在する。
宝箱に擬態して、冒険者を襲うたちの悪い魔物だが、注意深く対処すれば問題ない。
だから要は、ゲオルグが注意深く、すればよかったのだ。
ドロシーにもたせた竜珠の位置がここだと、特定したのは、ジェイン。
ゲオルグにとくに話しかけることもなく、山荘に押し入った。
誰何すらすることもないその躊躇なき、行動っぷりは、ジェインが最初から、ドロシーを殺る気だったのではないかと、ゲオルグを疑心暗鬼にさせてものの。
その直後に、扉は牙を備えた口にかわり、ジェインを一口で飲み込んでいた。
飲み込まれる瞬間に、牙に噛みちぎられるのを避けて、自分から飛び込んだのは確認したが、いずれにしてもいい状況ではない。
攻撃魔法を紡ぐぺきだが、山荘に化けた怪物の強度が分からない。
中にいるジェインごど、爆砕してしまっては、まずいのである。
ゲオルグは、結局、なにも魔法は使わなかった。
手持ちのアイテムから、ブルゾリクの針剣という名の細身の剣を取り出して、土台部分を足にして立ち上がりかけた、魔物を突き刺しただけである。
効果のほどは、なんどか経験しているが、これほどの巨体の魔物につかったことはなかった。
だが、今回もまた効果はバツグンであった。
山荘は、びくりと揺れ、ゆらゆらとそのまま、座り込んだ。
足である土台部分は、きれいにオレ曲がらず、斜めになったまま、何本なの木々にもたれかかるようにして、動きを停止する。
突き刺したものを、眠りに誘うブリゾリクの針剣だった。
さすがは、ギムリウスの骨剣。
ゲオルグは、心の中で呟いた。
かつて彼が『城』を尋ねた際に、ギムリウスの「試し」を受け、その報酬とはて手に入れたものだった。
さて。
ゲオルグは、次の手を考える。
眠りはあくまで眠りである。
攻撃を加えれば、魔物は起きてしまう。
なので、一撃で魔物を絶命させるか、ジエインを脱出させるのに十分な穴を穿つ魔法を放たねばならない。
初見の相手にそれをやってのけるのは、ゲオルグにさえも困難であった。
だが、心配はなかった。
山荘が歌が内側から、爆砕したのである。
外壁はともかく、中身は明らかに生き物。
肉片や体液に塗れたジェインの体から、蒼い炎が立ち上っていた。
ジエインは無言でそのまま、渓流まで歩くと体を洗い始めた。
まったくの無言である。
だが、すくなくとも汚れた身体を不快に思う低度の人間味はあるわけ、だ。
「ドロシーが、わざわざこの魔物を使って罠をしかけたとは思えん。」
服をきたまま、なんども渓流に頭から潜るジエインに、ゲオルグは呼びかけた。
「おそらく、落とした竜珠をこいつが勝手に飲み込んで、擬態したのだろう。」
「わかっている!」
水面から、頭を出したジエインは、ぶっきらぼうに答えた。
「おそらくは、どこかの迷宮から逃げ出してきた魔物が自己進化したものだろう。別にわたしがドロシーを怨むことはない。」
「そうか?
さっき、こいつの胎内に飛び込んでいったときは、ドロシーを殺すのが目的だったかと、勘違いしたぞ。」
汚れをあらかた洗い流したジエインは、あの蒼い炎で、全身を包んだ。
服は乾き。呆れたことに、おそらぬ魔物の消化液でとかされていた服の破損も、元通りになっている。
「たしかに」
驚いたことに、ジエインはそれを認めた。
「内心、面白くなく思っていたのかもしれない。
陛下がここに来てまで、不忠の臣下であるドロシーを大切にすることを。
殺しはしないまでも、痛い思いをはさせようとは、考えていた。」
「よい人形だな、おまえは。」
ゲオルグが本気で褒めると、ジエインは驚いたように、こちらを見つめ、照れたように俯いた。
「ひとの姿に似せて作られたものは、心もそうあるべきだ。おまえは正しく成長している。」
「たが、陛下はわたしに“踊る道化師”に入れとは言ってくださらなかった。」
ゲオルグは、空を眺めた。
日は傾きつつある。
「今日は、ここに野宿する。
明日夜明けと共に、西にくだる。山をひとつ越える強行軍だが、ドロシーが最後に目撃されたミルラクの村までは最短距離となる。」
これは、魔道士にとって、ふさわしい態度では無い。
悪態を着く暇があれば、攻撃魔法でも防御魔法でも、やれることはいくらでもあるはずなのだ。
ボルテックやウィルニアが見たら、侮蔑に満ちた笑いを浮かべることだろう。
そう言った意味では、ゲオルグはまだ若いのだ。生物的にはそろそろ老境に差し掛かっているとはいえ、御歳は百を越えているジウル・ボルテックや、上古から生きている賢者ウィルニアに比べれば、ヒヨッコもいい所なのだろう。
しかし。
これを慌てるなというのは、無理だ。ここは……人里離れた渓谷ではあるが、迷宮ではない。
目の前の、山荘は、ついさっきまでは、こじんまりとしてはいるものの、ベランダのある瀟洒なものだった。
いかにも、名を馳せた魔法使いが隠遁生活を送っていそうな。
それがまるごと罠だったとは!
ミミックという魔物は、今現在も迷宮内部に存在する。
宝箱に擬態して、冒険者を襲うたちの悪い魔物だが、注意深く対処すれば問題ない。
だから要は、ゲオルグが注意深く、すればよかったのだ。
ドロシーにもたせた竜珠の位置がここだと、特定したのは、ジェイン。
ゲオルグにとくに話しかけることもなく、山荘に押し入った。
誰何すらすることもないその躊躇なき、行動っぷりは、ジェインが最初から、ドロシーを殺る気だったのではないかと、ゲオルグを疑心暗鬼にさせてものの。
その直後に、扉は牙を備えた口にかわり、ジェインを一口で飲み込んでいた。
飲み込まれる瞬間に、牙に噛みちぎられるのを避けて、自分から飛び込んだのは確認したが、いずれにしてもいい状況ではない。
攻撃魔法を紡ぐぺきだが、山荘に化けた怪物の強度が分からない。
中にいるジェインごど、爆砕してしまっては、まずいのである。
ゲオルグは、結局、なにも魔法は使わなかった。
手持ちのアイテムから、ブルゾリクの針剣という名の細身の剣を取り出して、土台部分を足にして立ち上がりかけた、魔物を突き刺しただけである。
効果のほどは、なんどか経験しているが、これほどの巨体の魔物につかったことはなかった。
だが、今回もまた効果はバツグンであった。
山荘は、びくりと揺れ、ゆらゆらとそのまま、座り込んだ。
足である土台部分は、きれいにオレ曲がらず、斜めになったまま、何本なの木々にもたれかかるようにして、動きを停止する。
突き刺したものを、眠りに誘うブリゾリクの針剣だった。
さすがは、ギムリウスの骨剣。
ゲオルグは、心の中で呟いた。
かつて彼が『城』を尋ねた際に、ギムリウスの「試し」を受け、その報酬とはて手に入れたものだった。
さて。
ゲオルグは、次の手を考える。
眠りはあくまで眠りである。
攻撃を加えれば、魔物は起きてしまう。
なので、一撃で魔物を絶命させるか、ジエインを脱出させるのに十分な穴を穿つ魔法を放たねばならない。
初見の相手にそれをやってのけるのは、ゲオルグにさえも困難であった。
だが、心配はなかった。
山荘が歌が内側から、爆砕したのである。
外壁はともかく、中身は明らかに生き物。
肉片や体液に塗れたジェインの体から、蒼い炎が立ち上っていた。
ジエインは無言でそのまま、渓流まで歩くと体を洗い始めた。
まったくの無言である。
だが、すくなくとも汚れた身体を不快に思う低度の人間味はあるわけ、だ。
「ドロシーが、わざわざこの魔物を使って罠をしかけたとは思えん。」
服をきたまま、なんども渓流に頭から潜るジエインに、ゲオルグは呼びかけた。
「おそらく、落とした竜珠をこいつが勝手に飲み込んで、擬態したのだろう。」
「わかっている!」
水面から、頭を出したジエインは、ぶっきらぼうに答えた。
「おそらくは、どこかの迷宮から逃げ出してきた魔物が自己進化したものだろう。別にわたしがドロシーを怨むことはない。」
「そうか?
さっき、こいつの胎内に飛び込んでいったときは、ドロシーを殺すのが目的だったかと、勘違いしたぞ。」
汚れをあらかた洗い流したジエインは、あの蒼い炎で、全身を包んだ。
服は乾き。呆れたことに、おそらぬ魔物の消化液でとかされていた服の破損も、元通りになっている。
「たしかに」
驚いたことに、ジエインはそれを認めた。
「内心、面白くなく思っていたのかもしれない。
陛下がここに来てまで、不忠の臣下であるドロシーを大切にすることを。
殺しはしないまでも、痛い思いをはさせようとは、考えていた。」
「よい人形だな、おまえは。」
ゲオルグが本気で褒めると、ジエインは驚いたように、こちらを見つめ、照れたように俯いた。
「ひとの姿に似せて作られたものは、心もそうあるべきだ。おまえは正しく成長している。」
「たが、陛下はわたしに“踊る道化師”に入れとは言ってくださらなかった。」
ゲオルグは、空を眺めた。
日は傾きつつある。
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