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第4部 B級と公爵さまの陰謀

ふたりの怪物

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次にルークの視線は、モールに向かった。

「元『蛙が王冠をかぶるとき』のモールだね。」

貴人を相手にする経験はないのだろう。緊張した面持ちで無言で頷いてしまったが、これはこれで非礼だ。
かまわずにルークは、レティシアに話かけた。

「バロンヌ伯爵閣下に、おかれましてはご機嫌うるわしく。」
「次期パレス公爵閣下。」

レティシアは、男装していたので跪いて、スカートの端をつまんだりはしなかったが、そのまま丁寧にあたまをあげた。
余計なことを言わなかれば、男装の麗人で通るのだ。
はっきり言うと、ファンクラブもある。

わたしの視線に気がついたのか、レティシアはわたしを責めるように睨んだ。

「わたしがおかしくなってしまうのは、恋心のためだけで、いまそれはおまえとともにあるのだ、サリア。」
「それはさておき」
「さておくなっ!」

わたしは、ルークに話しかけた。

「ご命令の件は、完了いたしました。
元勇者オルフェを中心とする新バーティの設立、そして、そのパーティをお約束通りB級にまで、ランクアップさせました。
次のご指示をいただきたく、存じます。」

「『迷宮研究会』がルーク殿下の肝いりであることはあっさり認めるのだな、サリア。」
レティシアが、からかうように言う。

「その通り。
ここまで、知ったからには、バロンヌ伯爵家も、ルーシェ王女に与するものとなっていただきたい。」
「それは」
麗人は、目を細めてルークを見た。
「条件、次第です。
いま、言えるのは、わたしは『迷宮研究会』の一員であり、ともに活動する、ということぐらいだろうか。」

「うれしいです、バロンヌ閣下。」
ルークは、笑って、手を叩いた。
さきほど、わたしたちを迎えた従卒が、酒や料理を盛り付けた大皿を積んだワゴンを押して現れた。
「すでに、昇格を祝う集まりのあとと、伺っていますが、あらためて、ぼくからもお祝いをしたい。
まずは乾杯といたしましょう。」

乾杯用の小さなグラスが、回されて翡翠の色をした液体が注がれた。

「さあ、『迷宮研究会』のB級昇格、それにルーシェ王女の元に馳せ参じてくれたバロンヌ伯爵閣下の英断に、乾杯!」

乾杯のグラスの酒は、一気に飲み干すのが礼儀だ。そのだめに、この手のグラスは小さい。
だが、グラスに注がれた酒は、存外に強く、喉を焼いた。
モールなどはむせてしまっている。

レティシアは、グラスに口をつけさえしなかったし、わたしも全部飲みきれず、グラスを置いてしまった。

飲み干したのは、ルークとオルフェだけである。

「警戒しているな、バロンヌ閣下。」

からかうように、ルークは言う。

「ルーシェ王女は思慮深いおひとだ。
そして王室の秩序をなによりも重んじる。
実の兄である王太子殿下を害するなど考えたこともない。
まして、王女はぼくと結婚して、パレス公爵妃となることはもう決まってるんだ。」
「過去に。」
レティシアは冷たく言った。
「王配の地位にある男性に、パレス公爵の地位が与えられたことがあります。」

「それは考えすぎです、伯爵。」

そうでしょうか。
と、レティシアはつぶやいた。
部屋の空気はどんどん下がっていくようだった。
料理が取り分けられたが、だれも手をつけようとはしなかった。

ランプの芯がじじっと音を立てる。
そんな音さえ、うるさく聞こえる。

「次なるご命令を承りたいと存じます、殿下。」
沈黙に耐えかねて、わたしはそんなことを口にした。
「まえまえからのお話では、つぎなる敵は魔族討伐とか?」

ルークは。にや。と笑う。

「いやいや、迷宮研究家。それはただの方弁だ。」

「ならば、つぎはわたしたちは、いったいなにを」
「マール公の妹は、A級の冒険者だ。」

ルークは自ら酒のはいったデギャンタを手に取り、わたしたちに酒を継いでまわったが、にこにこして杯をうけたのは、オルフェくらいで、わたしとモールは強すぎる酒に辟易していたし、レティシアは一滴も飲んでいなかったので、グラスのふちまで、もりあがった酒がランプの明かりで所在なげにふるえていただけだった。

「なんとか、同じ冒険者のよしみで、マール公の妹御と仲良くなってほしいのだ。」

それは、難しくはない。
わたしは、なんどか彼女に迷宮攻略のさいのアドバイスを求められたことがある。
さっきの昇格パーティには、祝電まで届いていたし、距離をつめることはできるだろう。

「それはどの程度?」

「迷宮のなかで、ひっそりと彼女を始末できる程度、にだな。」

モールは真っ青になり、レティシアは憤然とした。
平気なのはオルガくらいで、彼はこの強い酒を気に入ってたのか、手酌で3杯めをついでいた。

「そんなことが出来るかっ!」
レティシアが叫んだ。

「もちろん、普通のものにこんなことは頼まないよ。」
ルークに見えるもの、はたんたんと言った。
「だが、きみたちのなかには、そういう事が得意なものがいたはすだ。」

オルフェは、冷製のチキンを煮凝りで固めたものを肴に、4杯めをつごうとしていた。
が、手を止めてまじめに返した。

「いや、得意じゃないな。1度しかやってないし、しかも失敗している。」
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