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第4部 B級と公爵さまの陰謀

公爵閣下と元勇者

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ルークは、あまり不快感を表に出さない。
いつも穏やかな笑みを絶やさず、下々のものにも、丁寧で優しかった。

例外は、王室付きの暗部、通称「病葉」だった。
誰にも知られぬうちに、すべてを闇から闇に葬る。
誰にも知られない方法で。

まるで、ルーク自身の「霧の魔法」そのものではないか。

まるで、かれは自分自身を嫌うかのように、かれは「病葉」を嫌った。

「オルフェもいっしょに来ている、と?」

視線を投げかけられた「病葉」の隠密は、しかし、それで傷ついたふうには見えない。薄汚い殺し屋、いや腐肉あさりと公然と蔑視する王室、貴族に比べれば、ルークの態度ははるかに「まし」であった。


はい。
と、病葉は短く答えた。

「元『蛙』のモールと、バロンヌ伯爵もご一緒です。」
「レティシアが?」

ルークは、椅子に背もたれに体重を預けた。


「バロンヌ伯爵は、皇太子派の重鎮です。お会いになる以上は、王女殿下への事前のご承認が必要かと。
もしくはお会いにならぬことを選択なさる、とか。」

「病葉。」
めったに見せない「嫌な」笑みがルークの顔に浮かんだ。
「出過ぎたことを言うお主の名前をきいておこう。」

「・・・・『病葉』のギルク。」

病葉は、完全に闇の存在であり、使えるべくあるじ、この場合は、ルーシェ王女にすら個別に名乗ることはない。
病葉は、病葉であり、命じられたことを果たすのみ。いね、と言われれば去り、死ねと言われれば死ぬ。
そこに個体としての認識はなく、ただ役目だけが続く。
「病葉」としての役目だけが。

だが、この男は、いやマントに包まれ、さらに部屋の暗がりに埋もれたその影は、男女の区別もつかぬ。
その影は、名乗った。

本来、言うべきではない意見を具申し、あげるべきではない名乗りをあげたこの影に、ルークは興味をもった。

「バロンヌ閣下だけを切り離すことは可能か?」
「お望みとあらば。」
「ならば」

ルークの笑みはいっそう濃くなった。

「ぼくはそれを『望まない』。彼らをここへ案内を。椅子と飲み物を人数分用意せよ。」



取次ぎのものに、来訪を告げてから、しばし待ち時間があった。
招かれたのが、わたしひとりなのに、四人でおしかけたのだから当然だ。
だが、対応の時間は、思ったより短かった・・・・追い返されるかもしれないと思っていたのに。

通されたのは、いつもとは違う部屋。少し広くて、人数分の椅子が用意されている。
いつもにも増して薄暗い。
用意された飲み物は、濃い珈琲で、酒はないのか、とオルフェはぶつぶつ言っていた。

部屋の灯りは、数カ所のランプのみ。
部屋の隅々まではとても照らせない。濃く影がわだかまった部屋の様子に、わたしはいつもとは違う緊張感を覚えた。

あらためて言う。
オルフェとこの部屋の主は、むかしからの幼なじみであり、ともに同じパーティで肩をならべて戦った。
だが、いつからか、彼を疎ましく思ったオルフェは、彼を迷宮内でパーティから追放したのだ。
迷宮の奥でパーティから切り離されることが、死刑とどの程度異なるのかはわからない。
だが、オルフェたちは、ルーク殿下を罠に落とし、自由をうばったところで、攻撃魔法を叩き込んだ。

それは、ルークからきいた話だ。
オルフェが、当時なにを考えていたのかは、そういえば、じっくり話をしたことはなかった。
気に入らない。
そんな理由で、パーティの仲間を殺そうとするものだろうか。
追放するならば、追放すればそれでいい。

考え込んでいたので、ルークがはいってきたとき、わたしは一瞬気がつくのがおくれた。

「ああ・・・殿下。遅参いたしました。勝手ながらわたしの仲間を紹介させていただきたく・・・・」

「オルフェ。」
ルークの視線は、わたしを無視して、まっすぐにオルフェにむかっていた。
わたしは、それにわずかに嫉妬した自分に気がついた。
「久しぶりだ。元気そうだね。」

オルフェは、彼らしい伝法な口調で、例を述べた。おもに腕の治療費のことと、下賜された剣のことだ。
「残念ながら、腕のほうは前のように、というわけにはいかなかった。
剣は、大蜘蛛から素材を切り出すときに、曲がっちまったので、修理に出している。」
そんなことを言いながらも素直に頭をさげた。
「いろいろ助かった。ありがとう。」

ルークは見たこともないような笑顔でそれに答えた。

いやいや、どういたしまして。
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