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第二章 グランダ脱出
第8話 小悪党は出逢う
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ぼくは、本当に小悪党だ。
なんだかんだで、ぼくはこの二番目の人生を楽しむ気でいた。
灰色に塗りつぶされたように思えた世界は、老いと弱気がみせたただの幻だったんだ!
ありがとう、ジウル、いやジウロ。
ありがとう、転生させてくれた神様。
それから……たぶん、裏で糸をひいてるはずのおまえ。
ふりそこなって、こぼれたダイスを、もう一度ふりなおさせてくれる。
そして出た目が何になっても、そのことで、アンタらを恨んだりはしない。
これは、オマケだ。
だから、ぼくはこの先。
もう一度、死が訪れるまでの間を、ほんとうに心楽しく。思うがままに生きてやろうと思う。
ありがとう、本当にありがとうジウロ。
だが、ぼくが楽しく生きるためには、『統一帝国』の皇位後継争いなど、知ったことではない。
世界を引き裂く一大イベントなど、小悪党には、ジャマものなのだ。
ぼくが、魔道院を抜け出したのは、朝では無い。明け方でもない。それどころか、深夜、学生たちが寝静まってからですらない。
ジウロが、立ち去るのを待って、ぼくはすぐに起き出した。
部屋には、当面、身に付けられるような衣類が一通りそろっていた。
ジャケットにバンツ。で、さっきの魔道士のマントを身につけて、フードを被れば。
ほら、ぼくはどこからどう見ても、魔道院の学生だ。
酔いを分解する魔法をかけながら、部屋を出る。
ここは、学生寮だ。
学生寮を学生が歩いてもだれにも見咎められることはない。
そのまま、ふつうに、校舎を抜けて、門をくぐって、ぼくは街中へと歩を進めた。
ぼくの記憶にあるグランダは、何十年か前のものだった。そのころのグランダは、まだあちこち再開発中で、まだ照明は、光魔法による薄ぼんやりしたものだけだったように思う。
だが、いまは、電灯の普及で、学院まえのとおりも昼間のように明るい。
夕食どきとあって、人通りも多い。機械馬車などは通れない歩行専用の通りだが、かなり賑わっていた。
学生向けのコスパのいい食堂が、軒をつらね、それを、目当ての客が、足早に歩んでいく。
もちろん、魔道院の学生も多いから、その波に紛れ込むのは、まったく問題はなかった。
これが、人が寝静まった深夜や早朝ならこうはうはいかない。
ひとりで歩いていたら。それを見られたら必ず記憶に残る。そこから、足がつく。
見られても記憶に残らない。
そのほうがはるかにいい。
ぼくは、グランダの地理には明るくないが、なんとなくの土地勘はあるほうだ。
出来るだけ、薄暗い方へと、ぼくは歩く。
これが面白いもので、真っ暗ではだめなのだ。
薄暗がりへ。
ひとが、その道徳観やモラルと言ったものだけが、見えなくなるそんな暗がりを街の中で探し当てるのは、ぼくには大得意だった。
そこには、いまのぼくに足りないものを満たしてくれるモノがあるはずだった。
「おにいさん、ダメだよ、ここから奥は病気もちと美人局しかいないよ。」
声をかけてきた女は、年齢不詳。
だが、案外、ぼくと同じくらいの世代なのかもしれない。
大胆にみせた胸の谷間に、知らず知らずのうちに視線が釘付けになる。
身体が若いのは、いいことばかりではないのだ。
昼間は、学生街に隣接した公園なのだろう。
だが、日が落ちると、ぽつりぽつりと人影が立つ。
こんな学生街に近い場所で、そういった行為が行われているのは、驚きだが、魔道院は、自己判断ができない幼少年が通うところではない。
初等過程あるいは、その上の過程で、魔道の才能ありと認められたものが通う上級学校で、おそらくは、ぼくのいまの年齢で下限ギリギリといったところだ。
魔道の研究に没頭するあまり、卒業式資格得たあとも何年も、魔道院で過ごす者もいたはずだ。
話しかけてきた女は赤いハンカチを、手に巻いている。
「客」を探しているというサインであり、これは人類社会に共通の習慣らしい。いや、中原や謎に満ち東域は知らないのだが。
「ここから奥は病気もちと美人局だけ」というセリフをきくのは、実は既に、今宵三回目、だった。
フードの下のぼくを、覗き込んだ女は、いまいましそうに舌打ちをした。
「……なんだ、ガキなのね。」
「成人はしているぞ?」
「お金はもってるの?」
「いや、まったく」
ぼくは正直に言った。
ジウロは、たぶん、いったんぼくを魔道院の学生として受け入れたうえで、いろいろと悪巧みをするつもりだったのだろう、そのために、滞在用の部屋や着替えを用意してくれたジウロもさすがに、路銀までは用意してくれていなかった、という訳だ。
という訳で、ぼくが必要としているのは、ズバリお金だ。
別段、一時の快楽をもとめて、こんなところを彷徨いているわけではない。
こういった場所には、トラブルが付き物だ。そしてトラブルに、首を突っ込んでやればそれは、確実に金になる。
ぼくがこの女のところに、足を止めた理由は。
彼女には、ぼくと同じ匂いがしたのだ。
「転生者」ということではない。彼女もまた早急に金が必要で。
しかも体を売る気など毛頭なく。
悪党には悪党の誇りがあって、ルールがあって、倫理がある。
でなければ、殺し屋などという仕事が成立するなずもない。
非合法な手段に訴えてでも、手っ取り早く、金を稼ぎたいという、我ら小悪党特有の匂いがしたのである。
なんだかんだで、ぼくはこの二番目の人生を楽しむ気でいた。
灰色に塗りつぶされたように思えた世界は、老いと弱気がみせたただの幻だったんだ!
ありがとう、ジウル、いやジウロ。
ありがとう、転生させてくれた神様。
それから……たぶん、裏で糸をひいてるはずのおまえ。
ふりそこなって、こぼれたダイスを、もう一度ふりなおさせてくれる。
そして出た目が何になっても、そのことで、アンタらを恨んだりはしない。
これは、オマケだ。
だから、ぼくはこの先。
もう一度、死が訪れるまでの間を、ほんとうに心楽しく。思うがままに生きてやろうと思う。
ありがとう、本当にありがとうジウロ。
だが、ぼくが楽しく生きるためには、『統一帝国』の皇位後継争いなど、知ったことではない。
世界を引き裂く一大イベントなど、小悪党には、ジャマものなのだ。
ぼくが、魔道院を抜け出したのは、朝では無い。明け方でもない。それどころか、深夜、学生たちが寝静まってからですらない。
ジウロが、立ち去るのを待って、ぼくはすぐに起き出した。
部屋には、当面、身に付けられるような衣類が一通りそろっていた。
ジャケットにバンツ。で、さっきの魔道士のマントを身につけて、フードを被れば。
ほら、ぼくはどこからどう見ても、魔道院の学生だ。
酔いを分解する魔法をかけながら、部屋を出る。
ここは、学生寮だ。
学生寮を学生が歩いてもだれにも見咎められることはない。
そのまま、ふつうに、校舎を抜けて、門をくぐって、ぼくは街中へと歩を進めた。
ぼくの記憶にあるグランダは、何十年か前のものだった。そのころのグランダは、まだあちこち再開発中で、まだ照明は、光魔法による薄ぼんやりしたものだけだったように思う。
だが、いまは、電灯の普及で、学院まえのとおりも昼間のように明るい。
夕食どきとあって、人通りも多い。機械馬車などは通れない歩行専用の通りだが、かなり賑わっていた。
学生向けのコスパのいい食堂が、軒をつらね、それを、目当ての客が、足早に歩んでいく。
もちろん、魔道院の学生も多いから、その波に紛れ込むのは、まったく問題はなかった。
これが、人が寝静まった深夜や早朝ならこうはうはいかない。
ひとりで歩いていたら。それを見られたら必ず記憶に残る。そこから、足がつく。
見られても記憶に残らない。
そのほうがはるかにいい。
ぼくは、グランダの地理には明るくないが、なんとなくの土地勘はあるほうだ。
出来るだけ、薄暗い方へと、ぼくは歩く。
これが面白いもので、真っ暗ではだめなのだ。
薄暗がりへ。
ひとが、その道徳観やモラルと言ったものだけが、見えなくなるそんな暗がりを街の中で探し当てるのは、ぼくには大得意だった。
そこには、いまのぼくに足りないものを満たしてくれるモノがあるはずだった。
「おにいさん、ダメだよ、ここから奥は病気もちと美人局しかいないよ。」
声をかけてきた女は、年齢不詳。
だが、案外、ぼくと同じくらいの世代なのかもしれない。
大胆にみせた胸の谷間に、知らず知らずのうちに視線が釘付けになる。
身体が若いのは、いいことばかりではないのだ。
昼間は、学生街に隣接した公園なのだろう。
だが、日が落ちると、ぽつりぽつりと人影が立つ。
こんな学生街に近い場所で、そういった行為が行われているのは、驚きだが、魔道院は、自己判断ができない幼少年が通うところではない。
初等過程あるいは、その上の過程で、魔道の才能ありと認められたものが通う上級学校で、おそらくは、ぼくのいまの年齢で下限ギリギリといったところだ。
魔道の研究に没頭するあまり、卒業式資格得たあとも何年も、魔道院で過ごす者もいたはずだ。
話しかけてきた女は赤いハンカチを、手に巻いている。
「客」を探しているというサインであり、これは人類社会に共通の習慣らしい。いや、中原や謎に満ち東域は知らないのだが。
「ここから奥は病気もちと美人局だけ」というセリフをきくのは、実は既に、今宵三回目、だった。
フードの下のぼくを、覗き込んだ女は、いまいましそうに舌打ちをした。
「……なんだ、ガキなのね。」
「成人はしているぞ?」
「お金はもってるの?」
「いや、まったく」
ぼくは正直に言った。
ジウロは、たぶん、いったんぼくを魔道院の学生として受け入れたうえで、いろいろと悪巧みをするつもりだったのだろう、そのために、滞在用の部屋や着替えを用意してくれたジウロもさすがに、路銀までは用意してくれていなかった、という訳だ。
という訳で、ぼくが必要としているのは、ズバリお金だ。
別段、一時の快楽をもとめて、こんなところを彷徨いているわけではない。
こういった場所には、トラブルが付き物だ。そしてトラブルに、首を突っ込んでやればそれは、確実に金になる。
ぼくがこの女のところに、足を止めた理由は。
彼女には、ぼくと同じ匂いがしたのだ。
「転生者」ということではない。彼女もまた早急に金が必要で。
しかも体を売る気など毛頭なく。
悪党には悪党の誇りがあって、ルールがあって、倫理がある。
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