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第二章 グランダ脱出
第9話 小悪党仁義
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別に社会が、彼らを悪人あるいはクズだと思うのは勝手だ。
だか、少し考えて見てほしい。
人を殺めるということが、合法である国は、たしかに西域にはない。
人を殺めるものは、罪人であり、対価と引き換えにそれを行う人間は、クズだ。だが、とりあえず、一流どころの暗殺者に着手金を支払ったら、それを持ち逃げする暗殺者はいない。
娼婦が悪人かどうかは、国と地域によってことなるが、彼女たちがどうしょうもないクズだったら、ひとときの快楽を得ようとした者は、懐中物をすられたり、あるいは一服もられて、身ぐるみはがされ、命まで失うことと隣り合わせの危険にさらされることになる。
そういう例は、たしかにあるが、ほとんどの場合そうはならない。
一流の殺し屋は、手つけをもらった目標を依頼通りに抹殺しようとするし、賄賂を貰った政治家は、相手のためにきちんと利益を提供しようとするのだ。
我々「小」悪党と、本物の悪党との差はそこにある。
我々、小悪党は、そんな最小限のモラルすらないのだ。
平気でひとを裏切り、己の信ずる道を平気で違える。ぼくについた“背教者”という異名は、たしかに当たっているのだろうと思う。
神に仕えたのも気まぐれながら、ヤツらが
ぼくに声をかけてきた女は、若く、美しい。
いきなり、目を引いた胸は、かなり、寄せて上げていた。スタイルは悪くないのだが、人目をひくほどボリューミーではない。
そして、まだ異性と肌を触れ合わせた経験はない。
……けして、わし、いやぼくはエロジジイいや、エロガキではないのだが、こういうことは、なんとなく分かるのだ。
そして。
身につけた装身具は、ことごとく武器だ。
胸元のブローチは、針が飛び出す仕様だし、首もとのスカーフは、強く引くと中に仕込まれたガラスの小瓶が割れて、吸い込んだ相手を昏倒させるガスを放出する。
この女、いや成人していない可能性すらある少女は、声をかけてきた相手を気絶させて、金品を奪うことを、確信したうえで、客をひいているのである。
一方。
「金も持たないガキがなんで、この当たりをうろついてるの?」
刺々しい言葉だが、態度はそうでもない。
不思議なもので、小悪党は、出会った相手が同じく小悪党だと、わかるのだ。
「おまえと、同じだな。別嬪さん。」
若者など、絶対に使わないような言い回しに、彼女は、きょとんとした顔をしていたが、プッと吹き出した。
そう。
人として。あるいは、一流の悪人どもが持つ独自のモラルにもかけた、我々は、互いに惹かれ合う傾向があるのだ。
「そうなんだ、イケメンくん。」
彼女はクスクスと笑った。
「きみも手っ取り早く、お金が欲しいんだ?
その顔なら充分、客はつくと思うけど、身は売りたくないんだ?」
「もちろんだ。」
ぼくは重々しく頷いた。
「売るどころか、レンタルも御免こうむる。」
「じゃあ、なんでここらをフラフラしてるの?
どうやって金を稼ぐつもりなの?」
「決まってる。トラブルだよ。トラブルに首を突っ込んでやれば間違いなく、金になるんだ。
腕に自信? 少しならあるよ。だが、それは問題ないんだ、勝った方につけばいいだけの話だからね。」
「なるほど。」
とんでもない言い草だが、小悪党同士は、これで良く、相手を理解できるのだ。
「面白そうな思考をするんだね。
でも買う気もないのに、なんでわたしに話しかけてきたかは、まだ聞いてないよね。」
「決まってる。」
ぼくは精一杯、愛想良く笑って見せた。
「おまえのところがいちばんトラブルが、起きそうだからだ。」
同じく極上の笑みを浮かべて。
彼女の腕に巻かれたスカーフが、刃物の形をとった。
鋭い突きは、ぼくの脇腹を抉ったはずだ。
ぼくが、とっさに身をかわさなかったら。だけど。
「いい腕じゃない?」
布を硬化させる魔法か。
特筆すべきは、発動の素早さと流れるような自然さだった。
彼女の細い手首をつかんだ、ぼくの腕に彼女はもう片方の腕を振り下ろした。
指輪からは、鋭い針が生えていた。
「これもかわすかな。」
女は感心したように言った。
「ぼくは、ヒスイという。」
あらためて、ぼくは名乗った。血の気の多さ、腕前、気性。どれを、とっても小悪党仲間として十分だ。
「は? いかにもって、偽名だよね。わたしは、ティーン。」
「そっちも偽名か?」
「さあ、どうだか?」
ティーンは、公園の木立のなかから、歩いてくるいかにもな、チンピラにむかって、アゴをしゃくった。
「ここらのシマを仕切ったつもりになってる“鉄弓団”のやつらね。」
「つもりに、なってる?」
「実際には、女の子たちも客も相手にしてないわ。ミカジメをとられてるのは、一割もいないんじゃないかな。
でも、こうやって、トラブルが起きるとしゃしゃり出て、解決料としてお金を巻き上げるのよ。
……女の子と客の両方からね。」
ぼくは、だいたい、理解した。
ティーンは、トラブルを起こして“鉄弓団”を呼びたかった。
そのために、同じ小悪党の匂いがする、ぼく利用したのだ。
「全部で何人いるんだ? その“鉄弓団”ってのは。」
「十人くらいね。怪我をさせられた女の子もいるし、依存性の他界薬を与えられて、中毒にされられた子もいる。」
「グランダの警察は?」
「立ちんぼは、保護の対象外。」
ぼくには、小声でいいながら、ティーンは、“鉄弓団”に叫んだ
「“鉄弓”のお兄さん方! 別になにも起きてませんよお。それにこっちは、ご覧の通り、魔道院の学生さんだよ。手を出したから、魔道院から報復されるわよ!」
「新顔だな、おまえは?」
先頭の男が言った。
胸部を覆ったプレートアーマーは、コケオドシだ。、とんでもなく、軽く、薄く、作っているので、剣どころか、拳の一撃でも凹んで穴が空く、
「客とのトラブルは、ここいらじゃあ俺らが解決してるんだ。
なあに、少し痛い目をみてもらだけだ。
おまえにもちゃんと取り分はやるからよ。」
「いらないって!!」
「そいつが、ここらのルールなんだ。新顔のの嬢ちゃんよお。」
ティーンは、ぼくを小突いた。
「ほら、お望み通りのトラブルよ?
お金に変えて見せてよね。」
だか、少し考えて見てほしい。
人を殺めるということが、合法である国は、たしかに西域にはない。
人を殺めるものは、罪人であり、対価と引き換えにそれを行う人間は、クズだ。だが、とりあえず、一流どころの暗殺者に着手金を支払ったら、それを持ち逃げする暗殺者はいない。
娼婦が悪人かどうかは、国と地域によってことなるが、彼女たちがどうしょうもないクズだったら、ひとときの快楽を得ようとした者は、懐中物をすられたり、あるいは一服もられて、身ぐるみはがされ、命まで失うことと隣り合わせの危険にさらされることになる。
そういう例は、たしかにあるが、ほとんどの場合そうはならない。
一流の殺し屋は、手つけをもらった目標を依頼通りに抹殺しようとするし、賄賂を貰った政治家は、相手のためにきちんと利益を提供しようとするのだ。
我々「小」悪党と、本物の悪党との差はそこにある。
我々、小悪党は、そんな最小限のモラルすらないのだ。
平気でひとを裏切り、己の信ずる道を平気で違える。ぼくについた“背教者”という異名は、たしかに当たっているのだろうと思う。
神に仕えたのも気まぐれながら、ヤツらが
ぼくに声をかけてきた女は、若く、美しい。
いきなり、目を引いた胸は、かなり、寄せて上げていた。スタイルは悪くないのだが、人目をひくほどボリューミーではない。
そして、まだ異性と肌を触れ合わせた経験はない。
……けして、わし、いやぼくはエロジジイいや、エロガキではないのだが、こういうことは、なんとなく分かるのだ。
そして。
身につけた装身具は、ことごとく武器だ。
胸元のブローチは、針が飛び出す仕様だし、首もとのスカーフは、強く引くと中に仕込まれたガラスの小瓶が割れて、吸い込んだ相手を昏倒させるガスを放出する。
この女、いや成人していない可能性すらある少女は、声をかけてきた相手を気絶させて、金品を奪うことを、確信したうえで、客をひいているのである。
一方。
「金も持たないガキがなんで、この当たりをうろついてるの?」
刺々しい言葉だが、態度はそうでもない。
不思議なもので、小悪党は、出会った相手が同じく小悪党だと、わかるのだ。
「おまえと、同じだな。別嬪さん。」
若者など、絶対に使わないような言い回しに、彼女は、きょとんとした顔をしていたが、プッと吹き出した。
そう。
人として。あるいは、一流の悪人どもが持つ独自のモラルにもかけた、我々は、互いに惹かれ合う傾向があるのだ。
「そうなんだ、イケメンくん。」
彼女はクスクスと笑った。
「きみも手っ取り早く、お金が欲しいんだ?
その顔なら充分、客はつくと思うけど、身は売りたくないんだ?」
「もちろんだ。」
ぼくは重々しく頷いた。
「売るどころか、レンタルも御免こうむる。」
「じゃあ、なんでここらをフラフラしてるの?
どうやって金を稼ぐつもりなの?」
「決まってる。トラブルだよ。トラブルに首を突っ込んでやれば間違いなく、金になるんだ。
腕に自信? 少しならあるよ。だが、それは問題ないんだ、勝った方につけばいいだけの話だからね。」
「なるほど。」
とんでもない言い草だが、小悪党同士は、これで良く、相手を理解できるのだ。
「面白そうな思考をするんだね。
でも買う気もないのに、なんでわたしに話しかけてきたかは、まだ聞いてないよね。」
「決まってる。」
ぼくは精一杯、愛想良く笑って見せた。
「おまえのところがいちばんトラブルが、起きそうだからだ。」
同じく極上の笑みを浮かべて。
彼女の腕に巻かれたスカーフが、刃物の形をとった。
鋭い突きは、ぼくの脇腹を抉ったはずだ。
ぼくが、とっさに身をかわさなかったら。だけど。
「いい腕じゃない?」
布を硬化させる魔法か。
特筆すべきは、発動の素早さと流れるような自然さだった。
彼女の細い手首をつかんだ、ぼくの腕に彼女はもう片方の腕を振り下ろした。
指輪からは、鋭い針が生えていた。
「これもかわすかな。」
女は感心したように言った。
「ぼくは、ヒスイという。」
あらためて、ぼくは名乗った。血の気の多さ、腕前、気性。どれを、とっても小悪党仲間として十分だ。
「は? いかにもって、偽名だよね。わたしは、ティーン。」
「そっちも偽名か?」
「さあ、どうだか?」
ティーンは、公園の木立のなかから、歩いてくるいかにもな、チンピラにむかって、アゴをしゃくった。
「ここらのシマを仕切ったつもりになってる“鉄弓団”のやつらね。」
「つもりに、なってる?」
「実際には、女の子たちも客も相手にしてないわ。ミカジメをとられてるのは、一割もいないんじゃないかな。
でも、こうやって、トラブルが起きるとしゃしゃり出て、解決料としてお金を巻き上げるのよ。
……女の子と客の両方からね。」
ぼくは、だいたい、理解した。
ティーンは、トラブルを起こして“鉄弓団”を呼びたかった。
そのために、同じ小悪党の匂いがする、ぼく利用したのだ。
「全部で何人いるんだ? その“鉄弓団”ってのは。」
「十人くらいね。怪我をさせられた女の子もいるし、依存性の他界薬を与えられて、中毒にされられた子もいる。」
「グランダの警察は?」
「立ちんぼは、保護の対象外。」
ぼくには、小声でいいながら、ティーンは、“鉄弓団”に叫んだ
「“鉄弓”のお兄さん方! 別になにも起きてませんよお。それにこっちは、ご覧の通り、魔道院の学生さんだよ。手を出したから、魔道院から報復されるわよ!」
「新顔だな、おまえは?」
先頭の男が言った。
胸部を覆ったプレートアーマーは、コケオドシだ。、とんでもなく、軽く、薄く、作っているので、剣どころか、拳の一撃でも凹んで穴が空く、
「客とのトラブルは、ここいらじゃあ俺らが解決してるんだ。
なあに、少し痛い目をみてもらだけだ。
おまえにもちゃんと取り分はやるからよ。」
「いらないって!!」
「そいつが、ここらのルールなんだ。新顔のの嬢ちゃんよお。」
ティーンは、ぼくを小突いた。
「ほら、お望み通りのトラブルよ?
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