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第二章 グランダ脱出
第17話 逃走するものたち
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「地上最大の魔導師」
ということばに対するぼくの笑みが気に入らなかったのだろう。
ティーンは、ぼくを睨んだ。
本当に彼女は、皇帝アデルの娘なのだろうか。
「あの」アデル。
そしてその母“災厄の女神”フィオリナ。
ティーンは、そのどちらにも似ていない。
たしかに十代半ばの女の子とは思えないような迫力はあったが、少なくとも視線だけで即死しそうな危険なものはまったく、なかった。
「なんで、笑ったのか説明しようか?」
「当たり前よっ!」
ティーンは、むっとしたように言った。
「そもそも世界最大の魔導師と名乗る魔法士を、ぼくは、十人は知っている。」
「じゃあ、言い換える!
現代に生きている中では、最大の魔導師よ!」
「それを言ったら、我らの導き手たるジオロ殿だって、まだまだご存命だ。
人間の種としての寿命、三十年法、いずれも踏みにじって、ちょっと名前をかえて、のうのうと魔道院にのさばっている。
あと、ウィルズミラーの発明者、大賢者ウィルニアはどうだ?
ここ十年。姿を見せてはいないが、ウィルズミラーのもたらす莫大な利益はだれかのところに転がりこんでいるんだ。少なくともまだ存命なのは間違いない。」
「ああっ!! なら、ええと、この五十年で誕生したなかでは最大ってことで!」
「ずいぶんと範囲が狭まるな。
魔道士というものが、己の魔力や様々の外法で、長寿になりやすいことを考えると、そこまで範囲を絞って、『史上最大』は言ってて虚しくならないか?」
ティーンは。
唸ったが、果敢に言い返した。
「つまり、それは……比喩的な表現よ!
グリシャム・バッハが、中央軍の中でそう呼ばれ、自らもそう名乗っているのは事実なの!
たしかに、誇大表現かもしれないけれど、少なくとも、いま、大北方には、彼を凌ぐ魔導師はいないわ。」
「ジオロ・ボルテックがいるだろうに。」
ぼくは、即座にそう言った。
「ジオロもジウルも、魔導師じゃないて拳士だからね!」
どうだ? というふうに、ティーンは胸を張った。
「まあ、その二人が、グランダでかち合うことには、なりそうだ。」
ぼくは渋々、認めた。
「そうすると、グリシャム・バッハは、おまえのアデルの魂の器として、自らの手元に連れ去るために。
そして、ジウロは、そいつから、おまえを逃がそうと企んでいた。」
「そうなのっ!?」
「ぼくが、召喚された、というのは、そういうことだろうさ。」
「いい加減に教えて貰ってもいいかな?」
少しイライラしたように、ティーンは言った。
「中央軍の犠牲になって、魂も身体も奪われてしまう姫君を救うために、召喚された勇者は、だれよ?」
ぼくは、すこしだけ、心の中で賞賛の声をあげた。
なんの根拠もなく、物事の真実にたどり着く。そんな能力を、このアルディーン姫は持っていた。
たしかに、ぼくを死から無理くり引っ張り出して、この体に連れてきたのは、紛れもなく、神だったから、ぼくは勇者と呼ばれてもいい立場のわけだ。
それに、しては勇者特有の、ルールハズレの能力は、まったく考慮されていなかったが。
「それは、旅をしていればいずれわかるさ。がっかり、させると、いけないから今は内緒ダだ。」
「そうだよ! 旅だっ!」
ティーンは、座っていたベッドから、勢いよく立ち上がった。
「どこに行くか、なにか宛はあるの?
わたしたちがいなくなったことに、魔道院が気がつくのは、明日の朝。時間的なアドバンテージは充分に、あるわ。
ここは、ターミナル駅だから…西域各主要都市への直通列車は、たくさんあるし、選び放題よ。ただ…どこへ行っても中央軍の勢力圏内だけど。ね。」
■■■■■
グランダ駅前では、ひとの流れはピークを過ぎつつある。
西域の中心地、オーベルのように、数分おきに、列車の出入りがあふような大都会ではないのだ。
それでも駅前は、なんどかの再開発を経て、有名店が立ち並ぶ商店街となっている。
人の流れは、ジウロたちと、中央軍の魔道士を避けて流れていく
中央軍からの魔道士たちは、5名。
先頭にたつ、グリシャム・バッハを除いては、全員が深くフードを下ろして、顔を隠していた。
「急ぎの要件で、クローディアまで出かけるところです。」
ランゼは、口早に言った。
「魔道院に、御用でしたら、直接にどうぞ。」
「アルディーン姫はお変わりないか?」
「報告はあげております。それに満足されずに、ご自身の足を運ばれたのですから、ご自身の目でお確かめ下さい。」
「そのようにしよう。」
グリシャム・バッハは、鷹揚にそう答えた。
「だが」
「だが? なんです?」
「ランゼ事務局長。あなたの態度は、中央軍からじきじきに派遣された我々に対するものとしては、あまりにも無礼だ。
教育がは必要だな。」
「なにを言い出すのです!?」
「かといって、この人混みでは我が技をふるえば、無辜の犠牲者が、増えるばかり。
ポルス。」
グリシャム・バッハの呼び掛けに、うしろの控えた魔導師のひとりがあゆみ出た。
魔道士のマントを、脱ぎ捨てると、現れたのはしなやかな筋肉が全身を覆った拳士だった。
「ランゼ事務総長とお付きの若者の四肢を折って、クローディア行きの列車に放り込んであげなさい。
中央軍筆頭魔道士が訪ねるよりも優先の用件があるのだから、クローディア行きを邪魔するのは申し訳ない。
口はきけるように。間違っても殺しては行けませんよ。これはあくまで教育なのだから。」
ということばに対するぼくの笑みが気に入らなかったのだろう。
ティーンは、ぼくを睨んだ。
本当に彼女は、皇帝アデルの娘なのだろうか。
「あの」アデル。
そしてその母“災厄の女神”フィオリナ。
ティーンは、そのどちらにも似ていない。
たしかに十代半ばの女の子とは思えないような迫力はあったが、少なくとも視線だけで即死しそうな危険なものはまったく、なかった。
「なんで、笑ったのか説明しようか?」
「当たり前よっ!」
ティーンは、むっとしたように言った。
「そもそも世界最大の魔導師と名乗る魔法士を、ぼくは、十人は知っている。」
「じゃあ、言い換える!
現代に生きている中では、最大の魔導師よ!」
「それを言ったら、我らの導き手たるジオロ殿だって、まだまだご存命だ。
人間の種としての寿命、三十年法、いずれも踏みにじって、ちょっと名前をかえて、のうのうと魔道院にのさばっている。
あと、ウィルズミラーの発明者、大賢者ウィルニアはどうだ?
ここ十年。姿を見せてはいないが、ウィルズミラーのもたらす莫大な利益はだれかのところに転がりこんでいるんだ。少なくともまだ存命なのは間違いない。」
「ああっ!! なら、ええと、この五十年で誕生したなかでは最大ってことで!」
「ずいぶんと範囲が狭まるな。
魔道士というものが、己の魔力や様々の外法で、長寿になりやすいことを考えると、そこまで範囲を絞って、『史上最大』は言ってて虚しくならないか?」
ティーンは。
唸ったが、果敢に言い返した。
「つまり、それは……比喩的な表現よ!
グリシャム・バッハが、中央軍の中でそう呼ばれ、自らもそう名乗っているのは事実なの!
たしかに、誇大表現かもしれないけれど、少なくとも、いま、大北方には、彼を凌ぐ魔導師はいないわ。」
「ジオロ・ボルテックがいるだろうに。」
ぼくは、即座にそう言った。
「ジオロもジウルも、魔導師じゃないて拳士だからね!」
どうだ? というふうに、ティーンは胸を張った。
「まあ、その二人が、グランダでかち合うことには、なりそうだ。」
ぼくは渋々、認めた。
「そうすると、グリシャム・バッハは、おまえのアデルの魂の器として、自らの手元に連れ去るために。
そして、ジウロは、そいつから、おまえを逃がそうと企んでいた。」
「そうなのっ!?」
「ぼくが、召喚された、というのは、そういうことだろうさ。」
「いい加減に教えて貰ってもいいかな?」
少しイライラしたように、ティーンは言った。
「中央軍の犠牲になって、魂も身体も奪われてしまう姫君を救うために、召喚された勇者は、だれよ?」
ぼくは、すこしだけ、心の中で賞賛の声をあげた。
なんの根拠もなく、物事の真実にたどり着く。そんな能力を、このアルディーン姫は持っていた。
たしかに、ぼくを死から無理くり引っ張り出して、この体に連れてきたのは、紛れもなく、神だったから、ぼくは勇者と呼ばれてもいい立場のわけだ。
それに、しては勇者特有の、ルールハズレの能力は、まったく考慮されていなかったが。
「それは、旅をしていればいずれわかるさ。がっかり、させると、いけないから今は内緒ダだ。」
「そうだよ! 旅だっ!」
ティーンは、座っていたベッドから、勢いよく立ち上がった。
「どこに行くか、なにか宛はあるの?
わたしたちがいなくなったことに、魔道院が気がつくのは、明日の朝。時間的なアドバンテージは充分に、あるわ。
ここは、ターミナル駅だから…西域各主要都市への直通列車は、たくさんあるし、選び放題よ。ただ…どこへ行っても中央軍の勢力圏内だけど。ね。」
■■■■■
グランダ駅前では、ひとの流れはピークを過ぎつつある。
西域の中心地、オーベルのように、数分おきに、列車の出入りがあふような大都会ではないのだ。
それでも駅前は、なんどかの再開発を経て、有名店が立ち並ぶ商店街となっている。
人の流れは、ジウロたちと、中央軍の魔道士を避けて流れていく
中央軍からの魔道士たちは、5名。
先頭にたつ、グリシャム・バッハを除いては、全員が深くフードを下ろして、顔を隠していた。
「急ぎの要件で、クローディアまで出かけるところです。」
ランゼは、口早に言った。
「魔道院に、御用でしたら、直接にどうぞ。」
「アルディーン姫はお変わりないか?」
「報告はあげております。それに満足されずに、ご自身の足を運ばれたのですから、ご自身の目でお確かめ下さい。」
「そのようにしよう。」
グリシャム・バッハは、鷹揚にそう答えた。
「だが」
「だが? なんです?」
「ランゼ事務局長。あなたの態度は、中央軍からじきじきに派遣された我々に対するものとしては、あまりにも無礼だ。
教育がは必要だな。」
「なにを言い出すのです!?」
「かといって、この人混みでは我が技をふるえば、無辜の犠牲者が、増えるばかり。
ポルス。」
グリシャム・バッハの呼び掛けに、うしろの控えた魔導師のひとりがあゆみ出た。
魔道士のマントを、脱ぎ捨てると、現れたのはしなやかな筋肉が全身を覆った拳士だった。
「ランゼ事務総長とお付きの若者の四肢を折って、クローディア行きの列車に放り込んであげなさい。
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