19 / 59
第三章 迷宮
第19話 迷宮入り
しおりを挟む
迷宮を中心に、街が栄えるというのは、よくある話しだ。
迷宮は、別に、空高くそびえる塔の中に作られているのではない。
地中にあいた洞窟の奥にあるわけでもない。
王宮の地下深く。
罪人を突き落とし、絶望のなかで殺すための、地下牢が迷宮化する場合も認められているが、要は、迷宮は「場所」ではなく、ひとつの独立した世界なのだ。
迷宮の維持管理には、それこそ、古竜なみの高度な魔力を備えた知性体か、または、その疑似的な役目を代行する「コア」と呼ばれる設備が、必要となることから、迷宮が完全に独立した「世界」なのか、擬似的に構築された「閉鎖空間」なのかは、諸説ある。
ぼくの説明を、ティーンはつまらなそうに聴いていた。
いけないなあ。ついつい、若いものにモノを教える説教口調になってしまう。
いまは、ぼくも見かけは、若いものなのだ。
説教口調は、やめんといかんなあ、とジジくさい反省を心の中でしていると。
「あのねえ、そんなことは、とっくに知ってるの。」
買い揃えた冒険者風の出で立ちに身を包んだティーンが言った。
「え、そうなの?」
「わたしは、魔道院の学生であって、幼年学校の生徒じゃない。」
なるほど。
若い連中が、みんなヒヨコに見えるのは、老人の悪い癖だ。
幼くても、牙をそなえた猛獣である可能性は常に存在する。
ここは、最寄りの街からは健脚のものなら、半刻。
迷宮が封印されて時期を除けば、迷宮探索の冒険目当ての宿屋や道具屋などが、軒を連ねる。
昨今は、観光地としても人気が高い。
迷宮の入り口のある、黒い石造りの神殿の中庭は、最大の闘技場のさらに倍の広さがある。
神殿の入口からみて、最も奥に、地下へと下る長い階段があった。
長い、緩やかな階段だ。
その先に、かつては、閉ざされた巨大な青銅の門があり、そこが唯一の迷宮の入口とされていた。
ぼくとティーンは、カップルぽく見えるように手を繋いで階段を降りた。
迷宮の門をくぐった先は、舞踏会場を思わせる大広間だった。
昔は、高い高い天井には、シャンデリアを思わせる照明が揺れ、魔物たちと勇敢な冒険者たちの死闘が展開されたというが。
もっともいまは、死闘も舞踏会も無理である。
広間を埋め尽くすのは、大半が土産物屋。もしくはガイドツアー募集の客引きである。
ここは、もう迷宮の中のはずなのだが。
一応、すぐ外は「神殿内」ということで、この手の商売が禁止されているのだ。
だからといって、迷宮の中で、こんな商売をするかっ!
「買い忘れた装備はないかね?
うちは一日レンタルもやってるよ。
万が一のために解毒剤と回復薬。今日はセットで特別価格だ!」
「どう? 安全確実なルートで、溶岩湖までご案内するよ。もちろん、ウィルズミラーの撮影もオッケイだ。」
「竜をみたい方は、こちらです。
一緒に写真も撮ってくれるかもよ!」
続々とつめかける者たちは、ただの観光棋客かまたは、冒険者の格好をした観光客だった。
ぼくらは、後者である。
(と、周りには思っておいて欲しい。)
一応、「スリル!サスペンス!誰も行かない深層部へあなたをご案内 玄人向けミステリーツアー 参加者募集中」と、看板を掲げたガイドツアーを、ぼくとティーンは訪ねた。
「いらっしゃい。若いねえ。マントがお似合いだ。ホントの冒者みたいに見えるよ。」
お世辞のつもりか、丸顔の周りをぐるっと髭が覆った店主は、お世辞のつもりか、そう言った。
魔道院の学生は、一般課程を終了すれば、青銅級の冒険者資格と「同等」と見なされるため、これは少なくともティーンにはお世辞には当たらない。
「どうかな。家族友人に自慢話のできる迷宮ツアーは? うちはちょっぴり危ないところも案内しちゃうんだけどね。
そのかわりひょっとしたら、手付かずのお宝が手に入ることもあるよ。」
「どこまで、入れるの?」
ティーンが充分、年相応の純真そうな顔で尋ねた。
「吸血鬼の住む暗黒宮殿。なんと古竜にも会えるかもしれない大空洞。死霊の救う虚無の空隙。迷宮そのものがひとつの生物とも言われる謎めいた階層。
なんでも承るよ。まあ……料金はそれなりになるけれど。」
「うーん。」
ティーンは考え込んだ。
「ちょっと違うなあ。」
「とっておきの名所も案内出来る。まずもって、うち以上ガイドは、いない。」
「場所じゃないんだよなあ。ほんとのところ。」
「古竜をみたい、とかかい。それは流石がに。
会えそうな場所につれていくことは出来るし、安全も、ある程度は保証できる。
だが、相手も知性のある生き物なんで、確実に、どうのこうのは、言えねえのさ。」
ぼくは、ティーンに目配せをした。
このガイド屋。「“ワンショット”リーガン」は実はそれほど流行ってはいない。
大半のガイド屋は、本当に迷宮内部の安全なコースを、身振り手振りでもりあげて、冒険をしたように、客に錯覚をさせて金をとる
のが商売だが、ここは、違う。
いまとなっては、絶滅してしまった昔ながらの「冒険者ギルド」。その中でも迷宮攻略だけに特化したギルド。
通称“潜り屋”と呼ばれる専門性の高いギルドだったはずだ。
ティーンは、なかなか魅力的な笑顔を、店主に向けた。
彼女は、美人だ。
フィオリナともアデルとも違う。リウど違う。
いや、共通するものはあるのだが、もう少し線の柔らかい。
ひとを安心させるような、温かみのある美貌だった。
「わたしは、階層主に会いたいんだ。」
迷宮は、別に、空高くそびえる塔の中に作られているのではない。
地中にあいた洞窟の奥にあるわけでもない。
王宮の地下深く。
罪人を突き落とし、絶望のなかで殺すための、地下牢が迷宮化する場合も認められているが、要は、迷宮は「場所」ではなく、ひとつの独立した世界なのだ。
迷宮の維持管理には、それこそ、古竜なみの高度な魔力を備えた知性体か、または、その疑似的な役目を代行する「コア」と呼ばれる設備が、必要となることから、迷宮が完全に独立した「世界」なのか、擬似的に構築された「閉鎖空間」なのかは、諸説ある。
ぼくの説明を、ティーンはつまらなそうに聴いていた。
いけないなあ。ついつい、若いものにモノを教える説教口調になってしまう。
いまは、ぼくも見かけは、若いものなのだ。
説教口調は、やめんといかんなあ、とジジくさい反省を心の中でしていると。
「あのねえ、そんなことは、とっくに知ってるの。」
買い揃えた冒険者風の出で立ちに身を包んだティーンが言った。
「え、そうなの?」
「わたしは、魔道院の学生であって、幼年学校の生徒じゃない。」
なるほど。
若い連中が、みんなヒヨコに見えるのは、老人の悪い癖だ。
幼くても、牙をそなえた猛獣である可能性は常に存在する。
ここは、最寄りの街からは健脚のものなら、半刻。
迷宮が封印されて時期を除けば、迷宮探索の冒険目当ての宿屋や道具屋などが、軒を連ねる。
昨今は、観光地としても人気が高い。
迷宮の入り口のある、黒い石造りの神殿の中庭は、最大の闘技場のさらに倍の広さがある。
神殿の入口からみて、最も奥に、地下へと下る長い階段があった。
長い、緩やかな階段だ。
その先に、かつては、閉ざされた巨大な青銅の門があり、そこが唯一の迷宮の入口とされていた。
ぼくとティーンは、カップルぽく見えるように手を繋いで階段を降りた。
迷宮の門をくぐった先は、舞踏会場を思わせる大広間だった。
昔は、高い高い天井には、シャンデリアを思わせる照明が揺れ、魔物たちと勇敢な冒険者たちの死闘が展開されたというが。
もっともいまは、死闘も舞踏会も無理である。
広間を埋め尽くすのは、大半が土産物屋。もしくはガイドツアー募集の客引きである。
ここは、もう迷宮の中のはずなのだが。
一応、すぐ外は「神殿内」ということで、この手の商売が禁止されているのだ。
だからといって、迷宮の中で、こんな商売をするかっ!
「買い忘れた装備はないかね?
うちは一日レンタルもやってるよ。
万が一のために解毒剤と回復薬。今日はセットで特別価格だ!」
「どう? 安全確実なルートで、溶岩湖までご案内するよ。もちろん、ウィルズミラーの撮影もオッケイだ。」
「竜をみたい方は、こちらです。
一緒に写真も撮ってくれるかもよ!」
続々とつめかける者たちは、ただの観光棋客かまたは、冒険者の格好をした観光客だった。
ぼくらは、後者である。
(と、周りには思っておいて欲しい。)
一応、「スリル!サスペンス!誰も行かない深層部へあなたをご案内 玄人向けミステリーツアー 参加者募集中」と、看板を掲げたガイドツアーを、ぼくとティーンは訪ねた。
「いらっしゃい。若いねえ。マントがお似合いだ。ホントの冒者みたいに見えるよ。」
お世辞のつもりか、丸顔の周りをぐるっと髭が覆った店主は、お世辞のつもりか、そう言った。
魔道院の学生は、一般課程を終了すれば、青銅級の冒険者資格と「同等」と見なされるため、これは少なくともティーンにはお世辞には当たらない。
「どうかな。家族友人に自慢話のできる迷宮ツアーは? うちはちょっぴり危ないところも案内しちゃうんだけどね。
そのかわりひょっとしたら、手付かずのお宝が手に入ることもあるよ。」
「どこまで、入れるの?」
ティーンが充分、年相応の純真そうな顔で尋ねた。
「吸血鬼の住む暗黒宮殿。なんと古竜にも会えるかもしれない大空洞。死霊の救う虚無の空隙。迷宮そのものがひとつの生物とも言われる謎めいた階層。
なんでも承るよ。まあ……料金はそれなりになるけれど。」
「うーん。」
ティーンは考え込んだ。
「ちょっと違うなあ。」
「とっておきの名所も案内出来る。まずもって、うち以上ガイドは、いない。」
「場所じゃないんだよなあ。ほんとのところ。」
「古竜をみたい、とかかい。それは流石がに。
会えそうな場所につれていくことは出来るし、安全も、ある程度は保証できる。
だが、相手も知性のある生き物なんで、確実に、どうのこうのは、言えねえのさ。」
ぼくは、ティーンに目配せをした。
このガイド屋。「“ワンショット”リーガン」は実はそれほど流行ってはいない。
大半のガイド屋は、本当に迷宮内部の安全なコースを、身振り手振りでもりあげて、冒険をしたように、客に錯覚をさせて金をとる
のが商売だが、ここは、違う。
いまとなっては、絶滅してしまった昔ながらの「冒険者ギルド」。その中でも迷宮攻略だけに特化したギルド。
通称“潜り屋”と呼ばれる専門性の高いギルドだったはずだ。
ティーンは、なかなか魅力的な笑顔を、店主に向けた。
彼女は、美人だ。
フィオリナともアデルとも違う。リウど違う。
いや、共通するものはあるのだが、もう少し線の柔らかい。
ひとを安心させるような、温かみのある美貌だった。
「わたしは、階層主に会いたいんだ。」
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる