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第三章 迷宮
第20話 そうする理由
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店主は、驚いたように、たっぷりと、時間をかけて、ティーンを見つめた。
それから、困ったもんだ、とでも言うように、頭を振って、肩をすくめた。
小太りのオヤジがやると、なんともユーモラスに見えた。
「あのなあ、お嬢さん。ここの階層主は、全部が“知性のある魔物”すなわち災害級だ。おおきな声では言えないが、ここからここまでなら、魔物と遭遇せずに歩き回れるエリア、魔物と遭遇はするが、素材の収集か出来たり、希少な鉱物、植物が採取できるエリア。これがきっちり、決まっている。
だから、こうやって、観光目的の迷宮ツアーなんぞが、出来るわけなんだが。」
「階層主の部屋まで、案内してくれればいいんだけど。そこからの折衝は、わたしがやる!」
店主はちょっと考えてから、前金で貰いたいと、金額を口にした。
どう考えてもひと財産。
やっと成人したかどうかの若いカップルに、払える金額ではなかった。
「あのねえ。身ぐるみ剝ぐ気なの?」
「階層主に会って、命をとられてしまうのなら、財産など持っていても意味は無いし、もし、生き延びれば、全財産をはたいてもお釣りがくる。
ここの階層主は、そういう存在だし、それがわかっていて、おまえも会いたいと言ったのだろう?」
ティーンの顔に、いやあな笑みが浮かんだ。
誰かに、似ていた……思い出すことは出来なかったが。
「と、言うことは安くなくとも、階層主と会えるところまでは、案内が出来るってことね?」
しまった!
と、でも言うように店主は、顔をしかめた。
「腹芸は、ここまででいいんじゃないかな、“ダイバー”リーガン。」
ぼくの呼び掛けをきいて、店主は、いっそう、難しい顔になった。
「その呼び方をする奴は、ひとりしかいないし、そいつは、とっくに引退したはずだがな。」
「ぼくは、そいつの最期の弟子でね。名前は、ヒスイ。冒険者だ。まだ、ほんの駆け出しだけどね。」
「なにか、証拠になるものはあるのか?」
「ないな。強いて言うなら、ぼくがここにいるのが、証拠だろう。」
店主……“ダイバー”リーガンの眼光が鋭くなる。
「どういう意味だ。」
「去年。あんたが…師匠にあてた手紙を、ぼくも見てるのさ。
配下のガイドのひとりが、階層主の“試し”に通ったそうじゃないか。」
■■■■■
話は、少し遡る。
昨晩のことだ。
駅に併設された料金が、けっこう割高なホテルの一室。
「なにを考えているんだ、ヒスイ!」
ぼくの提案をきいたティーンは、さすがに目をむいて、どなった。
「せっかく、脱出したグランダへ戻るなんて。」
「ぼくらは、今のところ、世界で二人だけ。完全に孤立した勢力だ。」
ぼくは言った。
「もちろん、中心人物は、おまえで、ぼくは巻き込まれたに過ぎない。ただ、“魔拳士”ジウル・ボルテック=“妖怪”ボルテック卿が、筋書きを書いて、かの大神が、直々に絡んでいる以上、そこから、逃げ出すよりも、立ち向かったほうがいいのは、明白だ。」
「非常に回りくどい言い方で、わたしの味方をしてくれるって、言ってるのはわかる。
それは、ありがとう。」
ティーンは、一応はそう言ったが、追求の手を緩める気はなかった。
「それと、グランダに戻ることと、どういう関係があるの?」
「いまのぼくらの状況は、歴史を紐解くと、五十年前に、バズス=リウが、旗揚げをひした時の、状況に近い。孤立無援で、頼りになるものは、フィオリナただ、独りだった。」
「わたしは、戦女神のような現人神じゃないし、あなただって、悪いけど、バズス=リウには、だいぶ見劣りすると思うけど。」
「それは否定しない。」
ぼくは、正直に言った。
「似ているのは、状況だ。
相手は、世界そのものに匹敵する大勢力、対して、こちらは二人きりだ。
そして、大きな組織は、小回りのきく個人を相手にするときには、往々にしてその武器の選択を誤るものだ。
例えば、仕付け針を使うべきところに、破城槌をもちだしてしまうように、だな。」
「つまり、あなたの言いたいことは、常に相手の裏をかいて、動き続けることで、相手をミスリードできるってことね。
一応は、分かった。
でも、なんで、逃げ出したグランダなの?」
「我々には、味方、もしくは中立な立場から、アドバイスしてくれるものが必要だ。
十分な知識と、中央軍にも一定の影響力をもち、場合によっては、庇護してくれる存在が。」
「わたしもそれは考えたわ。
例えば、クローディア家とか。
でもあのジオロが、その影響力を駆使して、わたしを守るかわりに、ボディガードを召喚して、グランダからにがすことを選択したことを考えると、どこを頼っても力不足なのは、見えてるわ。
少なくともグランダに、わたしたちを匿ってくれるひとなんていないわ。」
「さて、そこでだ。」
もったいぶった話し方だな、とぼくは反省しながら続けた。
「また、話は、バズス=リウとフィオリナの故事に戻る。彼らは地上にはまったく味方はいなかったが、まったく味方がいなかったかというと、そうでもない。」
ティーンの目が零れ落ちそうなほどに、見開かれた。
「……それって、まさか。」
「そうだ。“魔王宮”だ。あそこの階層主ならば、ぼくらを匿い、助言をくれ、さらに味方になってくれる可能性がある。」
それから、困ったもんだ、とでも言うように、頭を振って、肩をすくめた。
小太りのオヤジがやると、なんともユーモラスに見えた。
「あのなあ、お嬢さん。ここの階層主は、全部が“知性のある魔物”すなわち災害級だ。おおきな声では言えないが、ここからここまでなら、魔物と遭遇せずに歩き回れるエリア、魔物と遭遇はするが、素材の収集か出来たり、希少な鉱物、植物が採取できるエリア。これがきっちり、決まっている。
だから、こうやって、観光目的の迷宮ツアーなんぞが、出来るわけなんだが。」
「階層主の部屋まで、案内してくれればいいんだけど。そこからの折衝は、わたしがやる!」
店主はちょっと考えてから、前金で貰いたいと、金額を口にした。
どう考えてもひと財産。
やっと成人したかどうかの若いカップルに、払える金額ではなかった。
「あのねえ。身ぐるみ剝ぐ気なの?」
「階層主に会って、命をとられてしまうのなら、財産など持っていても意味は無いし、もし、生き延びれば、全財産をはたいてもお釣りがくる。
ここの階層主は、そういう存在だし、それがわかっていて、おまえも会いたいと言ったのだろう?」
ティーンの顔に、いやあな笑みが浮かんだ。
誰かに、似ていた……思い出すことは出来なかったが。
「と、言うことは安くなくとも、階層主と会えるところまでは、案内が出来るってことね?」
しまった!
と、でも言うように店主は、顔をしかめた。
「腹芸は、ここまででいいんじゃないかな、“ダイバー”リーガン。」
ぼくの呼び掛けをきいて、店主は、いっそう、難しい顔になった。
「その呼び方をする奴は、ひとりしかいないし、そいつは、とっくに引退したはずだがな。」
「ぼくは、そいつの最期の弟子でね。名前は、ヒスイ。冒険者だ。まだ、ほんの駆け出しだけどね。」
「なにか、証拠になるものはあるのか?」
「ないな。強いて言うなら、ぼくがここにいるのが、証拠だろう。」
店主……“ダイバー”リーガンの眼光が鋭くなる。
「どういう意味だ。」
「去年。あんたが…師匠にあてた手紙を、ぼくも見てるのさ。
配下のガイドのひとりが、階層主の“試し”に通ったそうじゃないか。」
■■■■■
話は、少し遡る。
昨晩のことだ。
駅に併設された料金が、けっこう割高なホテルの一室。
「なにを考えているんだ、ヒスイ!」
ぼくの提案をきいたティーンは、さすがに目をむいて、どなった。
「せっかく、脱出したグランダへ戻るなんて。」
「ぼくらは、今のところ、世界で二人だけ。完全に孤立した勢力だ。」
ぼくは言った。
「もちろん、中心人物は、おまえで、ぼくは巻き込まれたに過ぎない。ただ、“魔拳士”ジウル・ボルテック=“妖怪”ボルテック卿が、筋書きを書いて、かの大神が、直々に絡んでいる以上、そこから、逃げ出すよりも、立ち向かったほうがいいのは、明白だ。」
「非常に回りくどい言い方で、わたしの味方をしてくれるって、言ってるのはわかる。
それは、ありがとう。」
ティーンは、一応はそう言ったが、追求の手を緩める気はなかった。
「それと、グランダに戻ることと、どういう関係があるの?」
「いまのぼくらの状況は、歴史を紐解くと、五十年前に、バズス=リウが、旗揚げをひした時の、状況に近い。孤立無援で、頼りになるものは、フィオリナただ、独りだった。」
「わたしは、戦女神のような現人神じゃないし、あなただって、悪いけど、バズス=リウには、だいぶ見劣りすると思うけど。」
「それは否定しない。」
ぼくは、正直に言った。
「似ているのは、状況だ。
相手は、世界そのものに匹敵する大勢力、対して、こちらは二人きりだ。
そして、大きな組織は、小回りのきく個人を相手にするときには、往々にしてその武器の選択を誤るものだ。
例えば、仕付け針を使うべきところに、破城槌をもちだしてしまうように、だな。」
「つまり、あなたの言いたいことは、常に相手の裏をかいて、動き続けることで、相手をミスリードできるってことね。
一応は、分かった。
でも、なんで、逃げ出したグランダなの?」
「我々には、味方、もしくは中立な立場から、アドバイスしてくれるものが必要だ。
十分な知識と、中央軍にも一定の影響力をもち、場合によっては、庇護してくれる存在が。」
「わたしもそれは考えたわ。
例えば、クローディア家とか。
でもあのジオロが、その影響力を駆使して、わたしを守るかわりに、ボディガードを召喚して、グランダからにがすことを選択したことを考えると、どこを頼っても力不足なのは、見えてるわ。
少なくともグランダに、わたしたちを匿ってくれるひとなんていないわ。」
「さて、そこでだ。」
もったいぶった話し方だな、とぼくは反省しながら続けた。
「また、話は、バズス=リウとフィオリナの故事に戻る。彼らは地上にはまったく味方はいなかったが、まったく味方がいなかったかというと、そうでもない。」
ティーンの目が零れ落ちそうなほどに、見開かれた。
「……それって、まさか。」
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