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第三章 迷宮
第21話 案内人
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“ワンショット”リーガンは、周りの同様の店と一緒で、テントに毛が生えた程度。
もともと、迷宮の中なのだから、雨風の心配もないのだから、これでいいのだろう。
一応、なかには、テープルと椅子があり、「商談」ができるようには、なっていた。
少し待っていろ。
そう言って、ぼくらをおいて、店を出たリーガンは、しばらく戻ってこなかった。
「ここまでは、予定通り、ね。」
ティーンは、ぼくを見つめた。
その視線には、同じ小悪党仲間に対する共感以上のものがあったように思う。
少しは、信頼という、やつを獲得出来たのだろうか。
「問題はここからだ。」
ぼくは言った。
「ぼくも、師匠宛の手紙を読んだだけだ。
リーガンの部下の誰が、階層主の試しを得たのか。そもそもそれが本当なのかとうかも確定ではない。」
「少なくとも、そこまでは、本当でしょうよ。」
ティーンがそう言ったとき、リーガンが戻ってきた。
白いコートの女魔道士を連れている。
いや、剣や槍などの武器を携えていなかったから、そう判断したまでで、黒いタイツの上からロングコートを羽織っただけの姿は、少なくとも、ぼくの知るどんな冒険者にも当てはまらない。
「駅で、ちょっとした事件があったらしい。」
リーガンは、ぼくはの前の席に腰を下ろした。
女魔道士も、そのとなりに腰を、据えた。
俯いた顔は、フードのためか、顔立ちまでは分からない。
「さきほど、グランダ魔道院のランゼ事務局長が、駅前で、襲われたそうだ。護衛が撃退したそうだが、襲ったのは、統一帝国中央軍の筆頭魔導師グリシャム・バッハの手下らしい。
返り討ちにあって、両手両足を砕かれた襲撃者は、保安部に逮捕されたが、黙秘。
グリシャム・バッハらは、宿に籠ったまま、だし、襲われた方のランゼ事務局長とその護衛は、そのまま、クローディアに旅立ってしまって、ウィルズミラーを使っての呼び掛けにも応答無し。
両者の間に、なんらかのトラブルが、あったのは、間違いないが、事情が分からず!保安部も手をこまねいている。」
「そりゃ、大事件だ!」
ぼくは、言った。
リーガンは、疑り深い視線で、ぼくを見た。
「グランダは、ほんとに久しぶりなんだ。そんなに治安の悪い街だという印象はなかったけど。」
「ウィルズミラーのニュース配信だと、トップのトピックだ。
おまえたちくらいの若者だと、暇さえあれば、ウィルズミラーを眺めているもんだが。」
と、リーガンは、わざわざ自分のウィルズミラーの画面を差し出した。
「迷宮内は、ウィルズミラーは、禁止のところが、多いから、宿においてきて、しまってるんです。」
ティーンは、しおらしく、そう答えた。
これは本当で、迷宮内の“情報”を記録して持ち帰るのは、魔物の素材や希少鉱物を持ち帰るのと、同じ程度の危険度があった。
魔物のなかには、ウィルズミラーに記録された映像や動画を“ゲート”として、現れることができるものもいるという。
それ以外にも、迷宮内は、撮影や録音、自動マッピングを阻害する魔法が働いているところが多い。
それなりに、高価で、ものすごく頑丈でもないウィルズミラーを、わざわざ迷宮探索に持ち込まない、という選択肢は、当然存在した。
ふう。
ぼくは、胸を撫で下ろした。
ぼくらは、ターミナル駅のホテルで一晩あかしたあと、グランダに戻り、そのまま、魔王宮へ直行していた。
もたもたしていたら、駅でグリシャム・バッハと鉢合わせしたかもしれない。
「そちらが、階層主の“試し”を得たという冒険者の方ですか?」
ぼくが尋ねると、女魔道士は、顔を上げた。
細面で、知的な顔立ちだ。
かけた眼鏡は、視力矯正といつよりも、様々な情報の収集、分析のための魔導具だろう。
「サリア・アキュロンだ。」
「はじめて、お目にかかる。ボスの昔の知り合いのお弟子さんにあたる、とか?」
「ぼくは、護衛に雇われただけでね。
実際の依頼者は、こっちの女性だよ。」
真っ黒な瞳が、ティーンを見据えた。
ティーンも、サリア・アキュロンを見返した。
「ティーンという。訳があって、階層主と会いたいんだ。ここなら、それを可能にする人材がいると聞いてきた。
あなたが、そうなのか、サリア・アキュロン。」
女魔道士は、視線を逸らし、のろのろと言った。
「いかにも。わたしは、階層主の“試し”を経て生き延びている。
ただ、わたしが災害級の魔物並の猛者だと思ってもらっては、困る。案内は出来るが、そのまでの道のりは危険が伴う。
自分の身を守る自信がないのなら、やめておいた方がいい。」
「危険は承知のうえよ!」
ティーンは、きっぱりと言ったが、サリアは、さらに続けた。
「確かに。あなたが、厄介な人物なのは、わかる。
隠し武器を少なくとも、5ヶ所。身体にひそめている。だが、それは対人用のものだ。迷宮の魔物には通じない。」
「ぼくらは、別に戦うのが、目的じゃあないんだ。」
ぼくは口を挟んだ。
「戦闘は可能な限り、回避したい。」
「それでも、避けられない戦闘はある。
こらから、案内するところは、観光客用のガイドコースではないんだ。」
「ぼくも、ティーンも本業は魔道士だ。
魔法攻撃のほうが得意でね。」
サリアは、少し考え込んだ。
それから、隣のリーガンに向かって言った。
「わたしは、受けてやってもいいと思う。」
「おまえがそう言うなら、俺も反対はせんが。」
リーガンは、改めて、ぼくらを向き直った。
「おまえらが、どんな裏の事情があるのかは、知らんが、迷宮に入ったら、それはないものと思えよ。そこは、独立したひとつの世界で、階層主は、ひとりで軍団にも匹敵する。」
だからこそ、こっちは迷宮を目指してるんだ、とぼくは心の中で思った。
「ところで、誰と会いたいの?
可能かどうかはともかくとして、リクエストには応じるわ。」
「そんなに、たくさんの階層主から、“試し”を受けたの!?」
「いえ、よく勘違いされるんだけどね。
“試し”は、ともに語る価値のあるもなかどうかを判断するもので、別に力比べではないの。だから、ひとりの階層の“試し”で魔王宮のすべての階層主は、“試し”に通過したものとして、わたしを、扱ってくれる。
さあ、どの階層主に会いたい? 難易度に差はあるが、そこらも含めて、相談しよう。まず、おまえの希望から聞こうじゃないか!」
もともと、迷宮の中なのだから、雨風の心配もないのだから、これでいいのだろう。
一応、なかには、テープルと椅子があり、「商談」ができるようには、なっていた。
少し待っていろ。
そう言って、ぼくらをおいて、店を出たリーガンは、しばらく戻ってこなかった。
「ここまでは、予定通り、ね。」
ティーンは、ぼくを見つめた。
その視線には、同じ小悪党仲間に対する共感以上のものがあったように思う。
少しは、信頼という、やつを獲得出来たのだろうか。
「問題はここからだ。」
ぼくは言った。
「ぼくも、師匠宛の手紙を読んだだけだ。
リーガンの部下の誰が、階層主の試しを得たのか。そもそもそれが本当なのかとうかも確定ではない。」
「少なくとも、そこまでは、本当でしょうよ。」
ティーンがそう言ったとき、リーガンが戻ってきた。
白いコートの女魔道士を連れている。
いや、剣や槍などの武器を携えていなかったから、そう判断したまでで、黒いタイツの上からロングコートを羽織っただけの姿は、少なくとも、ぼくの知るどんな冒険者にも当てはまらない。
「駅で、ちょっとした事件があったらしい。」
リーガンは、ぼくはの前の席に腰を下ろした。
女魔道士も、そのとなりに腰を、据えた。
俯いた顔は、フードのためか、顔立ちまでは分からない。
「さきほど、グランダ魔道院のランゼ事務局長が、駅前で、襲われたそうだ。護衛が撃退したそうだが、襲ったのは、統一帝国中央軍の筆頭魔導師グリシャム・バッハの手下らしい。
返り討ちにあって、両手両足を砕かれた襲撃者は、保安部に逮捕されたが、黙秘。
グリシャム・バッハらは、宿に籠ったまま、だし、襲われた方のランゼ事務局長とその護衛は、そのまま、クローディアに旅立ってしまって、ウィルズミラーを使っての呼び掛けにも応答無し。
両者の間に、なんらかのトラブルが、あったのは、間違いないが、事情が分からず!保安部も手をこまねいている。」
「そりゃ、大事件だ!」
ぼくは、言った。
リーガンは、疑り深い視線で、ぼくを見た。
「グランダは、ほんとに久しぶりなんだ。そんなに治安の悪い街だという印象はなかったけど。」
「ウィルズミラーのニュース配信だと、トップのトピックだ。
おまえたちくらいの若者だと、暇さえあれば、ウィルズミラーを眺めているもんだが。」
と、リーガンは、わざわざ自分のウィルズミラーの画面を差し出した。
「迷宮内は、ウィルズミラーは、禁止のところが、多いから、宿においてきて、しまってるんです。」
ティーンは、しおらしく、そう答えた。
これは本当で、迷宮内の“情報”を記録して持ち帰るのは、魔物の素材や希少鉱物を持ち帰るのと、同じ程度の危険度があった。
魔物のなかには、ウィルズミラーに記録された映像や動画を“ゲート”として、現れることができるものもいるという。
それ以外にも、迷宮内は、撮影や録音、自動マッピングを阻害する魔法が働いているところが多い。
それなりに、高価で、ものすごく頑丈でもないウィルズミラーを、わざわざ迷宮探索に持ち込まない、という選択肢は、当然存在した。
ふう。
ぼくは、胸を撫で下ろした。
ぼくらは、ターミナル駅のホテルで一晩あかしたあと、グランダに戻り、そのまま、魔王宮へ直行していた。
もたもたしていたら、駅でグリシャム・バッハと鉢合わせしたかもしれない。
「そちらが、階層主の“試し”を得たという冒険者の方ですか?」
ぼくが尋ねると、女魔道士は、顔を上げた。
細面で、知的な顔立ちだ。
かけた眼鏡は、視力矯正といつよりも、様々な情報の収集、分析のための魔導具だろう。
「サリア・アキュロンだ。」
「はじめて、お目にかかる。ボスの昔の知り合いのお弟子さんにあたる、とか?」
「ぼくは、護衛に雇われただけでね。
実際の依頼者は、こっちの女性だよ。」
真っ黒な瞳が、ティーンを見据えた。
ティーンも、サリア・アキュロンを見返した。
「ティーンという。訳があって、階層主と会いたいんだ。ここなら、それを可能にする人材がいると聞いてきた。
あなたが、そうなのか、サリア・アキュロン。」
女魔道士は、視線を逸らし、のろのろと言った。
「いかにも。わたしは、階層主の“試し”を経て生き延びている。
ただ、わたしが災害級の魔物並の猛者だと思ってもらっては、困る。案内は出来るが、そのまでの道のりは危険が伴う。
自分の身を守る自信がないのなら、やめておいた方がいい。」
「危険は承知のうえよ!」
ティーンは、きっぱりと言ったが、サリアは、さらに続けた。
「確かに。あなたが、厄介な人物なのは、わかる。
隠し武器を少なくとも、5ヶ所。身体にひそめている。だが、それは対人用のものだ。迷宮の魔物には通じない。」
「ぼくらは、別に戦うのが、目的じゃあないんだ。」
ぼくは口を挟んだ。
「戦闘は可能な限り、回避したい。」
「それでも、避けられない戦闘はある。
こらから、案内するところは、観光客用のガイドコースではないんだ。」
「ぼくも、ティーンも本業は魔道士だ。
魔法攻撃のほうが得意でね。」
サリアは、少し考え込んだ。
それから、隣のリーガンに向かって言った。
「わたしは、受けてやってもいいと思う。」
「おまえがそう言うなら、俺も反対はせんが。」
リーガンは、改めて、ぼくらを向き直った。
「おまえらが、どんな裏の事情があるのかは、知らんが、迷宮に入ったら、それはないものと思えよ。そこは、独立したひとつの世界で、階層主は、ひとりで軍団にも匹敵する。」
だからこそ、こっちは迷宮を目指してるんだ、とぼくは心の中で思った。
「ところで、誰と会いたいの?
可能かどうかはともかくとして、リクエストには応じるわ。」
「そんなに、たくさんの階層主から、“試し”を受けたの!?」
「いえ、よく勘違いされるんだけどね。
“試し”は、ともに語る価値のあるもなかどうかを判断するもので、別に力比べではないの。だから、ひとりの階層の“試し”で魔王宮のすべての階層主は、“試し”に通過したものとして、わたしを、扱ってくれる。
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