小悪党、転生~悪事を重ねてのし上がって大往生、これでいいやと思ったらなぜか周りが離してくれません

此寺 美津己

文字の大きさ
21 / 59
第三章 迷宮

第21話 案内人

しおりを挟む
“ワンショット”リーガンは、周りの同様の店と一緒で、テントに毛が生えた程度。
もともと、迷宮の中なのだから、雨風の心配もないのだから、これでいいのだろう。

一応、なかには、テープルと椅子があり、「商談」ができるようには、なっていた。

少し待っていろ。

そう言って、ぼくらをおいて、店を出たリーガンは、しばらく戻ってこなかった。

「ここまでは、予定通り、ね。」
ティーンは、ぼくを見つめた。
その視線には、同じ小悪党仲間に対する共感以上のものがあったように思う。

少しは、信頼という、やつを獲得出来たのだろうか。

「問題はここからだ。」
ぼくは言った。
「ぼくも、師匠宛の手紙を読んだだけだ。
リーガンの部下の誰が、階層主の試しを得たのか。そもそもそれが本当なのかとうかも確定ではない。」

「少なくとも、そこまでは、本当でしょうよ。」

ティーンがそう言ったとき、リーガンが戻ってきた。
白いコートの女魔道士を連れている。
いや、剣や槍などの武器を携えていなかったから、そう判断したまでで、黒いタイツの上からロングコートを羽織っただけの姿は、少なくとも、ぼくの知るどんな冒険者にも当てはまらない。

「駅で、ちょっとした事件があったらしい。」
リーガンは、ぼくはの前の席に腰を下ろした。
女魔道士も、そのとなりに腰を、据えた。
俯いた顔は、フードのためか、顔立ちまでは分からない。
「さきほど、グランダ魔道院のランゼ事務局長が、駅前で、襲われたそうだ。護衛が撃退したそうだが、襲ったのは、統一帝国中央軍の筆頭魔導師グリシャム・バッハの手下らしい。
返り討ちにあって、両手両足を砕かれた襲撃者は、保安部に逮捕されたが、黙秘。
グリシャム・バッハらは、宿に籠ったまま、だし、襲われた方のランゼ事務局長とその護衛は、そのまま、クローディアに旅立ってしまって、ウィルズミラーを使っての呼び掛けにも応答無し。
両者の間に、なんらかのトラブルが、あったのは、間違いないが、事情が分からず!保安部も手をこまねいている。」

「そりゃ、大事件だ!」
ぼくは、言った。
リーガンは、疑り深い視線で、ぼくを見た。
「グランダは、ほんとに久しぶりなんだ。そんなに治安の悪い街だという印象はなかったけど。」

「ウィルズミラーのニュース配信だと、トップのトピックだ。
おまえたちくらいの若者だと、暇さえあれば、ウィルズミラーを眺めているもんだが。」
と、リーガンは、わざわざ自分のウィルズミラーの画面を差し出した。
「迷宮内は、ウィルズミラーは、禁止のところが、多いから、宿においてきて、しまってるんです。」
ティーンは、しおらしく、そう答えた。

これは本当で、迷宮内の“情報”を記録して持ち帰るのは、魔物の素材や希少鉱物を持ち帰るのと、同じ程度の危険度があった。

魔物のなかには、ウィルズミラーに記録された映像や動画を“ゲート”として、現れることができるものもいるという。
それ以外にも、迷宮内は、撮影や録音、自動マッピングを阻害する魔法が働いているところが多い。

それなりに、高価で、ものすごく頑丈でもないウィルズミラーを、わざわざ迷宮探索に持ち込まない、という選択肢は、当然存在した。

ふう。
ぼくは、胸を撫で下ろした。

ぼくらは、ターミナル駅のホテルで一晩あかしたあと、グランダに戻り、そのまま、魔王宮へ直行していた。
もたもたしていたら、駅でグリシャム・バッハと鉢合わせしたかもしれない。

「そちらが、階層主の“試し”を得たという冒険者の方ですか?」

ぼくが尋ねると、女魔道士は、顔を上げた。
細面で、知的な顔立ちだ。
かけた眼鏡は、視力矯正といつよりも、様々な情報の収集、分析のための魔導具だろう。

「サリア・アキュロンだ。」
「はじめて、お目にかかる。ボスの昔の知り合いのお弟子さんにあたる、とか?」
「ぼくは、護衛に雇われただけでね。
実際の依頼者は、こっちの女性だよ。」

真っ黒な瞳が、ティーンを見据えた。
ティーンも、サリア・アキュロンを見返した。

「ティーンという。訳があって、階層主と会いたいんだ。ここなら、それを可能にする人材がいると聞いてきた。
あなたが、そうなのか、サリア・アキュロン。」

女魔道士は、視線を逸らし、のろのろと言った。

「いかにも。わたしは、階層主の“試し”を経て生き延びている。
ただ、わたしが災害級の魔物並の猛者だと思ってもらっては、困る。案内は出来るが、そのまでの道のりは危険が伴う。
自分の身を守る自信がないのなら、やめておいた方がいい。」

「危険は承知のうえよ!」
ティーンは、きっぱりと言ったが、サリアは、さらに続けた。

「確かに。あなたが、厄介な人物なのは、わかる。
隠し武器を少なくとも、5ヶ所。身体にひそめている。だが、それは対人用のものだ。迷宮の魔物には通じない。」

「ぼくらは、別に戦うのが、目的じゃあないんだ。」
ぼくは口を挟んだ。
「戦闘は可能な限り、回避したい。」

「それでも、避けられない戦闘はある。
こらから、案内するところは、観光客用のガイドコースではないんだ。」

「ぼくも、ティーンも本業は魔道士だ。
魔法攻撃のほうが得意でね。」

サリアは、少し考え込んだ。

それから、隣のリーガンに向かって言った。

「わたしは、受けてやってもいいと思う。」
「おまえがそう言うなら、俺も反対はせんが。」

リーガンは、改めて、ぼくらを向き直った。

「おまえらが、どんな裏の事情があるのかは、知らんが、迷宮に入ったら、それはないものと思えよ。そこは、独立したひとつの世界で、階層主は、ひとりで軍団にも匹敵する。」

だからこそ、こっちは迷宮を目指してるんだ、とぼくは心の中で思った。

「ところで、誰と会いたいの?
可能かどうかはともかくとして、リクエストには応じるわ。」

「そんなに、たくさんの階層主から、“試し”を受けたの!?」

「いえ、よく勘違いされるんだけどね。
“試し”は、ともに語る価値のあるもなかどうかを判断するもので、別に力比べではないの。だから、ひとりの階層の“試し”で魔王宮のすべての階層主は、“試し”に通過したものとして、わたしを、扱ってくれる。
さあ、どの階層主に会いたい? 難易度に差はあるが、そこらも含めて、相談しよう。まず、おまえの希望から聞こうじゃないか!」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

【魔法少女の性事情・1】恥ずかしがり屋の魔法少女16歳が肉欲に溺れる話

TEKKON
恋愛
きっとルンルンに怒られちゃうけど、頑張って大幹部を倒したんだもん。今日は変身したままHしても、良いよね?

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...