小悪党、転生~悪事を重ねてのし上がって大往生、これでいいやと思ったらなぜか周りが離してくれません

此寺 美津己

文字の大きさ
22 / 59
第三章 迷宮

第22話 品定め

しおりを挟む
「そうねえ。」
ティーンは、目を細めて笑った。
まだ、十代半ばの女の子には、違いない。だが、その落ち着き、というか風格は、只者ではないことを、確かに感じさせた。
「逆に言うと、サリアさんのおすすめは、誰、あるいは、どれなのかな?」

この問に、サリアは、苦笑を浮かべた。

「…話が通じやすい。あるいは、比較的高層にあって、道筋が楽なのは、第二層ね。
真祖ラウル=リンドが、支配する吸血鬼のたちの領土よ。」
「なるほど。吸血鬼は、魔物というよりは、亜人だものね。」

ティーンは、ぼくに問いかけた。

「ヒスイは、どう思う?」

「ダメだ。ラウルと話をすれば、それがどう転がろうが、“漆黒城”のロウ=リンドに関係してくる。」

「いろいろとご存知なのね、坊やは。」
サリアの唇が釣り上がる。

「もう少し、話をしておこうか、サリアさん。ぼくらは、階層主の直接の武力を当てにしているわけじゃないんだ。
ぼくらが、必要としているのは、階層主の叡智なんだ。過剰魔力による老化遅延を考慮しても、人間には有り得ない長い年月を生きた、存在として、人間を越えた生命の。」

「だったら、ラウルでは、なにがダメなの?
彼女は、上古の昔から生きているから、まずもって、年齢は千歳を越えているはずよ?」

「“漆黒城”を築いたのが、ラウルの双子の姉、ロウ=リンドだからだ。
いまも、かの地は亜人たちの町として、強い自治権をもって、君臨している。
恐らくは、中央軍にとっては、目の上のタンコブだろう。ぶん殴るチャンスをいつも伺っているはずだ。
それをわざわざ与えてやる必要はない。
おなじく、ギムリウスもダメだ。
アレも、漆黒城の誕生には、深く関わっている。」

「ロウさまとギムリウスさまは、三十年法の適用に従って、とっくに引退しているわ。」
サリアは、言い返した。
「いま現在のところ、二人とも居場所は不明。
いま、“漆黒城”の主は、アルセンドリック侯爵ロウランという冒険者あがりの吸血鬼よ。」

「それでも、ぼくらが、リンド伯爵に相談を持ちかけただけで、中央軍は、それを理由に、さまざまな嫌がらせをしかけてくる。
実際に地上の勢力と関わりがある階層主は、まずい。」

「そうすると、選択肢はないに、等しくなるわよ。」
サイアは、今度は、横に座ったリーガンを睨んだ。やっかいな依頼に巻き込みやがって。
そんな目つきだった。

「四層のミュレス様は、知性はあるけれど、人間社会のことには、無頓着すぎて、到底、相談相手になるとは、思えない。そもそも、死ぬとか生きるとか、そこから理解の範疇外の生命体よ。
五層のオロア老師は、もともとが人間だから、相談相手としてはびったりだけど、逆に老師ご自身から、世俗の相談ごとなど、間違っても持ち込んでくれるな、と念を押されているわ。
六層の賢者ウィルニアは、行方不明。
いまの六層は、やたら、やっかいな罠だらけで、得るものはまったくない魔の階層と言われてる。
そして、第七層は」

「そこまででいい。」

第七層は、魔王の領域だった。

自らの招いた混乱を、反省して、ひとりそのに閉じこもっている。
あるいは、いったんは別れた妻フィオリナも一緒にいるという説もある。

いずれ、なんらかの形で耳に入るにしても、いまはまだ、リウとフィオリナには、ティーンの件は、内緒にしておきたかった。
激昂した魔王と戦女神とは、やり合いたくないからだ。

ぼくや、ティーンなど、八つ当たりだけで、吹き飛びかねない。

「七層は、入口もふくめてまるっと消滅ひているわ。だから、魔王とは接触の方法すらないの。
さて、そうすると、消去法で、案内できる階層主は、ひとりだけってことになる。」
サリアは、難しい顔で言った。
「竜たちが集う第三層。“神竜皇妃”リアモンド。別名“踊る道化師”のアモンよ。
人間に対する理解も深いし、ヒスイ、あなたが心配しているような、人間社会とのしがらみもないわ。
きっと、あなた方によい知恵を授けてくれるでしょう。
もし、彼女が機嫌がよければ、だけれども。」

「機嫌が悪ければ、どうなるの?」
ティーンが尋ねた。

「あらためて、神竜皇妃リアモンドの“試し”を受けることになるわ。
いっておくけと、リアモンドの“試し”をくぐり抜けたのは、歴史上確認出来るのは、あの魔拳士ジウル・ボルテック、ただひとりよ。」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

【魔法少女の性事情・1】恥ずかしがり屋の魔法少女16歳が肉欲に溺れる話

TEKKON
恋愛
きっとルンルンに怒られちゃうけど、頑張って大幹部を倒したんだもん。今日は変身したままHしても、良いよね?

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...