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第三章 迷宮
第22話 品定め
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「そうねえ。」
ティーンは、目を細めて笑った。
まだ、十代半ばの女の子には、違いない。だが、その落ち着き、というか風格は、只者ではないことを、確かに感じさせた。
「逆に言うと、サリアさんのおすすめは、誰、あるいは、どれなのかな?」
この問に、サリアは、苦笑を浮かべた。
「…話が通じやすい。あるいは、比較的高層にあって、道筋が楽なのは、第二層ね。
真祖ラウル=リンドが、支配する吸血鬼のたちの領土よ。」
「なるほど。吸血鬼は、魔物というよりは、亜人だものね。」
ティーンは、ぼくに問いかけた。
「ヒスイは、どう思う?」
「ダメだ。ラウルと話をすれば、それがどう転がろうが、“漆黒城”のロウ=リンドに関係してくる。」
「いろいろとご存知なのね、坊やは。」
サリアの唇が釣り上がる。
「もう少し、話をしておこうか、サリアさん。ぼくらは、階層主の直接の武力を当てにしているわけじゃないんだ。
ぼくらが、必要としているのは、階層主の叡智なんだ。過剰魔力による老化遅延を考慮しても、人間には有り得ない長い年月を生きた、存在として、人間を越えた生命の。」
「だったら、ラウルでは、なにがダメなの?
彼女は、上古の昔から生きているから、まずもって、年齢は千歳を越えているはずよ?」
「“漆黒城”を築いたのが、ラウルの双子の姉、ロウ=リンドだからだ。
いまも、かの地は亜人たちの町として、強い自治権をもって、君臨している。
恐らくは、中央軍にとっては、目の上のタンコブだろう。ぶん殴るチャンスをいつも伺っているはずだ。
それをわざわざ与えてやる必要はない。
おなじく、ギムリウスもダメだ。
アレも、漆黒城の誕生には、深く関わっている。」
「ロウさまとギムリウスさまは、三十年法の適用に従って、とっくに引退しているわ。」
サリアは、言い返した。
「いま現在のところ、二人とも居場所は不明。
いま、“漆黒城”の主は、アルセンドリック侯爵ロウランという冒険者あがりの吸血鬼よ。」
「それでも、ぼくらが、リンド伯爵に相談を持ちかけただけで、中央軍は、それを理由に、さまざまな嫌がらせをしかけてくる。
実際に地上の勢力と関わりがある階層主は、まずい。」
「そうすると、選択肢はないに、等しくなるわよ。」
サイアは、今度は、横に座ったリーガンを睨んだ。やっかいな依頼に巻き込みやがって。
そんな目つきだった。
「四層のミュレス様は、知性はあるけれど、人間社会のことには、無頓着すぎて、到底、相談相手になるとは、思えない。そもそも、死ぬとか生きるとか、そこから理解の範疇外の生命体よ。
五層のオロア老師は、もともとが人間だから、相談相手としてはびったりだけど、逆に老師ご自身から、世俗の相談ごとなど、間違っても持ち込んでくれるな、と念を押されているわ。
六層の賢者ウィルニアは、行方不明。
いまの六層は、やたら、やっかいな罠だらけで、得るものはまったくない魔の階層と言われてる。
そして、第七層は」
「そこまででいい。」
第七層は、魔王の領域だった。
自らの招いた混乱を、反省して、ひとりそのに閉じこもっている。
あるいは、いったんは別れた妻フィオリナも一緒にいるという説もある。
いずれ、なんらかの形で耳に入るにしても、いまはまだ、リウとフィオリナには、ティーンの件は、内緒にしておきたかった。
激昂した魔王と戦女神とは、やり合いたくないからだ。
ぼくや、ティーンなど、八つ当たりだけで、吹き飛びかねない。
「七層は、入口もふくめてまるっと消滅ひているわ。だから、魔王とは接触の方法すらないの。
さて、そうすると、消去法で、案内できる階層主は、ひとりだけってことになる。」
サリアは、難しい顔で言った。
「竜たちが集う第三層。“神竜皇妃”リアモンド。別名“踊る道化師”のアモンよ。
人間に対する理解も深いし、ヒスイ、あなたが心配しているような、人間社会とのしがらみもないわ。
きっと、あなた方によい知恵を授けてくれるでしょう。
もし、彼女が機嫌がよければ、だけれども。」
「機嫌が悪ければ、どうなるの?」
ティーンが尋ねた。
「あらためて、神竜皇妃リアモンドの“試し”を受けることになるわ。
いっておくけと、リアモンドの“試し”をくぐり抜けたのは、歴史上確認出来るのは、あの魔拳士ジウル・ボルテック、ただひとりよ。」
ティーンは、目を細めて笑った。
まだ、十代半ばの女の子には、違いない。だが、その落ち着き、というか風格は、只者ではないことを、確かに感じさせた。
「逆に言うと、サリアさんのおすすめは、誰、あるいは、どれなのかな?」
この問に、サリアは、苦笑を浮かべた。
「…話が通じやすい。あるいは、比較的高層にあって、道筋が楽なのは、第二層ね。
真祖ラウル=リンドが、支配する吸血鬼のたちの領土よ。」
「なるほど。吸血鬼は、魔物というよりは、亜人だものね。」
ティーンは、ぼくに問いかけた。
「ヒスイは、どう思う?」
「ダメだ。ラウルと話をすれば、それがどう転がろうが、“漆黒城”のロウ=リンドに関係してくる。」
「いろいろとご存知なのね、坊やは。」
サリアの唇が釣り上がる。
「もう少し、話をしておこうか、サリアさん。ぼくらは、階層主の直接の武力を当てにしているわけじゃないんだ。
ぼくらが、必要としているのは、階層主の叡智なんだ。過剰魔力による老化遅延を考慮しても、人間には有り得ない長い年月を生きた、存在として、人間を越えた生命の。」
「だったら、ラウルでは、なにがダメなの?
彼女は、上古の昔から生きているから、まずもって、年齢は千歳を越えているはずよ?」
「“漆黒城”を築いたのが、ラウルの双子の姉、ロウ=リンドだからだ。
いまも、かの地は亜人たちの町として、強い自治権をもって、君臨している。
恐らくは、中央軍にとっては、目の上のタンコブだろう。ぶん殴るチャンスをいつも伺っているはずだ。
それをわざわざ与えてやる必要はない。
おなじく、ギムリウスもダメだ。
アレも、漆黒城の誕生には、深く関わっている。」
「ロウさまとギムリウスさまは、三十年法の適用に従って、とっくに引退しているわ。」
サリアは、言い返した。
「いま現在のところ、二人とも居場所は不明。
いま、“漆黒城”の主は、アルセンドリック侯爵ロウランという冒険者あがりの吸血鬼よ。」
「それでも、ぼくらが、リンド伯爵に相談を持ちかけただけで、中央軍は、それを理由に、さまざまな嫌がらせをしかけてくる。
実際に地上の勢力と関わりがある階層主は、まずい。」
「そうすると、選択肢はないに、等しくなるわよ。」
サイアは、今度は、横に座ったリーガンを睨んだ。やっかいな依頼に巻き込みやがって。
そんな目つきだった。
「四層のミュレス様は、知性はあるけれど、人間社会のことには、無頓着すぎて、到底、相談相手になるとは、思えない。そもそも、死ぬとか生きるとか、そこから理解の範疇外の生命体よ。
五層のオロア老師は、もともとが人間だから、相談相手としてはびったりだけど、逆に老師ご自身から、世俗の相談ごとなど、間違っても持ち込んでくれるな、と念を押されているわ。
六層の賢者ウィルニアは、行方不明。
いまの六層は、やたら、やっかいな罠だらけで、得るものはまったくない魔の階層と言われてる。
そして、第七層は」
「そこまででいい。」
第七層は、魔王の領域だった。
自らの招いた混乱を、反省して、ひとりそのに閉じこもっている。
あるいは、いったんは別れた妻フィオリナも一緒にいるという説もある。
いずれ、なんらかの形で耳に入るにしても、いまはまだ、リウとフィオリナには、ティーンの件は、内緒にしておきたかった。
激昂した魔王と戦女神とは、やり合いたくないからだ。
ぼくや、ティーンなど、八つ当たりだけで、吹き飛びかねない。
「七層は、入口もふくめてまるっと消滅ひているわ。だから、魔王とは接触の方法すらないの。
さて、そうすると、消去法で、案内できる階層主は、ひとりだけってことになる。」
サリアは、難しい顔で言った。
「竜たちが集う第三層。“神竜皇妃”リアモンド。別名“踊る道化師”のアモンよ。
人間に対する理解も深いし、ヒスイ、あなたが心配しているような、人間社会とのしがらみもないわ。
きっと、あなた方によい知恵を授けてくれるでしょう。
もし、彼女が機嫌がよければ、だけれども。」
「機嫌が悪ければ、どうなるの?」
ティーンが尋ねた。
「あらためて、神竜皇妃リアモンドの“試し”を受けることになるわ。
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