小悪党、転生~悪事を重ねてのし上がって大往生、これでいいやと思ったらなぜか周りが離してくれません

此寺 美津己

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第三章 迷宮

第23話 魔道院学院長

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「アルディーン姫が行方不明だと!?」
統一帝国中央軍筆頭魔導師グリシャム・バッハは、目の前の若僧を睨んだ。
魔道院の学院長は、現在、このマロウドという男が務めている。

まだ、20代。どうかとすると、学生にすら見える若い男だった。
だが、グリシャム自身がそうであるように、膨大な魔力を備えた人間は、老化が遅くなる傾向がある。
見かけどおりの年齢とは、限らない。

「どうして、あれを逃がしたのだ?
なぜ、報告がない! 」

名門とはいえ、いまのグランダ魔道院は、魔道の研究機関で、学校でしかない。
グランダ「王国」に深く根を張って、権勢をも欲しいままにした「妖怪」ボルテックの時代とは違うのだ。
中央軍の筆頭魔導師であるグリシャムの方が、立場は遥かに上だった。

だが、マロウドは、その眼光を正面から浴びても、平然としている。
いや、恐れ入りました、という表情は浮かべているのだが、一応、礼儀として、そうしてるだけなのは、見え見えだった。


「逃がした?」
妙なことをきいた。とでもいうように、マロウドは首を傾げた。
「魔道院は、クローディア家からの留学生として、アルディーン・クローディア嬢を受け入れはいたしましたが、監禁などしておりません。
逃がした、と言われましたか?
いったい何から、アルディーン・クローディア嬢は逃げたのでしょうか?」

グリシャムは、視線に魔力をのせた……殺す気は無い。だが、ひっくり返って泡を吹く程度の魔力はこめたつもりだった。

魔力は。

マロウドを通り抜けた。

なんの抵抗もなく。

マロウドは、攻撃を受けたことに気が付きもしないようだった。
腕組みをして、ひきりに首を捻っている。

「彼女の不在に、気がついたのは、今朝の授業がはじまってからです。
事務局長のランゼが、アルデイーン嬢を起こしに行きました。そして、彼女がいないことに気がついた。」

「だから! 逃げたのだろう?」

「いいえ。
財布も着替えもウィルズミラーも、いえ制服も寝巻きも、そっくり、彼女の部屋に残されていました。
我々は、何者かが、アルディーン嬢を拉致したのだと、考えて、グランダ市当局に捜査を依頼しました。」
グリシャムの怒りが頂点に達しつつあるのを、気がついているのか、いないのか。

マロウドは、首をひねり続ける。

「しかし、あなたは、即座に、アルディーン嬢が自分から逃げ出したのだと、決めつけた。そう言えば、あなたより先に到着していた中央軍分隊のダキシム閣下も、同様だった。
アルディーンの失踪は、彼女が自らの意思で逃げたものと、即断定し、うちの学生がその手引きをしたのだと、決めつけ、拷問にかけようとした。」

「そうだ。ダキシムはどうしている! アルディーンの捜索にかかっているにしても、現状の報告にくらいは、馳せ参じるべきだろうに……」

「罪を擦り付けて、拷問しようとした学生に、反撃をうけて、全員病院送りですな。」
マロウドは、淡々と言った。
「そう言えば、ここに到着される前、駅で似たようなことを、あなたもされてはいませんでしたか?
まったく、同じ結果になっています。あなたがけしかけた拳士は、手足を骨折させられて、治療院に運ばれたそうです。
まったく!
中央軍というのは、そろいもそろって。」

「きさまっ!」
無礼極まりない言い草に、グリシャムは本気の攻撃魔法を使うべきか、迷い、かろうじて、思いとどまった。

「ああ、なるほど。」
得心がいった、とでも言うように、マロウドは、ぼんと手のひらを拳で打った。
「あなた方は、アルディーン嬢が逃げ出すであろうことを知っていた。彼女を確実に害するプランをもって、はるばる帝都から、お越しになったと。彼女はそれに気づいていた、と。
そういうことですな。」

腰を浮かしかけたグリシャムは、もう一度、ソファに座り直した。

魔道の実力もさることながら。
このマロウドという男は、頭が切れる。胆力もある。
敵に回すのは、アルディーンの捜索をいっそう、困難なものにしてしまう危険があった。

「あなた方の言う通り、何者かが、拉致したのか、それとも彼女が自分の意思で逃げ出したのか。」
グリシャムは、声を沈めてそう言った。
「どうも、アルディーン姫は、中央軍に対してなにか、誤解をされていたふしもある。
もともとは、統一帝国帝室の姫君です。我々が害意を抱くはずなどないというのに。
いずれにしても、早急に、アルディーンを保護する必要がある。
わたしたちは、互いに手を携えて、これに当たるべきでしょう。」

「アルディーン嬢の身の回りの面倒などは、ランゼ事務局長が見ていたのですよ。」
グリシャムの言葉に心を動かされた様子もなく、マロウドは、淡々と続けた。
「なにか、手がかりがあるとすれば、ランゼ事務局長がいちばんよく、存じているはずです。」

「しかし、ランゼ事務局長は」

「そうですね。」
マロウドは、自分のウィルズミラーを取り上げた。
画面を開いて、そこに記された文字を読む。
「アルディーン嬢の失踪を、まずは直接に、クローディア家に連絡する必要を感じたのか、クローディアに向かうとの連絡が入っております。
どうもそこで、グリシャム・バッハ閣下との行き違いがあったようなのですが。」

「それについては、我々も謝るべき部分はある。」
と、グリシャムは言った。
「ランゼ事務局長と、ウィルズミラーで通信をとることは、可能だろうか。マロウド学院長殿。」

「ああ、誠に残念ながら。
直接の通話は、拒否されています。位置特定もジャミングがかかっておりますな。」

「な、ならば、クローディア家に連絡を。早急にこちらに戻るように、と。
魔道列車ならば、もうクローディアについたころでしょう?」

「ああ。筆頭魔導師殿。それについては、誠に悪い知らせが。」
マロウドは、深刻そうに顔をしかめた。
「実は。わたしも、同じことを考えて、さきほどクローディア家に依頼して、むこうの駅前にひとを配置してもらったのですよ。」

「そ、それで!」

「結論からいうと、ランゼ事務局長は、クローディアには到着しておりません。
こちらからの連絡にも応答しない。
アルディーン嬢はともかく、ランゼについてはどうも『逃げた』のにまちがいないようです。」
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