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第四章 混迷
第46話 番卒たち
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ゾールが立ち去ったあと、ティーンは、治癒魔法を発動させると、淡く光る掌を、ぼくの脚に押し当てた。
痛覚は消しているが、痛めたところに、こもった熱が、やんわりと引いていくのがわかる。
これなら、今夜の発熱は避けられそうだった。
ティーンは、寝台に座ったぼくに、もたれかかるように、接近している。
最初にあったときの印象ほど、胸がないのに、ぼくは気がついた。
どちらかというとスレンダーな体型だ。
アデルよりも、祖母のフィオリナに近い。
吐息のかかるような距離で、ぼくの顔を覗き込みながら、彼女は言った。
「ヒスイ!、あの古竜を知ってるの?」
「転生まえに、少し、な。」
ぼくは認めた。
「“神竜の鱗”を巡って、ロゼル一族という怪盗団を影で操っていた。
ぼくは、直接に関わっては、いなかったが、地元の闇組織ともめないように、いくたか口利きをしたことがある。」
「どんな、古竜だったの?
いえ、平均的な古竜を知ってるわけじゃないけど、こんなに親切にしてもらえるなんて。」
「神竜皇妃リアモンドの熱烈な信奉者だったぞ。いや、信仰している、と言った方がいいか。なにしろ、リアモンドが落とした鱗を七枚すべて集めると、神竜が降臨して、願いを叶えてくれる、というおとぎ話を信じて、それを実行に移そうとしていたのだからな。」
「そんな……古竜が、古竜を?」
捻れた脚は、見かけ上は正しい位置に戻されている。ティーンの治癒魔法は、大したものだ。
ちゃっかり、暗殺術に近い近接戦闘まで、マスターしていたのだから、真面目一辺倒の学生でもなかったのだろうが、少なくとも、教育機関としての魔道院は、廃れたはいないようだった。
「神竜と呼ばれる古竜は、いささか別格の扱いを受けている。」
ぼくは、説明を試みた。
「ある意味、神竜は竜王よりも上位に置かれる立場なのだ。
そこに憧れ、信仰をいだく古竜も少なくない。
そして、リアモンドは、八百年近く、魔王宮に篭って、外界に姿を表さなかった。
これは竜の基準でも、充分に長い期間だ。
古竜たちとの接触すらほぼ、たってしまったことが、なおさらに神格化を進めたのかもしれない。
まあ、ともあれ、当時のゾールは、竜いからみても、人間に対しても、充分犯罪といえる活動を重ねて、リアモンドの鱗を集めようとしていた。
なかなかに、プライドが高く、人間にも、他の古竜に、対しても侮蔑しているところがあっておよそ、付き合いやすい性格ではなかった、な。」
「いまは、ずいぶん、変わった……ってこと?」
「そうだな。」
ぼくは頷いた。
「根本的なところは、変わってはいないのだろうが、かの“踊る道化師”にコテンパンに負かされたこと。なにより、信仰の対象であるリアモンドの側近となれたことが、精神の安定と成長を産んだのだろう。」
そのとき、これは明らかに人間の少女が二人、ぼくらの快適な牢獄の扉を開いた。
どちらも12か13にしか見えない。
ひとりは、白を基調とた神官服。
もうひとりは、四肢を露出した体にピッタリした衣服で、例えるなら、「水着」以外のなにものでもなかった。
神官服の少女は、桶を両手に下げ、水着の方は、人がひとり入れるくらいの大きなタライを背負っている。
「風呂までは、用意してないからね。」
神官服が言った。
「こっちの桶からは、熱いお湯が出るし、こっちからは冷水がでる。」
「で、こっちのタライで、体を洗えばいいと思う。」
水着のほうは、愛想良く、にこにこと笑いながら言った。
「ゾールから、あなたたちの世話をするように頼まれた。」
「正確には、そう命じられたのは。わたしの方だ。人間を相手にするには、人間かよいだろうとの、ゾールの判断でね。
ラスティは、新しい人間とヤラに興味があって勝手についてきたにすぎない。」
神官服の少女は、不快そうに言った。
「ひっどいなあ、わたし、お手伝いしたつもりなんだけど、エミリア。」
「まあ、単純にわたしの細腕には、ちょっと大きすぎる荷物だったからね、助かったのは助かったよ、ラスティ。」
神官服の美少女、エミリアは、ラスティが部屋の真ん中に置いたタライに、桶から水と、お湯を注ぎ始めた。
ぼくは、やんわりと断った。
「ぼくは、傷に触るといけないので、身体を拭うだけで。
ティーンが、お湯を使うなら、一時的に退出させてもらいます。」
エミリアが、にやりと笑った。
「ゾールからおまえのことは、聞いている。その身体は、義体だな。
それだけの代物を作れるのは、カザリームのクロムウェル工房、賢者殿、それにボルテック殿くらいのものだ。」
「ご明察、エミリアさん。」
ティーンが答えた。
「彼はどうも、わたしのために、ジウル・ボルテックが、用意してくれた人材のようです。
それなりの人物を転生させたようなのですが、どこの誰かは、話してくれません。」
「魔法宮を、こんな風に利用することを、思いつくのは、ごく最近の人間だろう。」
エミリアは、実に嬉しそうだった。
「そして、ゾールの、そしてわたしのことも知っている相手となると自動的に限られるよね?」
「あなたのことを知ってるなんて、言いましたか?」
「わたしに対して、敬語で話している。」
「それがなにか?
古竜が指名した世話役のご機嫌をとろうとしてるだけかもしれないですよ。」
エミリアは、バカにしたように鼻を鳴らした。
「ゾールに対しても、ミュラ閣下に対しても敬語を使わなかったおまえが、わたしにだけは、丁寧に話していんだ。
それは、わたしが“ロゼル一族”の二代目棟梁だったからだし、“ロゼル”の名に敬意を払うのは、同じように裏社会に身を置いて人間だからだ。
なあ、ゲオルグ。」
痛覚は消しているが、痛めたところに、こもった熱が、やんわりと引いていくのがわかる。
これなら、今夜の発熱は避けられそうだった。
ティーンは、寝台に座ったぼくに、もたれかかるように、接近している。
最初にあったときの印象ほど、胸がないのに、ぼくは気がついた。
どちらかというとスレンダーな体型だ。
アデルよりも、祖母のフィオリナに近い。
吐息のかかるような距離で、ぼくの顔を覗き込みながら、彼女は言った。
「ヒスイ!、あの古竜を知ってるの?」
「転生まえに、少し、な。」
ぼくは認めた。
「“神竜の鱗”を巡って、ロゼル一族という怪盗団を影で操っていた。
ぼくは、直接に関わっては、いなかったが、地元の闇組織ともめないように、いくたか口利きをしたことがある。」
「どんな、古竜だったの?
いえ、平均的な古竜を知ってるわけじゃないけど、こんなに親切にしてもらえるなんて。」
「神竜皇妃リアモンドの熱烈な信奉者だったぞ。いや、信仰している、と言った方がいいか。なにしろ、リアモンドが落とした鱗を七枚すべて集めると、神竜が降臨して、願いを叶えてくれる、というおとぎ話を信じて、それを実行に移そうとしていたのだからな。」
「そんな……古竜が、古竜を?」
捻れた脚は、見かけ上は正しい位置に戻されている。ティーンの治癒魔法は、大したものだ。
ちゃっかり、暗殺術に近い近接戦闘まで、マスターしていたのだから、真面目一辺倒の学生でもなかったのだろうが、少なくとも、教育機関としての魔道院は、廃れたはいないようだった。
「神竜と呼ばれる古竜は、いささか別格の扱いを受けている。」
ぼくは、説明を試みた。
「ある意味、神竜は竜王よりも上位に置かれる立場なのだ。
そこに憧れ、信仰をいだく古竜も少なくない。
そして、リアモンドは、八百年近く、魔王宮に篭って、外界に姿を表さなかった。
これは竜の基準でも、充分に長い期間だ。
古竜たちとの接触すらほぼ、たってしまったことが、なおさらに神格化を進めたのかもしれない。
まあ、ともあれ、当時のゾールは、竜いからみても、人間に対しても、充分犯罪といえる活動を重ねて、リアモンドの鱗を集めようとしていた。
なかなかに、プライドが高く、人間にも、他の古竜に、対しても侮蔑しているところがあっておよそ、付き合いやすい性格ではなかった、な。」
「いまは、ずいぶん、変わった……ってこと?」
「そうだな。」
ぼくは頷いた。
「根本的なところは、変わってはいないのだろうが、かの“踊る道化師”にコテンパンに負かされたこと。なにより、信仰の対象であるリアモンドの側近となれたことが、精神の安定と成長を産んだのだろう。」
そのとき、これは明らかに人間の少女が二人、ぼくらの快適な牢獄の扉を開いた。
どちらも12か13にしか見えない。
ひとりは、白を基調とた神官服。
もうひとりは、四肢を露出した体にピッタリした衣服で、例えるなら、「水着」以外のなにものでもなかった。
神官服の少女は、桶を両手に下げ、水着の方は、人がひとり入れるくらいの大きなタライを背負っている。
「風呂までは、用意してないからね。」
神官服が言った。
「こっちの桶からは、熱いお湯が出るし、こっちからは冷水がでる。」
「で、こっちのタライで、体を洗えばいいと思う。」
水着のほうは、愛想良く、にこにこと笑いながら言った。
「ゾールから、あなたたちの世話をするように頼まれた。」
「正確には、そう命じられたのは。わたしの方だ。人間を相手にするには、人間かよいだろうとの、ゾールの判断でね。
ラスティは、新しい人間とヤラに興味があって勝手についてきたにすぎない。」
神官服の少女は、不快そうに言った。
「ひっどいなあ、わたし、お手伝いしたつもりなんだけど、エミリア。」
「まあ、単純にわたしの細腕には、ちょっと大きすぎる荷物だったからね、助かったのは助かったよ、ラスティ。」
神官服の美少女、エミリアは、ラスティが部屋の真ん中に置いたタライに、桶から水と、お湯を注ぎ始めた。
ぼくは、やんわりと断った。
「ぼくは、傷に触るといけないので、身体を拭うだけで。
ティーンが、お湯を使うなら、一時的に退出させてもらいます。」
エミリアが、にやりと笑った。
「ゾールからおまえのことは、聞いている。その身体は、義体だな。
それだけの代物を作れるのは、カザリームのクロムウェル工房、賢者殿、それにボルテック殿くらいのものだ。」
「ご明察、エミリアさん。」
ティーンが答えた。
「彼はどうも、わたしのために、ジウル・ボルテックが、用意してくれた人材のようです。
それなりの人物を転生させたようなのですが、どこの誰かは、話してくれません。」
「魔法宮を、こんな風に利用することを、思いつくのは、ごく最近の人間だろう。」
エミリアは、実に嬉しそうだった。
「そして、ゾールの、そしてわたしのことも知っている相手となると自動的に限られるよね?」
「あなたのことを知ってるなんて、言いましたか?」
「わたしに対して、敬語で話している。」
「それがなにか?
古竜が指名した世話役のご機嫌をとろうとしてるだけかもしれないですよ。」
エミリアは、バカにしたように鼻を鳴らした。
「ゾールに対しても、ミュラ閣下に対しても敬語を使わなかったおまえが、わたしにだけは、丁寧に話していんだ。
それは、わたしが“ロゼル一族”の二代目棟梁だったからだし、“ロゼル”の名に敬意を払うのは、同じように裏社会に身を置いて人間だからだ。
なあ、ゲオルグ。」
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