48 / 59
第四章 混迷
第48話 戦巫女
しおりを挟むミヤレは、自分が悪目立ちしていることにまったく気がついていない。
全身を覆う鎧は、厚みのある金属で出来ている。
耐衝撃、対斬撃、耐熱、耐電撃、耐魔力、面頬を下ろしてしまえば、通常なら即死に至るような毒ガスも半死くらいに留めてくれる。
(半死でどうするのだ、という問題ももちろんあるが、当然そこは自分に回復魔法をかけつつ、回りの空気の浄化、またはそこからの脱出を模索するのだ。)
ただし様々な、付与を行った結果、鎧の重量は増している。
外見としては、重装甲の騎士鎧に近いかもしれない。
そして、騎士が馬に乗るのは、自力では満足に動けないような重量を運ぶためなのだ。
魔王宮の入口。
通称、舞踏会場にたむろするのは、大半が、観光目的であり、冒険者にみえるものたちは、冒険者のコスプレを下観光客である。
その中に、全身鎧を身につけ、山のような荷物を背負ったミヤレの姿は、明らかに異様に映った。
もちろん、少数ながら、魔王宮の探索や素材の回収を目的とする本物の冒険者パーティも皆無では無い。
だか、そういったものたちは、“舞踏会場”なとで、立ち止まることは、ない。
ガイドは必要としないし、ここで改めて、高い値段で、食料や水、装備を追加するのもは少ない。
また、食糧などかさ張るものは、“収納”機能を備えたリュックのひとつも、気の利いたパーティならば、持っているのが普通なので、こんな大荷物を背負って、迷宮入りするものは、本当に珍しいのだ。
なので、ガイド屋“ワンショットリーガン”の店主であるリーガンは、目の前に現れたミヤレの姿に肝を潰した。
「……ひょっとすると、『戦女神神殿』の戦巫女か?」
リーガンがやっとそれだけを絞り出すと、鎧の戦士は、頷いた。
「えらい装備だな。目指すエリアは、どこだ?」
「ひとを探してしている。ガイドを頼みたい。観光用ではない本当のガイドだ。
それと、これは標準装備だ。『えらい装備』ではない。」
「聞いた事はある。
戦巫女は、己自身を戦女神の戦闘力にいかに近づけるかに、信仰の重きをおいているとか。
かの女神が、奮ったとされる力を再現しようとすると、そうか、その装備か。」
リーガンは、ミヤレに座るように、依頼した。
背の荷物を脇において、腰を下ろしたミヤレのお尻の下で、椅子が軋んだ。
「ミヤレ、という。」
厚い篭手をはめた手が、革の小袋を机に置いた。
いや、小袋ではない。
篭手が無骨すぎるために、袋が小さく見えただけだ。
リーガンが、中身を確認すると、“戦女神通貨”が、ザラザラとこぼれ落ちてきた。
美しい女性の横顔が、浮き彫りになった金貨であふ。
これは困る。
これは、たしかに通貨ではあるが、北方では、流通していないのだ。
普通に通貨として、使えるのは、戦女神神殿のあるオールべくらいで、ほかの地域では、戦女神の戦力を雇う時くらいしか、使えない。
「手持ちはあまりないので、これを担保に、優秀なガイドを雇いたい。
探す相手は、魔道院に在籍していた、クローディア家の姫君、アルディーン様だ。」
「魔王宮は、かなり広い迷宮なんだが。」
断る気まんまんで、リーガンは慎重に言った。
積まれた金貨の価値はとんでもない。
“戦女神の巫女”を一分隊。1年間雇うことが出来るだろう。
それは、おそらく古竜をも倒せる戦力なのだが、リーガンには使いようがない。
「……ひとひとりを探すのは至難の業だ。」
「わたしは、我が神の血を引くアルディーン姫をなにがなんでも保護しなければならないのだ。」
「だったら、なおさらだ。自分で迷宮な潜るよりも、ここで、その姫様が出てくるのをまったほうがいい。出入口は、ここしかないから、必ずここを通る。そのときに、その姫様を保護すればいい。」
「それでは、遅い。」
ミヤレは、不満げに言った。椅子が、彼女のお尻の下で、どうように不満げな呻きをもらした。
「クローディア家も、北方軍も、動き出している。そして、なによりも中央軍だ。
やつらの手に、姫を渡す訳にはいかない。」
平々凡々なガイド屋の店主として、リーガンはそんなものには、関わりたくなかった。
「それにしても手がかりのひとつもないのでは」
「それが、ある。」
ちょっと、嬉しそうに戦巫女は、笑った。
「まず、姫はひとりではない。とんでもない美形の少年と一緒だ。姫もなかなかだから、あの二人が一緒なら、けっこう目立つ。」
リーガンの脳裏に、つい数日前に、ガイドを請け負ったティーンとヒスイの顔が浮かんだかどうか。
「それに、姫の目的は、階層主に会うことだ。階層主を探せば、自動的に姫のもとにたどり着ける。」
「……それは、禁則区域への案内と、災害級の魔物への橋渡し、を行うということになる。」
リーガンは、大袈裟に両手を天井に差し伸べた。お手上げ、の意味である。
「うち、の評判をきいてきてくれたんだろうが、ね。階層主の試しを通過したガイドは、ウチもひとりしたおらず、そいつはいま迷宮入りしていて、ここにはいないよ。」
「なら! その次に頼りになるガイドを紹介してくれ。」
ミヤレは、一歩も引く気は無さそうだった。
完全武装の戦巫女を排除するには、どうの程度のコストがかかるだろうか。
少なくとも、この案内所は、全壊になるだろう。
「わたし、行きましょうか?」
その声は、天井からかかった。
ミヤレは、少し驚いたようだった。
少年とも少女もとつかない。中性的な美貌の、その生き物は、天井にへばりついていた。
しかし。
いつから?
部屋はそれほど広くはなく、天井にそんなものがいたなら、ミヤレも、そしてリーガンも気がついたはずだった。
のとのと、と這うように、その生き物は降りてきた。
すっと立ち上がった動作は、人間のもので、まだ10をいくつも過ぎていない子供のように見える。
「ウリム、あんたが……」
「ふむ。」
ミヤレは、ひとめでこの生き物が尋常な存在でなきことを認めたようだった。
「わたしは闘うことしか出来ない。
迷宮を案内し、わたしを階層主のもたにまでみちびけるか?」
「できるよ。」
「なら頼む。おまえも階層主の試しを受けているのか?」
「いや。でも階層主に紹介はできるよ。」
「まて! ウリム、おまえ、なにを勝手なことを!!」
可憐な生き物は、リーガンの顔を見返した。
「関わりたくない、という気持ちは理解出来る。」
生き物は、ゆっくりと言って聞かせるように話した。
「でも、もうすっかり、巻き込まれているんだよ。」
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる