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第四章 混迷
第49話 戦女神の流儀
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ウリムは、ミヤレから、金貨を受け取った。
途方もない価値のある金貨だった。
統一帝国が、純粋な今で掌握し切れていない数少ない戦力のひとつ、戦女神神殿なや武力を、それで買う事ができる。
ただし、貨幣としては、流通はしていない。
長らく平和が続いたため、現代においては、傭兵稼業はほぼ、姿を消している。
統一帝国が、自らが介入するほどではない、地方領主や自治都市の権力争いにおいては、「戦力」が必要となる場合もあるのだ。
そんなときに、この金貨は役に立つ。大いに役に立つ。
契約書すら交わさずに、ウリムは、さっさと、歩を進めた。
ミヤレもあとを追う。
「おまえは、あの店のガイドなのか?」
先を行く小さな後ろ姿に、ミヤレは問うた。
「雇われている。」
「その……わたしの支払った金貨を全部、自分の懐にいれていたようだが。」
「ああ、これは、だって、リーガンには使いようがないでしょう。」
魔王宮第一層。その玄関口である“舞踏会場”からは放射状にいくつもの、通路が口を開けている。
そのひとつに、ためらいもなく、ウリムは、歩を進めた。
ミヤレは、グランダ駐在の“戦巫女”として、昨年から、グランダで暮らしている。
魔王宮の知識も当然あって、一度「ガイドツアー」にも参加したことがあった。
その彼女の知識では、その通路は、行き止まり。この階層特有の蜘蛛の魔物は、出没するが、とくに見るべきものもない、寂れた通路のはずだった。
「おまえなら、使い道があるのか?」
「いまのところは。ない。」
くるり、とウリムは振り返った。
髪は、ザンバラにのびて、可愛らしい顔立ちを隠している。
「むしろ、リーガンから金貨を取り上げることが目的だった。
あれが、神殿金貨を換金しようとすれば、紛争を抱えた自治都市に、売りつけるしかない。それで充分な利益は出るだろうが、単なる傭兵として、“戦巫女”が駆り出されるのは、あまり正しいことではないような気がした。」
「ご配慮を、どうも。」
ミヤレは、薄く笑った。
「だが、戦闘において、武を磨き、勇を振奮う事もまた、わたしたち“戦巫女”にとっては、信仰の現れだ。そして、“戦巫女”が戦いにおいて、有象無象に遅れをとることは、万が一にもありえない。」
「そう言って、ずいぶんと、この金貨をばらまいているようだが」
ウリムは、淡々と言った。
「対立する両方の勢力が、同時におまえたちを雇ったら、どうする?」
「実戦形式の訓練が、実戦になるだけだ。」
ミヤレは、嬉しそうに答えた。
「歯ごたえのある敵は、虚弱な味方よりも、大切だ。」
「うん、わかった。戦女神神殿もずいぶんと、妙な方向に舵を切ったらしい。」
ウリムは、通路が二またにわかれたところで、立ち止まった。
「なにか、ルートに希望はあるか?」
「話はどこから、聞いていた?
わたしは、魔王宮に逃げ込んだアルディーン姫を探している。
彼女は、各階の階層主を尋ねる可能性がもっとも高い。」
「おまえの言う女と男は、数日前に、リーガンの店でガイドを雇って、魔王宮に侵入している。」
ウリムは、右側のルートを選んだ。
「雇われたのは、“迷宮研究家”サリア・アキュロンだ。彼女なら、階層主の、もとに、アルディーンを導けるだろう。
ただ、どの階層主なのか。」
「なぜ、こちらの通路を選んだのだ? 」
ミヤレは質問した。
通路は、壁面がタイルで貼られて、灯りも充分だ。
「こちらの方が広かったからだ。」
ウリムは、つまらなそうに答えた。
「もうひとつは、途中で天井画低くなる。腰をかがめるほどではないが、おまえの武器の柄が、天井を傷つけるかもしれない。」
「なるほど、行き届いた配慮だな。
それで、問題は、どの階層主に会いにいだたか、なのだが。」
「それについては、わたしにわかるわけがない。」
本当は、ガイドについたサリア・アキュロンが戻るのを待って、その行先を確認して、動けばよかったのだが、とにかく、一刻も早く行動したいミヤレに、その頭はなかった。
「わたしもわからん!」
探索の依頼主にあるまじきことを、イリヤはぼやいた。
「学院長が、アルディーン姫がここに潜入した可能性がたかいと言うので来てはみたのだが。
そもそも、なぜアルディーン姫が、魔王宮を目指さねばならなかっのかが、わたしなはさっぱりわからん。」
うんうん、と自分を無理やり納得させるように、ミヤレは、頷いた。
「とりあえず、行動を起こす。そして立ちはだかる奴を打ちのめし続ければ、物事は解決していくものだ。」
「どこの狂戦士の言い分だ?」
「これは、戦女神様の聖句だぞ!
教本にも、乗っている!」
「戦女神がいまひとつ、信仰者を集めない理由がわかった。」
ウリムは、足を止めて、振り返った。
「なら。その得意分野において、その力を奮ってもらおう。」
ウリムの背後。
薄暗くなった通路の先に、赤い目がチラチラと光った。
蜘蛛だ。
1匹が大型の猟犬ほどもあふ蜘蛛の魔物。
それが、十体以上。
その背後に現れた。
「まるで、おまえが、蜘蛛を召喚したように、見えた、ぞ。」
ミヤレは、高らかに笑った。
「おまえが、戦えるのかどうかは、しらん。
だが、今日はまだ規定の修練をしていないんだ。ちょうどいい。ここでやらせてもらおう!」
途方もない価値のある金貨だった。
統一帝国が、純粋な今で掌握し切れていない数少ない戦力のひとつ、戦女神神殿なや武力を、それで買う事ができる。
ただし、貨幣としては、流通はしていない。
長らく平和が続いたため、現代においては、傭兵稼業はほぼ、姿を消している。
統一帝国が、自らが介入するほどではない、地方領主や自治都市の権力争いにおいては、「戦力」が必要となる場合もあるのだ。
そんなときに、この金貨は役に立つ。大いに役に立つ。
契約書すら交わさずに、ウリムは、さっさと、歩を進めた。
ミヤレもあとを追う。
「おまえは、あの店のガイドなのか?」
先を行く小さな後ろ姿に、ミヤレは問うた。
「雇われている。」
「その……わたしの支払った金貨を全部、自分の懐にいれていたようだが。」
「ああ、これは、だって、リーガンには使いようがないでしょう。」
魔王宮第一層。その玄関口である“舞踏会場”からは放射状にいくつもの、通路が口を開けている。
そのひとつに、ためらいもなく、ウリムは、歩を進めた。
ミヤレは、グランダ駐在の“戦巫女”として、昨年から、グランダで暮らしている。
魔王宮の知識も当然あって、一度「ガイドツアー」にも参加したことがあった。
その彼女の知識では、その通路は、行き止まり。この階層特有の蜘蛛の魔物は、出没するが、とくに見るべきものもない、寂れた通路のはずだった。
「おまえなら、使い道があるのか?」
「いまのところは。ない。」
くるり、とウリムは振り返った。
髪は、ザンバラにのびて、可愛らしい顔立ちを隠している。
「むしろ、リーガンから金貨を取り上げることが目的だった。
あれが、神殿金貨を換金しようとすれば、紛争を抱えた自治都市に、売りつけるしかない。それで充分な利益は出るだろうが、単なる傭兵として、“戦巫女”が駆り出されるのは、あまり正しいことではないような気がした。」
「ご配慮を、どうも。」
ミヤレは、薄く笑った。
「だが、戦闘において、武を磨き、勇を振奮う事もまた、わたしたち“戦巫女”にとっては、信仰の現れだ。そして、“戦巫女”が戦いにおいて、有象無象に遅れをとることは、万が一にもありえない。」
「そう言って、ずいぶんと、この金貨をばらまいているようだが」
ウリムは、淡々と言った。
「対立する両方の勢力が、同時におまえたちを雇ったら、どうする?」
「実戦形式の訓練が、実戦になるだけだ。」
ミヤレは、嬉しそうに答えた。
「歯ごたえのある敵は、虚弱な味方よりも、大切だ。」
「うん、わかった。戦女神神殿もずいぶんと、妙な方向に舵を切ったらしい。」
ウリムは、通路が二またにわかれたところで、立ち止まった。
「なにか、ルートに希望はあるか?」
「話はどこから、聞いていた?
わたしは、魔王宮に逃げ込んだアルディーン姫を探している。
彼女は、各階の階層主を尋ねる可能性がもっとも高い。」
「おまえの言う女と男は、数日前に、リーガンの店でガイドを雇って、魔王宮に侵入している。」
ウリムは、右側のルートを選んだ。
「雇われたのは、“迷宮研究家”サリア・アキュロンだ。彼女なら、階層主の、もとに、アルディーンを導けるだろう。
ただ、どの階層主なのか。」
「なぜ、こちらの通路を選んだのだ? 」
ミヤレは質問した。
通路は、壁面がタイルで貼られて、灯りも充分だ。
「こちらの方が広かったからだ。」
ウリムは、つまらなそうに答えた。
「もうひとつは、途中で天井画低くなる。腰をかがめるほどではないが、おまえの武器の柄が、天井を傷つけるかもしれない。」
「なるほど、行き届いた配慮だな。
それで、問題は、どの階層主に会いにいだたか、なのだが。」
「それについては、わたしにわかるわけがない。」
本当は、ガイドについたサリア・アキュロンが戻るのを待って、その行先を確認して、動けばよかったのだが、とにかく、一刻も早く行動したいミヤレに、その頭はなかった。
「わたしもわからん!」
探索の依頼主にあるまじきことを、イリヤはぼやいた。
「学院長が、アルディーン姫がここに潜入した可能性がたかいと言うので来てはみたのだが。
そもそも、なぜアルディーン姫が、魔王宮を目指さねばならなかっのかが、わたしなはさっぱりわからん。」
うんうん、と自分を無理やり納得させるように、ミヤレは、頷いた。
「とりあえず、行動を起こす。そして立ちはだかる奴を打ちのめし続ければ、物事は解決していくものだ。」
「どこの狂戦士の言い分だ?」
「これは、戦女神様の聖句だぞ!
教本にも、乗っている!」
「戦女神がいまひとつ、信仰者を集めない理由がわかった。」
ウリムは、足を止めて、振り返った。
「なら。その得意分野において、その力を奮ってもらおう。」
ウリムの背後。
薄暗くなった通路の先に、赤い目がチラチラと光った。
蜘蛛だ。
1匹が大型の猟犬ほどもあふ蜘蛛の魔物。
それが、十体以上。
その背後に現れた。
「まるで、おまえが、蜘蛛を召喚したように、見えた、ぞ。」
ミヤレは、高らかに笑った。
「おまえが、戦えるのかどうかは、しらん。
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