小悪党、転生~悪事を重ねてのし上がって大往生、これでいいやと思ったらなぜか周りが離してくれません

此寺 美津己

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第四章 混迷

第50話 その名はゲオルグ

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魔道院のマロウド学院長は、このところろ、とてもとても上機嫌だ。
これは、秘書であるリーシャには、頭が痛い。
長年仕えているこの上司は、ちょっと機嫌が悪いくらいがちょうどいいのだ。

あまり機嫌がいいと、ロクでもない発明や、とんでも理論を言い出して、世間さまをお騒がせする傾向にある。


「リーシャ、思うんだけど、怒りの表現としていの暴力は肯定されるべきなのかな。」
お茶のお代りを要求しながら、マロウドはそんなことを言った。
「暴力は、同様な手段での報復を産み、なにも解決はしない。だが、暴力を振るうことでしか、自分が怒っていると、相手に分からせることができない、という場合は、けっこう多い。」

「例えば、差別され、迫害され、北方の地に追いやられた魔族が、千年前に、魔族大戦をおこしたようなケースですか?」
「そうだな。もっと近年だと、吸血鬼に対する亜人差別の問題がある。
ほんの五十年前までは、たとえばランゴバルドのような先進的な国でも、吸血鬼にのみ、低賃金で、長時間の労働を強いて、平気だった。
彼らは、虐待に対する正当な怒りの現れとして、虐待する上役ではなく、関係こない民の血をすすり、故意に、吸血鬼増殖のパンデミックを引き起こした。」

「言われなき差別は、現代でも続いていますよ。」
リーシャは、ヨウィスがブレンドした茶番に注意深く、お湯を注ぎながら言った。
食事は、ヨウィスがいるときには、もっぱら、ヨウィスの作業だった。
今回、中央軍の監視のために、迷宮探索に同行しているが、マロウドお気に入りの茶葉のだけは、大量に用意していった。
「死者は生者を忌み嫌うし、生者は死者を恐れます。」

マロウドは、ちょっと考えた。

「わかった……この話はなしだ。
我らのアルディーン嬢は、はたして無事に階層主に会えただろうか?」

「どの階層主にです?
上古の神獣ギムリウスですか?
真祖吸血鬼リンドですか?
神竜皇妃リアモンドですか?
究極生命ミュラスですか?
死霊王オロアですか?」

それとも、とリーシャはひと息ついた。

「賢者ウィルニアですか?」

「最後のは少なくとも、ない、な。」
マロウドは言った。
「あと、リアモンドは、外出中だ。残りは、ギムリウス、ミュラス、オロアだが……」

「オロアは、この手の政争の話を時分に持ってくるなと、日頃から言明しています。
言わば、兄弟弟子にあたるサリア・アキュロンがそれを知らないはずはありません。」

「ミュラスは、いくらなんでも相談相手としては、対象外だろう。」
マロウドは言った。
「あれに、人間社会のことが、理解出来るとは思えない。
まったく逆の意味で、リンドも対象外だ。
西域には、吸血鬼たちの暮らす“漆黒城”がある。強力な戦力ではあるが、逆に反中央軍の立場を明確にしてしまえば、ここぞとばかりに、攻められる可能性もある。」

「なら、アルディーンはどの階層主を尋ねると?」

「そこは、逆の発想だ。」
マロウドは、リーシャのいれたお茶を、ずふずると品悪く、すすりながら言った。
「彼らは確かに、助言をとりあえずの庇護先を求めていたには違いない。
中央軍が、はっきり敵とわかったのは、ともかくとして、では、どこが味方かと言えば、クローディアの実家やわたしも含めて、はっきり味方と言えるものは、ひとりもいない。
まあ、わざわざ、ヒスイという人材を召喚したのだから、ボルテックは味方なのだろうが、彼は出奔してしまって、連絡もつかない。」

「なるほど。
周り全てが敵の状態ならば、魔王宮のほうがかなりマシということですか。」

リーシャは、頷いた。

「それだけではないぞ。
中央軍が強大なのは、あくまで、中央から、無限に増援が送れるからだ。
魔王宮のなかでは、そうはいかない。」

まさか?

リーシャ。
死せる聖女は、呟きた。

「そう。
魔王宮のなかで、追手であるグリシャム・バッハを返り討ちにする。
そうすれば、やつらの目論見。“魂移し”は使えなくなる。」

「逃げたのではなく、誘い込んだ?」
屍人が青ざめるということは、有り得るのだろうか。
「アルディーン姫のことは、わたしもある程度、把握していたつもりです。
確かに非凡な生徒ではありますが、そこまでの大胆な行動をとりますか?」

「ボルテックがつけたヒスイの知恵だろう。」

「ヒスイ……」
リーシャは、呟いた。
「ボルテックが、アルディーンのために召喚した英傑には、違いない。
しかし、なにものなのでしょう?」


「大した知恵者には、違いない。
オマケに、恐ろしく捻くれている。」
マロウドは、はしゃぐように手を叩いた。
いまにも踊り出しそうだった。
「何も手がかりがなくとも、候補は限られてくる。」

「捻くれきった知恵者。」
リーシャは、マロウドを睨んだ。
「例えば、賢者ウィルニアのような、ですか?」


「そうだな。もしくは、それに匹敵する捻くれた具合と、バツグンの知恵を持つ者だ。」

そんなものがいるわけが、と言いかけて、リーシャは口をつぐんだ。
眉の間に深いシワを刻んで、リーシャはノロノロと、続けた。

「“踊る道化師”のルトとか、ですか?」
「そう。あとは、アデル帝の最初の夫、ルクセン公とか、だな。
だが、前者は、我々に人の世への直接介入を厳禁した本人だし、ルクセン公がいまさら、アデルの後継者争いに首を突っ込むとは考えにくい。」
「ならば」
「忘れたのかね? きみも一時期、親しくしていたはずだ。ここ二十年ばかりは隠遁生活に、はいってしまって、世には出てこなかったが。たしか齢は、90を越えていたはずだ。転生させても本人からも文句は出ないだろう。」

「……ゲオルグ! 背教者ゲオルグがヒスイだというのですか!?
たしかに、優秀で、しかも大胆不敵な人物でしたが! 所詮は、小悪党のたぐいです。」

長年、つれそった部下の優秀さに満足するように、マロウドは笑った。

「小悪党とはなんだね?
利に聡く、主義主張に固執せず、頑迷な正義感を、もたない。
まさに、このような時代に求められる人物そのものだよ!」
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