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第五章 迷宮ゲーム
第51話 迷宮ガイド
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黒い奔流となって、蜘蛛の群れは、ミヤレに向かって殺到した。
あるものは、床を。
あるものは、壁紙を。
あるものは、天上を走って、接近する。
蜘蛛たちと、ミヤレの間には、あの謎めいたガイド、ウリムが立っていたのだが、蜘蛛たちは、ウリムに目もくれようとはしなかった。
ミヤレは、攻撃を自分に引きつけるように、わざと得物であるハルバートを大きく振りかざしていたのではあったが、これは異常と言えば異常である。
ウリムは。
困ったように、ミヤレのほうを見ている。
先頭をはしる蜘蛛が、ミヤレに襲いかかった。
1匹は、床から。もう1匹は壁を走り、さらに一匹は、天井から。
僅かにタイムラグをつけた攻撃を避けることは、どのような剣の達人にも難しいものだったろう。
斧槍の一旋で、それらすべてが吹き飛んだ。
長い柄をもつハルバートは、その回転において、威力を増す。細く、鋭利な剣のように、自在に振り回すと言うよりも、武器ほのものがもつ、重さこそが、威力となるのだ。
一度の旋回のその軌道上に、複数の標的を設定し、まとめて、打撃をあたえる。
ミヤレには、それが出来た。
刃の部分がもろにあたった蜘蛛は、頭から胴体まで、輪切りにされて、地に落ちて、即死。柄の部分で殴り飛ばされたものも、打撃を受けた頭部を、陥没させて、床で痙攣を続けている。
残りの蜘蛛たちが、散開した。
ミヤレのハルバートの間合いをはかり、いったん、間合いの外に逃れたのだ。
逃れたはずだったのにっ!!
バグンっ!
蜘蛛の1匹の頭が割れた。
ミヤレのハルバートの分厚い刃が、叩き割ったのだ。
弧をえがいた斧は、となりの壁に張り付こうとしていた蜘蛛の脚をごっそりと切断した。
このとき、ミヤレは、ハルバートの柄のも部分を変えている。
最初の一旋は、柄の中程を。
いまは、柄の端を握っている。
その分、リーチは長い。
さらに遠くに、逃れようとした蜘蛛の胴体を。
ズンッ!
ハルバートの先端は、鋭く尖った槍となっている。
それが、蜘蛛を串刺しにした。
逃れようと蠢く蜘蛛を、ミヤレは床に叩きつけた。
瞬く間に、半分の蜘蛛を平らげたミヤレは、篭手には埋め込まれた宝石に、口付けした。
ボウッと、火球がうまれ、それはまっしぐらに。
後退を続ける蜘蛛の群れにではなく、ガイドのウリムに向かって、放たれた!
とっさのことに、ウリムは反応出来なかった。
ひとひとりなど、焼き尽くすであろう火炎玉をまえに、ガイドの少年は立ち尽くす。
だが、そこに、蜘蛛の一匹が割って入った。
火球は、蜘蛛に当たり、爆散した。
人間よりは、はるかに頑丈に出来ている蜘蛛の魔物の身体を、四散させ、火球は消滅した。
ウリムは、指を唇に当てた。
ヒュイ。
短い音は、部分的には人間の可聴範囲を超えている。
生き残りの蜘蛛は、それを聞くや否や、一目散に逃げ出した。
ミヤレは、追わずに、ウリムを見つめた。
ウリムは。
表情を消したまま、ミヤレを見返した。
その頬に。
もう1つ、目が開いていた。
「乱暴すぎる。」
ウリムの口調には、緊張も敵対もない。
「蜘蛛に、あなたを害する気はなかった。ちょっと脅すのと……腕前を見たかっただけだ。」
「おまえが、蜘蛛に命令できることは、否定はしないのだな。」
ミヤレは、石突きで、どんと、床を叩いた。
「命令?
このレベルの蜘蛛は、正確には生き物ですらない。正確に言うなら、操縦かな。」
ウリムは。
淡々とそう述べた。
「なにものだ、おまえは。」
当然のミヤレの問いに、ウリムは首を傾げた。
どう答えようか、迷っているふうにも見えた。
「ぼくは、人間の言葉でいうところの亜人だ。
先祖代々、神獣ギムリウスを奉じている。
以前は、一族で、辺境の地で暮らしていたが、魔王宮が解放されたからは、ここに移り住んだ。
主に第一層で、暮らしている。蜘蛛たちは、ぼくを襲わないし、ある程度、操ることも出来るんだ。」
自分でそう言ってから、ウリムは満足そうに頷いた。
うん、うまく話せた、とでも言うように。
「蜘蛛は、この階層に何匹いるんだ?」
「活動休止のものを含めれば、二万だね。」
「そうか。一振で十体ずつ片付ければ、200回で方がつくな。
かまわない。ここに全部、呼び寄せろ。」
「計算ができないのか。」
ウリムは、細い腕を組んで、うーんと、うなった。
「そんなことをしたら、また作らなくちゃならなくなる。これで、試しは終わってことにするので、とっとと、第一層は抜けないか?」
ミヤレは、ドンドンと、石突きで、床を叩いた。
「ギムリウスに連絡はできるのか?」
「連絡? ギムリウスに? できない、いやできないことはないか。なにを知りたいのかな?」
「アルディーンは、ギムリウスのもとに保護されているのか?」
「……いいや。」
可愛らしい顔をしかめて、ウリムは言った。
「最短のコースで、二層に降りたはずだ。
そこからは、蜘蛛たちはいないので、わからない。吸血鬼たちと接触したのか、そうでないのか。
ラウルと会ったのかそうでないのか。」
「ならば、先を急ごう。
ここには、もう用はない。、」
あるものは、床を。
あるものは、壁紙を。
あるものは、天上を走って、接近する。
蜘蛛たちと、ミヤレの間には、あの謎めいたガイド、ウリムが立っていたのだが、蜘蛛たちは、ウリムに目もくれようとはしなかった。
ミヤレは、攻撃を自分に引きつけるように、わざと得物であるハルバートを大きく振りかざしていたのではあったが、これは異常と言えば異常である。
ウリムは。
困ったように、ミヤレのほうを見ている。
先頭をはしる蜘蛛が、ミヤレに襲いかかった。
1匹は、床から。もう1匹は壁を走り、さらに一匹は、天井から。
僅かにタイムラグをつけた攻撃を避けることは、どのような剣の達人にも難しいものだったろう。
斧槍の一旋で、それらすべてが吹き飛んだ。
長い柄をもつハルバートは、その回転において、威力を増す。細く、鋭利な剣のように、自在に振り回すと言うよりも、武器ほのものがもつ、重さこそが、威力となるのだ。
一度の旋回のその軌道上に、複数の標的を設定し、まとめて、打撃をあたえる。
ミヤレには、それが出来た。
刃の部分がもろにあたった蜘蛛は、頭から胴体まで、輪切りにされて、地に落ちて、即死。柄の部分で殴り飛ばされたものも、打撃を受けた頭部を、陥没させて、床で痙攣を続けている。
残りの蜘蛛たちが、散開した。
ミヤレのハルバートの間合いをはかり、いったん、間合いの外に逃れたのだ。
逃れたはずだったのにっ!!
バグンっ!
蜘蛛の1匹の頭が割れた。
ミヤレのハルバートの分厚い刃が、叩き割ったのだ。
弧をえがいた斧は、となりの壁に張り付こうとしていた蜘蛛の脚をごっそりと切断した。
このとき、ミヤレは、ハルバートの柄のも部分を変えている。
最初の一旋は、柄の中程を。
いまは、柄の端を握っている。
その分、リーチは長い。
さらに遠くに、逃れようとした蜘蛛の胴体を。
ズンッ!
ハルバートの先端は、鋭く尖った槍となっている。
それが、蜘蛛を串刺しにした。
逃れようと蠢く蜘蛛を、ミヤレは床に叩きつけた。
瞬く間に、半分の蜘蛛を平らげたミヤレは、篭手には埋め込まれた宝石に、口付けした。
ボウッと、火球がうまれ、それはまっしぐらに。
後退を続ける蜘蛛の群れにではなく、ガイドのウリムに向かって、放たれた!
とっさのことに、ウリムは反応出来なかった。
ひとひとりなど、焼き尽くすであろう火炎玉をまえに、ガイドの少年は立ち尽くす。
だが、そこに、蜘蛛の一匹が割って入った。
火球は、蜘蛛に当たり、爆散した。
人間よりは、はるかに頑丈に出来ている蜘蛛の魔物の身体を、四散させ、火球は消滅した。
ウリムは、指を唇に当てた。
ヒュイ。
短い音は、部分的には人間の可聴範囲を超えている。
生き残りの蜘蛛は、それを聞くや否や、一目散に逃げ出した。
ミヤレは、追わずに、ウリムを見つめた。
ウリムは。
表情を消したまま、ミヤレを見返した。
その頬に。
もう1つ、目が開いていた。
「乱暴すぎる。」
ウリムの口調には、緊張も敵対もない。
「蜘蛛に、あなたを害する気はなかった。ちょっと脅すのと……腕前を見たかっただけだ。」
「おまえが、蜘蛛に命令できることは、否定はしないのだな。」
ミヤレは、石突きで、どんと、床を叩いた。
「命令?
このレベルの蜘蛛は、正確には生き物ですらない。正確に言うなら、操縦かな。」
ウリムは。
淡々とそう述べた。
「なにものだ、おまえは。」
当然のミヤレの問いに、ウリムは首を傾げた。
どう答えようか、迷っているふうにも見えた。
「ぼくは、人間の言葉でいうところの亜人だ。
先祖代々、神獣ギムリウスを奉じている。
以前は、一族で、辺境の地で暮らしていたが、魔王宮が解放されたからは、ここに移り住んだ。
主に第一層で、暮らしている。蜘蛛たちは、ぼくを襲わないし、ある程度、操ることも出来るんだ。」
自分でそう言ってから、ウリムは満足そうに頷いた。
うん、うまく話せた、とでも言うように。
「蜘蛛は、この階層に何匹いるんだ?」
「活動休止のものを含めれば、二万だね。」
「そうか。一振で十体ずつ片付ければ、200回で方がつくな。
かまわない。ここに全部、呼び寄せろ。」
「計算ができないのか。」
ウリムは、細い腕を組んで、うーんと、うなった。
「そんなことをしたら、また作らなくちゃならなくなる。これで、試しは終わってことにするので、とっとと、第一層は抜けないか?」
ミヤレは、ドンドンと、石突きで、床を叩いた。
「ギムリウスに連絡はできるのか?」
「連絡? ギムリウスに? できない、いやできないことはないか。なにを知りたいのかな?」
「アルディーンは、ギムリウスのもとに保護されているのか?」
「……いいや。」
可愛らしい顔をしかめて、ウリムは言った。
「最短のコースで、二層に降りたはずだ。
そこからは、蜘蛛たちはいないので、わからない。吸血鬼たちと接触したのか、そうでないのか。
ラウルと会ったのかそうでないのか。」
「ならば、先を急ごう。
ここには、もう用はない。、」
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