小悪党、転生~悪事を重ねてのし上がって大往生、これでいいやと思ったらなぜか周りが離してくれません

此寺 美津己

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第五章 迷宮ゲーム

【列強たち2】正当なる後継者

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ノートビル公爵は、この日、客人を迎えていた。
それほど、身分の高い相手ではないが、内密に会いたかった相手だ。
だから、突然にやって来て、案内も待たずに、客間に乗り込んできた若者に、苦い顔をせずにはいられなかった。

「やあ、父上。」
恐らくは母親似なのだろう。
すぐれた体格の青年は、肩をそびやかすようにして、小柄な父親の前に立つ。

「ガレス殿下。」
ノートビルは、視線を合わさないようにして、言った。
「来客中なのです。あとには出来ませんか?」

その言葉が聞こえたのか、それともわざと無視したのか(恐らくは後者だろう)ガレスは、パッと顔を輝かせて、客人の手を握りしめた。

「これは、これは。遊撃機動軍のライセン少佐。以前、新年祭でお目にかかりました。本日、こちらにお越しいただいた、ということは」

ライセンは、軍大学を首席で卒業した俊才だった。
各地の反乱や、人の世を侵そうとする上位存在。そういったものたちと影の部分で死闘を繰り広げているのが、遊撃機動軍だった。
多人数がぶつかり合大会戦には縁がないため、構成人数は、例えば中央軍に比べれば、問題にならぬほど少ないが、いずれも一騎当千。
精鋭揃いなのが、その特徴であった。

中央軍から見れば、遊撃機動軍は、抱える人員も少ないのに、経費ばかりかかる金食い虫。
一方で、遊撃機動軍は、真の意味で帝国のために戦っているのは、自分たちだけ。実際に行うのは示威行動しかないほかの方面軍を一段、下に見ていた。

ランセンは、その中でも、後方部門が長い。
政治的なバランスに優れた彼は、内密に行われたはずのノートビル公爵との会談に、その息子。
皇位後継者ガレス・オクタヴィアが、乱入するのは、想定してはいなかった。

これはまずい。
ノートビル公爵との密会は、あとでどうにでも言い訳ができるとしても、そのにガレスが同席していたとなれば、話は違ってくる。 
遊撃機動軍は、ガレスを支持することにしたのだと。
少なくとも、それに向けての準備を行っているのだと、世間にむけて公言したことになる。

ランセンは、恨めしそうに、ノートビルを見やった。
もともと、権謀術数に長けた人物ではあったが、後継者争いについては、口出しをせず、その任務を粛々と果たしていたのだったが、とんだ食わせものだったわけだ。 

対してノートビルは、深々と頭を下げた。
もともとは、絶世の美形であった彼も、アデル帝との離婚後は、すっかり老け込んでいる。
もともと小柄な身体を縮めるようにして、詫びる姿は、どこか剽げた感があって、ランセンは、怒りのもっていく方向を見失った。

「今日、ガレス殿下と会う約束などは、誓ってしておりません、ランセン殿。」
めっきり皺の多くなった顔を歪ませて、懇願するように、ノートビルは言った。
「もちろん!
これをもって、ガレス殿下を支持いただけるようにお願いもいたしません。
いえ、いっその事、敵に回っていただいてもかまいません。」


それができないから、困るのだ。

もし、今回の後継者争いに、武力が使われるとすれば、それは、正門を打ち壊す破砕槌ではなく、毒を塗った短刀なのだ。つまり、遊撃機動軍は、ぜひとも味方につけたい勢力であり、ランセンは、言わば、自分たちを高く買ってくれるものを捜して、各勢力(その中には不倶戴天の中央軍も含まれていた)に交渉を持ちかけている立場であり、ここで、ガレスを打ち切ることは、ガレスの旗を上げることと、同様なくらいダメなことなのである。

「まあまあ、父上も。ランセン少佐も
。」
ガトルは、立ち上がりかけたランセンを座らせ、自分もまた、その前の席、父親であるノートビルの隣りにどっかりと腰を下ろした。
「誰が新皇帝に指名されるかは、母上の胸の中です。周りがやいやい言ってもどうなるものでもありません。
まして、なんらかの誹謗行為など行えば、ユーダの二の舞です。」

「ユーダ殿下はいまどうして……」
ランセンが尋ねた。
ノートビルが止める間もなく、ガトルは軽々と答えた。
「迷宮牢にて、謹慎中です。彼女のクーデターに賛同した近衛隊の有志たちも、です。」 

「謹慎。それだけですか?」

「迷宮のなかでの謹慎です。食料と飲水を確保し、日々を生きるだけでも精一杯でしょう。もちろん、近衛の精鋭と冒険者としても名を馳せたユーダには、たしかに大した罰にはなりませんでしょうね。」

「ならば、ユーダ殿下は、後継者候補からは、はずされた、と?」

「それすら、はっきり、言ってくれないのが、母上です。」
ガトルは、ポケットをあさって、紙巻きを見つけ出して、口にくわえた。
ノートビルが差し出した指先の炎で、火をつけると、深々と煙を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
「失礼。これは、わたしの悪癖です。
身体に悪いと言われながらも、精神を落ち着かせてくれる効果には、逆らえない。」

ランセンとノートビルは、互いに顔を見合わせた。
ガトルは、為政者として、おそらくは有能なのだろう。
その治世は、過度に残虐にはならず、政策は中庸的で、穏やかなものとなるはずだ。
だが、どうしてもこの男のやることは好きにはなれない。そう思わせるものが、ガトルにはあった。

「今日の密会ですが」
ガトルは、不意に言った。
「ノートビル公爵家から、遊撃機動軍への依頼があった、ということにするのは如何ですか?」

「依頼?
たしかに、いまの貴族は昔のように領土をもった封建貴族ではない。固有の武力はもっていないから、代わりに遊撃機動軍に、調査や場合によっては、討伐を依頼することはあるわけだが。」

「なら、そう致しましょう。これで、今日の密会の理由付けになる。
遊撃機動軍は、ノートビル公爵家に恩をうっただけで、旗色を鮮明にした訳では無い。」

「し、しかしだね」
ノートビルは、落ち着かないように手を擦り合わせた。
「なにを依頼すれば、よいのだろう?」


「アルディーン・クローディアですよ!
母親の隠し子との噂も高い、あらたな継承者候補。
中央軍が、彼女にご執心なのは、父上もランセン殿もよくご存知でしょう?
すでに、中央軍筆頭魔導師グリシャム・バッハが、グランダに向かっています。」

「いや、その。しかし。」
ノートビルは、口ごもった。

「しかし? なんです、父上。」

「アルディーン・クローディアを皇室は、はっきりと皇帝陛下の血を引くと認めた訳では無い。
陛下ご自身がその名を口にしたことは、ないし、まして継承権など」


「たしかに異例なのは認めますよ、父上。」
ガトルは、ひどく残酷に見える笑いを浮かべた。
「わたしも、母上の2番目の夫ローデウス公の一子サラステインも、そうだ、かわいいキケルトの父親とは、とうとう籍を入れなかったが、きちんと認知して、みな皇位継承候補者に入れている。
アルディーンだけなのですよ、あれの胎内から生まれ出てて、皇位継承権がないのが。」

「だから、陛下の直接の血筋ではないという理屈も成り立つのだが。」

「歴史に名を残す種馬どもなら、そういう理屈もありうるでしょう。
ですが、アデル帝は、女帝だ。さすがのあの化け物でも、他人の子をひり出すことは出来ないでしょう。」

ノートビルは、悟った。
この男。自分の血を引く子どもであり、アデルの長子。おそらくは皇帝の座にもっとも近いこの男は。


アデルを殺したいほど憎んでいる。

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