小悪党、転生~悪事を重ねてのし上がって大往生、これでいいやと思ったらなぜか周りが離してくれません

此寺 美津己

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第五章 迷宮ゲーム

第52話 古竜の牢獄

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ティーンは、治癒魔法は得意らしい。
実際、この数日間、ぼくはティーンに、最新の治癒魔法を中心とする最新の魔法を講義してもらっている。
せっかくの数日のアドバンテージを稼ぎ出したにも関わらず、第三階層主リアモンドは、まだ帰ってこない。
迷宮内部からの連絡には、ウィルズミラーは使えないが、古竜たちには、竜珠がある。
リアモンドに連絡は着くはずだし、ティーンとぼくの来訪が、連絡に値しない事象だとはとても思えなかった。

実際に古竜たちも、ぼくたちをどうしたらいいか、判断がつきかねるから、ぼくたちをこうして半監禁しているのだろう。

「でも、この何日間は、とっても貴重な時間だわ。」
ティーンは、とんでもない場所で、出会い、なし崩しに彼女の逃走に付き合うことになったが、どうもぼくたちは、相性がいいようだった。
まるで、何年のまえからの知り合いのように、気軽に会話が出来たし、一緒にいて、一瞬たりとも退屈はしなかった。
人生経験という点では、ぼくは彼女の6倍はあったが、彼女の頭の冴えや記憶力は、ぼくを楽しませた。

…同様に、ぼくの話しも彼女は楽しんでくれていた、と思いたい。

「皇位継承を巡っては、いくつかの勢力が、しのぎを削ってるの。
いちばん、リードしているのは、アデルの長子ガトル皇子を中心とする一派ね。宮中の高級官僚を取りまとめて、すぐにでも皇位を継承しても、そつ無く、帝国を運営できる。一方で、軍からは積極的な指示は受けていないの。
第二皇子のサラステインは、地方軍、とくに東部方面軍の指示が厚い。もともと一時、冒険者をしていたもので、武人の風格があって、大衆からの人気も高い。
経済界からの献金がもっとも多いのが、キケルト皇女。
軍事予算を削って、公共投資を積極的に行おうとする予算案をなんどか提出していてる。反面、公共投資のなかに、鉄道にかわる流通網の構築が含まれていて、鉄道公社からは警戒されている。
この3人が、そのほか、アデルの血を引かない、候補者たちからは頭ひとつ、抜きでた存在。
中央軍は、その中では、影響力がすくないほう。誰が組むにしても、中央軍が強すぎて、傀儡化しちゃう未来が目に見えているのよね。」

ほうほう、と感心するぼくに、ティーンは冷たい目をむけた。

「ある程度、教養のある人間なら、このくらいの知識はあるのよね。
ヒスイ。新聞はとったなかったの?
ウィルズミラーが使えないなんて、化石みたいな事は言わないわよね?」

「それは、ボルテックからも最初に言われた。」
ぼくは、怠惰な生活を嘆いたが、老いる、といのは、そういうことだ。足腰が不自由になってからも、馬車馬のように働き続けないと、寝食もままならぬようなら、それはそれで不幸に違いない。

「それで?
後継者争いについて、中央軍が、圧倒的有利な立場どころか、有力候補から、軒並みそっぽを向かれている状態なのは理解した。
それと、ここで、時間稼ぎが出来たのとどういう関係が。」
ぼくは、気がついて、頷いていた。
「そうか。ほかの対立勢力がほっておかないか。」

「そういうこと。
アデルの魂をわたしに移すなんて、反則はともかく、どうにでもなる傀儡として、わたしを候補者に擁立したいんだぅてことは、動きからみても明らかよね。
ごまかそうとしたって、筆頭魔導師のグリシャム・バッハまで、送り込んでしまったのだから。
ほっておくと思う?
少なくとも、クローディアの実家と、北部方面軍、それに中央軍とはとりわけ中の悪い遊撃機動軍、戦女神神殿あたりは動きだすころ。」

「それに加えて、第二層の吸血鬼たち。
第三層の古竜も、それぞれの思惑で動くだろう。
言っておくけど、ぼくはあの超越者どもに好かれることには、自信があるんだ。」

ティーンは、んな、根拠もないことを、と言いかけて、うーんと首をひねった。

「……たしかに、氷雪公主ラスティは毎日のように、ここを尋ねてくれているけど。」

世話役としては、エミリアがいるのだから、古竜たちのなかでもリーダー各のはずのラスティが足繁く、通う必要はない。
にも関わらず、毎日、どころか、日に数回もラスティは、尋ねてくる。
三回に一回は手作りのクッキーを持ってくる。
焦げていることも多いが、食べられる味だ。
褒めてやると、にこにこと笑って、喜ぶ。

「“深淵竜”もだろう?
とにかく、ぼくは、あいつらには好かれやすいんだ。」
「神にする背いた男、“背教者”ゲオルグが?
不思議な話しよね!」
「それ以前に、だ。」

ぼくは、足をゆっくり伸ばしたり、曲げたり、問題がなさそうなので、立ち上がって、とんとんと、床を踏んでみた。
足の治癒は、完璧だ。
極端な治癒魔法。たとえば、見るまに傷が塞がり、肉が盛りあがったり、切断された手足が生えてきたりするものは、あとあと機能面で問題が生じることが多い。

ティーンの治癒魔法は、そこまで、極端な回復力はなかったが、副作用もなく、すこし、歩いたり、飛び跳ねたりしてみたが、まったく痛みも違和感もなかった。

「それ以前に、なによ?」
「裏社会で、少々、名が売れていたチンピラを神が、地上における代行者として、スカウトすると思うか?」


少し考えて、ティーンは言った。

「まあ、ありえないと思う。」

「ありえないことが、起こっている。
ぼくが、神の地上代行者となったのは、神が自ら魔王をつくって、古の魔王に対抗させるという発想に興味があったのと、神様たちが、提供してくれた利益だ。
やつらが、護衛用につけてくれた天使ひとりで、当時、ぼくが抱えていたトラブルを前部解決できたのさ。」

「好奇心旺盛で、短絡的。」
ティーンは、顔をしかめた。
「まあ、わたしにも似たようなところがあるのは認めるけど。
そして、目先の欲求に弱くて、善悪の判断がつかない。」

「そして、神創魔王を作るのに、あんまりにも犠牲がでるので、イヤになった。
いわゆる、蠱毒に近いやり方でな、あれは。
一国を贄にして、やっと一体の擬似魔王を誕生させるという方法だ。
なので、ぼくは、ちょうど銀灰にやっていた竜王たちに乗り換えることにした。」

「無節操で、すぐ相手を裏切る。」

「ちなみに、当時知り合った“竜王の牙”の古竜たちは、ぼくの考えに賛同してくれたぞ。
分かるだろう?
無限寿命をもつ、超越者どもは、人間から見れば、一人残らず、小悪党でしかないんだ。」
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