小悪党、転生~悪事を重ねてのし上がって大往生、これでいいやと思ったらなぜか周りが離してくれません

此寺 美津己

文字の大きさ
57 / 59
第五章 迷宮ゲーム

第53話 銀狐の死闘

しおりを挟む
ハイベルクは、死を覚悟した。

魔王宮に同行させた“銀狐”の精鋭たちは、全員が意識を失って、床に倒れふしていた。
戦う。
それすらも出来なかった。

ハイベルクたちは、もともと、クローディア大公家につかえた諜報舞台である。
戦闘について、プロフェッショナルではあったが、あくまでもその戦いは対人戦闘。
正面から向き合うことのない、不意打ちや奇襲によるものが主である。

その実績と技量を過大評価したつもりはなかった。
迷宮内の魔物には、有効でない武器も技も多いし、こちらが迷宮に侵入する異常、奇襲を仕掛けられることはあっても、仕掛けることは少ないだろう。

だから、魔物との戦闘は、極力さ避けてきた。

その作戦は功を奏し、第一層では、蜘蛛の魔物を二体。二層では、スケルトンや
屍人との戦闘を二回、行っただ家で、ここにたどり着いた。

三層へ降りるには、この部屋の主を突破しなければならない。

そういうルールを課している迷宮は、いくつもある。

たまたま、今回の第二階層がそうなっていたのだろう。
たいてい、そこに待機するのは、階層主であるが、そうではないこともある。

戦闘術というより、暗殺術の専門家である“銀狐”は、二層を構成するアンデット系の魔物には相性はよくない。

だから、護符や得物への付与効果など、それなりの準備はした。したつもりだった。
だが、ここでこいつに合うとは、想像するしていなかった。


部屋は薄暗く、狭い。
狭い。というのは、迷宮のボス部屋だと思うからで、そうでなければ、まず快適な書斎といってよかった。

部屋の主は、トーガを身にまとい、机に向かって、なにやらペンを走らせていた。

白髯を蓄えたその顔は、知的で、表情は穏やかだった。

かなりの年配には見えたが、背筋は伸び、その所作には、気品が伺えた。

オロア!!

第五層の階層主!!

なせ、彼がここにいるのだろう。
いや、本体ではなく、いまのオロアは、おそらくは、第五層から投影した「影」にすぎない。
戦っても本体よりは、格段に力は落ちるはずだ。

ハイベルクは、部下たちを見下ろした。
何人かは、身体が痙攣を始めている。
息を吹き返すどころか、このまま死に至る危険な兆候であった。

戦うどころではない。

オロアを見た瞬間から、彼らはこうなった。
高位のアンデットと対すると、人間は、そな生命を侵食される。

ハイベルク自身は、それに対する訓練を受けていた。だから、かろうじて、意識を持って立っている。

だが、それだけだ。

「お、オロア老師……。」
なんとか、声を絞り出した。

おお。
と、ペンを走らせていた老魔導師は、そのとき、やっと、ハイベルクたちに気がついたようだった。

同時に。
体を凍らせる鬼気が、すうっと和らいだ。

「なぜ、わしがここにいるのか、というと、それはラウルとラスティから、頼まれたからだ。」

その目が、床に転がったハイベルクの部下たちに捉えた。

「ノックもせずに入ってきたので、人間に対峙するときの準備を怠った。
訓練をされていないものが、普段のわしを見るとそうなる。」

「オロア老師!」
戦うことなど、無理にしても、ハイベルクは目的に向かって、這ってでもすすむことを止めない。
「わたしたちは、クローディア家のものです。わたしは“銀狐”のハイベルク。」

「クローディアの。それはそれは。」
オロアは、目を細めた。
「対人戦闘においては、そこそこのもの達なのだろうが、迷宮探索には不向きであったな。お主たちの探索はここで、終了だ。」

「お待ちください、老師!
わたしたちは、魔王宮の禁忌を犯すものではありません。
行方不明となった、クローディア家のアルディーン姫を探しております。
お心当たりはありませんか?」

「そういう名前の女性は、この先。第三層にいる。」

ハイベルクの表情が明るくなった。

「姫を、中央軍のやつらが探しております。一刻も早く、姫を保護しなければなりません。ここを通してはいただけませんでしょうか。」

ふむふむ。
と、オロアは頷き、椅子をくるりと回して、ハイベルクに向き直った。
人間のふり、をすることに決めたのか、部屋に入ったときに、短時間で、ハイベルクのパーティを全滅させた鬼気は、全く感じられなくなっていた。

「それは、実に難しい。」
実際に少し困ったような表情を浮かべて、オロアは言った。
「まず、アルディーンとその連れの少年は、第三層において、竜を傷つけるという罪を犯して、捕縛されている。いわば監禁の身だ。おいそれと会わせることは出来ない。」

「そ、そんな」
アルディーンが、魔王宮に逃げ込んたのは、ある意味、中央軍の、あるいは帝国の力が及ばない場所だからだ、とハイベルクは、考えている。
奇策も奇策だが、追うものたちも裏をかかれた。
だが、そこで竜と立ち回りをした挙句に捉えられるとは!
いったいなにをやっているのだ! あの姫様は!!

「それに、おまえはアレを保護するというが、いまのクローディア家に、中央軍に対して、アルディーンを守れるのか?」

「北部軍は、元がクローディア公家の“白狼騎士団”です。彼らとともに、姫を守ります。」

「それは、中央軍と武力でやり合うことを意味するぞ。内乱でも起こすつもりか?」

「…」

「もうひとつ。ラウルとラスティの頼みは、何者も、第三層に入れるな、とちうことだった。
頼まれた任務は、果たす。そらだけのことだ。
おまえたちは、ここにいろ。いや未来永劫という、わけではない。
リアモンドが、アルディーンたちの罪状を定め、第三層への立ち入りが許可されるまでの期間だけだ。」

それには、何日かかるのか!

ハイベルクは、絶望的な目で、瀕死の部下たちを見やった。
何人かは早急に治癒が、必要だった。

「それまでは、ここから出ることは許さない。地上に持ち帰られてはこまる情報もあるのでな。それまでは、第三層に挑もうとした冒険者たちは、おまえたちだけだは、ない。みな足止めだ。
このような部屋は、いくつも設けてある。
わしは、各部屋に分身を置いている。
別のパーティが、同じ部屋に入ってくることは無いし、入ったものは、時が至るまで出ることは許されない。」

ハイベルクは、抗議しようとして、諦めた。

オロアは、死霊だ。
少なくとも生きてはいない。
そして、生きていないものにとって、他人の生き死になど、興味の対象外なのだ。


そのとき。

ノックの音がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...