小悪党、転生~悪事を重ねてのし上がって大往生、これでいいやと思ったらなぜか周りが離してくれません

此寺 美津己

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第五章 迷宮ゲーム

第53話 銀狐の死闘

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ハイベルクは、死を覚悟した。

魔王宮に同行させた“銀狐”の精鋭たちは、全員が意識を失って、床に倒れふしていた。
戦う。
それすらも出来なかった。

ハイベルクたちは、もともと、クローディア大公家につかえた諜報舞台である。
戦闘について、プロフェッショナルではあったが、あくまでもその戦いは対人戦闘。
正面から向き合うことのない、不意打ちや奇襲によるものが主である。

その実績と技量を過大評価したつもりはなかった。
迷宮内の魔物には、有効でない武器も技も多いし、こちらが迷宮に侵入する異常、奇襲を仕掛けられることはあっても、仕掛けることは少ないだろう。

だから、魔物との戦闘は、極力さ避けてきた。

その作戦は功を奏し、第一層では、蜘蛛の魔物を二体。二層では、スケルトンや
屍人との戦闘を二回、行っただ家で、ここにたどり着いた。

三層へ降りるには、この部屋の主を突破しなければならない。

そういうルールを課している迷宮は、いくつもある。

たまたま、今回の第二階層がそうなっていたのだろう。
たいてい、そこに待機するのは、階層主であるが、そうではないこともある。

戦闘術というより、暗殺術の専門家である“銀狐”は、二層を構成するアンデット系の魔物には相性はよくない。

だから、護符や得物への付与効果など、それなりの準備はした。したつもりだった。
だが、ここでこいつに合うとは、想像するしていなかった。


部屋は薄暗く、狭い。
狭い。というのは、迷宮のボス部屋だと思うからで、そうでなければ、まず快適な書斎といってよかった。

部屋の主は、トーガを身にまとい、机に向かって、なにやらペンを走らせていた。

白髯を蓄えたその顔は、知的で、表情は穏やかだった。

かなりの年配には見えたが、背筋は伸び、その所作には、気品が伺えた。

オロア!!

第五層の階層主!!

なせ、彼がここにいるのだろう。
いや、本体ではなく、いまのオロアは、おそらくは、第五層から投影した「影」にすぎない。
戦っても本体よりは、格段に力は落ちるはずだ。

ハイベルクは、部下たちを見下ろした。
何人かは、身体が痙攣を始めている。
息を吹き返すどころか、このまま死に至る危険な兆候であった。

戦うどころではない。

オロアを見た瞬間から、彼らはこうなった。
高位のアンデットと対すると、人間は、そな生命を侵食される。

ハイベルク自身は、それに対する訓練を受けていた。だから、かろうじて、意識を持って立っている。

だが、それだけだ。

「お、オロア老師……。」
なんとか、声を絞り出した。

おお。
と、ペンを走らせていた老魔導師は、そのとき、やっと、ハイベルクたちに気がついたようだった。

同時に。
体を凍らせる鬼気が、すうっと和らいだ。

「なぜ、わしがここにいるのか、というと、それはラウルとラスティから、頼まれたからだ。」

その目が、床に転がったハイベルクの部下たちに捉えた。

「ノックもせずに入ってきたので、人間に対峙するときの準備を怠った。
訓練をされていないものが、普段のわしを見るとそうなる。」

「オロア老師!」
戦うことなど、無理にしても、ハイベルクは目的に向かって、這ってでもすすむことを止めない。
「わたしたちは、クローディア家のものです。わたしは“銀狐”のハイベルク。」

「クローディアの。それはそれは。」
オロアは、目を細めた。
「対人戦闘においては、そこそこのもの達なのだろうが、迷宮探索には不向きであったな。お主たちの探索はここで、終了だ。」

「お待ちください、老師!
わたしたちは、魔王宮の禁忌を犯すものではありません。
行方不明となった、クローディア家のアルディーン姫を探しております。
お心当たりはありませんか?」

「そういう名前の女性は、この先。第三層にいる。」

ハイベルクの表情が明るくなった。

「姫を、中央軍のやつらが探しております。一刻も早く、姫を保護しなければなりません。ここを通してはいただけませんでしょうか。」

ふむふむ。
と、オロアは頷き、椅子をくるりと回して、ハイベルクに向き直った。
人間のふり、をすることに決めたのか、部屋に入ったときに、短時間で、ハイベルクのパーティを全滅させた鬼気は、全く感じられなくなっていた。

「それは、実に難しい。」
実際に少し困ったような表情を浮かべて、オロアは言った。
「まず、アルディーンとその連れの少年は、第三層において、竜を傷つけるという罪を犯して、捕縛されている。いわば監禁の身だ。おいそれと会わせることは出来ない。」

「そ、そんな」
アルディーンが、魔王宮に逃げ込んたのは、ある意味、中央軍の、あるいは帝国の力が及ばない場所だからだ、とハイベルクは、考えている。
奇策も奇策だが、追うものたちも裏をかかれた。
だが、そこで竜と立ち回りをした挙句に捉えられるとは!
いったいなにをやっているのだ! あの姫様は!!

「それに、おまえはアレを保護するというが、いまのクローディア家に、中央軍に対して、アルディーンを守れるのか?」

「北部軍は、元がクローディア公家の“白狼騎士団”です。彼らとともに、姫を守ります。」

「それは、中央軍と武力でやり合うことを意味するぞ。内乱でも起こすつもりか?」

「…」

「もうひとつ。ラウルとラスティの頼みは、何者も、第三層に入れるな、とちうことだった。
頼まれた任務は、果たす。そらだけのことだ。
おまえたちは、ここにいろ。いや未来永劫という、わけではない。
リアモンドが、アルディーンたちの罪状を定め、第三層への立ち入りが許可されるまでの期間だけだ。」

それには、何日かかるのか!

ハイベルクは、絶望的な目で、瀕死の部下たちを見やった。
何人かは早急に治癒が、必要だった。

「それまでは、ここから出ることは許さない。地上に持ち帰られてはこまる情報もあるのでな。それまでは、第三層に挑もうとした冒険者たちは、おまえたちだけだは、ない。みな足止めだ。
このような部屋は、いくつも設けてある。
わしは、各部屋に分身を置いている。
別のパーティが、同じ部屋に入ってくることは無いし、入ったものは、時が至るまで出ることは許されない。」

ハイベルクは、抗議しようとして、諦めた。

オロアは、死霊だ。
少なくとも生きてはいない。
そして、生きていないものにとって、他人の生き死になど、興味の対象外なのだ。


そのとき。

ノックの音がした。
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