あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第5部 ギウリーク動乱篇~ミトラへの道

第186話 アウデリアと“絶”拳士

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アウデリアは手持ち無沙汰だった。
クローディアは、だいぶ前に、伯爵の秘書官と名乗る男に連れて行かれた。
アウデリアもついていくつもりだったが、「一人だけで」とのことで止められた。
罠の匂いがぷんぷんする。

クローディアは鈍い男ではない。わかっていて出かけている。

出ていったその背中を追うように、黒尽くめの傭兵が、任しといてと行って、席をたった。
「わたし影から見張るから、大丈夫。アウデリアは隠密行動なんて苦手じゃろ?」

確かに。
アウデリアは苦笑するしかない。
苦手、というか隠密行動の意味がわからないほど、苦手だった。だって、動けば、いやそこにいるだけで注目されるのは当たり前だろうが?


「冒険者アウデリアだな。」
仕方なく、アウデリアは、ギルドの酒場で酒をちびちびやっていた。
昼も回った頃だろうか、見慣れぬ見慣れた制服の一団が入ってきた。

「鉄道保安部がなんのようだ?」
確かに、それは列車での旅の間に何度も見かけた列車内部または駅の治安を担当する「保安部」の制服である。
だが、「それ」は本来、街中で見ることはないはずの制服であった。

全員が帯剣している。
簡易ながら鎧も身につけている。
いや、ひとりだけ。
頭1つ大きな巨漢の男だけか、無手であった。
背丈もだが横幅も広い。
全体としてはずんぐりした印象を与える。
肉が内側から皮膚を押し上げ、パンパンに膨らませた風船を思わせるような男だ。

「あなたを、拘束します。アウデリア。」
「なんだ? 昼間から酒の飲みすぎで、か?」

巨漢は嬉しそうに、隊長格の男に話しかけた。
「お、これはもう抵抗だよね、抵抗したよね。」
「シホウさま、まだです。」
「えーーー」シホウと呼ばれた巨漢はぶうたれた。「せっかく、“大斧豪”アウデリアとやり合えると思ったのに。」

「随分と物騒だな。」
アウデリアは獰猛な笑いを浮かべた。
「なんの罪でわたしを拘束するのか聞こうか?」
「エステル暫定伯爵キッガさまから、クローディア公に正式に逮捕状が出ている。嫌疑は、前エステル伯の殺害だ。駆けつけた警護の兵を斬り殺して逃亡している。」

「恐ろしく死人に口なし、だな。」
アウデリアはまだ立ち上がろうともしない。
「伯も警備兵も死んで、誰がクローディアがエステルを殺すところを見たのだ?」
「生き残った秘書官と、我が保安部の精鋭“絶剣士”アイクロフトの証言だ。」
「なら、その二人が犯人だな。」
「エステル閣下の胸には公の剣が刺さっていた。こちらで証拠物件として回収している。
下手な言い逃れはきかんぞ、アウデリア。」

「クローディアは警護の兵を斬り殺したのか?」
「その通り!
戦意を失ったものまで、次々と愛剣で切り倒し、首をはねた。まさに悪魔の所業。」
「伯爵の胸に刺さったままの愛剣でか?」

隊長は言葉に詰まった。
「だいたい、逮捕状が出たのはクローディアだろう?
なんでわたしを捕まえるのだ?」
「き、きさまは、クローディアの妻だろう?」
「いい、や。」
アウデリアは、口が耳で避けそうなニヤニヤ笑いを浮かべている。
「別にそうじゃないしな。」

確かにこれから、婚礼の式をあげるのである以上、いまはまだ正式な伴侶ではない。
言葉に詰まった隊長を、押しのけて巨漢があゆみ出た。

「アウデリア。」
悲しそうに巨漢は言った。
「おまえは舌戦もなかなか愉快なのだな。これで別れになるのは実に寂しい。」

アウデリアは立ちあがろうとしたが、果たせなかった。
巨漢。絶拳士シホウの拳は、約21発。全てが人体の急所に叩き込まれていた。

声も上げずにアウデリアは崩れ落ちた。
テーブルが倒れ、酒瓶が砕けた。

荒事に慣れた冒険者たちが動けない。
シホウの放った突きは、誰の目にもとまらなかった。
まさに神速。ための動作も一切感知できない。

「おおおおおっ」
巨漢があげたのは歓喜の声であった。
その両手の拳から白い湯気が放出されていた。

外傷の治癒を促進しようとするとき、傷口がそのようになることがまま、ある。
つまり。

「右の中指、左手の甲にヒビが入った。」
絶拳士はうれしそうに言った。
「これが人間の体か?」

「おまえの手は勝手に治るんだろうが、壊れたテーブルと零した酒はそうはいかん。」

のそり。
と、冬眠から覚める熊のようにアウデリアは。体を起こした。
鼻は潰れ、太い鼻血が唇から顎までしたたっていた。笑った口の中に前歯がなかった。
べっと、床に吐き出した白い破片は折れた歯だったのだろう。

腕も妙な方向に折れ曲がっている。
あの神速の打撃を少なくともいくつかは、アウデリアはガードすることに成功したのだ。だが、絶拳士の拳はガードした腕ごと叩き折った。

アウデリアも真っ赤な口を開けて笑った。

「婚礼前の顔をこんなにしてもらったことについては、抗議しないといけないなあ。」
「それについては良い方法を提案しよう。」

二人の魔人は、まるで十年の知己のが再会を喜ぶように笑い合った。

「凹んだところをもう一度分殴るともとに戻るんだ。」
「昔、子供向けの紙芝居で見たなあ。」

アウデリアが、笑っている。

「おまえの顔で試してみよう。」

「あ、あのっ!」
よくぞ、割って入った。ギルドマスター!
「せめて表でやっていただけませんか?」

もっともな頼みだった。
アウデリアは、立ち上がるとゆっくりとギルドの外に出た。

絶拳士シホウと、保安部の面々と後に続く———

外には誰もいなかった。

「に、逃げた! この展開で逃げるか、普通!」
この魔拳士に普通がどうの言われたくはない。

ギルドのドアに、引きちぎった服の一片に血糊で書いたメッセージが貼り付けてあった。

「おまえはジウル・ボルテックに任せる。」


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