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第8部 残念姫の顛末
第364話 困った者たちは決着へと動く
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さん、はいっ!
アモンの掛け声にあわせて、竜は吠えた。
一体でも万の軍隊を退かせるに相応しい咆哮は、閉鎖空間を揺るがし、実際にいくつかの鍾乳石が落下して、砕け散った。
「下手くそっ!」
アモンは目をひん剥いてどなった。
「吠えるんじゃない!
歌え!」
全員が下を向く中、ラウレスがまあまあとしゃしゃり出た。
正直、この古竜たちのなかでは、完全に格下である。名前はそりゃあ、知られているがそれは、人間の女性との間にあった彼の浮名のせいだった。
「アモンさま、もともと竜の声帯は細かな言葉を発するようには出来ていません。」
「いまのおまえたちは、人化しているのだから、竜の形態でのことは、意味が無い。」
アモンはそっけなく言った。
「それにしても、我々は、そもそも大きな声を出すのは戦いの時くらいしかないのです。それ以外の場合に吠えたら相手を怯えさせてしまいますから。」
「決まった音程で大きな声を出すだけだ。」
アモンは、少し焦っていた。
結婚式まであと三日である。
これほどまでに、竜という種族が歌が下手くそだとは思ってもみなかった。
こうなってみると。
“ルトとフィオリナの、結婚。延期させた方がいいのでは。”
寄りにもよって、リウとフィオリナが出来ていることに、嫌悪感を感じていたアモンが、結婚式の中止を考え始めたのは、なんとこのときである。
ここいらは、やはり、アモンも人間ではなかったのであろう。
竜は子育てのために番をつくるが、それは必ずしも自分の子ではないことも多い。
生き物として定められた寿命のない竜は、有限寿命者のもつ自分の遺伝子をもった子孫を繁栄させるという観念がそもそも薄いのだ。
リウとフィオリナがそれぞれの「性」を違えて交わったことも、その都度で性別を選ぶ、竜にとっては当たり前のことだった。
そして、ルトとフィオリナを「仲間」として認識したアモンは、2人の言う「結婚」を「まあ、そんなもんか」くらいに思っていた。
とりあえず、旧知のアウデリアの希望もあって、竜の合唱を練習させてみたのだが。
話すのは普通にできる。
声の音程も出せる。
だが、声をはったとたんにそれは、たちまち万物をひれふさせる竜の咆哮となってしまうのだ。
「少しルトと話をしてくる。」
アモンは、ラウレスに「あとをまかせる」といって、転移で姿を消した。
さきほども言った通り、ラウレスはこの竜たちの中では完全に格下であった。
竜の牙は、竜王直属のエリートと言える。魔王宮の古竜たちはある意味、それをも凌ぐ。
だが、ラウレスを見る目には敬意があった。
竜王の牙たちは、クローディア大公の歓迎会で、ラウレスの料理をたべていたし、魔王宮の古竜たちは、先日行われた魔道院と、冒険者学校の対抗戦で、かれがラスティを破ったことを知っている。氷竜公女の異名をとるラスティは、おそらく神竜にもっとも近い竜だと思われていた。
「えー、みなさん。」
ラウレスは丁寧に言った。
「歌はあきらめて、詩の朗読にいたしませんか? 少し抑揚をつければなんとなく曲っぽく聞こえると思います。」
こののち、ラウレスの株は古竜たちのなかでバク上がりするのである。
アモンの転移は、世界をまたぐ。アモンの飛翔は、次元をも超える。
とにかく、リウのせいでリウのせいで、それからリウのせいで。いやリウのせいばかりではないか。ウィルニアのせいで。
物語は混乱を極めていた。
こういう状態を打破する方法を、アモンは持っていた。
全員あつめてぶん殴るのである。
拳をかためた神竜皇妃は、オーロラを撒いて飛翔する。
「なんでついてくる。」
「逆にきこう。なんでついてこないと思ったのだ?」
フィオリナは機嫌が悪い。
ミュラは、そんなフィオリナと視線をあわせないようにしている。
学生街に近い、あまり高級とはいえない居酒屋に顔をそろえたのは、まず、ふたりでしけこもうと画策していたフィオリナとミュラ。
もっともミュラについては、リアにフィオリナと出かけることをメモでこっそりわたして「絶対邪魔しないでね。」とささやいたので、コントがことのほかお好きなリアは。これは絶対邪魔しろとのいみだろうと正しく解釈し、すぐにドロシーにチクった。
ドロシーは、ちょうどその時間、クローディア大公との打ち合わせが入っていたため、代わりにロウ=リンドに行ってもらえないか頼み、頼まれたロウはちょっと考えてから、ヨウィスとリヨンを呼んだ。
かくして、いい雰囲気でお酒をのむはずだったフィオリナたちのところに、真祖吸血鬼をはじめ、簡単に排除できないろくでもない連中が集まったのである。
「だいたい、おまえ、ミュラをなんとかしようと思っても使い物にならないんだろ?」
「大きなお世話!だ!」
「ふっふっふ・・・ルトがいらないなら、わたし、もらうよ、フィオリナお姉さまいや、お兄さまかな?」
「この脂身が!」
男になった今のフィオリナから言われるにはずいぶんなセリフだった。たしかにリアはフィオリナに比べれば豊満ではあるが、締まるところはしっかりしまっている。
さらに言えば、フィオリナは相変わらず、ドロシーのことを鶏ガラと呼ぶのだが、たしかにドロシーは痩せているが、胸は大きくなったし、お腹も拳の稽古のせいか引き締まっている。全身をしなやかな筋肉が多い、まるで、入学当初の猫背の魔法使いから比べれば隔絶の感があった。
リアをフィオリナは睨んだが、こちらはびくともしなかった。
「どうも男バージョンのフィオリナはガサツでいけないと思う。」
ヨウィスが淡々と言った。
アモンの掛け声にあわせて、竜は吠えた。
一体でも万の軍隊を退かせるに相応しい咆哮は、閉鎖空間を揺るがし、実際にいくつかの鍾乳石が落下して、砕け散った。
「下手くそっ!」
アモンは目をひん剥いてどなった。
「吠えるんじゃない!
歌え!」
全員が下を向く中、ラウレスがまあまあとしゃしゃり出た。
正直、この古竜たちのなかでは、完全に格下である。名前はそりゃあ、知られているがそれは、人間の女性との間にあった彼の浮名のせいだった。
「アモンさま、もともと竜の声帯は細かな言葉を発するようには出来ていません。」
「いまのおまえたちは、人化しているのだから、竜の形態でのことは、意味が無い。」
アモンはそっけなく言った。
「それにしても、我々は、そもそも大きな声を出すのは戦いの時くらいしかないのです。それ以外の場合に吠えたら相手を怯えさせてしまいますから。」
「決まった音程で大きな声を出すだけだ。」
アモンは、少し焦っていた。
結婚式まであと三日である。
これほどまでに、竜という種族が歌が下手くそだとは思ってもみなかった。
こうなってみると。
“ルトとフィオリナの、結婚。延期させた方がいいのでは。”
寄りにもよって、リウとフィオリナが出来ていることに、嫌悪感を感じていたアモンが、結婚式の中止を考え始めたのは、なんとこのときである。
ここいらは、やはり、アモンも人間ではなかったのであろう。
竜は子育てのために番をつくるが、それは必ずしも自分の子ではないことも多い。
生き物として定められた寿命のない竜は、有限寿命者のもつ自分の遺伝子をもった子孫を繁栄させるという観念がそもそも薄いのだ。
リウとフィオリナがそれぞれの「性」を違えて交わったことも、その都度で性別を選ぶ、竜にとっては当たり前のことだった。
そして、ルトとフィオリナを「仲間」として認識したアモンは、2人の言う「結婚」を「まあ、そんなもんか」くらいに思っていた。
とりあえず、旧知のアウデリアの希望もあって、竜の合唱を練習させてみたのだが。
話すのは普通にできる。
声の音程も出せる。
だが、声をはったとたんにそれは、たちまち万物をひれふさせる竜の咆哮となってしまうのだ。
「少しルトと話をしてくる。」
アモンは、ラウレスに「あとをまかせる」といって、転移で姿を消した。
さきほども言った通り、ラウレスはこの竜たちの中では完全に格下であった。
竜の牙は、竜王直属のエリートと言える。魔王宮の古竜たちはある意味、それをも凌ぐ。
だが、ラウレスを見る目には敬意があった。
竜王の牙たちは、クローディア大公の歓迎会で、ラウレスの料理をたべていたし、魔王宮の古竜たちは、先日行われた魔道院と、冒険者学校の対抗戦で、かれがラスティを破ったことを知っている。氷竜公女の異名をとるラスティは、おそらく神竜にもっとも近い竜だと思われていた。
「えー、みなさん。」
ラウレスは丁寧に言った。
「歌はあきらめて、詩の朗読にいたしませんか? 少し抑揚をつければなんとなく曲っぽく聞こえると思います。」
こののち、ラウレスの株は古竜たちのなかでバク上がりするのである。
アモンの転移は、世界をまたぐ。アモンの飛翔は、次元をも超える。
とにかく、リウのせいでリウのせいで、それからリウのせいで。いやリウのせいばかりではないか。ウィルニアのせいで。
物語は混乱を極めていた。
こういう状態を打破する方法を、アモンは持っていた。
全員あつめてぶん殴るのである。
拳をかためた神竜皇妃は、オーロラを撒いて飛翔する。
「なんでついてくる。」
「逆にきこう。なんでついてこないと思ったのだ?」
フィオリナは機嫌が悪い。
ミュラは、そんなフィオリナと視線をあわせないようにしている。
学生街に近い、あまり高級とはいえない居酒屋に顔をそろえたのは、まず、ふたりでしけこもうと画策していたフィオリナとミュラ。
もっともミュラについては、リアにフィオリナと出かけることをメモでこっそりわたして「絶対邪魔しないでね。」とささやいたので、コントがことのほかお好きなリアは。これは絶対邪魔しろとのいみだろうと正しく解釈し、すぐにドロシーにチクった。
ドロシーは、ちょうどその時間、クローディア大公との打ち合わせが入っていたため、代わりにロウ=リンドに行ってもらえないか頼み、頼まれたロウはちょっと考えてから、ヨウィスとリヨンを呼んだ。
かくして、いい雰囲気でお酒をのむはずだったフィオリナたちのところに、真祖吸血鬼をはじめ、簡単に排除できないろくでもない連中が集まったのである。
「だいたい、おまえ、ミュラをなんとかしようと思っても使い物にならないんだろ?」
「大きなお世話!だ!」
「ふっふっふ・・・ルトがいらないなら、わたし、もらうよ、フィオリナお姉さまいや、お兄さまかな?」
「この脂身が!」
男になった今のフィオリナから言われるにはずいぶんなセリフだった。たしかにリアはフィオリナに比べれば豊満ではあるが、締まるところはしっかりしまっている。
さらに言えば、フィオリナは相変わらず、ドロシーのことを鶏ガラと呼ぶのだが、たしかにドロシーは痩せているが、胸は大きくなったし、お腹も拳の稽古のせいか引き締まっている。全身をしなやかな筋肉が多い、まるで、入学当初の猫背の魔法使いから比べれば隔絶の感があった。
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ヨウィスが淡々と言った。
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