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第8部 残念姫の顛末
第370話 それぞれの戦い
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このとき、ギムリウスは何をしていたか?
彼、または彼女、あるいは「それ」はすっかりやるべきことをやったつもりで遊び歩いていたのだった。
得意の転移も使わず、徒歩で。
人間ならばよくやるだろう、街ブラ、というやつだ。
ちなみにかっこうはこの所お気に入りの入院着だった。素足なのは別に気にもしていない。
これだけでも見た目は、相当やばいのだが。
「おい、かわい子ちゃん、何ふらふらしてんだよ、いいとこ連れてってやろうか?」
異様な格好だろうが、その美貌に気がついて声を掛けてくる人さらいのたぐいはひとりふたりではなかった。
が。
「消えろ、下郎。」
付き添うボロボロの布を被った少女に気がついて腰を抜かす。
なにしろ、ヴァルゴールの12使徒ミランといったら、ミトラの裏社会では知らぬものがないほどやばい存在なのだ。
どのくらいやばいかと言えば、習慣的に人を贄に捧げるヴァルゴールの使徒にさえ、1人も友だちがいなかったほどであった。
ギムリウスは、そんなこととは知らず、たいして絡まれもしないよい町だなと思いながら、お目当ての店の門をくぐった。
前に話をきいたお店。ミトラミュゼ。
ふたりの格好に入店のさいにひと悶着はあったのだが。
それでも隅の方に席をもうけてくれた。
「この『姫騎士と王女のカップルセット』と『串焼き天井盛り』を。」
ギムリウスにとっての楽しい午後は、はじまったばかりだった。
ドロシーは呆然と立ち尽くしている。
大きなものは、馬車ほどもある。緋色の蜘蛛は、大聖堂まえの広場から次々と飛び出してくる。
壁にはりつき、外壁をかじっているものだけで、百はいるだろうか。
さらに中にも入り込んでいるようだった。
ドロシーの戦いは、人間を相手にしたものだった。組討とみせかけて、打撃。倒されたと思わせて、不意打ち。すべて出力不足、耐久性のなさをごまかすことから始まっている。
こんな本物の魔物とは戦ったことはなかった。
人間ならばどの程度の強さでどこを打てばいいのかわかっている。
だが、こいつらは。
「ドロシーっ!」
オルガが、目前に飛び降りた。
デスサイズの先端に蜘蛛の首が、突き刺さっている。
「魔法は、風が通じやすい。動け!」
緋色の蜘蛛は、全く学習能力がないわけではない。攻撃してくる冒険者や兵士はすくなくとも「敵」と認識し、積極的に攻撃してくるようになっていた。
飛びかかる緋蜘蛛を、オルガのデスサイズが両断する。
ドロシーは、風の刃をはなった。だめだ。詠唱に時間をかけすぎた。動きは早い。
かわされた。蜘蛛の顎が迫る。
斬!!
その蜘蛛の首が落ちた。
「またせた、『踊る道化師』。」
さっそうと。
そのときはそう見えた。剣を構えた美少女は。
「剣聖カテリア見参!」
そして。
「勇者クロノ参上!」
普段は使えない聖剣をひっさげて、勇者が吠えた。
ルト。
ルト。
ルト!
少年は目を開けた。
竜の瞳は真っ直ぐに少年の眼を、覗き込んでいた。
「これは神竜皇妃リアモンドさま。」
ルトは、アモンの隣に佇む影は無視することにした。
「起きられるか?
まあ、起きなければ引きずって行くのだが。」
「まあ、起きるくらいは起きれます。
どこに連れていくんです?」
「リウとウィルニアのところだ。」
「あの二人でしたら、水入らずの二人きりの生活を楽しんでると思いますよ。
そこに連れて行ってどうするつもりです。」
「知れたこと。心ゆくまで殺しあえ。」
意外な答えに、少年はおしだまった。
「どこから、話したものか。」
呪詛でも垂れ流すように、ルトは言った。
「そもそも、あそこにリウとウィルニアを閉じ込めるのだって、ザザリの力を借りたんです。」
ぶつぶつとルトは言った。
「フィオリナとリウとウィルに、僕が、惨殺されて終わりですよ、それ。」
「そこはわたしの独自結界が作用する。」
「まさか、いくら傷つけられても死なないとかいう結界じゃないでしょうね。」
「どき」
アモンは、見事な胸のふくらみに手をあてた。
「なぜわかった。」
「ぼくがズタズタにされて終わるのは。」
ルトは、ベッドから起き上がって、天井を仰いだ。
「まあ、人の身にはずれた力を持って生まれた我が身。これもまた天の与えた運命なのか。でもぼくだけが傷つけられるのは、違うと思うんだけど。」
「その点なら、心配いらない。」
アモンが言った。フィオリナは怪訝そうにそれを眺めている。明らかに三人で、ルトをぼこぼこにるすつもりだったのだ。
「この数日で少し面白いことになっている。
ちなみに、わたしの世界では、精神的なダメージしか通らないようになっていてな。本当はわたしが全員ボコるつもりでいたのだが、おまえら自身でやり合え。」
彼、または彼女、あるいは「それ」はすっかりやるべきことをやったつもりで遊び歩いていたのだった。
得意の転移も使わず、徒歩で。
人間ならばよくやるだろう、街ブラ、というやつだ。
ちなみにかっこうはこの所お気に入りの入院着だった。素足なのは別に気にもしていない。
これだけでも見た目は、相当やばいのだが。
「おい、かわい子ちゃん、何ふらふらしてんだよ、いいとこ連れてってやろうか?」
異様な格好だろうが、その美貌に気がついて声を掛けてくる人さらいのたぐいはひとりふたりではなかった。
が。
「消えろ、下郎。」
付き添うボロボロの布を被った少女に気がついて腰を抜かす。
なにしろ、ヴァルゴールの12使徒ミランといったら、ミトラの裏社会では知らぬものがないほどやばい存在なのだ。
どのくらいやばいかと言えば、習慣的に人を贄に捧げるヴァルゴールの使徒にさえ、1人も友だちがいなかったほどであった。
ギムリウスは、そんなこととは知らず、たいして絡まれもしないよい町だなと思いながら、お目当ての店の門をくぐった。
前に話をきいたお店。ミトラミュゼ。
ふたりの格好に入店のさいにひと悶着はあったのだが。
それでも隅の方に席をもうけてくれた。
「この『姫騎士と王女のカップルセット』と『串焼き天井盛り』を。」
ギムリウスにとっての楽しい午後は、はじまったばかりだった。
ドロシーは呆然と立ち尽くしている。
大きなものは、馬車ほどもある。緋色の蜘蛛は、大聖堂まえの広場から次々と飛び出してくる。
壁にはりつき、外壁をかじっているものだけで、百はいるだろうか。
さらに中にも入り込んでいるようだった。
ドロシーの戦いは、人間を相手にしたものだった。組討とみせかけて、打撃。倒されたと思わせて、不意打ち。すべて出力不足、耐久性のなさをごまかすことから始まっている。
こんな本物の魔物とは戦ったことはなかった。
人間ならばどの程度の強さでどこを打てばいいのかわかっている。
だが、こいつらは。
「ドロシーっ!」
オルガが、目前に飛び降りた。
デスサイズの先端に蜘蛛の首が、突き刺さっている。
「魔法は、風が通じやすい。動け!」
緋色の蜘蛛は、全く学習能力がないわけではない。攻撃してくる冒険者や兵士はすくなくとも「敵」と認識し、積極的に攻撃してくるようになっていた。
飛びかかる緋蜘蛛を、オルガのデスサイズが両断する。
ドロシーは、風の刃をはなった。だめだ。詠唱に時間をかけすぎた。動きは早い。
かわされた。蜘蛛の顎が迫る。
斬!!
その蜘蛛の首が落ちた。
「またせた、『踊る道化師』。」
さっそうと。
そのときはそう見えた。剣を構えた美少女は。
「剣聖カテリア見参!」
そして。
「勇者クロノ参上!」
普段は使えない聖剣をひっさげて、勇者が吠えた。
ルト。
ルト。
ルト!
少年は目を開けた。
竜の瞳は真っ直ぐに少年の眼を、覗き込んでいた。
「これは神竜皇妃リアモンドさま。」
ルトは、アモンの隣に佇む影は無視することにした。
「起きられるか?
まあ、起きなければ引きずって行くのだが。」
「まあ、起きるくらいは起きれます。
どこに連れていくんです?」
「リウとウィルニアのところだ。」
「あの二人でしたら、水入らずの二人きりの生活を楽しんでると思いますよ。
そこに連れて行ってどうするつもりです。」
「知れたこと。心ゆくまで殺しあえ。」
意外な答えに、少年はおしだまった。
「どこから、話したものか。」
呪詛でも垂れ流すように、ルトは言った。
「そもそも、あそこにリウとウィルニアを閉じ込めるのだって、ザザリの力を借りたんです。」
ぶつぶつとルトは言った。
「フィオリナとリウとウィルに、僕が、惨殺されて終わりですよ、それ。」
「そこはわたしの独自結界が作用する。」
「まさか、いくら傷つけられても死なないとかいう結界じゃないでしょうね。」
「どき」
アモンは、見事な胸のふくらみに手をあてた。
「なぜわかった。」
「ぼくがズタズタにされて終わるのは。」
ルトは、ベッドから起き上がって、天井を仰いだ。
「まあ、人の身にはずれた力を持って生まれた我が身。これもまた天の与えた運命なのか。でもぼくだけが傷つけられるのは、違うと思うんだけど。」
「その点なら、心配いらない。」
アモンが言った。フィオリナは怪訝そうにそれを眺めている。明らかに三人で、ルトをぼこぼこにるすつもりだったのだ。
「この数日で少し面白いことになっている。
ちなみに、わたしの世界では、精神的なダメージしか通らないようになっていてな。本当はわたしが全員ボコるつもりでいたのだが、おまえら自身でやり合え。」
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