422 / 574
第8部 残念姫の顛末
第399話 銀雷の魔女は誘惑する
しおりを挟むルトは、目を開けた。
目の前に、白い女の顔がある。顔色が良くない。
無理やり笑ったように見えた。
「ルト、気分はどうですか?」
「大丈夫。何時間くらい寝てた?」
「ルトが、何時に帰ってきたか、によります。」
「明け方、大聖堂跡で、ギムリウスとやり合った。20分くらいかな?
それから、ここまで転移で送ってもらったから。」
「なら、5時間くらいでしょうか。いまはお昼前です。」
起きようか、と手を伸ばしたルトに、おおいかぶさるように、ドロシーは体を重ねた。
するりとガウンをぬぎすてると、下はギムリウスのボディスーツに似た上下続きのからだにピッタリした、いや、ただの下着だろう、それ!?
「吐き気はしませんか? 頭痛は?」
「‥大丈夫だ、と思う。」
「わたしの肌の匂いはどうですか? 一応、湯浴みは済ませてきました。」
「大丈夫‥だと思う。」
「よかった!」
ドロシーは、抱きついた。
「よくないっ!」
ルトの体術は、ドロシーの比ではない。
ベッドの下に転げ落ちたドロシーは、頭から床にダイブを決めていた。
うぐぐ。
とうめきながら、体を起こしたが、鼻血を出している。
ルトは呆れたが、とりあえず治癒魔法を使った。
「どうも、助かります。」
「いえいえ。」
と、ルトは答えたが、ちょっと掛けていた毛布で、ドロシーとの間に壁を作っている。
「なにを始めたんだ?」
「け、結婚してしまう前に、」
ドロシーは、悔しそうに言った。
「結婚してしまうと不倫になるので。その前に、なんとか。」
「それもまずいと思うんだけど。」
「いえ」
ドロシーは真面目に言った。実際にドロシーは真面目な学生だったし、西域の法律にはルトより詳しい。「道義的には不味いのは分かりますが、婚姻関係の継続を保護する法律からすると、婚約中のカップルはその対象にはなりません。
つまり、ルトとわたしが今、なにをしても、これを罰する刑罰はないのです。」
すごいことを言い出したものだ。
ルトはちょっと呆れてドロシーを見やった。
思い詰めた表情ではあるが、冷静だった。つまり、ドロシーの言うことは、一応、そういう理屈もなりたつ、ということなのだ。
「それにしたって」
「ふつうなら、こんなことしません。」
ドロシーが、ボディスーツを脱ぐと同時にルトの毛布を被された。
「だって、フィオリナさんのアレは、普通では無いでしょう?」
「そもそも、フィオリナは普通では無い。」
「そんな、惚気られても」
「いまのの、どこが惚気けたように感じられたのかな?」
「みんな、てんでにルトくんの結婚阻止に動いてます。」
毛布を被ったまま、ドロシーは言った。
「さっきのギムリウスは、ぼくを魔王宮に拉致するつもりだった。」
「ロウさま、情報ではアウデリアさまは、直接フィオリナさんに仕掛けるみたいです。単純明快な病院送り案。」
ドロシーは怪訝そうな顔をした。
「あれ?
心配はしないんですか?」
「フィオリナはリウと一緒にいる。」
「なら、無茶はしないと?
しますよ、アウデリアさまは。」
「さすがにアウデリアさんもリウとフィオリナの2人がかりじゃ勝負にならない。」
ルトは言った。
「つまり、アウデリアさんが仕掛けても、二対一では、力が違いすぎて、生命のやり取りまでは、発展しない。」
いや、とルトはむずかしい顔をした。
「そう楽観も出来ないか。三人とも自分の戦いとなると、まわりに迷惑が掛かっても気にしないタイプだ。
せっかくのいいホテルが。」
やっぱり行ってみよう、と立ち上がりかけたルトに、ドロシーは毛布を投げつけた。
「わたしを置いてどこに行くんですか!?」
「頼むから服着て?」
「みんなは、ルトの結婚を止めるために動いてますが、」
ドロシーは、流石に恥ずかしいのか、胸もとを手で隠し、わずかに頬を紅潮させて言った。
「わたしは、少し違います。結婚はしたいなら、そうすればいい。
ルトくんもフィオリナさんも止めれば止めるほど意地になる人だから。
でも、せめてこれだけは。」
「どういう」
「フィオリナさんとは、対等な立場で結婚してほしい。むこうは浮気し放題。いや、浮気じゃなくって、あちらが本気かもしれません。したい放題じゃないですか!
だったら、ルトくんも同じことをして、対等です。」
「それは」
ルトは、今度はベッドのシーツを投げつけた。
どんな抵抗だと、彼自身思うのだが、素っ裸(正確には、靴下は履いていた)の女の子を目の前にして、あまり問答するべきではないのもわかっていた。
「だから、ぼくはまだ、そう言うことが出来ないんだって!」
「はいはい、前に聞いてます。いまでも無理して身体を成長させてる状態なんですよね?
でもルトくんは、充分10代半ばくらいの男の子に見えます。
そのくらいの歳の男の子がどんなものかは、わたしだってわかります。
数年前までは、そのくらいの女の子でしたから。」
ドロシーは手を差し伸べた。シーツがずり落ち、白い裸身が露わになった。
「今だけ、フィオリナさんのこと、忘れてわたしに、溺れてくれませんか?」
0
あなたにおすすめの小説
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー
すもも太郎
ファンタジー
この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)
主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)
しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。
命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥
※1話1500文字くらいで書いております
『濁』なる俺は『清』なる幼馴染と決別する
はにわ
ファンタジー
主人公ゴウキは幼馴染である女勇者クレアのパーティーに属する前衛の拳闘士である。
スラムで育ち喧嘩に明け暮れていたゴウキに声をかけ、特待生として学校に通わせてくれたクレアに恩を感じ、ゴウキは苛烈な戦闘塗れの勇者パーティーに加入して日々活躍していた。
だがクレアは人の良い両親に育てられた人間を疑うことを知らずに育った脳内お花畑の女の子。
そんな彼女のパーティーにはエリート神官で腹黒のリフト、クレアと同じくゴウキと幼馴染の聖女ミリアと、剣聖マリスというリーダーと気持ちを同じくするお人よしの聖人ばかりが揃う。
勇者パーティーの聖人達は普段の立ち振る舞いもさることながら、戦いにおいても「美しい」と言わしめるスマートな戦いぶりに周囲は彼らを国の誇りだと称える。
そんなパーティーでゴウキ一人だけ・・・人を疑い、荒っぽい言動、額にある大きな古傷、『拳鬼』と呼ばれるほどの荒々しく泥臭い戦闘スタイル・・・そんな異色な彼が浮いていた。
周囲からも『清』の中の『濁』だと彼のパーティー在籍を疑問視する声も多い。
素直過ぎる勇者パーティーの面々にゴウキは捻くれ者とカテゴライズされ、パーティーと意見を違えることが多く、衝突を繰り返すが常となっていた。
しかしゴウキはゴウキなりに救世の道を歩めることに誇りを持っており、パーティーを離れようとは思っていなかった。
そんなある日、ゴウキは勇者パーティーをいつの間にか追放処分とされていた。失意の底に沈むゴウキだったが、『濁』なる存在と認知されていると思っていたはずの彼には思いの外人望があることに気付く。
『濁』の存在である自分にも『濁』なりの救世の道があることに気付き、ゴウキは勇者パーティーと決別して己の道を歩み始めるが、流れに流れいつの間にか『マフィア』を率いるようになってしまい、立場の違いから勇者と争うように・・・
一方、人を疑うことのないクレア達は防波堤となっていたゴウキがいなくなったことで、悪意ある者達の食い物にされ弱体化しつつあった。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる