あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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エピローグとプロローグ

そりゃあ愛ある罰だ

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「ずるいぞ。」
ルトの作り出した真っ赤に焼けた岩石をかわしながら、フィオリナは叫んだ。

「ずるくはないよ。そっちだって、リウから貰った魔剣の補助で風の鞭を作ってるんだから。」
「ルトの魔剣ニーサガーダは、リウから盗んだものさだろう?」

フィオリナの名のない魔剣は優秀だ。フィオリナの呼びかけに応えて冷気をたっぷりと含んだ烈風を巻き起こす。灼熱した岩石が熱を奪われて、黒い岩塊となって地に落ちた。

「人聞きの悪いことを言うなよ、王妃サマ。」
ニーサガーダの頭身に、黒い瞳が現れて、フィオリナにむかってウィンクした。
「ぼくは望んでこの第二の魔王ともいうべき坊やの味方をしているんだ。」

「リウから盗まれたモノには違いないだろ?」
「それを言うなら、おまえさんもルトから盗まれたモノだな。」
「違う。わたしはわたしの意思で…」

フィオリナは黙った。
舌戦で、しかも剣に負けるってなによ。

転移と「瞬き」を組み合わせた斬撃は空を切った。
ルトはどういうものか、フィオリナの転移を常に読み切っている。
振り返った時に、踏んだ小石が不安定で、わずかにバランスを崩したのは、偶然ではない。
ルトが、わざとそこにその小石を置いたのだ。
ルトの突きは、真っ直ぐに心臓を狙ったものだった。
痺れるような感覚が、フィオリナの体を凍られる。

わたしを殺すの?
わたしが、ほかの相手と体を交えたから?
それだけで、わたしはあなたにとって、いらないモノになっちらゃうの?

風の魔剣はふたたび、ダンスの動きで、ニーサダーガを弾き返し、からわりに無数の斬撃で、ルトを包む。

「そんなことはない。」
頬に、脇腹に、新たな傷を作りながら少年はそう言った。
「フィオリナとはちゃんと一緒にいる。」
「でも!」

魔剣同士の斬り合いのさなかに、足を踏んずける、という攻撃はどうなのだろう。フィオリナは、ブーツでルトは布製の紐靴だった。
だが、骨にヒビくらいは入ったからもしれない。
激痛は、フィオリナの剣戟を止まさせるのでなく、倍加させた。いや、そう思ったのはフィオリナだけか。

動きが雑になっている。
さっきはそれでも十に一つは、掠めていた斬撃がひとつも当たらない。

「フィオリナが、ぼくから離れようとしてるんだろ?」

どうして、この綺麗なお姉さんは、バカなのか。
あ、そうでした。
と、驚いたように立ち尽くしたフィオリナの脇腹に、ルトの蹴りが吸い込まれた。魔力循環。防御強化。
うっかり、心臓が、鼓動を辞めないようにフィオリナも常に戦うことをわめない。

完全に防御したはずの、わき腹。そこから、
振動が、全身に伝わり。
倒れる代わりに、フィオリナは後ろに飛んだ。風魔法も、併用してそれはもう。飛んで後ろの崖に自分を叩きつけたのだ。

ルトは光の剣を続けざまに射出する。後ろの岩肌から、出現した巨大な腕が、フィオリナを抱き抱えるようにして守ろうとした。一撃で分際。
だが、巨人の腕は次々と生み出され、ルトが打ち込んだ光の剣から、主を、守り通した。

次にフィオリナが選んだのは、竜巻。
自分自身だけを、風で包む小規模なものだ。ながく維持したほうが簡単なのだが、そうすれば制御を乗っ取られる。
ルト、とはかくもやっかいな相手なのだっ!
この世界で唯一、無二のっ!

「そうだった。」
なんの策もない体当たりは、たしかにルトの意表はついていた。
だからと言ってぶざまに体当たりを食らうことはない。
かわしざまに、ニーサダーガでフィオリナをぶった斬る。
腰から太ももにかけて、ざっくりいった手応えがあった。それでもフィオリナは、しがみつく。組み付いてさまえば、そこはフィオリナの風の長剣ではなく、短剣ニーサダーガの距離。

雷撃が二人の体を貫いた。
体の骨格が透けて見えるエフェクトのかかる本格的なやつだった。

「ドロシー流じゃないか」
白く濁った眼窩。ひび割れた唇から、呆れたような声はルトのもの。
「あんな鶏ガラと一緒にしないで!」

接近しての雷撃魔法は、一種の自爆技だ。ドロシーはギムリウスの糸で編まれたボデイースーツを着ることで自らのダメージを、軽減しながらこれを行うのだが。

互いに生身ならば、受けるダメージは道徳だ。いや放ったほうが酷いか。
フィオリナは、身体を痙攣させている。体を動かす重要な部分が損傷し、呼吸すら、心臓の鼓動すら止まっていた。動くはずのない手を動かして、自分の胸を殴りつけだ。
がはっ。
と、血を吐いた。吐いた血は目の前のルトにかかった。

動き始めた心臓が送り込む血液に助けられたフィオリナの両手が、ルトの胸にかかる。
爪先を差し込んで、そのままルトの体を切り裂く。
迸る血が、フィオリナの顔を、胸を濡らした。
「まずいことに、気がついた。」
フィオリナは、声帯が回復するのも待たずに、しゃがれた声で言った。
「リウと一緒にカザリームに行ったらそこにはルトはいないんだね。」

あたりまえ、だろう。フィオリナの腕を極めて、手首と肘をくじきながら、ルトは答えた。
「フィオリナがぼくから離れようとしてるんだって。」
「ああ、分かってきた。」
噛み付こうとしたフィオリナに、わざと衣服の袖を噛ませた引っばった。生地も避けたがフィオリナの歯も何本か飛んだ。

腹を蹴り上げて、馬乗りになる。
フィオリナのもう片方の腕も折った。フィオリナが口から吐き出した折れた歯が、ルトの耳を引きちぎる。

「痛い。」

ぼそりとフィオリナが、言った。
「リウが」
「駄魔王サマがなにか?」
「初めてのときの痛みは、ルトのために取っておけって言うの。」

それなりに、感動すべきなのか。
ルトは考えた。ジウル・ボルテックもドロシーに似たようなことをやっている。年齢のいった男はそんな事を考えるだろうか。
どっちにしても性別を違いに替えて、さんざん大人のことをしまくった後で、言われても違うような気がした。

「でも、思ったらルトとはずっと前から、痛いことはしょっちゅう、してるよ、ね。」

フィオリナはルトを抱きしめようとして、失敗した。腕はなんとか持ち上がったが肘から先は動かなかったのだ。
もちろん、負傷した手を動かすこと自体、フィオリナはものすごく痛かったが、それは無視した。
無視できるほど、ルトが好きなことに、いまさらながら気がつく。

「普通のことが出来なくってもいまはまだ、いいんだよ。ゆっくり大人になろう?
これが、いまのわたしたちの愛し合い方なんだ。」
ふざけんなっ!
と、思いつつどこか納得するルトだった。
「これが、わたしたち流の睦ごと。
わたしだけ愛し合い方。」

言ってフィオリナは、真っ赤になった。
ねえ、二人であったら間違いなくしてるよね、これって。

憮然として、ルトは答えた。
ああ、確かによっぽど相性がいいんだろうね。
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