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第3話 追放
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刃傷沙汰も、アリかな。とミイナが思い始めた時に、部屋のドアが開かれた。
執事頭のゼパスが突き飛ばされるようにして、転がり込んできた。
だいぶ、痛めつけられたと見えて傷だらけだ。
そのまま、床に這いつくばって、頭を下げた。
「す、すいません、傭兵はやとえませんでした。」
「まったく!」
続いて、ずかずかと入ってきたのは、先代侯爵の兄アルセイ、ミイナ姉妹にとっては叔父にあたる人物だった。アルセンドリック侯爵家の力で、男爵の地位を得た。国と時代によっても異なるが、ここでは、男爵は決められた領地なしでも拝命することができるため、庶民でも金でどうにかなる地位ではある。
たしかまだ50代だったはずだが、よく禿げ上がり、でっぷりと太り、嫌味な口髭を蓄えている。
嫌な意味で亡き父を思い起こさせるが、先代アルセンドリック公爵がもっていた過度な残虐性、よく言うならば、果断な判断力もない。
「こいつが、傭兵団『柔らかな岩』の事務所で揉めていたので、わしが仲裁してやったのだ。」
「ち、違います。わたしが交渉中に、アルセイ閣下が、こんなヤツの依頼を受ける必要はないと割り込んできて‥‥。」
「ゼパス。」
せいぜい、冷酷に聞こえるように声色を作って、ミイナは言った。
「そもそも『柔らかな岩』が叔父上の組織した傭兵団と、わかっていて、そこを訪れたの?」
「い、いえ。何件か断られて、最後に寄った『生け贄の子羊』から、紹介されました。あそこなら、規模も小さいし、腕も悪いて、いつも閑古鳥が鳴いているので、ひょっとしたら受けともらえるかも知れないと言われて、藁をもすがる思いで。」
「わかったから、もう下がりなさい。罰はあとで与えます。」
とにかく、ゼパスを下がらせなければ、アルセイの罵詈雑言は、止まらなかっただろう。
アルセイが小遣い稼ぎのつもりで、金を注ぎ込んだ『柔らかな岩』は、たしかこの三年、経費の削減とそれによる規模の縮小、依頼件数の低下という負のスパイラルを無限に繰り返していたはずだ。
そんなところに、アルセンドリック家の一大事に、セバスが駆け込んだのは、ある種のいやがらせと受け取られたのかもしれない。
ミイナがすすめる間もなく、アルセイは、食卓に腰を落ち着けた。そこは、一家の主が座るべき席であって・・・・。親戚筋だろうが、年長者だろうが、客人が座って良い席ではなかった。
なにか、飲み物と食べ物をもってこい。
なんだ、この安物の食器は。調度品もずいぶんと品のないものに替わっているな。まったく化け物に当主をまかせるとこんなことになるのか。なげかわしい。
ああ? そうだ、ワインだ。
いちばん、いいものを持って来い。
ミイナは自ら、席をたって、棚の奥から厳重に封印された黒い瓶を持ち出して、アルセイの前で、指でコルクを引き抜いた。
ワイングラスに、どろりとした液体を流し込む。
アルセイは、生臭い匂いに、顔をしかめて、のけぞった。
ミイナにとっては悪くない香りなのだが。
「いまのアルセンドリック侯爵家には最高のワインです。もともとは、ルドルフ用でした。」
「本当にワインか!・・・・これは。」
「ドゥネルガ子爵の農場で採れた葡萄だけを使った、ルビヨンの逸品です。そちらに七種の没薬をまぜ、健康なこどもの血液で割った当家オリジナルのブレンドワインです。」
「下げろ、ミイナ。わしを化け物と一緒にするな。」
テーブルが叩かれ、食器が何枚か割れた。
倒れかけたワインボトルを、ひょいとミイナは掴んで、破損から救った。
「そうなると、お酒は勘弁していただきたいです。みなさまをお呼びしたのは葬儀についての次第を確認したかったため。あまり酔いがまわっては、相談もできません。」
「後継者なら、わしの息子のエヴァンを立てようと思う。」
そんなことは一言も言ってないんだけどな、とミイナは思ったが、反論は彼女の姉たちがかわりにしてくれた。
「それは、わたしのアルセルタスを後継者に決まったところなのだけれど。」」
「わたしのハルルカです。」
内容は、ミイナの望んだ内容ではなかった。
「葬儀のお話が出来ないのなら、お引取りください。」
ミイナは、出口を指さした。
こうなることは、ある程度予想はしていたが、二人の姉と叔父はあまりにも欲望に、正直すぎた。
「出ていけ? あなたが、なんの権限でそれを言うの?」
次姉のジュリエッタが、無邪気そうな顔で言った。昔から、この姉はそうだった。誰よりも純真なふりをして、誰よりも邪悪なことをする。
「入婿とはいえ、当主を勤めたルドルフが、死んだ以上、あなたにはなんの権利もないの。」
「なにを馬鹿な! わたしは、先代侯爵である父の実子です!」
「そう、それだけ、ね。」
マハラは、冷たく言った。
「だったら、わたしたちも先代侯爵の娘で、あなたより年長。アルセイ叔父様も、ね。
あなたももちろん、わたしたちの血縁ではあるのだから、大事な家督相続について、発言する権利は認めるわ。でも、それについて発言しないなら、出ていくのはあなたね。」
「マハラは、賢いな。」
アルセイは、にんまりと笑った。
「わしの言いたいことも、まさに、そのようなことだ。歴史あるアルセンドリック侯爵家に、化け物の番はいらん。」
彼が、パチリと指をならすと、どかどかと軽装鎧に身を固めた兵士が、入り込んできた。
ミイナは、またアイシャのお尻を撫でた。
「変なクセをつけないでください。わたしもむやみやたらに、切りかかったりしません。それに、」
ベテランのAクラス冒険者は、ミイナにだけわかるように笑ってみせた。
「『柔らかな岩』の小隊くらい、片手で処理できます。」
執事頭のゼパスが突き飛ばされるようにして、転がり込んできた。
だいぶ、痛めつけられたと見えて傷だらけだ。
そのまま、床に這いつくばって、頭を下げた。
「す、すいません、傭兵はやとえませんでした。」
「まったく!」
続いて、ずかずかと入ってきたのは、先代侯爵の兄アルセイ、ミイナ姉妹にとっては叔父にあたる人物だった。アルセンドリック侯爵家の力で、男爵の地位を得た。国と時代によっても異なるが、ここでは、男爵は決められた領地なしでも拝命することができるため、庶民でも金でどうにかなる地位ではある。
たしかまだ50代だったはずだが、よく禿げ上がり、でっぷりと太り、嫌味な口髭を蓄えている。
嫌な意味で亡き父を思い起こさせるが、先代アルセンドリック公爵がもっていた過度な残虐性、よく言うならば、果断な判断力もない。
「こいつが、傭兵団『柔らかな岩』の事務所で揉めていたので、わしが仲裁してやったのだ。」
「ち、違います。わたしが交渉中に、アルセイ閣下が、こんなヤツの依頼を受ける必要はないと割り込んできて‥‥。」
「ゼパス。」
せいぜい、冷酷に聞こえるように声色を作って、ミイナは言った。
「そもそも『柔らかな岩』が叔父上の組織した傭兵団と、わかっていて、そこを訪れたの?」
「い、いえ。何件か断られて、最後に寄った『生け贄の子羊』から、紹介されました。あそこなら、規模も小さいし、腕も悪いて、いつも閑古鳥が鳴いているので、ひょっとしたら受けともらえるかも知れないと言われて、藁をもすがる思いで。」
「わかったから、もう下がりなさい。罰はあとで与えます。」
とにかく、ゼパスを下がらせなければ、アルセイの罵詈雑言は、止まらなかっただろう。
アルセイが小遣い稼ぎのつもりで、金を注ぎ込んだ『柔らかな岩』は、たしかこの三年、経費の削減とそれによる規模の縮小、依頼件数の低下という負のスパイラルを無限に繰り返していたはずだ。
そんなところに、アルセンドリック家の一大事に、セバスが駆け込んだのは、ある種のいやがらせと受け取られたのかもしれない。
ミイナがすすめる間もなく、アルセイは、食卓に腰を落ち着けた。そこは、一家の主が座るべき席であって・・・・。親戚筋だろうが、年長者だろうが、客人が座って良い席ではなかった。
なにか、飲み物と食べ物をもってこい。
なんだ、この安物の食器は。調度品もずいぶんと品のないものに替わっているな。まったく化け物に当主をまかせるとこんなことになるのか。なげかわしい。
ああ? そうだ、ワインだ。
いちばん、いいものを持って来い。
ミイナは自ら、席をたって、棚の奥から厳重に封印された黒い瓶を持ち出して、アルセイの前で、指でコルクを引き抜いた。
ワイングラスに、どろりとした液体を流し込む。
アルセイは、生臭い匂いに、顔をしかめて、のけぞった。
ミイナにとっては悪くない香りなのだが。
「いまのアルセンドリック侯爵家には最高のワインです。もともとは、ルドルフ用でした。」
「本当にワインか!・・・・これは。」
「ドゥネルガ子爵の農場で採れた葡萄だけを使った、ルビヨンの逸品です。そちらに七種の没薬をまぜ、健康なこどもの血液で割った当家オリジナルのブレンドワインです。」
「下げろ、ミイナ。わしを化け物と一緒にするな。」
テーブルが叩かれ、食器が何枚か割れた。
倒れかけたワインボトルを、ひょいとミイナは掴んで、破損から救った。
「そうなると、お酒は勘弁していただきたいです。みなさまをお呼びしたのは葬儀についての次第を確認したかったため。あまり酔いがまわっては、相談もできません。」
「後継者なら、わしの息子のエヴァンを立てようと思う。」
そんなことは一言も言ってないんだけどな、とミイナは思ったが、反論は彼女の姉たちがかわりにしてくれた。
「それは、わたしのアルセルタスを後継者に決まったところなのだけれど。」」
「わたしのハルルカです。」
内容は、ミイナの望んだ内容ではなかった。
「葬儀のお話が出来ないのなら、お引取りください。」
ミイナは、出口を指さした。
こうなることは、ある程度予想はしていたが、二人の姉と叔父はあまりにも欲望に、正直すぎた。
「出ていけ? あなたが、なんの権限でそれを言うの?」
次姉のジュリエッタが、無邪気そうな顔で言った。昔から、この姉はそうだった。誰よりも純真なふりをして、誰よりも邪悪なことをする。
「入婿とはいえ、当主を勤めたルドルフが、死んだ以上、あなたにはなんの権利もないの。」
「なにを馬鹿な! わたしは、先代侯爵である父の実子です!」
「そう、それだけ、ね。」
マハラは、冷たく言った。
「だったら、わたしたちも先代侯爵の娘で、あなたより年長。アルセイ叔父様も、ね。
あなたももちろん、わたしたちの血縁ではあるのだから、大事な家督相続について、発言する権利は認めるわ。でも、それについて発言しないなら、出ていくのはあなたね。」
「マハラは、賢いな。」
アルセイは、にんまりと笑った。
「わしの言いたいことも、まさに、そのようなことだ。歴史あるアルセンドリック侯爵家に、化け物の番はいらん。」
彼が、パチリと指をならすと、どかどかと軽装鎧に身を固めた兵士が、入り込んできた。
ミイナは、またアイシャのお尻を撫でた。
「変なクセをつけないでください。わたしもむやみやたらに、切りかかったりしません。それに、」
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