第三帝国再建物語

帝国再建編

25．

モーデル元帥が、熾烈な戦闘を展開している時にやっとマウザーがガイル将軍をイワン国のセルゲーエフの元に護送する任を全うする事に無事成功した。

ガイル将軍と配下を受け渡した時に、ザールヴェヒターの横にこの異世界では珍しい格好をした人物が目に入った。
その人物は、口を覆うように赤茶色の髭を生やしていて目は思わず見入れられてしまいそうな程、不思議な灰色の瞳をしていた。

服装は、ロシア帝政時代のカーキ色の軍服を着ていて胸には鉄十字勲章のような形の物があったので、いかにも高貴な身分である事が誰の目から見ても明らかな程だとマウザーは思った。

マウザーが、少しその人物を見たのに気づいたのかザールヴェヒターが
「こちらは、ロシア最後の皇帝(ツァーリ)ニコライ二世であらせられる」
と言うと、ニコライがかっぽかっぽと皇帝に似つかわしくない程活発な軍隊歩調で来て握手をした。

そして、
「ここは、今にも北東に接するスターリン率いるソ連軍がじわじわと占領しながらイワン国にも攻め寄せて来る勢いだ。たから、これから私達を君達の帝都に送ってはくれないか！？」
と尋ねたので、マウザーはザールヴェヒターに目を合わせると薄らと笑った顔になっていたので内心、またかという感じになった。

だが、皇帝の申し出は断れないので
「誰を護衛すれば宜しいでしょうか！？」
と聞くとニコライは、私と妻アリクス(アレクサンドラ・フョードロヴナ)と娘のオーリガ、タチヤナ、マリアを頼むと言った。


ここまで家族の名前を聞いていて、何故四女のアナスタシアと長男で皇太子のアレクセイが居ないのか疑問疑問に思う方がいるだろうと思うので説明すると、七月十七日から十八日にかけてニコライと家族、随員、従者などの十一人が赤軍の兵士達によって全員射殺された事になっていた。

だが、赤軍はニコライか皇太子を最後の切り札にしようという意見があり銃殺をしようにも出来ないので、白軍が赤軍に攻撃をかけて、ニコライ達が拘留されているイパーチェフに家まであと少しの所だったのだが、わざと助けず放置して結局地下室で家族もろともち銃殺の憂き目にあったのだ。

その時のアナスタシアの場合は、銃殺の時に彼女が撃たれて倒れた所に姉が覆いかぶさって、アナスタシアを庇っていたので、死体を運び出す作業の時に目が覚めてそこに居た赤軍の兵士の一人に救われてルーマニアに逃げ、その兵士の子供を身ごもったのだった。

なお彼女は、それから母国語であるロシア語を喋るとあの記憶が蘇るので喋らないようにしていた。

皇太子アレクセイの場合も、銃殺の時に銃殺隊がコルト拳銃や、ルガー拳銃、ブローニング拳銃などの拳銃を使用して銃殺を開始された時に、アレクセイも含めた誰もがコルセットのような所に家宝のダイヤなどを入れていたので、驚異的な能力を持った化け物のように撃たれたのに立ち上がったので、彼は最後に至近距離から三発の弾丸をくらって家族もろとも息が絶えたはずだった。

だが、脈を正確にとれていなかったのでトラックで死体を運んでいる時に沼地にタイヤが沈んで、運転手が必死に抜け出そうとしたので、エンジンが焼け付いてしまった。

なので、近くの家に水を頼みに行っていた時に荷台で突然むっとシーツに包まれた死体が二体立ち上がったのであった。

その時に、アレクセイとアナスタシアが目を覚ましたので移送していた警備兵がアレクセイを孤児院に、アナスタシアは、先に書いた通りの状態になったのであった。

アレクセイと名乗る者が、見つかったのは精神病院で精神病患者として入院している時の事、普通の人は知らないような冬宮や離宮の全ての部屋の配置やその用途、ロマノフ家の全員の称号、宮廷の全ての仕事を知り尽くしていたからであった。

なおかつ、アレクセイの持病である血友病(皇太子が、今まで生きていたら血尿が出てもおかしくない)潜伏睾丸症(片方の睾丸が下降不全になる病気)とパラノイア(偏執症)などを患っていたので間違いは、ないであろう人物だった。

この様な事をふまえて、死んでいないので異世界に飛ばされていなかったのであった。

ザールヴェヒターの話しによると、ソ連のスターリンは元白軍に属していて一度見殺しにしたので、また一家全員が殺さると考えた一方、ドイツ第三帝国の国旗には鉤十字(ハーケンクロイツ)のマークがデザインされていて、反ユダヤ思想が特に強かった妻のアリクスによる所もあったからであった。

これは、特に妻の方が長男の皇太子が生前よく病気がちで囚われの身だった時にベッドの頭を置く位置に鉤十字を書いていたからでもあった。

だから、マウザーは北西の突端に位置するイワン国とドイツ第三帝国の国境に位置する橋を渡る事にしたのであった。