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しおりを挟む俺たち3人は帝国の入り口となる巨大な門へと向かった。
そのまま背丈の三倍くらいある鉄の門へと歩いていく。
そして、まあ予想はしていたが……、
「な、なんでこんな所に魔物が!」
「気を抜くな! おい、そこのお前たち、どうして魔物が!?」
門番の二人からは、めちゃくちゃ警戒されていた。
槍を構えたまま、モキュから視線を離さない。
「まあ、反応はわかってはいたが、魔物じゃないぞ?」
その言葉に門番の2人は疑問を浮かべつつ、モキュのことをゆっくりと観察する。
「何を馬鹿な! って、んぅ……。これはすまいない。確かにこいつは魔物じゃないな」
「この姿形は、ビッグハムスターか。あまり見かけなくなったが……こいつは大きいな」
魔物でないことを理解した門番たちに入国税を払って、一応聞いておく。
「モキュの分は払わなくていいのか?」
すると、一人の門番がそれに答えた。
「大丈夫だ。動物は所有物のペット扱いだからな。それより、そのビッグハムスターがもし誰かをけがさせたら、所有者の責任となるから気をつけろよ」
「そうか」
もう一人の門番が、少し困ったような顔をして、門の内側へと視線を向けた。
「あと、いまの国内は緊張状態で少し物騒だからな。それも自己責任になる」
「わかった、では」
俺たちは門を通って、帝国の都市へと入ることができた。
なんというか、終戦直後のようなどんよりとした雰囲気がそこかしこからした。
崩れた建物の前で布切れを纏って座っている者、せわしなく走り回るこの国の騎士たち。
「一体、何が……」
そう口にしたのは、ちょっと前まで住んでいたはずのモニカだった。
そんな茫然としたモニカに声をかけたのはディビナだ。
「これはいつもの様子ではないのですか?」
「はい……、建物はとてもきれいな町でしたし、なによりも『あの人たち』が街の中に見当たりません。まるで内戦でも起こったかのような……」
あの人たちと言った時のモニカの表情は明らかに厳しいものがあった。
この街には表にはならない闇があるのかもしれない。
すると突然、モニカは真っすぐと大通りを走りだした。
「おい! どこへ……?」
俺とディビナもそのあとに着いていくと、茫然と立ち尽くすモニカがいた。
「どうかしたのか?」
そう問いかけると、震えた声のモニカが答えた。
「城が……」
「城? そんなものないぞ?」
目の前にあるのは更地だけだった。
「この場所は、皇帝が住んでいるお城が立っていた場所なんです。魔法の研究や騎士の育成なんかもここで行われていたと言います。それが……」
そこで、ディビナが近くにいた住人に何かを聞いて戻ってきた。
「その……モニカには言いにくいのですが、このお城は昨日、謎の爆発で無くなってしまったそうです……。それと、驚いたのですが、皇帝が死亡したと……」
それを聞いたモニカは、複雑な表情で俺の方を振り返った。
何が言いたいのか、表情からはわからなかった。
「もし兄がこの城の中にいたのであれば、生きていないでしょうね。皇帝陛下が死んでしまうほどの爆発だったのなら……」
悲しんでいると思ったが、少し違った。
これからどうしようと少し動揺していた。
とそこにすかさず声をかけたのはディビナだった。
「だ、大丈夫ですよきっと! 別の場所にいたかもしれませんし」
「そ、そうですね。きっと生きていますよね? だから……」
俺はその反応の違和感に気づいたものの、あえて追求はしなかった。
「それで、これからモニカはどうするつもりなんだ? ディビナは手伝うと言っているが、具体的にどこから調べて何を手掛かりにするつもりで……」
と言いかけた所で、俺へと変な視線を向けられていることに気づいた。
「ん? 二人ともどうした?」
ディビナはにこりと微笑むだけで、モニカはほっとしたような安堵の表情を浮かべた。
質問に答えたのはディビナだった。
「いいえ、なんでもありません。私は自分の責務を全(まっと)うしたうえで、時間のある限りモニカさんのお兄さん探しを手伝います。まずは手掛かりを探すところから。コウセイさんは、これからどうなさいますか?」
「ああ、まずはこの状況で旅人が住める宿と食事の確保だな」
「だったら私の家に来ませんか?」
そう提案してきたのは、なぜか嬉しそうな顔をするモニカだった。
だがそれもほんの束の間だった。
モニカの家がある場所は、入口付近にあった家の残骸と同じように、崩れて石の塊に変っていた。
「私の家が……」
それを見てうっすらと涙を浮かべて悲嘆の声をあげて呟いた。
「ああ、これはさすがに無理だな……」
俺は家の建築思想や設計というものを知らない。物質支配はできても、知らないものを操作して最初から元通りに構築することはできない。
設計図があっても俺の知識では難しいだろう。
「ではやはり宿に?」
そのディビナの声にうなずいて返事をした。
「ああ、仕方がないな」
にしても、モニカは本当に兄が大事なのだろうか? なんとしても探し出したいほど、慕っていたのだろうか?
家が潰れて泣くのに、兄が死んだかもしれないとわかったときに、あまり悲しそうではなかった。
しばらく街の中を歩いて気付いたことがいくつかあった。
これだけ大きな街なのに、人気が少ない。
一般の人が少なくて、むしろ、騎士の恰好をした兵隊の数がやけに多い。
もしかすると、内戦が終わったのではなく、これから本格的に始まろうとでもしているのか?
そんな静けさだ。
しばらく歩いて、宿らしきところを見つけた。
看板は傾き、ボロボロの木材でできた外壁と、ちょっと暴れたら倒壊しそうなオンボロな宿だ。
「誰かいるか?」
俺は安全確認のために中を確認する。
すると、顔中しわくちゃのお婆さんが一人いた。
客はいるとは思えなかったが、一応確認するがやっぱりいない。
床を踏むとみしっという音がする。足で踏み抜きそうな床だ。
中へとはいって、お婆さんに話しかける。
「あの、すまない。ここは宿屋だろうか?」
すると、つむっていた目が開き、目玉が飛び出るくらいに目いっぱい広げた。
「なんじゃ、客か」
「そうだ、今日は泊まれるだろうか?」
びっくりしたな、この婆さん。
「ああ、いつも部屋はあいているからね。これを」
そう言ってお婆さんは一本のカギをカウンターの上に置いた。
それを俺は受け取り、料金のことを聞くことにした。
「それで、一泊いくらだろうか?」
「ああ、代金はいらないよ」
そういって、ニヤリと笑いかけられた。
日本にはこういう教えがある。
タダより高いものはないと。
しかし、街にまで来たのに野宿なんてのは嫌だしな。
「食事は出るのか?」
「ああ、もちろんだよ。代金はいらないがメニューはこちら任せになるがね」
「そうか……不味くなければ何でもいい」
その後、モキュを馬小屋へと連れて行き、二人を呼んで部屋へと向かう。
モキュとの別れ際、悲しそうな目を向けられた。
だが、我慢して欲しい。
これだけ大きな動物がこのボロ宿を歩いたらそこらじゅう穴だらけになりかねないのだ。宿がペットによってぶっ壊されても困るからな。
そのかわりと言っては何だが、なるべく様子を見に来よう。
二階の部屋へと向かうと、二人部屋になっているようだった。
木の丸テーブルも椅子もぼろぼろ。ベッドの上にはせんべい布団がある。それが2セット。
二人は椅子に座って、窓から外の様子を警戒するように眺めていた。
俺は、とりあえず、荷物はテーブルに置いてベッドに横になった。
さて、思っていたのとかなり違うが、俺が目指した大きな街でまず宿に泊まって食事する第一目標は叶いそうだ。
だが、俺はここでいろいろ考え直さなければならないことがあることに気づいた。
自分の身体は基本的に切られても焼かれても死なないが、ディビナやモキュ、それとついでにモニカはそうではないのだ。
もっと物質支配の力を上手く使えるようにすることが必要だ。
特に自動迎撃系(オートカウンター)や索敵・感知を素早くできるような仕組みを能力からうまく作り出さねばならない。
それと、生物の素材を使った系統の攻撃へのもう少し隙のない対策をするべきか。
「まずは武器屋、それから図書館か本屋だな……」
最低限の基本構造を頭に入れて、物質支配で作れるものを増やしておいた方がいい。
いまは、単純な構造物しかつくりだせないのだ。
あと、光の操作で赤外線センサーやエコーやX線探査、まだこの能力でできることがあるはずだ。
「いや、先に紙とペンを買ってくるか……」
これからやることや必要なこと、今後の予定を書こう。
俺はベッドから起き上がる。
俺は宿を少し出ることを伝えるため、2人に声をかけた。
「ディビナたちはまだ宿にいるか?」
「え、どこかに行かれるのですか?」
「ああ、文房具やみたいなのがあればと思ってな」
「そうですか。そういう生活物資の細かいお店の場所ならモニカに案内してもらってはどうでしょうか?」
「ああ、そうだな。モナカ、頼む」
「はい。あの……私はモニカです。さっきまでちゃんと呼んでましたし、わざとですよね?」
「なんか、モナカっぽいんだ。肌の色がモナカの色に似たいい感じの肌色だからついな。いや、すまない」
「……? モナカが肌色?」
「そうか、わからないよな。お菓子だよ。その色にちょっとな」
「はぁ……そうなんですか? 」
生返事をしたモニカは自分の肌をまじまじと見ながら、不思議そうな表情で俺を見返した。
「とにかく、道案内を頼む。そのかわり、ここにいる間の安全は確保しよう」
「わかりました。じゃあ、行きましょう」
モニカは微笑んで答えた。
「留守の間、モキュを頼む」
「はい、お任せください」
ディビナはなにかと馬鹿真面目に捉えるんだな。
そんな大仰なことではないのだが……。
街をモニカと歩いていると、ほとんどの店は開いていなかった。
「ん~、どうします? みんな閉まってますね」
「そうだな。潰れた民家から拝借することにしよう」
そういって、一つの潰れた家に向かって右手を向けた
瓦礫を宙へと浮かせて、紙らしきものがないか探す。
何枚か木のたんすの潰れた残骸から見つけた。
そこまで歩いていき、そこから直接手で引っこ抜く。
その様子をモニカはどう思ったのかはすぐわかった。
不思議なものを見るような、なぜ? といったところだろうか。
「不思議か?」
「はい……、なぜ紙を直接手元まで運ばないのですか?」
「ああ、まあ、いろいろあるんだ」
俺の能力は紙や羊皮紙には使えないのだ。
誰に聞かれているのかもわからない状況で、しゃべって敵になるかもしれない人間に自分の弱点をさらすわけにはいかない。
まあ、空間を応用した転移なら何とかならないこともないが、あれは結構な手順が必要で集中がめんどくさいからな。周囲も巻き込むし。目の前の物を取るために使うようなことではない。
「直接手で取った方が早いだろ?」
「はあ、そういうものですか……?」
「そういうものだ」
俺はモニカの手を引っ張って、人気のない建物の路地裏へと引っ張り込んだ。
めちゃくちゃ慌てたモニカは怯えた声で問う。
「あの、なにを……」
「一応、空間の壁も作っておくか」
それで右手を掲げた。
会話内容を聞かれないためだ。こうして、手を動かしていまいる地点(ポイント)を限定すると、空間の位置設定や把握が上手くできるのだ。
「俺の能力は基本的に生きているものには不得手なんだ。モニカもなんとなくわかっているのだろ?」
「えへへ……、やっぱりバレてました?」
「ああ、モニカにその手のごまかしはできないと思うぞ?」
そういって表情を見て言ってやる。
「それは困りましたね。あの、さっきの話ですが、最初はどうしてか分からない行動があって、見ていてだんだんとわかるようになってきました」
「そうか。ダンジョンの行動を見られていたら、バレバレかもな」
「えへへ……」
ぎこちない笑みを浮かべるモニカの手を引いて、もう一度通りへと戻ることにした。
書くものを探して再び別の家の瓦礫をあさり、宿へと戻ることにした。
その帰り道。
ここから街の反対側からものすごい爆音が響いていた。
なにか銃撃音のようなものや、砲弾を打ち出す音、巨大な破砕音、爆発音、それらが混沌と混ざり合って聞こえてきた。
すぐ近くの周囲を見回すと、数名の二人組になった男女が歩いているが、驚いているわけではないようだ。
だが、その人々の恰好をよく見ると、歪であることがよくわかる。
二人の内、女性は普通の街に住むのによくありそうな婦人服。
だが、男性はボロボロの鼠色のマントを羽織っているだけだ。
それを見たモニカは嫌なものを見たように、その者たちと距離を取った。
これが例の言っていた『あの人たち』なのだろうか?
爆音へと再び意識を向けると、こちらに近づいて来る音がした。
俺は視線をそちらに向け、とっさにモニカを背に隠して右手を空へと構える。
飛んでくるのは大きな火の塊、まさに火弾だ。
おそらく火魔法。
騎士が使っていた火魔法の10倍くらいある大きさだ。
それが無数に迫っていた。
あんなものを普通の人間がくらったらひとたまりもない。
別の場所に落ちた火弾は周辺の家々を破壊していた。
「あれが原因か……」
家が壊れていた理由が分かった。
どこの馬鹿が放っているのか分からないが、これでは宿の方も危ない。
「おそらく、騎士団の魔法兵器の一つだと思います。普通は対国家戦争に使うものです。それが、国内に向けられているみたいです……」
家の惨状を思い出したのか、悲しそうにモニカが説明してくれた。
視線をずっと先の方に向けると、道の真ん中でたたずむ男女二人へと火弾が落ちていった。だが、二人は慌てて逃げ出すこともない。これは尋常ではない状況だ。
何か対抗策でもあるのか? それとも死のうとしているのか?
地面が揺れ、爆風が辺りを襲った。
俺は、モニカが空気の熱で皮膚やのどをやられないように、風の操作で熱を隔離した。
しばらくたって砂煙が収まると、そこには一人の女性が立っていた。
男性の姿はなかった。
なんだ? 何が起きた?
「一人が無傷で、一人が消えた? いや……」
地面には焼け焦げた黒い何かがあった。
ぼろ布を纏っていた男の死体だろう。
「あれはなんなんだ?」
俺は言いたくなさそうなモニカへとどうしても聞かずには居られなかった。
「あれは……この帝国の日常です」
「日常?」
「はい、魔法の代償で彼は死んだんです。焼けたのは死んだ後の屍でしょうね。あの女の人が火から自分を守るために、あの男の人を殺して魔法を使ったんですよ」
「なっ!」
さすがに驚いた。
俺は騎士が当たり前のように魔法を使う姿と、勇者たちが好き勝手に魔法を使う姿だけを見てきた。
だが、誰かを殺して魔法を使うなんて一度も聞いたことがなかった。王国の誰もそんな説明などしていない。
なにがどうなっているんだ……。
確かにそんなことが行われているならば、つい目をそらしたくなるだろう。
前の世界でこれが日常になっていたら、真っ先に俺が生贄にされていた気がする。
「だが、騎士たちは普通に魔法を使っているじゃないか」
「そうですね。あれは自分の生命をそのまま魔法に使っているんです。なんの代償もなしに使っているわけではありません。ただ、それを訓練で最小に抑えているといえばいいのでしょうか。勇者がこの世界で強いと言われているのは、その訓練なしに魔法が使えるからなんです」
「じゃあ……クラスの奴らが使っていた魔法も本当は何かの代償を払っているのか?」
「そうですね。魔法はそういうものですから。おそらく寿命です。命を削って王国に魔法を使わされていたんですね。威力が大きい分、消耗も早いでしょうから、一か月生きていられたら奇跡ですね。コウセイさんは魔法ではないので違うみたいですけど……」
「そうか……。つまり王国は本気で、俺たちを皆殺しにするつもりだったんだな。ダンジョンの中で死ねば良し。もし死なずに帰ってきても、ダンジョンに入れて戦わせ続ければ、いずれ命が尽きると……悪辣な奴らだ」
いまさらながら腹が立ってきた。
俺には魔法の寿命は関係なかったとはいえ、もし俺も魔法を使えたら死への道を進んでいた。
もしかして、あの騎士二人はそれも見越して、即座に俺を殺そうとしたのか?
訓練を真剣にしなかったのも、魔法ではないから使わせても寿命は削れない……と。
あの国を魔法を使わずに逃げなければ、すべてが死へとつながっていた。
俺は知らないうちに死を免れる能力と進むべき道を手に入れていたのか。
俺は街の一角から宿のある方角へと視線を向けた
「まずはモキュとディビナ達のいる宿の様子を見に戻ろう」
「そうですね。急ぎましょう!」
と走り出そうとするモニカの肩を掴んで静止させた。
「待て!」
「え……どうして?」
振り向いたモニカが不思議そうに聞いてきた。。
「飛ぶ方が早い!」
そう告げると同時に、モニカの小さい手を掴んで空へと浮かび上がった。
最初バランスがとれずにモニカは小さな悲鳴を上げた。
走るよりは早いが、安定させながら早く飛ぶのが意外と難しく、モニカは空中で大きく揺さぶられていた。
ここではじめて複数人が安定して飛ぶのに、まん丸のモキュがいることが大事なことに改めて気づかされる。
連れてくるべきだったか……。
なるべく俺と一体になる感じが、この能力を使うのには必要だ。
仕方なく、モニカを前で抱きかかえることにした。
いわゆるお姫様抱っこだ。
「ひゃっ!」
許しを請わずにいきなり抱っこされる形になったモニカは、驚きと恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になっていた。
これで気流を安定させることができた。
と宿まであと少しのところだった。
上を向かされているモニカが飛来物に気付いた。
「あれ見てください! 火球が!!」
指の刺された方を見ると、西の上空から火弾が数えるのも面倒なほどの相当な数が飛んできていた。
俺は近くの建物の屋根にモニカを着地させると、改めて火弾に振り向いた。
どうすべきか?
俺は迷ってすぐに迎撃行動を取ることができなかった。
迎撃できる手段を探っていたのだ。
ステータスを起動させて、迎撃できそうな能力を見ていた。
・【物理操作・強制】
物質操作・強制
空間操作・強制
光・電磁気操作・強制
重力操作・強制
水流操作・強制
・【物理召喚】
物質召喚
物質転移
一人ならばそのまま攻撃を受けても傷一つつかないが、いまは後ろにかばう者としてモニカがいる。
大量の風の操作で火弾を散らすのもダメだ。すぐ向こうに宿屋がある。
俺には風を操作した後の火の弧の着弾計算ができる頭脳もないから、その案は却下。
コンピューターとかで計算できればいいが、そんなもの異世界にはないし俺の知識では能力を使っても作れないだろう。
重力操作は、そもそも隕石じゃないから、使用しても意味がない。
ためしにと発動させるが、やはり効果はなかった。
魔力による地点攻撃だから当然か。
じゃあ、転移は?
火弾に手をかざしていくつか転移に成功するが、止まっているものではなくて移動している攻撃の位置を確定して転移させることが難しく、能力の不発がかなり続いた。
目で見える範囲の火弾ですらこれだ。
それにあの数の火弾を転移させるのは人間の手作業でできるものではない。
やはり光系統の能力をきちんと攻撃への把握に使えるように調整しないとな。
空間まるごと……いや、使えない。
火弾はマップに移らないから距離が不明な上に、こんなところで大規模な空間移動を使ったらそれこそ街中が大惨事だ。
宿も無事では済まない。
後ろをふと振り返ると、モニカはこちらを見上げて不安な顔をあらわにしていた。
なぜか俺が何もしない(ように見えている)からだろう。
これほどまでに人間が相手か、魔法の攻撃が相手かで違いが出るものとは思わなかった。
そのせいで、能力の使い道や応用方法を全然考えられていなかった。
それがあだになった。
人間一人を潰すのには、石ころ一つあればよかったのもある。
これは俺にとっていい機会なのかもしれないが。
それよりもまずは目の前の問題をなんとかしよう。
残る選択肢は……
「じゃあ……」
これしかないな。
俺は手のひらを火弾へとかざした。
物質召喚で大量の水の塊を出現させた。
これを水弾としてそのまま打ち出した。
間髪いれずに、俺は目の前の空間に水弾を放ち続けた。連続で何度も。
魔法の攻撃は確かに魔力で成立しているみたいだが、属性の燃えるという性質自体は自然のものと変わりない。
爆音と一緒に水蒸気が辺りへと撒き散らされて視界が一気に悪くなる。
だが、構わず飛んでくる方角へと放ち続けた。
そろそろかと思い、気流を操作して水蒸気を周囲に拡散させる。
視界を確保すると火弾の放出はもう無くなっていた。
「終わったか……」
俺は気を緩めると、ふと気付く。
モニカがジャケットを後ろからちょこんと掴んでいた。
それを気にせず俺は声をかけた。
「よし、行くぞ」
「はい……あんな技も使えたんですか?」
「あれは技っていうよりも物量で押し切っただけだな。俺に水球の魔法は使えない」
「えへへ、そうでしたね」
モニカは苦笑いを浮かべていた。
宿にたどり着くと、まだ何とか建物の原型を残していた。
いや違うな。
もともとボロボロだから、攻撃を受けたわけではないか。
そこで、窓から外を見ていたディビナへと声をかける。
「ディビナ、宿は大丈夫だったか?」
「え? あ、上ですか。はい、大丈夫です」
馬小屋の方から、俺の声が聞こえたことでモキュが出てきた。
問題はなかったようだ。
だが、早々に攻撃を行っている奴は排除することにした。
これ以上、余計な攻撃をされては面倒だ。
飛んできた方角はなんとなくわかっている。兵器を使っているらしいから誰が火弾を放った奴かすぐわかるだろう。
「俺はこの攻撃の主のところへ行ってくる。宿で少し待っててくれ」
「行かれるのですか?」
「ああ、元凶は断たないとな」
「わかりました、待っております。無事に帰ってきてください」
そう言ったディビナは渡されたモニカの手をとって窓から部屋へ入るのを手伝った。
モニカも別れ際にこういった。
「私も待ってます。コウセイさんにちょっと大事なお話がありますから、絶対に帰ってきてくださいね?」
「話? わかった。とっとと終わらせてくるから待っててくれ」
そんなに時間もかからないはずだ。
そのままモニカは部屋の中へ。
モキュは馬小屋へと再び戻った。
一人の方が守ることを考える必要もないしな。
今の俺では、さっき以上のことが起きれば対処しきれないことが出てくるかもしれない。そのときに人をかばっている余裕などないだろう。
俺は屋根を蹴って西の方角へと飛び立つ。
また攻撃が始まる前に、可及的速やかに敵を排除するのだ。
さて久しぶりの対人戦闘だな。人と戦う方が楽というのがなんか変だ。
とりあえず、どてっ腹に風穴をあけさえすればいいのだから。
西の端にある噴水のある広場があった。
そこには滑車のついた黒い大きな大砲が東の空へと向けて並べられていた。
数十人の騎士の恰好をした兵士に技術者のような作業着の兵もちらほらいる。
俺はそのド真ん中へと降り立った。
「やあ、火の玉のサプライズをありがとう。お礼に来てやったぞ?」
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